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第4章 聖武具
明星《モロンハーナ》(4)
しおりを挟む洞窟の中へと連れて行かれた俺達は、そこで『モロンハーナ』の頭、と言われる、まだ二十歳そこそこの若くて美しい女性と出会う。
皮のベストと引き締まったズボン、ブーツ、と焦げ茶で揃え、中に白のシャツを着込んだ、金髪、碧眼の女性が、屈強な男達に囲まれて、腰に手をあて姿勢良く立っている。
無造作にポニーテールに髪を束ね、そのせいか、キッと目が釣り上がり、若さの割に美人顔だ。
「あんた達が、私達の邪魔をしてくれたっていう旅人さん達かい? 私に話があるとか?」
洞窟の中に響く、凛とした声。
なるほど、数十名の集団を束ねる女首領か。
「ああ。俺達はランディア王国の兵士で、とある目的で世界中を旅している。今日、たまたま通りがかった所で商隊が襲われている所に出くわして助けたんだ。だが、噂を聞く限り、どうやら俺達は早まった事をしてしまったようだ」
彼女は整った顔立ちをピクリとも動かさず、俺の言う事を聞いてくれている。
「……それで?」
「あんた達がまだ諦めていないなら……騙されて連れ去られたとかいうお嬢さんの救出を手助けさせて欲しい」
そこで初めて驚いた表情を見せる。
「こりゃ驚いた……一体、何の為に? 払う金なんか無いよ?」
「金なんていらん。ただ、事情を聞いてしまった以上、放っておけない。俺達も目覚めが悪いしな」
「ハ……ハッハッハ! こりゃあ……迂闊に信じられない話だね!! ……ま、どっちにしても、もう奪い返すのは無理さ。この任務は失敗だ。破格のミッションだったから惜しいけどね……」
そう言って、彼女は少し寂しそうな顔をし、目を伏せる。
「無理? やってもないのに、無理って何なんだ?」
「……あんた達、名前は?」
「ああ、これは失礼。俺はこのパーティのリーダーで、マッツ・オーウェン。で、隣から順に……」
「マッツ・オーウェンだと!!」
突然の大声は目の前の彼女ではない。
居並ぶ賊達の後ろからヌッと出てきた金髪、碧眼、長身の男が言う。
眉毛が無く、目が細い。
あれ??
どこかで見たことがあるぞ……。
「あんた……こんなとこまで来たのか……」
うーむ。相手は明らかに俺を知っているが……。
「何だ、覚えてないのか。まあ、そりゃそうだな。あれから一年近く経っているし、ビルマークだけでなく、暗黒大陸でも大活躍だったらしいからな」
少し残念そうに言う長身の男。
「俺だ。カイ・ブリングマン。ビルマーク手前の宿であんた達に取っ捕まったガルマニアの盗賊」
「…………!! あ―――!!!」
思い出した。
ビルマーク王女バルバラを誘拐していた賊の1人だ。
「お前!! 『賊C』じゃねぇか!!」
―
5年ほどの懲役だったと思ったが、どうやらビルマーク第1王子マルクスに初めての子が出来たとかで、恩赦が出たらしい。
ビルマークのバリアの改善に寄与した事と、懲役も真面目だったコイツは半年弱で解放されたとの事だった。
無論、任務に失敗した為、ガルマニアの組織には戻れず、故郷のここへ帰ってきた所を、この組織、『モロンハーナ』にスカウトされた、と。そういった経緯らしい。
そして、カイの登場でグッと話がし易くなる。
何も言わなくてもコイツが勝手に俺達の腕やビルマークでやった事を伝えるからだ。色々、勘ぐっていた部分も薄れたらしい。
おまけに、『剣聖』の名が異様に売れている事に気付く。しかし、売れ方が何やらおかしい。
