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第3章 英雄
出航(1)
しおりを挟む半年というのは長いようで短い。
12月の末にクラウスの誕生日があり、年が明け、3月にリタの誕生日があり、それぞれ皆で盛大にお祝いをした。
イシャンはあれからもめげずにリタに告り続け、何度かデートを重ねたらしい。
よかったな。2人とも。
結局、結ばれたのかどうかは知らないが、見てる限り仲は悪くない。
イシャンは皇族だが、身分がどうの、という親父でもなさそうだし、何より俺達の仲間とくっつくのなら本望のようだ。
何しろ俺自身、何度、アイラを勧められたかわからない。
皇帝の顔を立てるため、建前で何度かデートしたものの、最終的にきっぱりと断った。残念がってくれていたが、こればかりはしょうがない。俺には心に決めた女性(達)がいるのだ。
一方、俺を含めたパーティの腕前だが。
これは飛躍的に上がった。間違いなく。
最も腕を上げたのはヘンリックだ。
元々、槍の腕前は相当なものだったが、見る間に六芒槍術をモノにし、奴の潜在的な魔力の大きさもあって、スペリングも出来るようになった。
そして何と『魔槍レベッカ』を譲り受ける。
ヘンリックの腕前と、その強さへの真摯な姿勢を買ったヴォルドヴァルドが、餞別だ、と超特大プレゼントだ。
尤も、後からヒムニヤに聞いたところ、ヴォルドヴァルドと対決した時に槍が自分でなく、ヘンリックを選んだ事にとても傷付いていたらしい。
続いて、リディア。
エルナの指導がようやく落ち着いてなされ、昼も夜も部屋にこもり、時々、実践で近くの平原に行ったりして、とにかく、この先、無事に生き抜くだけのものを叩き込もうとエルナが必死になってくれた。
エルナ自身も暇を見つけてはヒムニヤに教えを受け、満足の行く期間であったようだ。
クラウス。こいつもまた、伸びた。
ヒムニヤのオリジナルスペルを取り入れ、ツィ系魔術師の域を抜きん出ており、ヒムニヤ曰くは『ソロで活動できるレベル』にまで到達した、との事だった。
この3人は間違い無く、強くなった。
とは言え、残りの3人、リタ、アデリナ、そして俺も遊んでいた訳では無い。
ヴォルドヴァルドに挑み、ヒムニヤに挑み、互いに挑み、俺達もできる範囲で強くなった筈だ。
俺も修羅剣技に似たヴォルドヴァルドの六芒槍術は、練習相手に丁度よかった。
―――
5月上旬。
そろそろ、出発の時が近づいてきた。
あれ以来、俺達はずっとヴィハーンの城でお世話になっていて、何不自由ない生活を送っている。
今日はヘンリックとヴォルドヴァルド以外は休みを取り、応接間を借りて、次の目的地に関する整理を、息抜きを兼ねてする事にした。
「さて、次の目的地だが、ミラー大陸にあるアスガルド王国だ。……で、ここから直接行く手段がないんだ。そこで、リナ諸島、ペレ諸島の島々をいくつか経由してアスガルドを目指す事になる」
「ペレ諸島! お母さんの故郷だ!」
アデリナが目を輝かせる。
エッカルトの護送中に聞いたが、アデリナのお母さんは、ペレ諸島の生まれの人だ。
以前、ラシカ村でアデリナの親父さんには会ったが、結局、お母さんには会わなかった。
アデリナのお母さんなら、相当、綺麗なんだろうな。
「お母さんに会える!」
「え!? お母さん、ラシカ村にいるんじゃないの?」
「お母さん、もう3年位になるのかな。ずっと実家に帰ってるんだ。喧嘩とかじゃなく。『家族の用事』としか言ってくれなかったから正確な理由はわかんないけど。元気にしてるかなぁ」
「そうか! 会えるといいな。俺も挨拶しないと」
「お母さん、まだ若くて可愛いけど……口説いちゃ嫌だよ!?」
「いや、あのな……」
全く、俺を何だと思ってるんだ。
