神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第3章 英雄

出航(2)

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 あっという間に流れてしまう月日を無駄にしないよう、毎日、鍛錬に励む。

 そして合間、合間に各所への挨拶を済ませる。

 イシャンとリタは最後のデートをし、再会の約束もしたようだ。


 この城に泊まる最後の夜―――

 ベッドで寝転がり、これまでの事、これからの事を考え、思い出し、なかなか寝つけなかった。

 ふと、ドアの前に人の気配がする。
 敵意が無いのはすぐにわかる。

 前にリディアがこんな感じで来たな……あれは『シシ』に寄った夜だったか。
 リディアも寝付けないのかな……? そんな事を思いながら、ガチャッとドアを開けると……


 そこにはハッと驚いて俺の顔を見上げる、ヒムニヤがいた。
 流れるような銀髪を後ろで束ね、薄い水色のドレスを纏って佇んでいる。

「うおッッ! ……ど、どうしたの?」
「気付いたのか、私の気配に……本当に凄いな、お前は……」
「ま、まあ……入れよ。紅茶くらいいれるぜ。俺も寝付けなかったんだ」

 そう言うと、俯きながら入ってくる。
 心なしか、顔が赤い。

 ……

 ……


 紅茶を入れながら、少し考える。


 ちょっと待て……

 いやぁ……まさか、だろ?

 超人様、《神妖精》様が……俺に……??


 まあ、万が一も無いとは思うが、もし……そんな雰囲気になったら、俺はどうしたらいいんだろう。

 リタの言う通り、大した貞操観念は持っちゃあいないものの、多少の分別はある……つもりだ。
 ここで俺がヒムニヤに手を出すと、何か、色々な人を裏切ってしまう気がする。

 それはダメだ。


「今日の夕食、美味しかったな……」
「え? あ、ああ。そうだな」

 上の空で返事しながら、小さなテーブルの上に、彼女の好きな紅茶を2つ置く。
 素直にソファに座り、紅茶に手を出すヒムニヤ。俺はソファに座らずベッドに腰掛ける。

「なあ。去年、この城で大きな酒宴があった時、私がお前に言った言葉を覚えているか?」
「え?」

 予想外の事を急に言われて、ピタリと動きが止まる。はて……何かヒムニヤと話したかな……?

「フフ……覚えていないか。『私は、もうこんな経験はできないと思っていた』と言ったんだ」

 ああ……ああ!
 そういえば、言ってたような気がする!

「うんうん。人と触れ合って楽しいと思う事なんかないって思ってたんだよな?」
「覚えていたか……それはそれで本当の事なんだ。でも、あの時、本当に言いたかったのは……」
「待て!」

 ……

 遮る。


 俺の予想が違ってたら、『自惚れ過ぎ~~』と、アデリナやリタに笑われれば済む事だ。

 だが、予想通りだった場合、これはやばい。

 何しろ、俺は多分、いや間違いなく、ヒムニヤに惹かれている。


「ヒムニヤ、俺の想像が間違って、全然見当違いの話をしているなら、笑ってくれていい」

 コクン、と頷くヒムニヤ。


「まず、同じパーティの仲間として、そしてそのリーダーとして、申し訳ないんだが……俺はお前に惚れている」

 自分で言ってて、ボッと顔が赤くなる。

「でもダメだ! 具体的に名前を言うと、お前に心酔しているクラウス、俺に惚れてくれている、と俺が勝手に思ってるだけかもしれないが、リディア、アデリナだ。そして何より、ヴォルドヴァルドだ。奴はこの半年間、みっちり俺達をしごいてくれ、強くしてくれた。そんな奴を裏切る訳にはいかない」

 そこまで一気にまくしたて、肩でハァハァと息をする。


 ヒムニヤはどんな顔をしているだろう……非常に不安だ。
 恐る恐る、表情を覗いてみる。


 眉を寄せ、怪訝そうに小首を傾げている……?

 ……あ!

 これは恥ずかしいパターンのヤツだ!


 でも、大丈夫だ。

 俺が告ってフラれただけだ。
 羞恥心と同時に、安心感が押し寄せる。


「人間の感情として、クラウス達はわからんでもないが……どうしてヴォルドヴァルドを裏切る事になるんだ?」

 ……

 あれ?

 ええぇぇぇ!?
 俺の恥ずかしい勘違いじゃないの……?

 それに、いや、むしろ人間の感覚ならヴォルドヴァルドこそ、裏切る事になるんじゃないのか……。
 あれ? 俺がおかしいのか?

「マッツ。お前の言っている事はわかる。が、さっきも言ったように私がこんな気持ちになるのは、本当に、もう無いと思っていたんだよ」

 そう言いながら、ソファから俺の方へと、生足をチラチラ覗かせながらゆっくり歩いてくるヒムニヤ。

 近寄るほどに美しさばかりが目に入る。頭の先からつま先まで、欠点が無い。

 ダメだ……

 それ以上、来ないでくれ……


「あ……」

 だが、俺の口から出るのは、ただ、呻きのみ。
 はっきりと彼女を拒めない。

 もう文字通り、目と鼻の先。
 俺の首に腕を絡める。

「私も……お前が好きだ、マッツ」

 !!!!!!!!!!

