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第3章 英雄
二人の領主(6)
しおりを挟む「二人共、アクシェイ様がお呼びだ。恐らく後片付けだろうが……用事が済んだら客間に皆さん分のお茶を持って来てくれ」
「承知致しました」
レイティスと俺達に軽く礼をして、横を通り過ぎる2人。そのまま、執務室に消えていく。
ヒムニヤが、その二人の後姿を目で追う。
「よし、ではご案内しよう、マッツ」
レイティスに連れられて、リディアにつねられ真っ赤になってるだろう腕の裏っかわをさすりながら1階中央の客間に向かう。
中に入ると、ソファがテーブルを挟んで2列あるだけ、いくつかの装飾品が鎮座してはいるものの、さほど華美な印象を受けない、感じの良い客間だった。
アクシェイが来るまで、レイティスと故郷の話で再度盛り上がる。その間に黒髪ストレートロングの方のメイドさん、サンジャナがお茶を持ってきてくれた。
「申し訳ありません。遅くなりました」
「マラティは?」
「些か手間取っており、先に私だけ抜けてお茶をお持ち致しました」
「アクシェイ様はそんなに散らかして何やってたんだろう……ハッハッハ」
しばらくすると入り口の扉が開き、深緑の長袖シャツを下に着て、ベージュのチョッキ、ブリーチズという軽装の気品あるおじさんが入ってくる。
「いやあ、ドラフキープヴィにようこそようこそ! マッツ・オーウェン。私がアクシェイ・ドラフキープヴィだ。お待たせした。少しバタバタしていてな……後はマラティに任せてきた」
王にしては非常に良い体付きをしており、頭髪はしっかり整髪料で固められていて7・3に分けられている。
俺達も立ち上がって礼をする。
「ランディア王国守備隊長のマッツ・オーウェンです。お忙しい中、お時間いただきありがとうございます」
自己紹介しながら、懐から手紙を出し、ゴビン様から紹介状を、とアクシェイに渡す。
「ふむ……あ、いや、座ってくれたまえ。楽に楽に……」
「では、私とサンジャナはこれにて……」
「おや、レイティスは同席せんのか?」
アクシェイの素朴な疑問にニコリと返すレイティス。
「フッフッフ。そのような野暮は致しません。では、ごゆっくり」
そして俺の方をチラッと見て、ウインクして出て行く。悪い感じはしない。きっと良い奴なんだろうな。
改めてソファに座り、アクシェイに向き直る。
「ドラフキープヴィまで来たのは、1つ教えて頂きたい事がありまして」
「ふむ。書いてあるな。超人ヴォルドヴァルドを探している……と。彼に何の用が?」
紹介状越しに俺を見るアクシェイ。
「お願いしておいて何なのですが、それは言えないんです。申し訳ありません……ただゴビン様にも申し上げましたが、我々の目的が達せられればドラフジャクドの国益になる、と断言致しましょう」
「うーむ……」
また紹介状に目を移すアクシェイ。
「ヴォルドヴァルドを見たのは……パヴィトゥーレにある王城だ。いつだったかな……もう、4、5年前になると思うが」
おお! ついに具体的な場所が出てきた。予想の範疇といえばその通りだが、実際に証言が有ると無いとでは全く違う。
「どの辺りか覚えておられますか?」
「確か、別塔に用があり出向いた時だ。その時はそれがヴォルドヴァルドだと気付かず、後でヴィハーン皇帝に言われて知ったのだ」
「身なりは、どのような出で立ちでしたか?」
「顔などは一切見えなかったな。フルアーマーとでもいえば良いのか……全身、黒い鎧で覆われていた。とにかくデカかったのは覚えている」
ふむ。2メートル超えくらいか?
「成る程……貴重な情報、ありがとうございます」
アクシェイは紹介状を見ながらしかめっ面をしている。
「剣聖。ヴォルドヴァルドの居場所がわかったのだ。我らに力を貸してもらえんか?」
……
確かにヴォルドヴァルドの居場所を見つける為に皇族に取り入ろうとした。竜退治はその為の手段だ。
「具体的にはどうして欲しいのです?」
お茶をグイッと一口で飲み込むアクシェイ。
「我らは、クーデターを起こす」
「!!」
今、物凄く嫌な感じがした。
何だろう、この感じは。
クーデター、という言葉の響きからではない。
はっきりと何が、とは言えないが嫌な気を感じた。
ふとヒムニヤを見る。
彼女と目が合う。つまりヒムニヤも同時に俺を見ていたって事だ。
それだけでどう判断すべきか、分かった気がする。
「お前達には我らを助けて欲しい。国民の生活は脅かされている。何度言っても改めていただけない以上、武力に訴える他あるまい」
「成る程……仰る事は理解致しました。が、それはやはりできません」
「何故だ!」
テーブルをバンッと勢いよく叩くアクシェイ。やってしまってから、すまない、と謝る。根は悪い人間では無いのだろう。
「では理由を申し上げましょう。我らはどこまでいってもランディアの兵士です。私達が王の許可もなく、他国の内政に軽々しく介入するような事は出来ません」
「だが、お前達が竜退治の間だけとはいえ、ヴィハーン皇帝に召し抱えられれば我らと敵対してしまうであろう」
「いいえ。そうならない事をお約束致します。私達は私達の目的の為にヴォルドヴァルドに会いに行くのみ」
「そのような事……信じられん」
吐き捨てるように言うアクシェイ。
クーデターの話までは聞きたくなかった。まずったな。
「ならば……」
それまで黙って聞いていたヒムニヤが不意に口を開き、そして爆弾発言をする。
「私がここに残るとしよう。マッツ達が貴方に敵対しない保険になる。もし彼らが敵対したら……その時は私をお斬り頂いて結構」
「何?」
「はぁぁぁぁ!?」
暗殺者『ケルベロス』や、得体の知れないヴォルドヴァルドからの偽の使者がいる中で1人になるだって?
そして、これからヴォルドヴァルドに会いに行くって時にヒムニヤが抜けるだって!?
「ヒ……マリ! それはダメだ!」
「そそそそうですよ、師……マリさん! それなら、私が残ります!」
俺とクラウスが慌てて止めるが、ヒムニヤはフフッと笑ってアクシェイに続ける。
「見たか? 彼らのこの取り乱しよう。彼らは絶対に私を裏切らない」
「む……しかし、言い切れるかね」
まだ半信半疑だ。
当たり前だ。アクシェイは今までの旅の経緯や、俺達の目的達成にヒムニヤが必須だという事を知らない。
しかしヒムニヤの爆弾発言はまだ続きがあった。
「ああ、言い切れるとも。何故なら……」
そしてグッと俺を見つめるヒムニヤ。
「彼は私の婚約者、なのだから……ポッ」
「「「「「「「は!?」」」」」」」
ポッカ―――ン……
「何と……まだ若いのに。いや、美男美女、そして超人的な力を持つ者同士、似合いといえば似合いか」
何か分からんが、そう言ってウンウンと頷くアクシェイ。
「分かった。マリ、お前はここに残れ。それでお前達を信じる事としよう。クーデターは一旦、延期しようし、このまま領内の通行を認めよう」
いやー。
ちょっと待ってくれ。
それはそれで困るんだ……。
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