「マッツも一応、分別はあるから、大丈夫だと思うわ? 多分」
リタがフォローなのか追い討ちなのかわかりにくい事を言ってくる。
「『一応』と『思う』と『多分』が余計だ。半分くらい、余計な事言ったぞ」
「アハハハハ!!」
ヒムニヤのツボにハマったようだ。
最近、ヒムニヤは俺達といる時、よく声を出して笑うようになった。
出会った当初はフフ……位だったのだが。
しかし、笑う事は体にも良い。
三千年も生きてるなら、尚更、御自愛頂きたいものだ。
「超人って、あと1人、居るわよね。また出会うかしら」
不意にリディアがそんな事を言い出した。
おお。そういえば。
『5超人』と言っておいて実は4人って事もあるまい。
「今のまま、お前達が正しい道を歩んでおれば、いずれ出会うだろう」
「おお。じゃ、いい奴なんだな! 性別とか名前とか特徴とかの情報はないの?」
ヒムニヤなら知らない筈はないだろうと思い、聞いてみたのだが、
「それは……伏せておこう。本人も探されたくはないだろうからな。いい奴である事は保証する。お前達ならきっと出会うだろう」
との事だった。
そして、一言、予想だにしない事を付け加えた。
「ひとつだけヒントをやろう。ランディアからここまでの旅路のどこかで、お前達は既に奴に会っている筈だ」
「ええ!?」
「えええぇぇぇ???」
「既に……誰かしら……?」
マジか。何だよ。誰だ?
コンスタンティン? シモン? オイフェミア?
まさかの百竜の滝の妖精エーリッキ??
「フフフ。まあ、そう詮索せずとも会えるさ。お前達なら。会ったらよろしく言っておいてくれ」
「うーむ。わかった……」
隅の方ではエルナとリディアで、誰が超人か詮議が行われていた。
「私のお母さんだったら面白いなあ……」
おお!
あ、でも俺達、会ってないしな。
違うか……。
「ヒムニヤ様、超人になるのって、何か条件があるんですか?」
ヒムニヤの隣に座っているクラウスがそんな事を言い出した。
「む…………それは、答えるのが難しい問いだな」
悩み出すヒムニヤ。
どちらかと言うと、どう伝えるべきか、を悩んでいるように見える。
「そうだな。ではまず、誰が決めるか、からいこうか。『お前は超人である』と決めるのは、この世の創生神のツィ様、テン様、そしてミラー様だ」
おお! 神さま!!
「あれ。でも、サイエンは神さまに会った事が無いって言ってたぞ?」
「本人にそれを伝えるのは、妖精が間に入る事が多い。一度も神に会わずに生涯を終える超人達の方が多い」
「ほほう、なるほど。ヒムニヤは?」
「私は高位森妖精だからな。超人と呼ばれる前からツィ様とお会いさせて頂いていた。勿論、直々にお声がけ頂いたよ?」
うーん。
ヒムニヤって、凄いんだな。知ってたけど。
俺ももう一度、ツィ様に会いたいなぁ。
あとひと押しで夫婦に……いや、キスを……。
……
視線を感じ、顔を引き締める。
「とは言え、別に『超人』という職業があるわけではないし、当たり前だが、そう呼ばれたからと言って何か特別な力が付く訳でも無い」
おお。なるほど。それはそうだろうな。
「神々は非常に長いスパンで、時々下界を眺められる。従って普通の人間のような寿命では、そもそも目に届かない事が殆どだ」
そこで俺の方を見て、
「だからマッツ、お前のようなケースは稀有なんだよ? 今もツィ様はお前を見ているかもしれないな」
などととんでもない事を言い出した。
監視するのはやめてくれ~。
それより、出てきてくれ~。
ヒムニヤはフフ……と笑い、言葉を続ける。
「つまり、第1の条件としては、長寿である事だ。さっきも言ったが、超人になったからといって、何かが変わる訳では無い。つまり超人達は皆、『超人』と呼ばれる前から長寿だった、という事だ」
まさかの第1条件、『長生き』!!
