神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第4章 聖武具

vs ラッドヴィグ軍団(7)

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「元気だったかい?」

 コンスタンティンが人懐こい笑顔で声をかけてくる。

「ああ。色々あったけどな。そっちはどうなんだ?」

 笑顔でそう答えると、横からエッカルトがしゃしゃり出てくる。

「大バカ者。誰と誰が旅していると思っているんだ? 今もこの古代迷宮を軽くクリアして帰る所だ」
「軽く……って、君、危なかったじゃないか」
「いや、先生! そこは空気を読んで頂いてですね……」

 プッ。

 あのエッカルトがえらく楽しそうじゃないか。
 あいつの心をここまで溶かすとは……やるな、コンスタンティン。

 積もる話はあるが、しかし、今はそんな場合ではない。

「すまんが少し急いでいる。後で落ち着いてちゃんと話がしたい。急いでなければ、一緒に来てくれないか」
「いいとも。僕達の旅は急がないし、僕も君とゆっくり話したい」
「助かる。付いてきてくれ」

 そう言って道なりの通路をひた走る。
 走りながら、事の経緯を簡単にコンスタンティンに説明、そいつはひどい奴がいるものだ! と、何故かエッカルトが憤慨。お前が言うな、と俺に怒られる。

「まあまあ、マッツ。そう言わないでやってくれ。エッカルトは心を入れ替えたんだ」
「なんだか、そんな感じだな。あ! きっとあそこだ!」

 扉を開くと、急に整備された通路になり、道幅も広い。きっと、ラッドヴィグが快適に過ごせるように、との設計だろう。

 しばらく進むと中から光が漏れる部屋があり、水色のゴーレムらしき足が部屋の外にはみ出している。

「よかった。クラウス達はうまくやったようだ」

 それを見てようやく一安心、走るのをやめ、歩いて部屋に辿り着く。

「あ、隊長! お疲れ様でした。無事、マルガレータは救出しましたよ」

 中を覗いた俺たちにクラウスが気付き、声をかけてきた。

 クラウス、アデリナ、ユリア、カイ……全員いる。
 そして1人、知らない女の子が増えている。
 あれがマルガレータだな。

 ゴーレムが倒れていて、眉間にヴォルドヴァルドがアデリナに作ってやっていた矢が突き刺さっている。

 これが巨人フロスト。
 だとすれば、壁際で倒れている、あの巨漢は……。

 あいつがラッドヴィグ!

 毛が逆立つ。が、まずは仲間の無事を確認する。

「よくやってくれた、クラウス、アデリナ。変わった事は無かったか?」
「あったあった、あったよ!」

 アデリナが騒ぐが、何があったのかさっぱりわからん。だが、すぐにクラウスがフォローしてくれるだろう。

「ヘルドゥーソが……また出ました」
「えッ??」

 それは全く想定していなかった名前だった。
 こんな奴にまで、ヘルドゥーソの手が及んでいると??

「ラッドヴィグに闇の波動をしかけ、干渉していたようです」
「驚いた……ヘルドゥーソだって……? 君達、関わりがあるのかい?」

 コンスタンティンが驚きを隠さずに口を挟む。

「ああ。ちょっとな……いや、かなり、かな。その話もまた、後でゆっくりしよう」

 クラウスに向かい直し、

「何か言ってたか?」
「えっと……こいつ自体はどうしようもない小者だが、権力を持つ者は使い道がある、と。ビルマークの襲撃の件はヘルドゥーソの指示だったようですね」
「何だって? ……ああ、成る程なぁ。初めてヘルドゥーソに会った時に言ってたよ。俺達が奴の計画をいくつか潰したってな。そん時は何の事かわからなかったが、そういう事だったか」

 そこで、あることに気付く。

「まさか、マルガレータの件も奴が噛んでいるのか?」

 しかし、首を振るクラウス。

「それはわかりません」


 うーむ。
 気絶しているラッドヴィグの姿にもう一度、目を移す。
 何やら、表情がおかしい、と思い、反対側を向いていた顔を覗き込む。

 ……

 まぶたに目が書かれ、右頬に『エロデブ』、反対側に『生きててごめんなさい』と書いてある。

 鼻の下にはくるくる巻いている鼻毛が書いてあり、顎に『お金命』。


 誰だ、これ書いたの……

 そう思い振り返ると、アデリナがサッと目をそらす。


 ……まあ、そうだろうな。
 クラウスはこんな事、絶対にしないしな。

「アデリナ」

 ビクッとするアデリナ。

「……」
「これ書いたの、お前だろ」
「さ、さあ?」
「……」
「……」
「……」
「だって! そうでもしないと腹の虫がおさまらないんだもん! 私達が来るの、後ちょっと遅かったら、ほんとにマルガレータ、ヤバかったんだから!」

