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第4章 聖武具
明星《モロンハーナ》(2)
しおりを挟む「みんな見て! もう島が見えてます!」
クラウスに呼ばれて、皆、ゾロゾロと甲板に出る。
「お、おお! 何アレ!?」
「大きい山ね。煙が立ち上っている所を見ると、きっと火山ね」
アデリナ、リタの言う通り、島の中央に大きな山が見え、噴煙が立ち上っているのが見える。
後で知った話だが、あの山は『イルスカ火山』と呼ばれ、噴火したら古竜の大森林やアスガルドにまで火山灰が飛ぶらしい。スケールのデカい話だ。
船旅は5日間の予定だったが、1日長く、6日間となってしまった。天候などによって、そういう事もままあるんだそうだ。
俺達は全員船酔いもせず、元気に上陸する。
ここが最初の目的の島、リナ諸島エイブル島だ。
船着場付近はあらゆる店が立ち並んでいて、観光客を含めた、人、でごった返している。
「こりゃ活気のいい所だな。皆、はぐれるなよ?」
田舎者の集まりだけに、余所見している間にはぐれて迷子になるのは十分考えられる事だ。
「これからどうするの?」
リディアがそう聞いてくるが、俺もそれを考えていた。
「そうだな……」
どこかの店で英気を養ってからとにかく東に進む、でもいいんだが、まずは何かしら、この辺りの情報が欲しい所だ。そう思って見回していると目に入ってきた『観光案内所』なる看板。
「あそこに入ろう」
ゾロゾロとその看板のある施設に入る。
「いらっしゃいませー。ようこそエイブルへー」
所員さんが何人も並んで座っている。
その中の一人が、こちらにどうぞーと手のひらで案内してくれる。眼鏡をかけた若い女性だ。彼女がいるカウンターにズラッと座る。
「えっと俺達、ランディアから旅行に来たんだけど、まずはこの辺り、エイブルだけじゃなくて諸島全体を含めた情報が欲しくて」
「ランディアですか!? これはまた遠い所からよくぞお越しいただきました。そこからお越しになる方は珍しい……というか少なくとも私は初めて聞きましたね!」
「ハハ……田舎の国だからね……」
この女性所員さんの話では、どうやらこの島に限らず、リナ諸島のほとんどの島が観光で成り立っているとの事だった。
「色んな観光地があるんですが、何より有名なのは温泉ですね」
「温泉……いいね、それ!」
「ええ。わざわざ温泉に入りにアスガルドから来られるお客様も多いのですよ! 特にこのエイブル島の温泉は島の中央にあるイルスカ火山の影響で良質な温泉がいくつも湧いています。絶対に入っていって下さいね!」
宿泊施設はどこも綺麗でサービスの良い所が多いらしい。料金やサービスがあまり変わらない為、温泉付きにするか、宿は施設の良さで決めて温泉は外に出て入るか、好きな食べ物があるか、位で決めても良い、とアドバイスしてもらう。
色んな温泉が地図に書き込まれているのだが、ふと耳慣れない単語に引っかかる。
「ねぇ、『混浴』って何?」
「混浴というのは、男女の区別なく入れる浴場、という事ですね」
何だとッッッ!
そんな楽園がこの世にあるだとッッ!
