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第4章 聖武具
明星《モロンハーナ》(3)
しおりを挟む翌日、宿の従業員さんに、目指す東岸の港までのルートを簡単に地図に示してもらい、朝飯を食べて出発する。
4、5日も火山沿いに歩けば東岸に着くとの事だった。
―
2日目までは特に何もなく、淡々と道を進む。
観光案内所のお姉さんに言われた通り、どんどん過疎化していき、施設らしい施設は何も無い。
その次の日、東進開始後3日目の昼の事。
「しっかし、すげえな、あの火山」
高さはさほどでもないが、なだらかな隆起になっており、とにかくデカい。
「この島自体、あの火山が噴火して出来たと言われてるらしいわ」
火山を見ながら、どこで聞いたのか、リタが教えてくれる。
「そうなの!? じゃあ、俺達は今、火山灰の上を歩いてるって事か??」
思わず、足元の道を確かめる。
「そうみたいね。もっとも、大きく火山が噴火したのは何千年も前の事らしいけど」
「その割には噴煙上がってるな……」
「あれはずっとあんな感じみたいね。小さな噴火はよく起こってるらしいわ」
「へ~~~」
最後にアデリナが感心したように驚きの声を上げる。
「隊長! 誰か、襲われてます!!」
不意にクラウスが叫ぶ。
クラウスが指差す方を見ると、なるほど、商隊らしき一団が野盗らしき一団に襲われている。
商隊と言っても、非常に数が少なく、商人の格好をしているのは5、6人か。
2、3人の護衛が頑張っているようだが、賊は20人ほどいる。時間の問題だろう。
「うーん……仕方ない。助けてやるか」
「どうしたの? 珍しく歯切れが悪いわね」
リタが弓を構えながら怪訝そうに言う。
「いや何となく……気乗りしないんだ。だが、そんな事言ってる場合じゃないな」
抜剣して突撃する。
―
辿り着く頃には商隊の護衛はやられていたが、俺達が加勢した事により、瞬く間に賊を制圧する。
2人の賊を捕らえ、商隊の長らしき人物の前に連れて行く。
鼻の下にカイゼル髭(口髭の左右を上にツンと上げている髭)を蓄えた小太りの男だ。
「よくぞ、助けてくれた。見る限り……旅人だな? そこそこ腕は立つようだ……褒美をはずむゆえ、町まで護衛せよ」
「……え? は?」
何だ、その物言いは。
思っていた反応と全く違う。
勿論、平身低頭、感謝しろとは言わんが、その高圧的な言い方が非常にカンに障る。
「どっちにしても俺達も東に行く。ついでで良けりゃ、護衛してやってもいいぜ」
「ふん。まあ、どうでも良い。褒美が欲しいんだろう? 隊の後ろにくっついておれ」
見下した目つきと態度を隠そうともせず、それだけ言い残し、隊の前に行ってしまった。
「助けたの失敗だったかな?」
そう言いながら、アデリナが伺うように俺の顔を覗く。
「いやぁ……でも、見て見ぬ振りもできねぇしなぁ……あの場合はああするしかなかったと言うか……」
「マッツの勘、大当たりね」
ハァ……とリタもため息をつく。
「すまなかったな。嫌な思いさせて」
「貴方が謝る事じゃないわ」
行き先は同じ、東岸の方向のようだ。
隊列を追い抜くのも何だか角が立つし、ここは少し後ろを歩き、町に近くなったらスッと離れよう、という所で落ち着いた。
―
同日、夕方、小さな町に着く。
目指す東岸まではまだ、1日分の距離がある。
さて、そろそろ隊列から離れよう、と思った時に商隊の1人が俺達を呼びに来てしまった。
どうやらこの町にいる、商業ギルドの管理者に会え、という事だった。
「あー……逃げ損なった。すまん、みんな」
「ま、話だけでも聞いてみましょ?」
そんな訳で、ゾロゾロとギルドの集会所のような所に連れて行かれる。
大きな看板が立てられていて、それに負けないデカさの文字で『ラッドヴィグ商業ギルド』と書いてある。
