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第3章 英雄
次の『神の種』(1)
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「ミラー大陸アスガルド王国で同時代に生まれた2人、狩人ロビンと王国の聖騎士オリオン」
「ロビンは魔人をも貫く『ペルセウスの弓』を持ち、オリオンは『赤い聖剣ベテルギウス』と『青い聖剣リゲル』を持ち、大いにこの国に訪れた災厄を救った」
「いずれの武器も持ち主を選ぶ聖武具」
「2人は修羅大陸からテン大陸に渡り、ランディア第2王子ヴィルマーのビルマーク王国建国に尽力する」
「その後、超人2人と共に古竜の大森林で起こった魔神との戦いに勝利し、世界を救う」
「共にノーズ大陸に渡ったがオリオンはアスガルドへ帰り、ロビンは400年程そこに留まる」
「その後、ロビンもアスガルドに戻る。2人は長寿で身体的な老化を見せず、オリオンは400年程、ロビンは600年程を生きた」
……
歴史の授業で皆が習う、ロビンとオリオンの英雄譚だ。
古竜の大森林でヒムニヤにその名を言われるまで、俺達にとっては単なる歴史上の人物だった訳だが……
―――
「聞いているのか、ヴォルドヴァルドッッ!」
ヒムニヤの激しい叱責が飛ぶ。
無論、その矛先は超人ヴォルドヴァルド。
彼は今、兜を脱がされ、広間の真ん中、リディアの『爆発』の名残が残るクレーターの中で、正座をさせられていた。
「聞いて……いる」
「そもそも、お前が全ての原因だ。ノーズ大陸に住み込むだけならまだしも、一国のトップに干渉し、その主城に住み込むとは一体何を考えているんだッッ! そして竜を追放させるだとッ! 国の軍事にまで口を出すとは何事だッッ!」
余程の怒りが溜まっていたのか、ベラベラベラッと一気にまくし立てる。
「お前がもっと人も竜もいない所に居着いていれば、それで済んでいた事なのだ。何故、そうしなかったのだ?」
そうだ。それが最大の謎。
竜が嫌いなのに、わざわざ竜の生息地であるドラフ山脈のあるドラフジャクドを選ぶのが不思議過ぎる。
「いや~~~……ははは……」
力無く笑うヴォルドヴァルド。
何やら非常に言いにくそうだ。
「何だ、言えんのか」
冷徹そのもの、の表情で言い放つヒムニヤ。
「私の想像だが……お前、ここでロビンと一緒に住んでいたのではないか?」
「ゲッッッッ!!」
目ん玉をひんむくヴォルドヴァルド。
嘘はつけないらしい。分かり易すぎる。
見る間に顔中から汗が噴き出す。
あれ?
以前、ロビンとヴォルドヴァルドは戦った、と言ってなかったか?
「フン……図星か。そうか、読めたぞ。ロビンとオリオンがこの大陸に移動した後、オリオンだけがミラー大陸に戻り、彼女はここに留まった」
……え? 彼女?
ロビンって女性だったのか??
「そして後からやってきたお前としばらくここで共に過ごした。そしてロビンだけミラー大陸に戻り、お前は引き続きここに残った。察するに……痴話喧嘩だな?」
滝のように流れ出すヴォルドヴァルドの汗。
全てを『仰る通り』で答えているようなものだ。
「ロビンに捨てられたお前は、それでも彼女の事が忘れられず、思い出のあるここから離れなかった、という所か」
もはや汗の海で溺れそうなヴォルドヴァルド。見てると気の毒になってきた。
「やれやれ……お前も懲りん奴だ。私と喧嘩して死ぬような目に遭っておきながら、また同じ事を繰り返すとは……ロビンに殺されなくてよかったな?」
……
「「「「「「「ええぇぇッッッ!!」」」」」」」
全員、驚愕の事実!!!
「待て……待ってくれ。ヒムニヤとヴォルドヴァルドは……どういった関係……なんだ?」
ゴクリ……。
「ん? 言わなかったか……? 人間で言うところの『夫婦』のようなものだ」
涼しい顔をして、さらりと言うヒムニヤ。
「何だとッッッ!!」
思わず、鎧ヴァルドの口癖を言ってしまう俺。
「夫婦……ですって!?」
「夫婦……夫婦……」
さすがの皆もこれには驚く。
特にクラウスのショックはデカそうだ。本当に心酔していたからな。
待て……。
すると何か。
闇の世界の中とは言え、俺は人妻を抱きしめてしまったというのか。
いや、でもあれは、ヒムニヤも嫌がってなかったし、いいのか。
あれ? いいのか?
「こいつは節操の無い奴でな。大森林にいた時、森の妖精の女性に片っ端から手を出していたんだ」
……耳が痛い……。
後ろからリディアとリタの刺すような視線を感じる。
いや、でも俺は片っ端から、なんて事はしてない……はずだ!
「私はまあ、合意の上でならと見て見ぬフリをしていたのだが、当時からずっとヤコブで通していた私に彼女達から陳情が入ってな。事実を知った私が、少しだけこいつを懲らしめてやったのだ。以来、ヴォルドヴァルドは私の前から姿を消し、北の方へと逃げていった」
なんとなんと。
まさに驚愕の事実。
つまり、2人は夫婦だが、ヴォルドヴァルドが浮気を繰り返していた上、相手から苦情が入って家、いや、大森林から叩き出された、という事か。
ヒムニヤが嫁さんで浮気などするか……?