 言われてマルガレータの様子を見ると、確かにそんな感じを窺わせる。

 泣いた為か目が腫れており、着衣は乱れ、ほぼ裸に近い。カイにレザージャケットを羽織らせてもらっている。

「そうか」
「ほんとにもう、どうしてやろうかと思ったんだけど……マッツが『ボコボコにしてやる』って言ってたから、我慢したんだよ!」

 小さな体を震わせて怒っている。
 まあ、現場を目撃したんだから、そうだろうな。

「気を遣わせたみたいで悪かったな、アデリナ」

 頬を膨らませて怒りを表現している。
 無論、俺にではなく、ラッドヴィグへの怒りが収まらないんだ。


 さて、アデリナじゃないが……どうしてくれようか。

 今すぐボコってやりたい所だが、もし、こいつの意思でなく、ヘルドゥーソに操られていた為であったら……

「クラウス、今、こいつの闇の波動は?」
「ありません。消しておきました」
「……よし。じゃあ、まずは起こすか。リディア、『読心』を頼む」
「わかったわ」

 ラッドヴィグの顔に近寄り、思いっきり振りかぶって、躊躇なく腕を振り下ろす!!


 バッッッッッチィィィィィィィィィィィィン!!


「アウッッッ!! いっったぁぁぁぁ!!」

 ビンタ1発で起きやがった。いや、まだちゃんと起きていないかもしれん。念には念を入れないと。

 バッチィィィィン! バッチィィィン!
 バチバチバチバチバチバチッ! バッカァァン!!

「ふぁ……な……だ……ぶ!」

 真っ赤に腫れ上がった頰をしたラッドヴィグが辺りを見回し、俺たちの顔を見る。

 そして後ろにいるマルガレータを見て、改めて俺たちの怒りの表情に気付いたようだ。

 みるみる血の気が引いていく。

「青ざめたな? 自分のやった事は分かっているな?」
「ヒッ!! だ、誰か! ……ボルイェ! フロスト!!」

 うむ。

 マルガレータの件、九分九厘、ヘルドゥーソは無関係と見た。だが、念の為……。

「どうだ? リディア」
「全て、そいつがマルガレータさん欲しさにやった事よ。……何て気持ち悪い思考なの! 気分悪くなってきたわ」
「そうか、つまらんもの読ませて悪かったな」

 リディアからラッドヴィグに視線を戻した瞬間、ゲンコツを頭頂部に落としてやる。

 ゴツン!!

「うあ!! いったぁぁぁ……な、なにするん……」

 改めて目の前のラッドヴィグを見下ろす。

 両手の指をパキパキと鳴らす。
 汗が噴き出すラッドヴィグ。

「な、何をする気だ……儂に手を出して、タダで済むと思っているのか! ボ、ボルイェ!! ケネト!!!」

 むんず! と左腕で胸ぐらを掴む。

「よくわかっていないようだから、はっきり言ってやろう。上には上がいる事をその欲に塗れた頭でよく理解しろ? お前の護衛は全員、俺達がブチのめした。勿論、ボルイェもだ」

 きっとボルイェはコンスタンティンが手助けしてくれたのだろうが……そんな事は些細な事だ。

「ひぇ? バ、バカな……あいつを倒せる者など……」
「いるんだよ、ここにな」
「バ……」

 しかし、部屋の入口でぶっ倒れている巨人フロストが目に入ったのだろう、そこで口をつぐみ、怯える目で俺を見る。

「さて……今、お前を見過ごすと、きっとまた同じ事を繰り返すよなぁ? このまま首を捻って再起不能にしてやってもいいが……」
「ヒィィィィィィィ!! いや、それだけは……許せ! あ、いや、許してくれ!」

 パァァァァァァァァァァァンッッ!

「あぶッ」
「いや、許せないな」

 即座にそう答え、ビンタをひとつ。

「お前のした事は許せない。下手すりゃ、マルガレータやその交際相手の男、その家族など……死人が出ていてもおかしくなかったんだ」
「くッ……お前、お前は……一体、誰なんだ? 関係ないだろう!?」

 そこで1つ、ひどく悪い顔をしてニヤリと笑ってやる。小さく、ヒッと悲鳴をあげるラッドヴィグ。

「関係、大有りさ。お前のお陰で、ビルマークではエライ目にあったんだぜ?」

 そう言うと明らかにラッドヴィグの顔色が変わる。

「ビルマーク……お前……もしかして、ランディアの……マッツ・オーウェンか?」
「ああ、そうさ」

 見るからに焦り出すラッドヴィグ。両手を振り、

「や……ち、違う! あれは違うんだ! 儂の意思ではないんだ! 儂があんな金にならん事をする訳がない!」

 必死で無実を訴える。

「……ふん。まあ、いいさ。今はビルマークの事で怒っているわけではない。マルガレータの一件だ。お前、こう言う事するの初めてじゃないだろ? 手口が手慣れてるし、悪ど過ぎるぜ」

 目の前の男は、ふるふると怯えながら首を振るが、

「今まで数え切れない位、やってるみたいだね」

 コンスタンティンが口を挟む。

「ヒィ……な、何を、根拠の無い……」
「根拠はお前の頭だよ。『読心』って魔法、知らないのか? リディアがお前の頭覗くのが気持ち悪いってんで、あいつが代わりに見てくれてるんだ」

 更に蒼白になるラッドヴィグ。
 もはや、真っ白だ。

「取り敢えず、罪滅ぼしのって事でさ……百発ほど……食らっとけよ」

 胸ぐらを掴む左腕に力を込めると苦しそうにしているが、関係ない。
 握り拳をに力を込める。

「ヒィィッ! た、たすけ……」
「ダメだ」

 ズガンッ!

