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第3章 英雄
《戦闘狂》超人ヴォルドヴァルド(2)
しおりを挟む首都ペザまできっちり5日間。
道がしっかり整備されている国だ。往来が多い為、移動にかかる時間の予測精度は高いのだろう。
5日目の夕方、俺達はようやく目的の城に辿り着く。この5日間の道中で、俺達はイシャンとすっかり馴染んでしまった。一兵士が皇族相手に冗談を言い合うなど、普通は有り得ない。剣聖という、どうやら世間的には高名らしい肩書きとイシャンの人柄のせいか。
そして道中と言えば、昨日、俺達は数百騎を引き連れたラーヒズヤ、そしてドゥルーブ第二皇子とすれ違った。
―――
ラーヒズヤ『おお。剣聖ではないか』
俺『これはラーヒズヤ殿下。竜討伐以来で』
ドゥルーブ『この男が剣聖か。何だかひょろっとして弱そうだのう……』
ラーヒズヤ『何を言うかドゥルーブ! この男の技はわしがこの目でしかと見た。常人で敵うものなどおらんぞ』
ドゥルーブ『そうですか……おや、イシャン。こんな所で何をしておるんだ?』
イシャン『どうも兄上。噂の剣聖に会ってみたくて、アルタラまで迎えに行っておりました』
俺『で……えらく物々しいですが、どちらへ? まさかまた竜が出たとか?』
ラーヒズヤ『いや、そうではない。……詳しくはここでは言えん。父上に聞いてみるがよい。門番には話を通してあるゆえ、すぐに会えるだろう』
俺『色々とありがとうございます。承知致しました』
ラーヒズヤ『よし、では少しく急いでおる。さらばだ』
俺『はい。道中、お気を付けて』
―――
ドゥループは噂通りの巨躯で、人間では見た中では間違いなく一番でかい奴だった。2メートル半位あるか? 何食ってんだろう。浅黒で筋肉モリモリ、素手で取っ組み合いしたら数秒でやられそうだ。大人の熊を絞め落としたって噂もなるほど、と思える。
さて、ラーヒズヤの言った通り、門番はあっさりと、しかも相当に腰を低くして俺達を迎え入れてくれた。
ここで、イシャンとは一旦、別れる。
パヴィトゥーレのドラフジャクド城は、帝国の主城だけに、ドラフキープヴィやバルジャミンとは別格の建造物だろうな……と何となく予想していたのだが、実際には、さしてその2つの城と大差無いものだった。
思うに、ノーズ大陸を制覇した後、歴代の皇帝達は、どの城についても改築はしなかったんだろうな。
まあ、無駄に金も使わないし、いいことではある。
俺達は何と帯剣を許されたまま、『帝王の間』とかいう恐ろしいネーミングの広間に通され、あっさりとヴィハーン皇帝との謁見が叶う。
これを大きな目標に立てていた俺達としては、些か拍子抜けだ。
「よくぞ参った、剣聖、マッツ・オーウェンよ! 待ち侘びておったぞ!」
ラーヒズヤに匹敵する背丈に黒いマントを羽織り、老齢により綺麗な白髪となった頭には帝王を示す冠がつけられている。
やはり、多くの人の上に立つ人は、オーラが違う。
「お初にお目にかかります。ランディア王国守備隊長マッツ・オーウェンと申します」
いつもの自己紹介をする。
目を細め、鷹揚に頷く皇帝。
「のう、マッツよ。急な話だが、ドラフジャクドに仕えんか。待遇は保証するぞ。お前のような英雄が仕えたと聞こえれば、この国も盤石だ」
「ははは……お戯れを……せめてもう少し人気の無い所でこっそり御誘いいただきたいもので。今のは聞かなかったことにします」
そう言うと、いかにも楽しそうに豪快に笑い出す。
「ワッハッハ!! 面白い、なかなかユーモアのある奴だ」
そして、不意に真面目な顔をする。
「さて、此度の竜討伐、前例の無い功績を残したと聞いた。そこでお前には何か礼をしようと思うが、何か望みがあるか」
どう切り出そうかと思案していたが、ヴィハーンの方から振ってくれた。
これは話しやすい。
「では1つ、よろしいですか」
「何なりと申してみよ」
コホン、と1つ咳払いして続ける。
「超人ヴォルドヴァルド、彼に合わせて頂きたく」
「!!」
思わず、腰を浮かすヴィハーン。
「私達は超人ヴォルドヴァルドに会う為にランディアからビルマーク、古竜の大森林を超えてここまで旅をして参りました。是非とも彼に合わせて頂きたく」
しばらく中腰で固まるヴィハーン。
が、ゆっくり、玉座に腰を下ろし直す。
「会うて……どうするのだ?」
「それは残念ながら申せません……が、誓って、この国に不利益になるような事ではありません。むしろ、うまく行けば、今後、益々発展していく事でしょう」
「ふむ……」
腕を組み、何やら考えるヴィハーン。だが、決断まで、そう時間はかからなかった。
「よかろう。功績をあげた者は、どのような者であれ、公平に賞するのが余のモットーじゃ。但し……」
そこで、なぜか、手招きをする皇帝。
ん? 何だ? 来いってことか?
取り敢えず、首を傾げながらも、恐る恐る、玉座に近づく。
だが、もっと近くまで来い、と手招きを続ける。
「はぁ……一体……?」
言いながら、皇帝の目の前まで来た。不意に立ち上がる皇帝。デカい!
