神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第3章 英雄

マッツと仲間達(マッツ・オーウェン)

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 ――― エルナとの1日の後 ―――

 晩御飯を食べ、俺とエルナが連れ添って宿に帰ると、何やら俺達の部屋が妙に静かだ。

 今はちょうど竜討伐のタイミングだった為、部屋が満室に近く、大部屋と小部屋の1室ずつしか借りる事が出来なかった。

 男の方が人数が少ない為、大部屋を女子に、小部屋を男に割り当てたのだが、男子部屋を覗くと……真っ暗で誰もいない。

「む……? どうしたんだ?」
「どうしたんです?」

 エルナが不安そうに覗き込んでくる。

「誰も……いないんだ」

 夜の訓練か?
 しかし、それなら女子達はいそうなもんだ。

「エルナ、何かあったのかもしれない。部屋を見てみてくれ」
「わかりました!」

 エルナが女子部屋に入っていき、しばらくの沈黙、そして、叫びがあがる!

「マッツ! 大変です! 早く来て!!」

 背筋がゾクッとし、猛ダッシュする。

「エルナッッッ!!」

 部屋に踏み入ると真っ暗だ。

「エルナッ! どうした! エルナッッ!」

 何も見えない。1歩ずつ、ゆっくりと進む。が、何かの気配がする。

 いる。何かが。


 不意にポンッと背中を押される。

「な……!?」

 何かに躓き、バタンッとコケてしまう。

 ヤバい! 今、襲われたら……


 ムニュ……


 ヒャッ……


 え?


「リディア!?」

 姿は見えないが、リディアの声とリディアの匂い。

「大丈夫か!」

 必死で声の方を弄る。

 ムニュムニュ……。


「ちょちょちょ、ちょっと、どこ触ってんのよ! バカマッツ!!!」

 あれ?

「リディア、もうちょっと耐えないと……」

 リタの声……。あれ?

「さすが隊長。真っ暗な中に6人いるのに的確にリディアに抱きつくとは……」

 あれ? あれ? クラウス……? 何でここに?

 そして、部屋がパッと明るくなる。

「アゥッッッ」


 入り口にエルナ、部屋の中にヘンリック、リタ、アデリナ、クラウス、そして、俺がこけて抱きついたのがリディア。

 あれ? 勢揃い?

 部屋が明るくなったのは、クラウスが光弾のスペルを調節して発動しているためだとわかる。

 暗闇でポンッと優しく背中を押したのはエルナだな。

 躓いたのは、ヘンリックの膝か。

 見回すと……リディアが顔を真っ赤にして、恥じらい、怒っている表情をしているのを除いて、みんなニヤニヤしている。

「……みんな、何してんの?」
「てか、早く離れなさいよ!」

 ペチンッ!
 頭をはたかれる。

 どうやら、最初躓いてリディアが正座している太ももに突っ込んだ挙句、声を頼りに背中とお尻をずっと弄っていたようだ。

 道理で、柔らかくて気持ち良い……いやいや、何なんだ、この状況は。


 取り敢えず、座ってみる。

「リディア!」

 エルナがリディアに何かを促す。

 バツが悪そうな顔をして、唇をとんがらせているリディアが、思ってもみない事を言った。

「……マッツ……誕生日、おめでとう……」

 ?

「「「「「おめでとう~~~!!!」」」」」

 ?

 首をひねる。
 誕生日? 誰の?

 10月19日……。

「おお! 俺の誕生日か!」

 そうか……。

「ブッ」

 みんな……。

「アハハハハッ!!」

 わざわざ、こんな凝った事してくれて……。

「ちょっと何で自分の誕生日、忘れてるのよ!」

 いや、誕生日なんてすっかり忘れてたよ!
 年に1回しか無いからな!!

