87 / 204
第3章 英雄
《戦闘狂》超人ヴォルドヴァルド(1)
しおりを挟む予定通りにドラフントを出発した俺達は、赤い道に沿って旅をし、これまた予定通り15日間でパヴィトゥーレ領に辿り着いた。
実は数日前から何やら胸騒ぎがして落ち着かないのだが、とにかく、バルジャミン、ドラフキープヴィと来て、遂にドラフジャクドの旅も最終地に到達した……のか? していたらいいな。
最早、首都ペザは徒歩4、5日の距離、もう目と鼻の先だ。
そこにはこの旅の目的、超人ヴォルドヴァルドがいると思われる。最悪そこにいなくとも、皇帝ヴィハーンに会いさえすれば、紹介してもらえるだろう、と踏んでいる。
昔はパヴィトゥーレとドラフキープヴィの国境だったであろう付近に近付いてくると、防衛の為の砦がいくつかそのまま残っているのが見えた。昔は王都であったメシュランやクリントートに比べ、街並みは少し寂れてくる。
民家や商店などの数はまばらになり、その分、畑や林が多くなる。とは言え、竜討伐時、兵士や傭兵の通り道でもあり、装備、アイテムの店もちらほら見える。
この日はこのパヴィトゥーレ領、最南端の『アルタラ』という町で宿を取り、ここで1泊する事を早々に決める。
まだ日も高い内にそう決めたのは、旅の疲れを取るのと、ヴォルドヴァルド戦に備えて魔力の篭った装備やアイテムが無いかの捜索の為だ。
だが、宿に荷物番としてリタとクラウスを残して町を見て回ったものの、これと言って収穫はなかった。仕方なく晩飯用のパンやスープを買い込み、宿に帰る。
旅人が少なかった為か、ここではようやく個室が6部屋取れたのだが、俺達は7人いる。
そこで、エルナとリディアが大部屋で寝ることに決まった。
一旦、みんなの荷物は全てこの部屋に置いている。そして、今は荷物番のリタとクラウスがこの部屋で待っているのだ。
従って、まずはこの大部屋に行く。
コンコンッ!
「ただいま~~~!」
バタバタッ……
お帰り~! と言いながら、リタの走る音が聞こえる。
ガチャッ!
「みんな、お帰り。マッツ、お客様よ」
リタが何とも言えない複雑な表情で出迎えてくれる。
「客?」
リタがそう言うからには敵では無いんだろうが、この微妙な顔付きは何だ?
「失礼の無いようにね」
「え? 失礼の? 」
誰だろうか。頷きながら部屋に入る。
入るとクラウスが隅の方に座っており、小さくお帰り、と言っている。
そして、もう1人。
窓から外を眺めている、既に横顔の時点で、超絶イケメンとわかる青年がいた。
濃いブラウンの髪が、短過ぎず長過ぎず、襟足がうなじを少し隠す程度に伸びている。垂らした前髪は見事に斜めにウェーブがかかっており、専属の美容師さんがいるんだろう、と思わせる。
瞳も髪の色と同じである事から、生粋のテン・ツィいずれかの大陸の血筋なんだろう。
二重の可愛らしい目は少年のようで、鼻筋も長過ぎず、可愛い唇と相まって、童顔の美少年だ。
そしてパッと見てわかる位、緊張している。
「アゥッッ」
掌で目を隠す俺に、リタが首を傾げる。
「……何やってんの?」
「いや、イケメン過ぎて、目がやられそうになった」
冗談を言っていると、『窓辺の君』が俺の方に向き直る。真正面から見ると更に眩しい。
「君が剣聖、マッツ・オーウェンだね。初めまして僕は……」
「イシャン・クマール皇子ですね?」
「!? 何故、それが……」
「そりゃ分かります。やはりラーヒズヤ殿下にどことなく似ていますし……まあ、全体を見たら全然違いますけどね。あ、これオフレコで」
ビックリした顔で俺を見つめるイシャン。
「何といっても、その類稀なる容姿。噂通りですね! 私達の故郷にいる知己と良い勝負です」
ペチンッ
リタに、後ろから軽く頭をはたかれる。
「何言ってんの? 失礼の無いようにって言ったでしょ?」
「失礼な事は言ってないだろ」
「話し方が既に失礼よ」
ブッ……
アハハハハ!
ふと見ると、イシャン皇子が何やらウケておられる。
「初めまして。マッツ・オーウェンです」
そこでようやく自己紹介をし、軽く辞儀した後、胡座をかいて座る。
ここは俺達の部屋だしな。
そして、リディアやヘンリック達にも部屋に入るよう、促す。
「そうなんだ。こんな……感じなんだね。よかった」
「よかった?」
リタが聞き返す。
「うん。剣聖、竜殺し、そして兄上と黒竜戦団が実際に凄まじい技で竜の群れを追い払ったのを見た、と噂だけを聞き、少し怖かったんだ」
なるほど、それで緊張してたんだな。
しかし、これはまた、何とも素直な物言い。
イケメン、素直、プリンス……モテ要素をつまみ食いしたような奴だな。
「では誤解も解けた所で……私に御用とか?」
イシャンは窓の側から離れ、俺の正面に坐り直す。
「うん……今回の竜討伐、兵士に誰一人、死傷者が出なかったと聞いた。本当に有難う」
「いえいえ。ラーヒズヤ殿下との約束でしたから」
「そうみたいだね。僕は兄上が城に帰還する前に出てきたから会ってはいないんだけど、情報は聞いているよ」
そこまで言って、不意に涙ぐむイシャン。
なんだなんだ?