皆、おおっと驚き、あの竜軍団を全滅させた……とか、『ケルベロス』を片手でぶち殺した……とか、パーティの女はみんな剣聖の女で、ドラフジャクドの主だった女もみんな剣聖の手が付いているらしいぞ……など、好き勝手な事を言っていた。
女首領は名をユリアといった。
俺達も全員、名を名乗り、打ち解けた所で洞窟の奥に作ってある部屋に場所を移した。
盗賊団との事だが、ここには性根の悪そうな奴は見当たらない。どちらかといえば、若さを持て余し、理想に燃えた集団、といった印象を受ける。
「そもそも、どういった経緯の話なのか、一度ちゃんと聞かせてくれないか?」
こいつらが正しそうだ、というのはわかるのだが、もう少し詳しい話を聞いておきたい。
「そうだね」
そう言ってため息を交えながらユリアが話し始めた。
攫われた女性はマルガレータというそうだが、彼女の身の上に起こったラッドヴィグのクソッタレな手口を、ここで聞く。
そもそも嵌められたのはマルガレータの交際相手、エイブル島の地主の息子、ベンノだ。彼は東西を最短でつなぐ新たな道の建設と、中腹部の施設整備を計画していた。
これがリナ諸島の大商人ラッドヴィグの耳に入る。ベンノの元に出向き、自分が出資してやるから、ラッドヴィグの名で施工するように要求する。無論、利益はラッドヴィグに入る算段だ。
当然、ベンノはこれを突っぱねた。この時、マルガレータも同席。
そして、わずか数ヶ月後、ベンノは破産状態に追い込まれていた。
施工業者に金は払えど、何も完成せず、ミラー大陸から輸入する資材も何一つ来ず、おまけに代々、受け継いできた自分の土地の所有者がいつの間にかラッドヴィグに変わっており、商業ギルド立ち会いのもと、莫大な賠償金を請求される。
一方、マルガレータ。彼女はラッドヴィグから、その身を自分に差し出すなら、ベンノは助けてやる、と言われており1人で悩んでいたらしい。しかし完全に落ち込み、一気に老けていくベンノを見てこの数日で決心、自ら、近くのラッドヴィグの手の者の所へ出向き、今日、あの場所を通っていた、という訳だ。
ようやく全てがラッドヴィグの仕業と判明したのだが、証明するものがなく、マルガレータ宛の手紙もそんなものは知らん、と言われる。訴え先の商業ギルドはもちろん、ラッドヴィグの意のままだ。
更に、マルガレータの決心も虚しく、彼女が居なくなった後すぐにベンノの家は強制的に全ての換金可能なものを徴収され、闇ギルドに隠し持った手持ちの金を手に、泣きついたという次第らしい。
……
「ハッハッハ。いやいやいやいや……屑もいるもんだな……よし、任せろ、ユリア。俺が暴力でカタをつけてやる」
ほんとなら同じ手口で社会的にやり返してやりたい所だが、急がないとマルガレータの身が危ない。そんな長期戦をしかけている時間はないし、ハンスと違ってそもそも俺にそんな才は無い。
万が一にも失敗しないように、情報はしっかり得ておかなければならない。
「さて、話を戻そう。『奪い返すのは無理』ってのはどういう意味だ?」
「いや、お前があの『剣聖』だと言うなら、無理ではないのかもしれない。ただ、命がけなのは確かだ」
俺の目を見据え、厳しい表情で言うユリア。
「具体的に教えてくれるか?」
「ラッドヴィグの根城はここではなく、隣のニヴラニア島にある。ここには『古代迷宮』があり、ラッドヴィグはこの地下一階を改装し、使っている」
「何だってぇ~~~!!」
迷宮なんてのは、モンスターの住処だろ?
そこを商人が根城って、一体、どういう事なんだ??
