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第3章 英雄
二人の領主(5)
しおりを挟むあの後、最後までデザートを頬張っていたリディアとアデリナをなだめ、メシュランを後にした俺達は、その足でドラフキープヴィの旧王都クリントートまで移動した。
早くも10月、ここは高地でもあり、かなり冷え込んで来ている。
途中の街で衣服を買い込み、クリントートに辿り着く。
今回もマジュムルから『分かりやすい地図』をもらったのだが、このドラフジャクド皇国において、俺達のように主要な街から街へ移動するだけのような旅の場合は、どうやら地図なるものは不要のようだ。
何せ、『赤い道』を歩いていけば、いつかは着くようになっている。
「結局、ビルマークの時みたいに、道中襲われる事も無かったですね」
不安だったのか、クリントートに到着し、安心したかのようにクラウスが言う。
「まだ旅は終わってないぞ、クラウス ……だがお前の言う通り、ドラフジャクドではその心配は少なくてすみそうだな。赤い道沿いにずっと街が栄えていて、途中に森があったり、野宿したり、という事がないからな」
ドラフキープヴィの旧王城を目の前にする。
塔がいくつもあり、造りがバルジャミンの居城とよく似ている。
早速、城門に近付き、衛兵に声を掛ける。
「こんにちは~。マッツ・オーウェンと言うものですが!」
「む。何用でしょう?」
「ゴビン様より、ご紹介頂き、この地の領主、アクシェイ・ドラフキープヴィ様に謁見しに参りました」
「ゴビン様? ゴビン・バルジャミン様か?」
「はい」
努めて朗らかに言う。ジロジロと見てくる衛兵。そこで懐からゴビンに貰った紹介状を取り出し、そいつに見せてやる。
「おお。これは確かに……え?剣聖! 剣聖様でしたか! 失礼致しました。ただ今、特に警戒中でして」
通用門を開け、掌でどうぞ、と招いてくれる。
正門は開閉に時間がかかる。ほぼ、軍隊の行き来用と考えていい。従って、少人数の場合は、通用門から出入りするのだ。
通用門をくぐると、これまたバルジャミンによく似た風景が目に入ってくる。
俺達が入ったのと同時に、城の近くにいた若者が、遠くから俺達を見つけて近づいて来た。ブレストプレートと膝当て、ブーツまで着用しており、まるでこれから出陣するかのような出で立ちだ。
「間違いでしたらご容赦頂きたいですが……ひょっとしてマッツ・オーウェン殿では?」
「あれ? まだ、あの衛兵さんにしか、名乗ってませんが……何故、ご存知で?」
そこで相好を崩す若者。
「フッフッフ。当たりでしたか! いや、実はオーウェン殿の入国は、我が国ではちょっとしたニュースになっているんですよ? よくぞ、いらっしゃいました。クリントートへ! ささ、城内を御案内致しましょう」
「それは助かります……が、我ら、アクシェイ様に用事があり、急ぎ参りました。出来ましたら、直ぐにでもご紹介頂けると助かりますが」
顎に手をやり、ふむ、と考えるポーズをする若者。
「おっと、私とした事が、これは失礼。私、レイティスと申します。生まれはランディアのリーデン地区なんですよ?」
「え? そうなんですか?」
これは珍しい!
ランディア生まれの人間と出会ったのは、旅立ってから初めてだ。
「アクシェイ様は今日、執務室にいると思います。ご案内がてら、ランディアや『イヌ』の話でも聞かせて下さい」
『イヌ』か……俺、あんま知らないんだよなぁ。俺は王国守備隊本隊から『シシ』、『タカ』と配属されたから、『イヌ』に行った事は、数える程しかない。
それでも共通の話題は多く、俺達はあっという間に打ち解け、名前で呼び合う仲になる。ふと気がつくと、もうアクシェイが居ると言っていた2階の執務室の前に辿り着く。
「アクシェイ様、レイティスです。マッツ・オーウェン殿が参られています。面会を希望されていますが、如何なされますか?」
「マッツ・オーウェンだと!?」
中から驚いた声が聞こえてくる。これはまた野太い声だ。
「ちょっと待て、客間で会おう。サンジャナとマラティを呼んでくれ」
「承知致しました。……フフ。マッツ、どうやら散らかっているらしいよ。客間で待とう。同席しても良いかな?」
どうしたものか……同郷の者を疑いたくはないが……何せ、今はどこに敵がいるか、わからない。
迷っている雰囲気を察したレイティスが、
「ふむ、まずそうだね。では遠慮しておこう。話が終わったら、また声を掛けてくれたまえ」
「すまないな。ちょっと特殊な事情でな。聞かれない方がいざという時、疑わなくて済む」
「わかったわかった。皆まで言わんでよい」
そう言いながら、執務室前の廊下に置いてあるベルをチリンチリンと鳴らす。
「お呼びでございますか」
メイドが2人、静々と奥の部屋から現れる。
1人は腰の上程まであるストレートの黒髪で、きつい目つきをしているが、細過ぎないスタイルも良く、非常に綺麗な女性だ。身長がほぼリタと変わらないので、170センチほどか。
もう1人の身長、体格も似たような感じだが、優しい顔付きに派手目の化粧をして、茶色の癖毛がクリクリと巻いており、何というか男殺しな雰囲気を持つ女性だ。
うーん。
メシュランにいたシータもだが、この2人も妙に引っかかる。
改めてマジマジと彼女達の全身を見つめる。
この2人は……隙が無さすぎないか?
愛想が良いと男に言い寄られ過ぎるから近寄らせないため、とか、そんなのだろうか。
それとも……
「イデデデッッ!!」
突然、二の腕の裏っかわに鋭い痛みが走る!
驚いて振り向くと、リディアが口を尖らせて睨みながら……つねっている。
「なん……! 何する……んですか」
くそ! リディアの顔が怖くて敬語になってしまった!
「そういえば、ランディアの王城でディミトリアス王が言ってたよね! 城のメイドさんや給仕さんにも手を出してたって!」
ニヤニヤしながらアデリナが今、この場にとても不必要な情報を展開する。
「…………!」
「イダ! ダァ――アダダダダ!! そこやめて! そこ、超痛いんですけど!」
「なに……見惚れてんのよ」
「へ? あ、いや、見惚れてなんか……」
「ああ、なるほど。この2人は特別美人だからなあ。流石は同郷! 見る目があるな」
「ゥレイティィィィィィィィィスッッ!!」
決して下心で眺めていた訳では無い。そんなものはランディアに捨ててきた。ちょっとだけビルマークと古竜の大森林で復活しちゃったが。
「サンジャナ、マラティ。この騒がしい方達が噂の剣聖御一行だ。失礼の無いように」
「マラティですわ」
「サンジャナです」
2人して丁寧なお辞儀をしてくれる。
長い黒髪の方がサンジャナ、茶髪で少し化粧が濃い方がマラティか。
いや、うん。そりゃ確かに2人とも俺の好みだよ?
特にサンジャナの方は、均整の取れた筋肉のつき方からお尻、脚のラインとか……
「アイダダダダダッッ!!」
「マッツも懲りないなあ」
リディアが無言で同じ所をつねるのを見て、呆れたようにアデリナが言った。
ごもっともです……
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