やめてよ、胸がキュンってなるじゃないか!
そして、両手をつき、突然頭を下げるイシャン。
「マッツ君! 僕の頼みを聞いてくれ!」
ええぇぇ、またぁ~?
この国に来て、もう何回目だ?
テンさまも普段、こんな気持ちなのかな……。
「取り敢えず、頭を上げてください、皇子」
ゆっくりと顔を見せるイシャン。
心労がその表情に有り有りと映る。
一体、何をそんなに悩んでいるのか。
付近に監視の気配が無い事を探る。
……大丈夫なようだ。
「マッツ君、頼みというのはこの国の事だ。他国の君が手を出しにくい、というのは重々承知の上だ」
「ひょっとして……ラーヒズヤ殿下とヴィハーン皇帝の事でしょうか?」
「!!」
目を丸くするイシャン。
……可愛い。
いや、違う違う。
うーん。やっぱり、それか……。
「さすがだ、マッツ君。そうだ。父上と兄上の事だ」
そこで唇を噛み締め、少し目線を落とす。
「僕の思う所……彼らは……誰かに操られている。竜の事になると人が変わったようになるんだよ。彼らは短気だし、気性は激しいが、あんな無意味な犠牲を出す人達ではないんだ」
ラーヒズヤもわかりやすかったしな。家族ならわかるよね、やっぱり。
「彼らを操っている奴を見つけ出し、父上と兄上を救って欲しい。ひいてはそれがこの国を助ける事にもなる。今のままでは……クーデターがいつ起こってもおかしくない」
「何故、私に?」
俺がそう言うと、少し俯き加減になる。
「情けない話だが、僕には味方が妹のアイラしかいない。それはアイラも同じだ。皆、皇帝と皇太子には逆らえない。今まで何度か1人で洗脳の原因を探ろうとしたが、何もわからなかった。……君の噂、凄腕で、兄上にとても気に入られたと聞き、一縷の望みを託してここまで来た」
悔しそうに吐露するイシャン。
自分の無力さは、とっくに感じているんだろう。
「わかりました。そういう頼みであれば、引き受けましょう」
「え?」
「……その件についてはお力になれるかと。漠然とこの国を助けてくれ、と言われても介入できません、としか答えられないですが……」
「あ、有難う! マッツ君、有難う!!」
俺の両手をとって、喜ぶイシャン。
うーん。兄弟でも全くタイプが違うんだな。
そういえば、母が全員、違うんだっけか……。
「良かったわね、イシャン」
リタが優しい目をしてイシャンに話し掛ける。
ん? 呼び捨て?
「……うん。有難う、リタ」
……
リタに安堵の表情を浮かべるイシャン。
ん? 呼び捨て?
「何か……仲良いね……」
「今日、昼頃からいらしていたのよ。それからクラウスと3人で色んな話をして、仲良くなったの」
……
俺はクラウスに向き直る。
「クラウス、イシャン皇子に呼び掛けてみたまえ」
「えっ!?」
「早く」
「え、えっと……イシャン皇子……」
……
素早くリタの顔を見る。
「……」
「う……いや、クラウスは性格でしょ? 誰とも敬語で話すじゃない」
「……」
ジッとリタの顔を見る。
「プッ……」
イシャンが噴き出す。
「面白いね! こんな人は今まで僕の周りには居なかったよ! マッツ君、君も僕の事をイシャン、と呼んでくれ。僕もマッツと呼ばせて欲しい。リタにもクラウスにもそうお願いしたんだ」
「そ、そうなんです。でも、さすがに皇族の方ですし、歳上ですし、元々、私は敬語で話す方が気が楽なので」
クラウスも焦って言い訳する。
「マッツ、貴方、ひょっとして……妬いてる?」
リタが流し目でニヤリと悪い顔をする。
「えええ~~~!!!」
アデリナが速攻で反応し、大袈裟に仰け反る。
「マッツ! リタさんまで!!」
「……あんたも節操無いわねぇ……」
リディアが怒気を含んだ呆れ顔をする。
いや、ちが……
「リーダーとしては尊敬してるけど……残念ながら、貴方のものにはなれないわ。ごめんね」
ガ―――ン!!
何も言っていないのにフラれたし!
うーむ。さすがはリタだ。
俺の攻撃を上手く潰しやがったな……。
「マッツ、違うんだ、気を悪くしないでくれ」
イシャンが必死に取り繕おうとする。
「ああ、すみません。大丈夫ですよ、こっちの話ですから。お気になさらず、イシャン皇子。……いや、イシャン」
努めて明るくそう言うと、ホッとした表情を見せる。相変わらず、わかりやすい。
イシャンはここではない、また別の宿に泊まっているとの事で、話が終わるまでロビーで待っていた護衛と一緒に帰っていった。
行き先は同じなのだから、と、翌朝、待ち合わせて、一緒に首都を目指す。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる