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第3章 英雄
《戦闘狂》超人ヴォルドヴァルド(3)
しおりを挟む遂にこの日が来た。
ランディアを出て、最初の目的地。
《戦闘狂》超人ヴォルドヴァルドが持つ神の種を譲り受ける。
まずはこれを目標にここまで長い旅を続けて来たのだ。
出来れば会話で平和的に解決したい。
ヴィハーンの近侍が近くまで案内してくれると言う。
ドラフジャクド城の1階最奥にある、施錠された物々しい雰囲気の扉を開ける。
ガチャリ ―――
ギ……ィィィィィィィィ……
扉をくぐるとすぐに長い下り階段が見え、ひんやりと冷気が伝わってくる。
数メートル感覚で光源は魔法と思われるランプが設置されているが、中は薄暗い。
その中を迷いなく進む近侍の後をついて行く。
20段程おりた所で、水平な廊下に変わる。
ここを百メートル程歩き、最後に牢状の扉を解錠し、中へ、と誘導される。
この扉の手前には小さな部屋が1つあり、近侍はこの中に入っていく。
「御一行様は、こちらの中の広間でお待ち下さい。私はこの小部屋で待機しております。お帰りの際はお声がけ下さい」
「わかった。有難う」
「御幸運を」
中はかなり広い部屋となっており、床は1メートルサイズ程度の大きな絨毯がチェック柄で敷き詰められている。
中央奥に大きなクリスタルが飾ってあり、さらに吹き抜けの為、天井が無い。
非常に神秘的な印象を受ける。
この高さからして、おそらくここは塔だろう。外から見える、別塔のどれかだ。
さあ、いよいよだ。
来い、超人め!
……
さあ、来いッ!
…………
緊張してきた。さぁ!
………………
……来ねえ。
あれ?
朝8時と連絡しておく、と皇帝が言っていたが……。
もう9時過ぎてるんだが……。
その時!
ズシーン……
ズシーン……
嫌な足音が聞こえる。
アスラを彷彿とさせる、重量感たっぷりの足音。
念の為……と言いながら、エルナが各種耐性と強化のバフを全員にかけてくれる。
足音はどんどん大きくなり、やがて耳をつんざく轟音となり、ピタッと止む。
どこだ?
どこから来る?
足音からして、もう見えていてもいいはずだが?
ド――――――――――――ン!!!!
不意に目の前に降ってきた巨人。
フルアーマーと言っていい黒いプレートメイルからは、中身は伺い知ることは出来ない。
手には剛槍を携え、片膝をついている。
そして、ゆっくりと槍を杖代わりにし、直立する。
「お、お前が、超人ヴォルドヴァルド……か?」
恐々、尋ねる。
そもそも、こいつ、話出来るのか?
「デカ過ぎる……」
「何よこれ、人間なの?」
ん?
そんな大きいか?
いや、大きいには大きいが、ドゥルーブより少し大きい位だと思うが。
ふと見ると、みんなの視線が、ヴォルドヴァルドの遥か上方を見上げている。
ピ―――ン!
なるほど、例のヤツだな。
「おい、ヴォルドヴァルド。みんなに本当の姿を見せてくれ。俺には、ちゃんと視えているんだ」
「なんだとッッッ!!」
これはまた重低音、そして無駄にデカい声。
ボス級に相応しい。
「お前が、マッツ・オーウェンか!」
「ああ、そうだ」
「あれか、あの何とかいう特性……『遠視』?」
「それは遠くを見る魔法だろ。もしくは、単純に近くが見えないやつ」
「違う違う。『近視』の方だったか」
「それは遠くが見えないやつだ」
ドンッ!!