その看板を見てリタが小首を傾げる。
「ラッドヴィグ……」
「どうしたんだ? リタ」
「んん……何でもないわ」
隊にいた奴とはまた別人の、小太りのオヤジが腰掛けている前に連れ出される。
全員、小太りのギルドなのか、ここは。
「あーお前達が、我が商隊を賊の手から助けてくれた旅人達か。ご苦労、ご苦労」
「どうも。たまたま、通りかかっただけですので、お気になさらず」
「ハッ」
口元だけで笑いながら、何やら机の中から金の塊のようなものを出し、ゴトッと机の上に放り投げる。
「褒美だ。持っていけ」
「……」
「我がラッドヴィグ商隊を助けたんだろ? それだけでも名誉な事じゃないか。更に褒美をくれてやるぞ? 自慢するがいい」
やれやれだ。
諸島は観光案内所に貰った地図にどこの国でもない、と書いてあったな。
なら、ここで揉めてもランディアには迷惑はかからんな……。
「どうした? ひょっとして、もっと欲しかったのか? たかだか一回、用心棒の真似事をしただけで厚かましい。それ、もう一つ、持っていけ」
ゴトッ!
金の塊を更に俺の前に投げ捨てる。
「おい、小太りのおっさん」
「こぶ……は?」
ダンッ
机の上に両手をついて顔を近づける。
「なあ……別に感謝されたい訳じゃねぇんだけどさ……俺達をここまで呼びつけて何がしたいんだ? 助けられたら『ありがとう』だろ? お互い、それで済む話じゃねぇのか?」
明らかにビクつく小太りオヤジ。
「な……なんだ? なんなんだ、お前! 金が欲しくて来たんだろうが! 訳がわからん事を言うな!」
「訳わからんのはお前の方だよ。誰が金なんか出せっつったよ! 旅してる俺たちには、こんな重いもん、邪魔でしかねぇぜ。いるか、そんなもん!!」
バンッ!!
机をもう一度叩いてひと睨み、みんなに『行くぞ』と声をかけて、入ってきた扉から出て行く。
背後でビビりながらも『一体、どこの田舎者だ、金の価値がわからん奴を連れてくるな!』と怒鳴っている声が耳に入る。
全く、胸糞悪い。
「すまん、みんな。無駄働きをさせてしまったな。今日は飲もう!」
「あんな奴もいるよね……気にする事ないよ、マッツ」
こんな時のリディアは凄く優しい。
それだけに、こんな嫌な目に合わせて申し訳ない、と、尚更思ってしまう。
―
「あ~~~畜生! 腹立つ!」
ビールジョッキを机にドンッ!と置きながら、気持ちが抑えきれずに口に出してしまう。
みんなで連れ立って、少し離れた酒場まで来た。
さすがにギルドの近くの酒場で文句を言ってると目立つからだ。
俺達もわざわざ騒動を起こす気は無い。
「うんうん、今日のは腹立つよね~~」
アデリナが相槌を打ってくれる。
「畜生! 小太りギルドめ! なあ! リタ!」
「…………え? あ、そうね!」
「どしたんだ?」
何やらリタが考え込んでいる。
今日、奴らのギルドの建物に入る時もそんな感じだったが。
「う~ん。いや、何となく、聞き覚えがあるのよね、ラッドヴィグ。かなり前にちらっと聞いただけみたいで、思い出せないのよね。それが気持ち悪くて」
ふーん。
物覚えの良いリタでも、そんな事があるんだな。
「いや、実は私も引っかかっています。結構前に聞いた記憶が……この旅の間なのは確かだと思うんですが」
クラウスもか。
そう言われると、俺もそんな気が……
そんな事を考えていると、俺の後ろから何やらタイムリーな話題をヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
『「モロンハーナ」の奴ら、しくじったみたいだぜ』
『そうみたいだな。相手がラッドヴィグじゃ、もう手が出せないだろうな。連れて行かれた娘は、あのクソったれブタ商人の慰み者になるって訳だ』
……ピクッ
何だと?