……と普通なら思うだろうが、俺にはわかるぜ、ヴォルドヴァルド。
そういうんじゃないんだよなぁ。
などと考えていると、ふと、右側に殺気……
「うおっ」
いつの間にかリディアが横に並んでおり、ジトッと俺を睨んでいる。
さらにアデリナがその横からヒョコッと顔を出し、ニィ~と笑う。
「な、なにかな……?」
「マッツ……考えてる事、分かり易すぎ……」
リディアがボソッとそんな事を仰るのだが、いやいや、そんなわけないだろう。
「『ヒムニヤさんが奥さんなら誰だって浮気しない?……いや、男ってそうじゃないんだよなぁ。わかるぜ? ヴォルドヴァルド』……こんな感じかな?」
うおおおおおおおおおおおッッ!!
完全一致ィィッッ!!!
アデリナッッ!! お前って奴は!!
「あんたも、結局は……ヴォルドヴァルドと同じね!」
リディアの三行半!!
やめて、見捨てないで!!
「アッハッハ! マッツは大丈夫だ、リディア。ヴォルドヴァルドのように相手から苦情が来るような事もあるまい」
「はぁ……いやいや、問題はそこじゃないです!」
プッ、たしかに。
「何でアンタが笑ってんのよ!」
「あ、ごめんなさ……いや、俺、まだ何もやってないぞ! 何で怒られないといけないんだよ!」
フフ……と笑ってこの様子を見ていたヒムニヤだが、スッとヴォルドヴァルドに目を移すと、また不機嫌さが顔に出てくる。
「さて、ヴォルドヴァルド、お前はこれから私達と一緒にヴィハーンの所に行き、洗脳を解くのだ。わかったな?」
最後の『わかったな?』は、断れば命の保証は無い、と同義だ。
「わかっ……りました」
そうして、ガックリと肩を落とし、うなだれたまま俺達と共に帝王の間に連行されるヴォルドヴァルド。
帝王の間にはヴィハーン皇帝だけではなく、ラーヒズヤやドゥルーブ、イシャン、アイラ、と揃っており、ヴォルドヴァルドには手間が省けたようだ。
入るなり、人差し指をヴィハーンとラーヒズヤに向け、洗脳を解くヴォルドヴァルド。
……だが、見た感じ、特に何も変わらない感じだ。竜退治のみに限定していたためかもしれない。劇的に『ハッ! 私は今まで一体……』のような展開にはならなかった。
「おお、おお、剣聖! よくぞ戻った。……珍しいな。ヴォルドヴァルドも来たか。お前達に少し話がある」
そう言いながら、近くまで手招きする皇帝。
「実はお前達に謝らねばならぬ」
そう言って少し間を開けるヴィハーン。何やら言いにくそうだ。
「皇帝! 悪いことほど先に言わなきゃ!」
「こら、アデリナ! 敬語!」
慌ててアデリナをたしなめる。
「いや、すまぬ。その娘の言う通りだ。実はお前達が苦労して捕まえてくれた『ケルベロス 』。奴らを取り逃がしてしまった」
「え!?」
俺も見たが、スライムで完全に固められていた筈だ。俺も食らったが、クラウスの『粘水輪』は解いてくれなきゃ、たとえ、足だけでも自力で外せるものでは無い。
あ、まさか……
「うむ……実は我が国の手枷足枷に変えるために解いてしまったのだ。20人がかりでやっていたので油断していたようだ」
それは無理だ。
アスガルド最高の暗殺者相手に普通の兵士では……。
「それで、イシャン皇子やアイラ皇女、兵士達は大丈夫だったのですか?」
少し驚く顔をするヴィハーン皇帝。
あれ? 何かおかしな事を言っただろうか。
「お前は……優しいな。さすがは強き者だ。その心配が真っ先に来るとは……イシャンとアイラは指示をしてその場にいなかったため無事だった。兵士達も何故か大丈夫だった……ただ、全員、失神していたがな」
ふむ。
なるほど。プロって奴か?
それともリタに命を助けられたお返しか?
「そうですか。それは良かったです」
「後はお前を刺したアルという暗殺者は永久懲役、その他の暗殺者共も無期懲役、ゴビンとアクシェイは罪に問わん、とするつもりだ。何か意見はあるか?」
「いえ、ございません。慈悲深い決かと思います」
俺がそう言うとホッとした顔を見せるヴィハーン皇帝。死刑にしろとか俺が言うと思ったのだろうか。
「皇帝、私からも。今しがた、ここにいるヴォルドヴァルドと話が付き、取り敢えずドラフジャクドでの旅の目的は一旦、完了致しました。残念ながら首謀者ヘルドゥーソを取り逃がし、成果は最上、とはいきませんでしたが……しかし、クーデターも程なく収まるでしょう」
「そうか。剣聖、お前が来てくれて本当に良かった」
不意にヒムニヤが口を挟む。
「ヴィハーン皇帝。マッツ達はすぐに出立する訳では無い。積もる話はまた後日。今は少し今後の事で話をしたい。どこでもいいので、部屋を貸してもらえないか?」
ヒムニヤがそう言うと、大きく頷き、近侍になになにの間へ案内せよ、と言っている。
さて、気持ちを切り替えて、次の神の種に!
……と思ったのだが、そうは簡単に行かないらしい。
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