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第3章 英雄
酒宴(ドラフジャクド『ペザ王城』)
しおりを挟む「グワッハッハッハ! 飲め飲め! 剣聖!!」
「はぁ……いただいておりますよ……」
しかし、どこの王族にしろ、皇族にしろ、酒が好きだな。ストレス溜まってんだろうな。そうは見えんけど……。
不意に右側からニュッと白く細い手が出てくる。
「マッツ様……どうぞ。おつぎ致します」
「え? ああ。ありがとう。……って、アイラ!……様。いやいや、もったいない」
「『様』なんていらないわ。むしろ私達がつけなくちゃいけないわ。父上を諌めてここを出て行ったマッツさん、戻ってきてイシャンと私を助けてくれたリタさん、クラウスさん。みんな凄くカッコ良かったです」
何やら凄く感謝されている。
神の種はヘルドゥーソに取られちまったが、こういった反応を見ると、頑張って良かったなあ、と思う。
「アルタラの町でのイシャンと俺達の約束、君は知っているだろう? ここだけの話だが、これも果たせたはずだ。これからはここを『暗黒大陸』なんて言う奴はいなくなると思うぜ?」
そう言うと、不意にポロポロ泣き出すアイラ。
「……マッツ様……本当に何てお礼を言っていいか……」
うん、心中、察するよ。
洗脳されている父と兄、不満を溜め込む国民、力の無い自分達……。辛かったろうな。
「アイラ、そもそも今日の酒宴は俺達への礼の意味も含まれているらしい。だからそんな事は考えず、楽しく飲もう! ほら、注いでやるよ!」
と言いながら、アイラのグラスにワインをドボドボと注いでやる。
「マッツ、ありがとう。君に会うためにアルタラまで行って、ほんとによかった」
アイラの隣で頭を下げるイシャン。
酒が弱いのか、ポッと頬を染めている。なんて可愛いんだ。
俺の左側にラーヒズヤや皇帝、右側にイシャン、アイラ。
血を分けた家族なのに、別人種過ぎるぞ。
「マッツ!!」
どこかで名前を呼ばれる。
後ろだ。
振り向くと、マジュムルが酒瓶を持って手招きしている。
「すみません。ちょっと行ってきます」
ラーヒズヤ達にそう言って、マジュムル、エイゼルとシータの近くに行く。
「いや、バルジャミンの酒場で暴れていたのを見た時から只者では無いと思っていたが、終わってみれば、救国の士だったとは。貴方に会えて本当に良かった」
「全くだ。同じ時代に生きれて我らは幸せだ」
綺麗な顎髭を触りながら言うマジュムルと、細い目を更に細くして笑うエイゼル。彼らとはこの3週間で、いろんな話をし、いつのまにか敬語もなくなり、かなり親しくなった。
「いや、そりゃ流石に言い過ぎだろ……すまなかったな、戦いに巻き込んじまって」
「何を言うか、元々、我らの国の中の問題。むしろ、巻き込んだのはこちらの方だ」
「そうだ。全く、我らは役に立たなんだがな! ワッハッハ!!」
自嘲ギャグを飛ばして笑う2人。それに追い打ちをかけるシータ。
「全くですわ。お2人共、私が帰ってきたら『ケルベロス』の足下で寝てるんですもの。ビックリしましたわ」
「いや~~~はは……面目無い」
しょげる2人。
「結局、シータはイシャンの……簡単に言うとボディガードだったって事?」
いまだ、メイド服のシータ。
聞くところによると、ペザでもメイドをしていたらしい。が、裏の顔、というか本業はイシャンのボディガードだった、という事らしい。
しかし、今日の酒宴では給仕としてではなく、功労者の1人として、楽しむ側で参加している。
『ケルベロス』の1人を倒し、イシャンとアイラを守り切ったのだから、その功は計り知れないだろう。
「そうですよ! クーデターの情報を掴んだイシャン様から、半年程前にバルジャミンにメイドとして潜入して監視するよう、仰せつかっていたのです。騙していてごめんなさい」
「いや、いいんだよ。シータがメイドになったタイミングで、アルが『ケルベロス』の噂を立てたって訳だな。疑われなかったか?」
「少しは疑われていたみたいですね。でも、まあ、私は私なりに本当にメイドを頑張っていたので……」