 ででで、伝説の超人から……

 す、好きだって……はっきり、言われちまった……

「闇の世界でお前に呼び起こされた時、確信した。私はお前が好きなんだと」

 ボフッッッ……

 そのまま、ベッドに押し倒される。


「う……ヒ……ムゥ!!」

 キスで口を塞がれる。

 あうっ……してしまった……
 柔らかい……

 ……いやいや、跳ね除けなければ。

 下から優しくヒムニヤの両腕を掴み、離す。

「あ、ハァハァハァ……」
「……マッツ……」

 濡れた瞳で俺をジッと見つめる。
 唇が僅かに震える。


 やべぇ。

 悪魔デビルマッツが……勝っちまう……


悪魔『オラオラ、超人抱く機会なんざ、2度と来ねえぜ? 好きなんだろ? カッコつけずに行けよ、コラ』

天使『何を言うのです。ここまで苦楽を共にした仲間を、貴方わたしを好きでいてくれる仲間を裏切るというのですか?』

悪魔『ウルセェッッ! あっち行ってろ! オラッ!』

天使『アウッ』


 天使エンジェル、瞬殺……。


 ヒムニヤと体を入れ替える。

 目を閉じる高位森妖精ハイエルフ


「綺麗だ……ヒムニヤ」
「……」
「さっきも言ったけど……俺もお前が好きだ」
「……!」

 ボロボロと涙が出てくるヒムニヤ。
 最近、彼女は涙脆い。

 でも、元々、情の深い女性なのだろう。

 グッと抱きしめてキスをする。

 生涯、忘れないであろうヒムニヤとのキスは、何とも言えない良い香りと、柔らかさの余韻を俺の唇に残す。


 そして ―――


 パァ――――――ンッ!!!


 頰っぺたに、強烈なビンタ!!!!



「あ、いっっっったぁぁぁぁぁぁぁ……」



 ―――

 翌朝、いよいよ城を出る。

 準備を済ませ、城門を跨ぐ。

 皇族にバルジャミン、ドラフキープヴィの領主と付き添い、メイドに至るまで、城門まで見送りに来てくれた。

 見送りの最前列には、目を真っ赤にしたエルナと、何やらスッキリした顔のヒムニヤが。


 結局、昨日のアレは、どうやら俺の妄想、というか、夢だったようだ。やけにリアルだったんだがな……。

 あの後、思いっきりビンタされ、目を覚ました俺はベッドに対して垂直方向にぶっ倒れており、最後の挨拶に来たエルナに抱きついてキスする直前であったらしい。

 ドアが開いていた為、不審に思ったエルナが中を覗き、急いで俺を抱き起こそうとした所を俺に捕まった、との事だった。

 トラウマにならなきゃいいが……。エルナには悪い事をしてしまった。

 付き添いで一緒に居たリディアに間一髪、(強烈なビンタで)助け出され、またなの? と溜息をつかれてしまった。

 ま、夢とはいえ、みんなを裏切ってしまった罰だな。

 その後、じっくりとエルナに別れの言葉と今までの感謝を伝える。


 リディアは泣きまくり、エルナも泣きまくり、俺も泣きまくり、アデリナ、クラウス、リタ、ヘンリックまで集まってきて、最後にはみんなで泣きまくり、大変だった。

 本当、言葉では言い尽くせないほど、エルナには世話になった。

 必ず、また会いに行くよ、と、それだけは約束しておいた。


 ―

「じゃあ、みんな! 行ってくるよ! また会おう!!」
「またね!! みんな、ありがと―――!!」
「さよ~なら~~~!!」
剣聖シェルド・ハイ! 元気でやれよ!」
「元気でな―――!!」
「頑張れよ―――!!!」


 何気に最後にヒムニヤを見てしまう。

 口元を上げて笑顔を作り、パチッと1つウインク。
 俺はそれに手を振って応える。

 そして、もう振り返らない。
 港まで真っ直ぐ前を見て進む。


 ―

 船が出港する。

 それほどデカイ船ではないが、航海には耐えるらしい。百人程の人々を乗せ、帆を上げて出発する。


 それと同時に!!

 突如、上空に現れる巨大な黒い影!!


「マッツ! あれ……!!」
「ああ。アルトゥール! そしてヴァネッサ……ドラゴン達だな!」

 空を埋め尽くすドラゴンの群れ!

 既に海の上の人となってしまった船客達はビビリまくり、一目散に客室に逃げ込んだり、小さな小窓からこちらを覗いたりしていた。


 ドラゴン達に手を振る。


 グゥルルルル……

 グゥエエエェェ……


 思い思いにひと鳴きし、去っていく。


「アルトゥール達もお見送りに来てくれたね!」

 ブロンドの髪を可愛くツインテールに束ねたアデリナが、はち切れんばかりの笑顔を俺に向ける。

「そうだな。終わってみれば、本当、素晴らしい経験だった」

「ランディアにいたら、とても経験できなかったわね……」
「うん。最初は何ちゅう命令をするんだとディミトリアス王に思ったけど……俺はこの旅に出れて、良かったよ!」

 少し髪を長くし、肩口に係るくらいのショートボブにしたリタが、うん、と頷き、笑顔をくれる。


「私は絶対にもう一度、師匠に会いに行くわ! アンタもついて来なさいよね!」

 焦げ茶色の髪を海風に靡かせ、リディアが陸側に顔を向けながら、笑顔で俺に命令する。

「勿論……お供するさ」


 少しして、船内から出てきたヘンリックが声をかけてくる。

「マッツ、昼飯食おうぜ。今、食堂のメニュー見てきたが、魚が美味そうだった」

 おお!

 そういえば、腹減ったな!

「よし! みんな、行こう」

 船内、食堂へとつながる階段を、皆、降りていく。

 最後の俺が一歩、踏み出したその時、頭に直接、語りかけてくる声が聞こえた。


(『好きだ』と言ってくれて、ありがとうマッツ。本当に嬉しかった)

(きっと……また会える……)


 ヒムニヤッッッ!!

 あれ? どういう事だ??

 夢じゃ……なかったのか?

 いや、起きた時の状況からして、どう考えてもあれは夢だよな……。


 んん? 今の声も俺の妄想か?


 本当に何故かはわからないが、俺の目から一粒、涙が風に乗ってペザの方へと飛んで行った。

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