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第3章 英雄
マッツと仲間達(マッツ・オーウェン)
しおりを挟む――― エルナとの1日の後 ―――
晩御飯を食べ、俺とエルナが連れ添って宿に帰ると、何やら俺達の部屋が妙に静かだ。
今はちょうど竜討伐のタイミングだった為、部屋が満室に近く、大部屋と小部屋の1室ずつしか借りる事が出来なかった。
男の方が人数が少ない為、大部屋を女子に、小部屋を男に割り当てたのだが、男子部屋を覗くと……真っ暗で誰もいない。
「む……? どうしたんだ?」
「どうしたんです?」
エルナが不安そうに覗き込んでくる。
「誰も……いないんだ」
夜の訓練か?
しかし、それなら女子達はいそうなもんだ。
「エルナ、何かあったのかもしれない。部屋を見てみてくれ」
「わかりました!」
エルナが女子部屋に入っていき、しばらくの沈黙、そして、叫びがあがる!
「マッツ! 大変です! 早く来て!!」
背筋がゾクッとし、猛ダッシュする。
「エルナッッッ!!」
部屋に踏み入ると真っ暗だ。
「エルナッ! どうした! エルナッッ!」
何も見えない。1歩ずつ、ゆっくりと進む。が、何かの気配がする。
いる。何かが。
不意にポンッと背中を押される。
「な……!?」
何かに躓き、バタンッとコケてしまう。
ヤバい! 今、襲われたら……
ムニュ……
ヒャッ……
え?
「リディア!?」
姿は見えないが、リディアの声とリディアの匂い。
「大丈夫か!」
必死で声の方を弄る。
ムニュムニュ……。
「ちょちょちょ、ちょっと、どこ触ってんのよ! バカマッツ!!!」
あれ?
「リディア、もうちょっと耐えないと……」
リタの声……。あれ?
「さすが隊長。真っ暗な中に6人いるのに的確にリディアに抱きつくとは……」
あれ? あれ? クラウス……? 何でここに?
そして、部屋がパッと明るくなる。
「アゥッッッ」
入り口にエルナ、部屋の中にヘンリック、リタ、アデリナ、クラウス、そして、俺がこけて抱きついたのがリディア。
あれ? 勢揃い?
部屋が明るくなったのは、クラウスが光弾のスペルを調節して発動しているためだとわかる。
暗闇でポンッと優しく背中を押したのはエルナだな。
躓いたのは、ヘンリックの膝か。
見回すと……リディアが顔を真っ赤にして、恥じらい、怒っている表情をしているのを除いて、みんなニヤニヤしている。
「……みんな、何してんの?」
「てか、早く離れなさいよ!」
ペチンッ!
頭をはたかれる。
どうやら、最初躓いてリディアが正座している太ももに突っ込んだ挙句、声を頼りに背中とお尻をずっと弄っていたようだ。
道理で、柔らかくて気持ち良い……いやいや、何なんだ、この状況は。
取り敢えず、座ってみる。
「リディア!」
エルナがリディアに何かを促す。
バツが悪そうな顔をして、唇をとんがらせているリディアが、思ってもみない事を言った。
「……マッツ……誕生日、おめでとう……」
?
「「「「「おめでとう~~~!!!」」」」」
?
首をひねる。
誕生日? 誰の?
10月19日……。
「おお! 俺の誕生日か!」
そうか……。
「ブッ」
みんな……。
「アハハハハッ!!」
わざわざ、こんな凝った事してくれて……。
「ちょっと何で自分の誕生日、忘れてるのよ!」
いや、誕生日なんてすっかり忘れてたよ!
年に1回しか無いからな!!
正直、それどころじゃなかった。
強敵に次ぐ強敵、得体の知れない敵、未経験の異国の地、パーティのリーダーとして……。
何か知らない間に余裕が無くなってたかな……。
「おい、マッツ」
ヘンリックが無表情で声を掛けてくる。
「お前、ちょっと色々と背負い過ぎじゃないのか。兄貴がいないから余計に気負ってるのかも知れないが……お前は立派だ。俺はお前について行くし、間違えていると思ったら気付かせてやる。だからお前ももっと俺達を頼れ」
おおう……。
ガキめ……言うじゃないか……。
昨日、俺がリディアに言ったセリフだぞ。
そうだ。今までヘンリックの兄貴、ハンスに頼りっ放しだったんだ俺は。
「この1週間の2者面談もそうですが、あまり、頑張り過ぎないように……。まあ、1日ゆったり時間を費やして2人で話をする、というのはいい企画だと思いますが」
エルナ……。
有難う。
でも、大丈夫。大して頑張ってないよ、俺。
「うんうん! 楽しかったよ、マッツ! いい時間をありがと! 最後、竜討伐まで1日余るからさ、今度は私が癒してあげるよ?」
おおう。アデリナ……。ほんとに君はいい子だな~~~。
「隊長が1日付き合ってくれたお陰で、戦いに貢献できる自信がつきました。私も何かお礼がしたいです」
クラウス~~~。
いやいや、そもそもヒーラーなのに、あれだけ戦えるようになるなんて、凄いじゃないか。
お礼なんてとんでもないよ。俺達はみんなで旅をしてるんだから助け合わないと。
「マッツとは長いけど……特に『タカ』に移動してからはホントに休んでないものね。バカみたいにタフだけど、たまには息抜きも必要なのよ?」
そうだ。
『タカ』の砦長になってからは、開拓、治安、モンスター、エッカルト、と大変だったなあ……。
そういや、休んだ日なんて記憶にないな。
有難う、リタ。やっぱり優しいな。
時々、突っ込みがキツイ時もあるが……優しい。
あ、あれ?
なんか目から……。
「……何、泣いてんのよマッツ。ホント、感動しぃね!」
「リディア! もう!」
「判ってます! ……私だって……これでも……少し位は……感謝してるわよ? マッツが私達のリーダーで……よかったと、思ってるわ!」
おおおう!
リディアがそんな事を~!!
ダメだ。目から滝が止まらん。
「やれやれ……リディアじゃ、その程度が精一杯か」
苦笑いしながらヘンリックが言う。
「何よ! ヘンリック! うるさいわね!」
「アハハ! でも……やっぱり、マッツ、自分の誕生日、忘れてたね!」
「そうね。アデリナの言う通りだったわね。もう、25……になるのかしら?」
アデリナとリタの方向転換に、リディアも頬っぺたを膨らませながら、黙り込む。
「ああ。そうだな。実感湧かないけど……」
「おめでとう、マッツ。こんな危険な旅を続けていて、こんな誕生日を迎えるなんて幸せね」
「ああ、エルナ。本当にそう……思うよ」
腕でゴシゴシと目をこする。
「ちなみに……このサプライズはアデリナ発案よ? また、褒めてあげてね」
リタは気配りの上手な人だ。
お前こそ疲れてないか? また明日、ちゃんと話をしよう。
「ああ。アデリナ、有難うな! みんなも本当に有難う! 今日の事は一生、忘れないよ!」
その後、みんなからプレゼントの『風のブーツ』(魔力が篭った逸品で非常に軽い。高価そうだ)をいただき、夜遅くまで語り合った。
仲間っていいな! と改めて思った。
そして、このメンバーで旅が出来ている事に感謝する。
……ちなみに夜中に結構うるさかった筈だが、他の部屋から『うるっせえぞ!』のようなクレームが出なかったのは、俺とエルナが出かけている間に、皆が根回ししていたのと、ラーヒズヤが認めた本物の竜殺しがいる、という事で、周りがビビっていたらしい。
なんか、悪い事したな。
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