「あんた、今、心の中でヴォルドヴァルドの真似しなかった?」
リディアがポツリとそんな事を言う。
「まさか……そんな事しないよ? で、お姉さん、もちろん、一般客もいるんだよね?」
「もちろんですね。でも、貸し切りのところもありますよ。例えば、あなた方が貸し切った場合は、あなた方のパーティだけでご入浴頂けますよ」
ほほう……。
合法にそんなシステムがまかり通るとはすごい所だな。世界は広いな。
「へぇ~~~面白そうだねぇ」
アデリナが興味深々で地図を覗き込む。
「そうね。さすがに水着位は着ないとダメだけどね」
「うーん。それはそうだね……」
チッ ……
なるほど、水着か。
さすがリタ、伊達に長く生きていないぞ。
他の一般客もみんな、そうするんだろうな。
だがまあ、どっちにしても、それは二の次だ。
「この島に限らず、観光地や施設は島の東西に集中していて、中腹はほとんど何もありません。もちろん1日で歩ける距離ではありませんので宿は数軒ありますが、山越えなどもあって大変です。観光ならここでされた方がよいですよ」
「なるほどね。取り敢えず東に行くんで、周辺の地図とこの島の地図下さい」
袖机から島の地図を取り出すお姉さん。
その地図をもらい、お礼を言って案内所を出る。
―
「取り敢えず、今日1日は船旅の疲れを癒そう。部屋が空いてる宿を探しながら、次の港の方向、東に向かって歩いて行こうか」
辺りを見回しながらテクテクと東進し、宿を探すのだが、なかなか空いている宿が無い。
道行く人々を何気無しに見ていると、チラホラと金色の綺麗な髪の毛をした人がいる。
さっきのお姉さんに聞いたのだが、金髪というのは、元々はミラー大陸の人種の髪の色らしい。
徐々に諸島への移民で広がっていき、ペレ諸島の方では、もうほぼ全員が金髪だそうだ。
―
「ここ、大部屋1つと小部屋が3つ空いてるそうだ」
10軒目位だろうか。
ようやく泊まれそうな所が見つかった。
「ありがとうヘンリック。ここにしよう」
手早くチェックインして、一旦、大部屋に集まる。
「はぁ~~ようやく落ち着いた~~~」
「疲れたね~~~」
ゴロンと仰向けになった俺の太腿を枕にアデリナが寝転がる。
いかんいかん。
リーダーがこんなだらしない所を見せては……と起き上がるが、アデリナは動こうとしない。やれやれ。
「今日はここで温泉に入って疲れを癒そう。ここは混浴じゃないし、3人ずつ荷物番しながら入るぞ。じゃあ女性陣からどうぞ!」
「わかったわ!」
「じゃあ、お先に失礼するわね、行こうアデリナ」
「あ~ん。もうちょっと寝たかった~~」
などと言いながらも、交代で温泉に行き、食堂で晩飯を頂戴する。
皆、飯を食いながら、口々に温泉の素晴らしさを話していた。正直、俺自身、最高の体験だった。
岩でできた風呂に止めどなく流れてくるお湯、ちょっと熱過ぎる感はあったものの、疲労回復する事この上ない。外の景色が見える露天という風呂らしいが、何度でも入りたい、と思えるものだった。
飯を終えて、再度、大部屋に集まる。
「さぁて、サッパリして腹も満たされた所で……恒例の『進路打ち合わせ』だ。まずここはリナ諸島で最大の島、エイブル。島の中央に大きなイルスカと呼ばれる火山があり、温泉が湧き出る観光島だ。どこの国、という訳ではなく、島単体の自治区らしい」
お姉さんに貰った地図に書いてあった内容だ。
「まあ、そんな事は重要ではない。問題はここからミラー大陸への直行便が無い、という事だ。従って進路としてはエイブル島からニヴラニア島を経由してペレ諸島のマリー島、最後にファンジア島と渡り、そこからミラー大陸へと進む」
「マリー島! そこだ! お母さんのいる島!!」
眠そうにしていたアデリナが急に目を輝かせる。
「おお! そうなんだ。進路にあって良かったな。是非寄ろう……ペザでヒムニヤに聞いた話では、まだ神の種は発現していないそうだ。正確に時期がわからないため、取り敢えず出発してゆるゆる行けば良い、との事だった。なので、今回はそんなに急ぐ旅でも無い、と言っておく」
「おお~~~。じゃあ、おおっぴらに観光しながら旅できる訳ですね!」
クラウスも目を輝かせる。
「う……うん。まあ、そうだな。だが、油断するなよ。ヒムニヤとエルナが抜け、ヘルドゥーソの脅威は去っていない。サイエンも敵か味方かわからないしな」
「だが……俺達の力も大幅に上がったぜ? 全員な」
ヘンリックがボソッと呟く。
まあ、一番伸びたのは間違いなくコイツだからな。早く実戦で試したいんだろう。
「ああ、そうだな。無駄ににビビる必要は無い。ただ、油断だけはしないでくれ」
その後、部屋割りを示し、今日はもう寝る事にする。
今回は女子達に快適に過ごしてもらおうと、大部屋一部屋に男、小部屋に女子達、一人一部屋とした。
この日は皆、旅の疲れと温泉の心地良さから、全員、すぐに深い眠りにつく。
すぐに騒動に巻き込まれようとは思いもせず……
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