が、身を屈め、俺の耳元に顔を持ってきて何やら、ボソボソと呟く。
「!!! それは……真《まこと》の事で!?」
「シッ。……まだここには知らぬ者も多い……そういう事だからヴォルドヴァルドまで案内はしてやれぬ。が、使いを出し、話は通しておいてやる。今日はもう遅い。明日、勝手に会ってくるがいい」
「…………承知しました。ご配慮、有難うございました」
何てこった……。
遅かった……。
ヘンリックがどうしたんだ? と聞いてくるが、道すがら言えるような内容では無い。
部屋は個別に用意してもらったようだ。メイドにそれぞれの部屋を案内されたが、一旦、皆を俺の部屋に呼ぶ。
「どうしたの? マッツ」
開口一番、リタが説明を求める。
まあそれはそうだろう。
「いいかみんな、これから言う事は国家機密だ。絶対に! 誰にも言うな」
いつもと違う俺のトーンに、少し緊張の面持ちをする仲間達。
だが、これ位でいい。
「バルジャミンとドラフキープヴィが……クーデターを起こした」
「え!?」
「何だって!」
「いや待って、それはおかしいわ」
リタの言いたい事は分かっている。
「アクシェイはマッツを信じてクーデターを思い止まったはずよ。ゴビンにしてもそうだわ」
「それに、クリントートにはヒムニヤ様がおられます!」
そうだ。
その通りだ。
だから、俺も聞いてすぐには信じられなかったんだ。
「静かに……まずは、現実として受け止めろ。俺達は既に鎮圧に出向いたラーヒズヤに出会っているだろ。あれはそう言う事らしい。道理であの場で言えなかったはずだ」
「!!」
リディアが口を押さえて絶句する。
「ヒムニヤ様は!?」
それだ。クラウスの心配は尤もだ。
「ヒムニヤは、俺の意を汲んでくれている。単なる国の中のイザコザなんであれば、彼女はクーデターを放置する筈だ」
うん、とクラウスが頷く。
この場合、ヒムニヤは無事だし、クーデターも起こるべくして起こってしまったんだろう。ヴォルドヴァルドの件があるにしろ、彼女が放置したのであれば俺達も介入すべき話ではない、と考えていい。
放っておいてもその内、彼女とは合流出来るだろう。
「だがヒムニヤは『これは自分の役目だ』と言った。違和感の正体は俺達にはわからないが、彼女の想定通りならクーデターは防いでみせる、といった」
「その通りです。だから心配してるんです」
語気を強めてクラウスが言う。
「わかっている。焦るなクラウス。焦ったら失敗する。最悪の事態は、違和感の正体がヒムニヤの想定通りで、しかし、そのまま敵の手に落ちた、というケースだ」
ゴクッと喉を鳴らすクラウス、そして仲間達。
「安心しろ。ヒムニヤは生きている。何となくだが……そう感じる。以前ヒムニヤから、彼女の体はヴォルドヴァルド同様、物理無効、魔法無効の最強のバリアを持っている、と聞いた。思い出せ、死古竜が手も足も出せなかった事を」
ハッとしたように、クラウスが頷く。
……だが、心配だろう。
わかっているさ。
「私も、ヒムニヤ様は生きている、と感じます。根拠はありませんが……」
エルナが助け舟を出してくれる。これは心強い。
「有難うエルナ。いいか皆。慎重に。勝手な行動は許さない。ここまで来たんだ。俺達は明日、予定通りヴォルドヴァルドに会いに行く。会いに行くが、戦いはしない。ヒムニヤ無しなど自殺行為もいいとこだからな」
そこで、リタ、クラウスに目線を合わせる。
「その後、イシャンに会いに行こう。今から徒歩で戻った所でまた1ヵ月かかってしまう。イシャンに馬を借りる」
「それはいい考えだわ!」
リディアが鼻を膨らませて賛成してくれる。
「クラウス、貴方の心配はよくわかるわ。私も師匠が同じ様な状況なら、いてもたってもいられないもの。でも、マッツはこういう時、色んな事を考えて情報を整理して考えてるの。師匠も大丈夫だと言ってるんだから、ヒムニヤ様は大丈夫よ。生きているわ」
「俺もそう思うぜ、クラウス。心配なのはみんな一緒だ。だから……最善を尽くそうぜ」
リディアとヘンリックがクラウスを説得してくれる。
誰かが落ち込むと誰かがカバーする。いいパーティだ。我ながらそう思う。
「わかりました。みんな有難う。でもまた私が先走ってしまったら……止めて下さいね」
「よし、なら、一旦解散だ。用意ができたら、後で集まって飯でも食いに行こう。その後、今日は早く寝るぞ。みんな、ヒムニヤに気が行っているが、明日は朝からとんでもない奴に会いに行くんだからな。こっちもどう転ぶかわからない。慎重にな」
そう、明日は遂に神の種を持つ超人ヴォルドヴァルドに会うのだ。
この旅に出る前に聞いた友人の言葉を思い出す。
―――
『マッツ。真偽の程は知らないが……ヴォルドヴァルドは、こと戦闘において5超人最強と言われている。5超人で最強ということは、この世で敵うものなど、誰1人いない、という事だ。そして彼の通り名は《戦闘狂》。死ぬなよ、マッツ』
―――
ランディアの王城、野外で行われた酒宴で、コンスタンティンが俺に言った言葉だ。
そして、『自分でも持ち主がヴォルドヴァルドとわかった時点で諦める』とも。
正直、俺も諦められるものなら諦めたい。
が、そうは行かない。
奴に対してはろくな情報が無い。
なら、腹をくくるしかない。出たとこ勝負で最善を尽くすのみ。
大丈夫だ。何とかなるさ。
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