「でもそれだと、人間じゃ無理ですよね……?」
クラウスが言う。
なんだお前、超人になってヴォルドヴァルドと三角関係にでもなりたいのか?
「いや、そうでもない。現に私を除く全員が人間だ」
え?
……
…………
ああああ!!!!
「そうか! わかったぞ!! いつぞや、エルナにした質問の答えが!!」
「え!?」
いきなり名前を呼ばれてエルナがビクッとする。
「前にエルナとドラフントで1日過ごした時に聞いたんだよ。『エルナって、何でそんなに見た目が若いの?』って。ひょっとして、エルナって……」
「えっ? えっ? えっ?」
「フフ。正解だ、マッツ。エルナ、お前は『超人の資質』が既に目覚めている。これに目覚めたものは、まず、老化が止まる」
「えっ? えっ? ええっ? ええええっ??」
ドギマギエルナ、カワイ~~~!!
いいもん見た!
「凄い! 師匠……師匠!! 凄~~~い!!」
「えっ? えっ?」
リディアがエルナに抱きつく。
頭をスリスリされながら、困惑顔でヒムニヤを見つめるエルナ。
そりゃ誰だって、『お前は超人の資質に目覚めている』、とか急に言われたらビックリするよな。
「勿論、かのロビンやオリオンもそうだった。残念ながら完全に素質が目覚めきる前に死んでしまったがな……。超人への近さで言えば、今の世だと《放浪者》コンスタンティンが突出しているな。あいつは間違いなく近いうちにお声がかかるだろう。続いて《破壊者》ボルイェ、オリオンの子孫の《聖騎士》オレスト、辺りか」
ヒムニヤが色々と教えてくれている間も、エルナはボーッとしている感じだ。
あの美貌がずっと続くなら世の男性も嬉しい限りだ。
「知力、知恵、体力、魔力。この辺りは並外れていなければならない。エルナは少し、いやかなり、体力が足らんな。精進するがよい」
「は、はいッッ」
素っ頓狂な声を上げるエルナ。
いつまでも可愛いエルナを観察していたい所だが、そういう訳にもいかない。一旦、話が途切れたのを見計らい、口を挟む。
「ちょっと脱線したが、有意義だったからヨシとして……話を戻すぞ。まず、ここからリナ諸島だが、船で1週間程だそうだ。月に2回、定期便が出ており、今月末前の便に乗ろうと思っている」
「船……! 私、船に乗るの初めてです!!」
クラウスが喜びを隠さずに、はしゃぎ出す。
「そうか。いい船旅になるといいな。ヘンリックも初めてのはずだよ。……でだ。この定期便は、リナ諸島で最も大きなエイブルという島に着く。そこからは気分によってコースを決める。とにかく、東、東、だ」
「うう~~!! ワクワクするねぇ~~~!!」
アデリナも興奮を抑えきれないようだ。
「ここから定期便が出る港まで、徒歩で3日ほどかかるんだ。ここを出る日までに荷物は各自、用意しておいてくれ。1週間前までには皇族その他、お世話になった方々への挨拶を済ましておく。そして長らく……本当にお世話になったエルナ、ヒムニヤ、ヴォルドヴァルドとは……名残惜しいがお別れだ。最後の日に仲間内だけで飯でも食いに行こう」
それまで喜んでいたアデリナとクラウスの動きがピタッと止まり、急に涙ぐむ。
「別れるの、嫌だぁ~~~~」
「う……うぅ」
「いやいや、待て待て、早い早い。まだ日はあるんだ。悲しむより、少しでも良い思い出が作れるようにしような」
涙を袖でゴシゴシしながらアデリナが頷く。クラウスも。
見回すとさっきまでエルナと抱き合っていたリディアも、エルナも、リタも、そしてヒムニヤでさえも目に涙を浮かべている。
わかる。
仲間と離れるのは、俺だって辛いさ。
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