「一説では古代迷宮は、諸島の他の小島にもつながっている、との噂だが……とにかくラッドヴィグはそこに2、3年前から住み着き、常に護衛を近くに置いている。古代迷宮地下一階のモンスター如きでは太刀打ちできない奴らだ」
「ゴクッ……」
「ボディガードとしてラッドヴィグの近くにいつもいるのは、破壊者ボルイェ、焔剣士ケネト、魔騎士サミュエル、半獣戦士ゴトフリート、巨人フロスト、と言われている」
「……」
ひぃええぇぇぇ……
半分知らんが、ボルイェとケネトは知っているぞ。
ケネトはビルマークで戦った奴、そしてボルイェはコンスタンティンの次に超人に近い、とヒムニヤが言っていた奴だ。
残りの3人も名前だけで強そうだ。
ケネトやボルイェと一緒にいるんなら、間違いなく手強い奴らだろう。
「私達では奴ら1人にも敵わない。私達にはボディーガードがいないあのタイミングでしか無理だったんだ。奪い返すのは無理と言ったのはそういう意味だ」
「いや~~~……そりゃタフなメンツだな……ハハ……」
「どうだ? 自信はあるか?」
不安気に顔を覗き込んでくるユリア。
「俺達だけで……やらせて貰っていいか?」
「は? どういう事だ?」
「俺達を守る余裕が無いって事です、頭」
カイが口を挟む。
それにユリアが確かに、と頷く。
「だが相手は古代迷宮だ。俺と頭だけは連れて行って貰えないか? 深く潜るわけじゃないから、さほどの仕掛けはないと思うが、きっと役に立つと思うぜ。それに頭は、この盗賊団の中では最も腕が立つしな」
シモンの魔法バリアを軽く破いたカイだ。
なるほど、そういうシーンも確かにあるかもしれないな。
「わかった、カイ。ユリアとお前について行って貰う事にしよう」
そして、リディア達、パーティの仲間達に向き直る。
「俺の判断ミスで、大変な事になってしまってすまない。俺たちの目的からは外れてしまうが、みんなの力を貸して欲しい」
「俺は全然平気だぜ。ずっと旅だけ続けてたら腕がなまっちまうからな」
ヘンリックが真っ先に賛成してくれる。
「あまり気にする事ないわよマッツ」
何故か、リタが晴れやかな顔をしている。
「え?」
「ふふふ。やっと! 思い出したわ、『ラッドヴィグ』。カイ、あんたを見たおかげでね……」
「え? 俺?」
不意に名前を呼ばれたカイがキョトンとする。
「ビルマークで暗殺者達を倒した後、シモンに聞いたわ。王女バルバラの誘拐、王子達の殺害、国の乗っ取り、その指示をしたのがラッドヴィグ。ケネトもルーペルトも彼の手先よ」
お、おお?
……おお!
そうだ。確かにそんな事を言っていた。
「そうか、じゃあ、この一戦はあの戦いの続き、だな?」
「そういう事ね! 決着をつけましょう」
ありがとう、リタ!
そう言われると今回、モロンハーナに手助けする事にも意味が出てくる。
まるで、元々、俺達の戦いであったみたいに。
「クックック。ルーペルト以上の奴はいるんだろうな……」
おい、ヘンリック。
お前、今、めっちゃ悪い顔してるぞ。
頼りにしてるがな。
「ボルイェを蹴落として、コンスタンティンさんの次点は師匠にしてみせるわ……ふふふふふ」
こらこら、リディアまで。
「私の出番はあるんですかね……」
「遠くから当ててやればいいんだよ! クラウス」
クラウスにそう言って、弦をビロ~ンと鳴らすアデリナ。
「よし、護衛をやった後、じっくり……ラッドヴィグをボコボコにしてやる」
俺が一番悪い顔をしていたかもしれない。指を鳴らし、怒りを闘争心に変える。
「この近くにある港はラッドヴィグ専用で使えない。もう少し先にある港から出よう。急がなければマルガレータは、奴の変態趣味で無茶苦茶にされてしまうだろう」
ユリアが少し焦った感じでそう言うので、いつもならその夜は寝てから次の日、といった行動を取るのだが、急遽、このまま馬で夜駆けし、朝の便に乗る事に決まった。
どうせ船で1日かかるのだから、そこで寝よう、となったのだ。
そして、そんな俺達を見ている奴がいる。
またか……?
だが、ドラフジャクドの時のような、嫌な感じはしない。
むしろ、この温かい視線はヒムニヤに近い……。
だが、ヒムニヤはそんな事はしない。そんな事をする位なら、一緒に来ている筈だ。
一体、誰だろうか……。
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