そう言えば、最初に会った時からハァハァと一生懸命にやっていたのを思い出す。
「実はシータにもケルベロスの疑いは掛かっていたんだ。が、ゴビン様はシータをいたく気に入り、常に近くに置いていてね」
エイゼルが当時の内情を吐露する。
「シータは私の娘によく似ていてね……暗殺者なんかであるものか、と少し意地を張っていた所もある」
うおっ。いたのか、ゴビン。
その横にはアクシェイ、そして、レイティスもいた。この3週間の間に、やはりじっとしていられず、ここまで来たとの事だった。
なんでも、『帝王の間』にてヴィハーン皇帝にどれだけの罰を受けるか、とアクシェイ共々、恐々としていた所を『すまなかった』と頭を下げられ軽くパニクったらしい。
その辺りの機微はさすが皇帝だ。
「ゴビン様もアクシェイ様も大変でしたね。ご無事で何よりでした」
冗談ではなく、彼らは被害者だ。
「クーデターの前辺りから記憶が殆ど無いのだ……。聞くところによれば、超人ヴォルドヴァルドとも戦ったとか」
ゴビンの述懐にアクシェイも同調する。
「想像するだにゾッとする。全くクーデターを起こすなんてな……我らに多少なりとも不満があり、そこを突かれたのだろうが……」
「操られていたのですから、しょうがないですよ。さ、もう済んだ話です。今日は、パァーッと飲みましょう!!」
そう言って、2人に酒を注ぐ。
涙を流しながらグイッと酒を飲み干す2人。
「剣聖、君がこの国に来なければ、一体どうなっていたか……」
「ああ。全国民を代表して、お礼を言わせてもらうよ。ありがとう、マッツ・オーウェン」
「ああ……いやいや、私だけでは到底。仲間や超人達の協力もありましたから……」
言いながら、レイティスの横に席を移動する。
「マッツ、やったな!」
皮のローブを纏い、こちらも軽装で参加のレイティス。
「ああ。今回はやばかったよ」
カツンと軽く乾杯してからグッとワインを飲む。
「これからどうするんだ?」
「半年程、ここで過ごす。その後はミラー大陸の方に旅をすることになるな」
「そうか……また旅が終わったら是非寄ってくれよ。俺も一度、どこかでお暇を頂き、ランディアに戻ってみようかと思うんだ。一緒に行ってくれよ。1人で大森林を抜ける自信がない」
そう言って、アッハッハと笑うレイティス。
リーデン地区辺りの出身だと言っていたな。
「ああ。必ず寄るとも!」
もう一度、カツンと約束を交わし、2人で酒を飲む。
こんな遠い所で同郷の人間と飲む酒の何と美味いことか!
しばらくレイティスと話し込んだ俺は、今度はエルナとリディアの隣に行く。
「楽しんでるか?」
あまり顔色の変わっていないエルナと真っ赤になっているリディア。
二人とも上機嫌だ。
「ええ、マッツ。楽しいお酒をいただいているわ」
「マッツぅ~。あんらからもししょうをせっとくしれぇ~~」
うむ。呂律がやばい。
エルナがいる限り、大丈夫だと思うが……。
「エルナはすぐに帰るのかい?」
「最初はそのつもりだったんですが……」
グイっとワインを一飲み。
「リディアに伝えたい事はまだまだありますし……私がヒムニヤ様に教えていただきたい事もたくさんあります」
「そうか。なら迷う必要ないじゃないか」
「え!?」
「だってそうだろ? ここに俺達とあと半年一緒にいれば、リディアも力をつけるし、エルナも更にレベルがあがる。エルナの力が上がれば、テオドール王やシモンも旅に出した甲斐があったってもんだ」
「そうらそうら!! ししょおうぅ~~」
半眼のリディアがエルナの右手を引っ張るように抱きながら懇願する。
その様子を見て、ひとつため息をつくエルナ。
だが、
「わかりました。もう少し残りましょう」
「きゃああああ~~~!!!」
ようやく、エルナの踏ん切りがつき、狂喜する。
よかったな、リディア。
そして、リタ、クラウス、アデリナがいる場所へと移動。そこには、イシャンも来ていた。
「おお。イシャンもこっちに来てたのか」
「マッツ! さっき振りだね! 今、リタにデートの申し込みをしてるんだけど……」
……
ええええ~~!!
なに言ってんの、この人?