「あ……ぶ……や、やめ……」
「無理だ」

 バシンッ!

「ふぁん! ゆる、ゆるし……」
「有り得んな」

 パカッ!

「お前、今まで人を許してやったことあるのか? しかもそもそも相手は悪くないんだろ? 全部お前が仕組んでんだろうが」
「あひっ! いや! そんな事……」
「あるってさ」

 コンスタンティンがラッドヴィグに喋らせない。

「ほれみろ」
「ヒ―――――――――ッ」

 不意に、ずっと黙っていたリタが会話に加わる。

「ねぇ。こいつへの罰なら……きっと暴力より効くのがあるわ」

 左腕をラッドヴィグから離し、立ち上がってリタの方を振り返ると、腕を組んで少し笑っている。

「こいつ自身に人望はないでしょう? きっと、全てはお金を持っているのが悪いのよ。お金がなければもう悪い事も出来ないわ」
「そりゃそうだな……うん。再発防止策にもなりそうだ。ユリア、マルガレータ、それでいいかな?」

 すぐには頷かないユリア。マルガレータはユリアの後ろで決断を任せたように佇んでいる。

「そうだな。後は……諸島から追い出してやりたいが」
「よし、じゃあそうしよう」
「ヒィィィッッ! 勝手に決めないでくれ!!」
「大丈夫だ……最終的に、生きるか死ぬかはお前に決めさせてやる」

 いや、待ってくれ、と何か言っているが、無視だ。
 今までこいつに嵌められてきた奴等も、同じように、待ってくれ、と言っていた筈だ。

「手持ちの金品、私財、全てのものの所有権を剥奪した上、追放ってとこかしら」

 腕を組んだまま、指でトントンと反対の腕を打ち、リタが冷徹に言い放つ。

「バカなッッッ!! 儂が汗水垂らして……」
「お前が汗水垂らしたのは暑いからだろ!! ほんとに大変だったのはお前に騙された人達だよ!」

 ドガッ!

 アデリナに一喝された上、顔面を蹴られ、押し黙るしかないラッドヴィグ。

「しかし、ここはどこの国にも属していない。彼の資産は相当なものだ。没収はいいが、下手な所に預けると、第2のラッドヴィグが現れるような気がするな。どこに預けるんだい?」

 コンスタンティンがもっともな事を仰る。
 そうだな……。少し考える。

「ユリア、お前に預けるよ」
「え??」

 そう言うと、びっくりして目をパチクリする。
 その後ろでカイがポンと手を打つ。

「成る程、闇ギルドだな?」

 えらく頭が回るな。なかなか大した奴だ。

「そうだ。闇ギルドを仲介させ、モロンハーナの名前でラッドヴィグの被害に遭った人達に返してやれ」
「な……」

 前に聞いた話だと、モロンハーナの規模に勝る組織はこの辺りに無いようだ。彼らが保管していれば、ラッドヴィグの金目当てに襲撃される事も心配もないだろう。

 そしてユリアがその首領であれば、ちゃんとケリをつけられるだろう。

「お前達……それでいいのかい?」
「それでいいのか、とは?」
「こいつの私財はそこの少年が言った通り、莫大なものだ。あんた達は、その……いらないのかい?」

 なんだ、何を言いだすかと思えば。

「いらないさ。旅には邪魔だ。最低限、楽しくやっていける分はドラフジャクドの皇帝から貰ってるしな」

 ポカーンと口を開けたままのマルガレータと、ハァ……と大きなため息を吐くユリア。

「皇帝って……。わかった、わかったよ、マッツ。あんたの言う通りにしよう。モロンハーナが責任を持ってね。……全く、あんたの話を聞いていると、何だか調子が狂ってくるよ」
「モロンハーナ……明星モロンハーナか。いい名前だね」

 ふとコンスタンティンがそう言うと、飛び切りの笑顔を見せるユリア。

「そうだろう、少年! この名前、とても気に入ってるんだ」

 ああ、そんな笑い方をするんだな。
 可愛い所、あるじゃないか。

 っと、いつもの身内からの冷たい視線が来る前に、ここをズラかるとするか。

 もう一度、厳しい顔をして、ラッドヴィグに最後通告をする。

「おい、聞いての通りだ。お前の処遇は決まった。剣聖シェルド・ハイの名において、これは決定事項だ。『読心』があるんだ、何1つ隠せないと思え。じゃあ、地上に戻るぞ。お前の本拠はここにあるんだろ? そこまで案内しろ」

 ガックリと大きく項垂れるラッドヴィグ。

 全く可哀想と思わないが。

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