『今回、騙された娘もかなり器量の良い子らしいぜ、かわいそうに……まったく反吐が出る』
後ろで話している奴の肩を掴む。
「ヒッ! な、なんだ!?」
「すまん。話が聞こえてしまった。今の話は、今日の商隊襲撃の話か?」
いきなり俺に掴まれてビクつきながらも、ジロジロと俺達の様子を伺ってくる。
「いや、俺達はラッドヴィグギルドの者じゃない。見たらわかると思うが、ただの旅人だ。しかし、成り行きでその件に関わってしまったかもしれないんだ。教えてくれ」
男達は互いに目を見やりながら、そうだ、と教えてくれた。
「クソッ! もう一つけったクソ悪い話が乗っかっちまった!」
両目を手で覆う。罪悪感が更にのしかかる。
「どうする?」
それまで興味無さげだったヘンリックが、初めて身を乗り出す。
「うーん……お兄さん、さっき言ってた『モロンハーナ』ってのは、何だ?」
「この辺じゃ有名な盗賊団だ。大体、リナ諸島、ペレ諸島で活動しているな」
後ろの男が素直に教えてくれる。
「何故、盗賊団が人助けを?」
「闇ギルドからの依頼だと聞いたよ。ラッドヴィグに騙されて女を連れていかれた男と親父が闇ギルドに泣きつき、『モロンハーナ』に話が行ったらしいな」
「他の小さい組織じゃラッドヴィグに手は出せねぇだろうしな」
なるほど……。
筋は通っている。
「よし、『モロンハーナ』のアジトに行こう。ボスと話をしなくちゃならん。お兄さん、場所知ってる?」
ブルブルと首を振る男達。
まあ、盗賊団が、そこらの一般人にアジトを知られてちゃダメだろうが。
「私、わかるわ」
「え!?」
リディアだ。どうして……?
あ、ひょっとして……
「念の為に襲撃で捕らえた2人を『読心』しておいたの。だから『モロンハーナ』とわかってたし、逃げていった奴に『追跡』もかけておいたから、アジトもバッチリよ。そんな裏の事情まではわからなかったけど」
「よくやったリディア! よし、みんな、行くぞ!」
―
既に夜だが構わず酒場を後にし、その足でリディアのナビに従い、アジトに向かう。
少し山あいに入った、木々が茂る中に洞窟が見えた。見張りがいる。
「あそこね」
リディアが断言する。
「どうやって入ります?」
「いや、真正面から行こう。話し合いだ」
クラウスにそう返し、見張りの方へ歩く。
早速見つかり、武器を構えられるが、気にしない。
「誰だ!!」
「今日、ラッドヴィグ商隊を襲ったのはお前達だな?」
努めて、落ち着いて、冷静に話す。
「む! ラッドヴィグの手の者か!!」
「もしそうだったら、話しかけはしないだろうな。……俺達は旅の者だが、事情を知らなかったため、今日、商隊を手助けしてしまった。それについてボスと話をしたい。取り次いでくれ」
こちらに武器を向けたまま、何やらボソボソと相談している2人。
もう少しハッキリと言ってやるか。
「今日、20人位の襲撃隊が失敗したのは知ってるだろ? その相手は俺達、たったの6人だ。お前達2人じゃかかってきても無駄だし、もし俺達が敵ならこんな呑気にお喋りせず、さっさと攻め込んでるぜ」
1人が驚いて、中に走っていく。
大勢、味方を連れて来なければいいが……。
だが、それは杞憂に終わった。
しばらくして……
「頭がお会いになる。ついて来い」
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