「なかなか、リタが『うん』と言わないんだ」
苦笑してクラウスが口をはさむ。
「そうなんだ。苦戦してるんだ。ハハ」
うーむ。
酔っとるな……。
リタはあまり酔わない、いや、正確に言うと、機嫌は良いのだが、思考回路が正常を保っているからな。
男がよくやる、酒の上の冗談とかはあまり好きではないらしい。
涼し気にワインをグイグイいくリタ。
「フフ。お酒もほどほどにしないと、折角のいい男が台無しよ?」
イシャンの方を見もせずに、教訓を述べるリタ。
「え~なんで~~? イシャン、イケメンじゃん~」
不思議そうにアデリナが突っ込む。
「はっきり言っちゃうと私のタイプじゃないのよねぇ……」
「ガーーーーン!!」
声に出してショックを伝えるイシャン。
これはショックだろう。超絶イケメン君だし、フラれた事なんて今までないだろうし、何より、皆の目の前だしな。
だが、皆の目の前でフラれたのはお前が悪いんだぜ。
こんな所でデートの申し込みなんてするからだ。
「イシャン、これは自業自得だぜ。見てたのが俺達だけでよかったな? 本気でリタを誘いたいんだったら、酒なんかの力を借りずに言うことだ」
俺の言う事をフンフンと聞きながら、なるほど、と1つ呟く。
「そうか。これは僕が悪かった。どうやら酔っていたらしい。ごめんね? リタ」
「気にしてないわ」
今度はしっかりイシャンの目を見て、微笑を湛える。
そして、その笑顔を見て、ポワァっと呆けるイシャン。
あー。
こりゃ、えらい惚れてるな……。
ま、頑張れよ。
最後に隅の方で飲んでいたヒムニヤの前に座……りたかったのだが、兵士達で人だかりとなっており、なかなか近づけない。
「ちょ、ちょっと、通してくれ。何があったんだ?」
「こら、順番ぬかしするな! ……と、あれ? マッツ・オーウェン様?」
「え? 順番抜かし?」
人をかき分けてヒムニヤの近くに行くと、
「マリ様! 明日、僕とデートしてください!!」
「いや、間に合っておる」
そんなやり取りがここでも行われていた。
不意にヒムニヤが俺を見つけ、何と助けを求めてくる。
「マッツ、助けてくれ。もう懲り懲りだ」
う~む。
マリ様、と言っていたという事は、今は『変現』中か。
「すまない、皆。マリは俺の彼女なんだ。遠慮してくれないか」
キョトンとするヒムニヤ。
人妻と知ってしまったが、無茶苦茶可愛い。
このキョトン顔を見れただけでも、ここに来た価値があったというものだ。
兵士達は、
(剣聖の女か……無理だ……)
(リディアって子もアデリナって子も、そうらしいぜ)
(くそ~あいつばっかし……)
(しょうがねぇよ。あいつにゃ勝てねえ)
(俺が女でもお前より剣聖のがいいぜ。へっへ)
そんな事をブツブツ言いながら、去っていく。
すまんな。
しかし、実は超人の人妻で、この人自身も超人だ、というよりはショックは小さいだろ。
「あれ? ヴォルドヴァルドは?」
「え……? あ、ああ、あいつはヘンリックと修行中だ」
はぁぁぁ~~??
ああ、まあでもそうか。ヘンリック、まだ飲めないしな。ここにいるよりは充実してるだろ。
カツン、とヒムニヤとグラスを合わせる。
「なあ、マッツ。私は、もうこんな経験は……できないと思っていたよ……」
「え? ああ、うん。終わってみればあっという間だったが……色々、あったな」
どれの事か分からないが、きっと、どれもなんだろう。ずっと森に篭っていたら、そりゃ何も起きないだろうからな。
何か言おうとして口をつぐみ、小さく首を振るヒムニヤ。
「私が人と触れ合って楽しいと思う事など、もう無いと思っていたよ」
「ハハ……そうかい? そりゃ良かったよ。俺なんか、結構、毎日楽しいけどねぇ……ハハ」
グラスを空けながらそう言うと、ふと視線を感じ、目の前のヒムニヤを何気なく見る。
世界最高に整っている(俺の主観だが)綺麗なエメラルドの瞳で真っ直ぐに俺を見ていた。
何故か、ボッと顔が赤くなるのを感じる。
ダメだダメだこの人は人妻この人は人妻……
じっとしてろ、悪魔マッツ……
しかし、何故だかヒムニヤの顔も真っ赤だ。
いつぞやのヘルドゥーソの世界で抱き合った時みたいに……
やべぇ。いらんこと思い出した。
やばいやばい。
「マッツ。今もお前に助けられたな。私をこれだけ何度も助けてくれた人間は……他にいないよ? 私はお前に尊敬の念すら感じる」
「そ、そうかい? あ……はは……そりゃ、光栄……だな……」
やばい。
話題を変えよう。
でないと……惚れてしまう。
いや、ちょっと……遅いか……?
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