 正直、それどころじゃなかった。
 強敵に次ぐ強敵、得体の知れない敵、未経験の異国の地、パーティのリーダーとして……。

 何か知らない間に余裕が無くなってたかな……。


「おい、マッツ」

 ヘンリックが無表情で声を掛けてくる。

「お前、ちょっと色々と背負い過ぎじゃないのか。兄貴がいないから余計に気負ってるのかも知れないが……お前は立派だ。俺はお前について行くし、間違えていると思ったら気付かせてやる。だからお前ももっと俺達を頼れ」

 おおう……。
 ガキめ……言うじゃないか……。
 昨日、俺がリディアに言ったセリフだぞ。

 そうだ。今までヘンリックの兄貴、ハンスに頼りっ放しだったんだ俺は。


「この1週間の2者面談もそうですが、あまり、頑張り過ぎないように……。まあ、1日ゆったり時間を費やして2人で話をする、というのはいい企画だと思いますが」

 エルナ……。

 有難う。
 でも、大丈夫。大して頑張ってないよ、俺。


「うんうん! 楽しかったよ、マッツ! いい時間をありがと! 最後、ドラゴン討伐まで1日余るからさ、今度は私が癒してあげるよ?」

 おおう。アデリナ……。ほんとに君はいい子だな~~~。


「隊長が1日付き合ってくれたお陰で、戦いに貢献できる自信がつきました。私も何かお礼がしたいです」

 クラウス~~~。

 いやいや、そもそもヒーラーなのに、あれだけ戦えるようになるなんて、凄いじゃないか。

 お礼なんてとんでもないよ。俺達はみんなで旅をしてるんだから助け合わないと。


「マッツとは長いけど……特に『タカ』に移動してからはホントに休んでないものね。バカみたいにタフだけど、たまには息抜きも必要なのよ?」

 そうだ。
『タカ』の砦長になってからは、開拓、治安、モンスター、エッカルト、と大変だったなあ……。

 そういや、休んだ日なんて記憶にないな。

 有難う、リタ。やっぱり優しいな。
 時々、突っ込みがキツイ時もあるが……優しい。

 あ、あれ?
 なんか目から……。


「……何、泣いてんのよマッツ。ホント、感動しぃね!」
「リディア! もう!」
「判ってます! ……私だって……これでも……少し位は……感謝してるわよ? マッツが私達のリーダーで……よかったと、思ってるわ!」

 おおおう!

 リディアがそんな事を~!!

 ダメだ。目から滝が止まらん。


「やれやれ……リディアじゃ、その程度が精一杯か」

 苦笑いしながらヘンリックが言う。

「何よ! ヘンリック! うるさいわね!」
「アハハ! でも……やっぱり、マッツ、自分の誕生日、忘れてたね!」
「そうね。アデリナの言う通りだったわね。もう、25……になるのかしら?」

 アデリナとリタの方向転換に、リディアも頬っぺたを膨らませながら、黙り込む。

「ああ。そうだな。実感湧かないけど……」
「おめでとう、マッツ。こんな危険な旅を続けていて、こんな誕生日を迎えるなんて幸せね」
「ああ、エルナ。本当にそう……思うよ」

 腕でゴシゴシと目をこする。

「ちなみに……このサプライズはアデリナ発案よ? また、褒めてあげてね」

 リタは気配りの上手な人だ。
 お前こそ疲れてないか? また明日、ちゃんと話をしよう。

「ああ。アデリナ、有難うな! みんなも本当に有難う! 今日の事は一生、忘れないよ!」


 その後、みんなからプレゼントの『風のダウィンブーツ』(魔力が篭った逸品で非常に軽い。高価そうだ)をいただき、夜遅くまで語り合った。

 仲間っていいな! と改めて思った。
 そして、このメンバーで旅が出来ている事に感謝する。

 ……ちなみに夜中に結構うるさかった筈だが、他の部屋から『うるっせえぞ!』のようなクレームが出なかったのは、俺とエルナが出かけている間に、皆が根回ししていたのと、ラーヒズヤが認めた本物の竜殺しドラゴンスレイヤーがいる、という事で、周りがビビっていたらしい。

 なんか、悪い事したな。

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