槍の石突きで床で大きく鳴らす。
「そんな事はどうでもいい!!」
こいつ、声量で押し切ったな……。
「俺が視えているだと!」
「ああ。俺は『神視』持ちらしいからな!」
「それだ! 俺がさっきから言っていたのは」
言ってないじゃない……リディアの小さな呟きは幸い聞こえなかったようだ。
「よかろう。お前の竜を追い払ったという素晴らしい功績と、その『近視』に免じて、『変現』を解いてやろう」
俺は近くも遠くも見えるぞ。
一々、言わないがな。
「おお! それでも、大きいですね……」
クラウスが感嘆する。ボヤけていた輪郭がはっきりする。
「でも、最初、5メートル位あったから……なんかねぇ……」
リタ、煽るんじゃない。
一応、超人だぞ!
不意に槍を構えて、半身の姿勢になるヴォルドヴァルド。
「さて! 人間共よ、来いッッッ!!」
「え? ……あ、ごめん。いや、戦いに来たわけじゃない」
「なんだとッッッ!!」
一々、声がデカい。
アデリナが完全に耳を塞いでいるじゃないか。
エルナもリディアも、しかめっ面をしている。
また槍先を天に向けて、直立の姿勢になる。
「じゃあ、何をしに来た?」
「話をしに来たんだ」
「話だとッッッ!!!」
なんか、おかしい事言ったか? 俺。
「何の話だ」
「要件は2件。1つ目。お前が持つ神の種を俺達に譲ってくれ」
「ダメだッッ! 次ッッッ!」
……
いや、めげるな。
これ位は想定の範囲内だ。
「2つ目。ヴィハーンとラーヒズヤの洗脳を解いてくれ」
「ダメだッッ! 次ッッッ!!」
……
「……え? あ、いや……。2件だから、以上だ」
「なんだ、2つしか無いのか。欲の無い奴だ」
……
……
1つも聞いてくれて無いだろ!!
「話は終わりか? よし、来いッッッ!!」
槍を構えようとする目の前の巨人。
今更ながら、ヒムニヤの言が脳裏をよぎる。
『奴は不器用』
『そもそも奴は私がここにいる事等、把握しとらん』
いや、これ、不器用とかいうレベルじゃ……
通り名は《戦闘狂》と言っていたが、まさしくその通りだな。
どうしよう。
これほど話が通じないとは思っても見なかった……。
「戦ったら、俺達の要望が通ると思っていいんだな?」
黙っていたヘンリックが、不意に大声を上げる。
「む? 違う!! 戦って、お前達が勝ったら、だッッ!!」
ニタリ、と笑うヘンリック。
槍をしごいて、前に出ようとする。
「おい、やめとけ!」
「……」
慌てて、ヘンリックを制する。
ちょっとおバカさんなだけで、ヒムニヤより強いかもしれないんだぞ!
「今はまだ……待て、ヘンリック」
チッと舌打ちして下がる。
「何だ、何をコソコソしているッッ! やるのか、やらんのかッッッ!!」
「やら―――んッッ!!」
負けない位の大声で答えてやる。
「何だ……じゃあ、何しに来た?」
……
よし。話題を変えよう。
「ヴォルドヴァルド、今、この国でクーデターが起こっている。知っているか?」
「クーデター? そうなのか?」
「ああ。それも、お前の洗脳のせいだ」
ワッハッハ!! と、どデカい笑い声を上げる。
「だからどうしたというのだ。今までクーデターなど、ドラフジャクドの歴史上、何度も起きている。俺には関係ない」
何だと!?
今の言い方はちょっとカチンと来たぜ。
……が、一旦、抑える。
「そうなのか、よくわかった。じゃあ、一旦帰る。但し、また来るぜ! そん時は相手してくれよ!」
「よかろう! いつでも来るが良いッッッ!!」
最後に最大級の声量で怒鳴り散らすヴォルドヴァルド。
俺達は入ってきた入り口から出て、小部屋の近侍を呼ぶ。
「終わりましたか? ご無事で何よりです。では……」
そうして、俺達は言葉が通じない巨獣との初めての面会を終えた。
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