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第4章 聖武具
vs ラッドヴィグ軍団(6)
しおりを挟むクラウスを先頭に、ユリア、カイ、そしてアデリナと隊列を組んで洞窟を進む。
洞窟といっても左右には煌々と灯りがともり、床は平らに舗装された上、赤い絨毯が敷き詰められ、入念に掃除が行き届いている。
ほんの1分もかからず、光が漏れる部屋が見えた。
そして中から2人の声が耳に入ってきた。
ひとつは若い女性の叫び声。もうひとつは非常に耳障りのする甲高い声。
「あ……やっぱり、いや! ベンノ! 誰か! 助けて!」
「今更、何を言っとるか。自分の意思で来たんだろ? 助けを呼んでもこんな所には誰も来れんさ。さぁ、もう抵抗するでない。ヒッヒ……」
何という分かり易い会話か。
「ラッドヴィグ!!!」
ユリアの怒号!
4人は勢いよく、声のする部屋に駆け込む!
ここは洞窟内。
しかし、そこは『部屋』といって差し支えのない場所だった。高い天井に、何十人が住むのかという広さ、壁までがしっかりと作られ、塗装までされている。
その広い部屋の真ん中にキングサイズのベッド、そしてその上に女性1人、そしてその女性の上に跨る、体重150キロ以上はあろうかという横にデカい男。
全員の予想通り、女がマルガレータ、男がラッドヴィグだ。
「「ぶっ殺す!」」
ユリアとアデリナが同時に叫ぶ!
ユリアは猛ダッシュでベッドに飛びかかる。そして、それよりも早く、アデリナの一矢!
ドスッッ!
「あひゃ! いったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
見事にラッドヴィグのバカでかい右尻に突き刺さる。それでもかなり手加減したらしく、貫通まではしていない。
ラッドヴィグが死なないように、というよりもマルガレータに刺さらないように、というアデリナの配慮だ。
そして痛みで仰け反ったラッドヴィグの顎に、ユリアの鉄拳がカチ上げるようにヒットする!
バキィ!
「あがっっ!」
ドスンッッ!
仰け反ったタイミング、ユリアのアッパー、自重、全てが上手く重なり、ベッドから落ち、後頭部を打つラッドヴィグ。
「ぐっは……」
さすがに失神したようだ。
白目を剥くラッドヴィグ。
「マルガレータ!!」
「ユ……ユリア!!」
抱き合う2人。マルガレータは衣服がはだけ、破かれ、相当怖かったのだろう、ユリアの胸で思いっきり、泣きじゃくる。
しばらくは姉妹の無事の再会を邪魔しないでおこう、とクラウス、アデリナはラッドヴィグに近寄る。カイはこの部屋に興味があるのか、壁やテーブルなどを捜索し始めた。
「こいつ、どうしてやろうか。クラウス」
憤懣やるかたない表情でアデリナがラッドヴィグの気絶した顔を覗き込む。
「さて……隊長が『ボコボコにしてやる』って言ってたからね。取り敢えず、動けないように縛っておこう」
そう言ってクラウスが粘水輪をラッドヴィグにかけ始めた、その時!!
ラッドヴィグの全身から闇のオーラが噴出する!
「!! これはッ!」
目を見開くクラウス。
すぐにアデリナとユリア、マルガレータを自分の後ろに庇い、ラッドヴィグから距離を取る。
「カイ! 私の後ろに、急いで!!」
「何だ、ありゃ……」
危険を察知し、すぐに飛んでくるカイ。
まさに想定外。
「まさかこの男にまで、あの超人の手が及んでいるというのか」
「あの超人って、まさか……」
「間違いない。この気配は《滅導師》ヘルドゥーソだ」
闇の気配が部屋に充満する。
……
(やれやれ……この男にまで辿り着いたのか……)
(マッツ・オーウェンは……いないようだな)
半年前のヴォルドヴァルド戦の後に見た顔が宙に浮かぶ。
「キャアッッ!!」
「ヒッ……」
マルガレータとユリアの悲鳴。
さすがにユリアは盗賊の首領、小さく驚くに止める。
「お前、こんな奴にまで取り憑いて……一体、何を企んでいるんだ?」
ジリジリと後退りながら、クラウスがヘルドゥーソに問い掛ける。
(フフ……こいつ自体はどうしようもない小者だが……権力を持つ者は色々と使い道がある)
(例えば、ビルマークを乗っ取れ、と命じるだけで勝手に色々とやってくれたりな……ククク)
(もっとも、全てお前達が邪魔してくれたようだが……)
(さて、マッツ・オーウェンもいない事だし……そろそろ死ぬかね)
部屋の真ん中にポカンと浮かぶヘルドゥーソの顔には薄ら笑いが浮かび、クラウス達など、歯牙にもかけないといった態度を隠さない。
「それは無理だよ、ヘルドゥーソ。思念体のお前が私達を倒す事など出来はしない」
挑発とも取れる言葉を発するクラウス。
アデリナが、こんなクラウスは見た事が無い、と思った程だ。
(舐めるな!)
恐ろしく怒りの篭った言葉が部屋に響くと共に、ラッドヴィグが起き上がり、巨体に似合わぬスピードでクラウスに襲いかかる。
だが……
クラウスが左手を目の前にかざすと、ラッドヴィグの動きがピタリと止まり、
ドォォォォォォォォン!!
ラッドヴィグは大砲の弾でも受け止めたかのように、高速で後ろに吹っ飛んで行く!
(……ほう?)
