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第3章 英雄
次の『神の種』(2)
しおりを挟むヴィハーンの近侍に案内してもらった応接間に順番に座る。
ヴォルドヴァルドはデカすぎるので、地べたに胡座をかいて座っていた。超人にしては扱いが雑な気もするが。
ドフッッ!
おお~~~フカフカのソファ!
「あ~~~疲れたぁぁぁ~~~!!」
アデリナの声。
「全くだ……」
今はもう、夜。
ここ数日の密度が濃すぎる。
……疲れた。
このまま目を瞑ったら寝てしまいそうだ。
「さて、マッツ。今後の事だが……どうするつもりだ?」
俺の向かい側に座ったヒムニヤが、神妙な面持ちのまま、言葉をかけてきた。
「まあ、ちょっとここで休ませてもらったら、次の神の種を探しに行かなきゃいかんだろうな。それがディミトリアス王からの命令だから」
「それなんだが……」
そこで、この城のメイドが全員に紅茶とお菓子を運んできてくれる。
紅茶はヒムニヤの好物だ。
パァーッと笑顔になり一口すする彼女は、先程まで鬼の形相でヴォルドヴァルドを叱っていた人物と同じには見えない。
「おっと。話を続けよう。マッツ、次の神の種だが、実はまだこの世に発現していない」
「え??」
同時に存在するものかと思っていたのだが……。発現時期に『ズレ』みたいなものがあるという事か。
「そもそも、神の種って、あと何個あるんだ?」
「神の種は全部で4つ。ミラー大陸の方に1つ、これがまだ発現していないと言った奴だ。あと半年から1年程は現れないはずだ。そして『世界の眼』と言われる場所に1つ。こちらはもう発現している」
ありゃ?
じゃあ、そっち、先に行けばいいだけか?
ふと左肩に心地良い重みを感じる。
見るとアデリナの頭だ。
どうやら寝てしまったらしい。
フフ……起こさないようにしないとな。
「『世界の眼』と言えば、海にポッカリ穴が開いている、とかいう嘘臭い場所だな?」
「ああ。少なくとも今のお前達では神の種まで辿り着けんだろう。順番的には最後になるはず……もしくは諦めるか、だな」
「ふーん。どうして行けないんだ?」
そこで、俺の目を見据え、ティーカップを上品に受け皿に置くヒムニヤ。
「理由はいくつかあるが……まず単純に、今のお前達ではそこにいるモンスター共に力負けする、からだ」
……
「そんなに?」
「ああ」
…………
「マッツでも?」
リディアも懐疑的なようで、ヒムニヤにそんな事を聞いている。ボスならまだしも、一般モンスター、いわゆる雑魚モンスターにこのパーティで負けるなんて事があるのだろうか。
「うーん。マッツでギリギリだろうな。しばらくは戦えるかもしれない。だが1日もつかどうかだと思う。いや、1日は無理か」
思案しながら恐ろしい事を言い出す。
そんな強いのがいるの?
諦めたくなってきたぞ。
「しかもあそこは、ヘルドゥーソが居る所に非常に近い所なのだ。私も詳しくは知らないのだが、『世界の眼』にある神の種は、何らかの事情があって奴自身には手が出せないらしい。お前達が取りに行けば、またあいつが横取りしに現れるかも知れんな」
うーむ。
出来る事なら、もうあの野郎とは関わりたくないんだけどな。
「しかしそれでは、俺達も動けないな。どうしたものか」
「そこで提案なのだが」
おお!
さすがヒムニヤだ!
何か考えてくれていた。
「お前達、半年程、ここで過ごす気はないか?」
ガバッ!!
ドテッ!!!
「あぅ! いったぁ~……あれ? 私、寝てた?」
「あ、ごめんよアデリナ」
あまりの事に身を乗り出してしまった。
アデリナの頭を撫でて肩を抱き寄せてやると、半目になってゴロゴロと猫のように懐いてくる。
そして考える。
半年間、待機か……。
時間はもったいないが、確かに、発現前の何も無い所に行って通り過ぎてしまったら、後から見つけ出すのは至難の技だろう。
そうするしかないか。
しかし、そこでふとヒムニヤの事が気になった。
「ヒムニヤは……どうするんだ?」
「私はお前達がここにいる間は、一緒にここにいようと思う。短い旅だったが本当に楽しかった。もう少し一緒に居たい。そしてもし、お前達が望むならだが、その間、ヴォルドヴァルドと共にお前達を鍛えてやっても良いと思っている……が、どうだ?」
「是非! 頼むッッ!!」
「私もです!」
即答でヘンリックとクラウスが答える。
「ヘンリック達の言う通り、それは俺達にとって願っても無い話だ。腰を落ち着けて、直接、超人に修行してもらえるなんてな。しかし、そこまで甘えていいのかな」
「いいさ。お前達はそれだけの事をした。竜の住処を取り戻してくれ、私を闇の世界から救ってくれた。本当に感謝しているんだよ、マッツ」
そうか。
負担にならないなら、頼むか。
ヴォルドヴァルドの意見が入っていないようだが、きっとヒムニヤがやれと言えば断れない感じなんだろうな。
「わかった。是非、頼むよ」
その後、皆で紅茶とお菓子をいただく。
しばらくして訪れたメイドさんにそれぞれの部屋へ案内され、俺達は泥のように眠ったのだった。
―――
それから3週間後、12月後半に入り、新年も近くなってくる。
慌ただしさを見せる中、ドラフジャクドの国全体に新たな祝日が制定された。
11月30日は『竜の日』 ―――
皇帝は『剣聖の日』を推していたのだが、剣聖はこれからも次の代へ次の代へと移り行くものであり、いずれの人間もマッツ殿の様な素晴らしい方とは限らない、という理由で却下された、との事だった。
また、ラーヒズヤとイシャンは『救国の日』を推していたらしい。
が、遥か昔、聖女リンに救われたのはどうするんだ、という話になり、最終的に無難なこの名前に落ち着いた、とヴィハーンから教えてもらった。
いや、そんなに持ち上げられても困るんだがな……。
まあ、悪い気はしない。
そして、その夜、国をあげての酒宴が主城にて開かれた ―――
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