ヘルドゥーソの口元が上がる。
(では、これならどうだ?)
クラウス達の頭の上に黒い煙のような靄が現れ、ゆっくりと下りてくる。
「これは……『闇の波動』が実体化した靄だな? 干渉して傀儡にするつもりだろうけど……無駄だってば」
そう言うと、掌を頭上の靄に向け、
「『光震』」
そうクラウスが詠唱すると、靄が一瞬で消える。ケルベロスを正気に戻した『光の波動』だ。
(何と。たかがツィ系の一魔術師が、この領域まで来たか……)
(チッ……ヒムニヤの教えか? ……面倒な事だ)
(きっとあの男、マッツ・オーウェンも強くなっているのだろうな)
(お前達が苦難を乗り越え、私の元に来るのを待っているぞ……)
(……では後は『お前』に任せ、私は消えるとしようか)
「何!?」
ヘルドゥーソの顔が薄れゆくと共に、いつの間にそこにいたのか、部屋の入口に巨大な何かの姿が見えてくる。
「ちっ。えらく饒舌だと思ったよ……」
「あれが、巨人フロストかぁ。思ってたより、巨人じゃないね」
ようやく、全身がはっきりと見える。
身の丈はここの天井に届きそうだ。4メートル弱位だろうか。
氷のゴーレム。
そして、通常のゴーレムと違うのは、どうやら知性があるらしい、と言う事だった。
「オヤ……ラッドヴィグ……オソカッタカ」
カタコトでそんな事を喋り出す。
「喋ってるよ、クラウス」
「ほんとだね。……しかし地上にいた森の番人といい、珍しいゴーレムを飼っているなぁ」
クラウスとアデリナの呑気な会話を聞いて、ようやくユリアが言葉を発する。
今の今まで、連続して襲いかかる恐怖に声も出なかったのだ。
「あんた達……怖くないのかい?」
アデリナが振り返り、ニコッと笑顔を作る。
「怖いけど……こんな旅も、楽しいよ!」
驚いた顔でアデリナを見返す。
が、フフッと笑い、首を振る。
「そうかい。そりゃ頼もしいね」
ギギ……
ゴーレムの両腕が胸の位置まで上がる。
上がったと同時に、腕の前方に巨大な氷塊が発生する。
「『氷槍』」
「え? 魔法を撃つのか?」
ゴーレムだけに、てっきり殴る蹴るがくるのかと思っていたクラウスが素っ頓狂な声を上げる。が、すぐさま、それに対応する。
「『絶対魔法防御』」
バッシュゥゥゥゥゥゥッッ!!
数メートルはあろうかという魔法の氷槍がフロストから発射される。
しかし、それはクラウスの虹色のバリアに全て弾かれ、粉々になり、そして霧散した。
「ギ……?」
フロストが小首を傾げる。
それを見て、何故か、はしゃぐアデリナ。
「あのゴーレム、ちょっと可愛くない? 倒すの、勿体無いなぁ……」
「何言ってるんだよ……私はバリアを張っている間は攻撃できないんだ。頼むよ、アデリナ」
「え―――可愛いのになぁ」
言いながら、弓を構え、即座に射る!
バシュンッッ!
バシュンッッ!!
「『氷の盾』」
フロストがそう唱えると、氷の壁が発生し、アデリナの矢を防ぐ。
ガッッッ! バキバキッッ!! ドスドスッッ!!!
しかしアデリナの矢は、その分厚い壁を難なく粉砕、フロストの脳天と胸の位置に突き刺さる!!
……だがよく見ると、矢は体に突き刺さると同時に凍らされたようだ。
「ギギギ」
何やら喜んでいるフロスト。
どうやら、今の防御を自慢しているように見える。
アデリナの目がハートの形になったようだ。
「あ~~~ん! イヤ~~~!! 可愛すぎるぅぅ」
ユリアとマルガレータは、目をパチクリさせながら、顔を見合わせた。
少なくとも『巨人フロスト』と言えば、ユリア達には畏怖の対象でしか無かったのだ。
それを『可愛い』などと表現する者が現れようとは……
「奴の魔術はツィ系統なんだな……体そのものにも魔法の防護がかかっているようだ。……アデリナ、いけそうかい?」
「う~ん。むしろ、可愛すぎて無理! ……と言いたいとこだけど、大丈夫だよ、多分。次で決めるね!」
そうして、普段、彼女が射る木製の矢とは全く違う、異質な矢を取り出す。
鉄製とも銅製とも見えるグレーに光るシャフト(矢の棒の部分)、矢の先端部は黒鉄色でやんわりとオーラが滲んで見える。
「それは? 見た事ない矢だね……かなりの魔力を感じる」
不思議に思ったクラウスの問い掛けに、弦を引きながら、
「これはヴォルドヴァルドお手製の……魔法バリア無効……竜の鱗の矢だよ!!」
最後の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで弦を離す!
バッッッシュゥゥゥゥゥゥ!!!
凄まじい勢いでフロストの脳天に突き刺さる!!
「ギギギ……アガッ!! ギギ……」
頭を押さえ、矢を抜こうとする。
ドズン!
……が、矢は抜けず、呆気なく膝をつく巨人フロスト。
そして……
ドシ―――――――――ン!!!
轟音と共に、うつ伏せに倒れ込むフロスト。
パチンッッ!
アデリナとハイタッチするクラウス。
「す……すごい……」
ユリアが呆然とそれらの光景を見て呟く。
「さて……あの豚野郎、どうしてくれようか……」
再び、眉間にシワを寄せるアデリナだった。
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