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第4章 聖武具
新たな出会い(3)
しおりを挟むニヴラニアの東海岸行きの船は2週間後という事で、まあ待っていてもよかったんだが、徒歩で東進する事にし、次の目的地、ペレ諸島マリー島への船着場に向かう。
ここもエイブル島と同じく、島の中腹には殆ど何も無い。しかし、歩く程に木々が生い茂り、道が無くなり、ルートとしてはエイブル島よりもハードだ。
しばらく、その深い森コースを歩きながら、東へと進む。
とはいえ、古竜の大森林のようにモンスターが出てくるわけでもなく、森の妖精が出てくるわけでもなく、実に淡々と進む。
4日ほど歩いただろうか。
夜になり、今日は久々の野営かな、と思い始めた時、ふと、違和感を感じ、前を見る。
「あれ? ……人……か?」
前方に俺達の行く手を阻むように、巨大な倒木があり、その上でくの字になってうつ伏せになっている人型の何かがいる。人だとすればこちらに向いているのは下半身か。
「そのようね……女性……いや、女の子かしら?」
リタが目を細めて凝視する。
行ってみよう、ということになり、急いで走る。
……どうやら人間の女の子のようだ。
「死んでは……いないようだな?」
ヘンリックが覗き込み、確認する。
アデリナも倒木を跨ぎ、神妙な顔で下から女の子の顔を見上げる。
「う~~ん。寝ているみたいだね」
「寝てる!? マジか、こんな小さな女の子が、こんなとこで??」
襟のある胸元に大きなリボンを付け、膝丈位までの赤いワンピースを着ている。およそ、こんな所にいるような服装では無い。
恐らく生まれは修羅大陸なんだろう、リタと同じ、綺麗な赤毛で、下ろせば肩甲骨位までありそうだ。今は頭が下になっている為、地面スレスレに垂れ下がっているが。
何か事件に巻き込まれたのかもしれないという懸念から、野営できる所まで連れて行こう、という事になった。
女の子を背負いながら、森を歩く。
まだほんとに小さい。10歳位? いってても12、3歳位か。非常に軽い。寝顔も可愛いもんだ。
しばらくして、ようやくテントが設営できそうな場所を見つけ、そこで野営する事に決める。
一旦、マットを置き、その上に女の子を寝かせる。手早く野宿の用意をしながらも、時々、様子を伺う。
「ご飯の用意をするわ」
リディア、ヘンリック、アデリナで飯の用意をする。
実はヘンリック、不器用に見えて料理が非常に上手だ。魚も器用に捌き、味付けも素晴らしい。今日は道すがら確保した山菜、兎、キノコあたりを鍋にするらしい。
出汁を作り煮込み出すといい匂いが充満する。
「うお! くいもん!!!」
突然、女の子がはね起きる。
「「「うわっっ」」」
近くにいたアデリナ、リタとリディアが驚いて振り向く。瞬間移動でもしたかのようにリディアの真後ろにいたため、リディアは尚更、ビックリしたようだ。
「ひぇっ」
「食いもん! は、腹減ったぁぁぁぁ……」
ぐぅぎゅるるるるる……
女の子のお腹から凄い音が聞こえる。しかし、不意に自分のポケットや小さなポシェットを探り出す。
「あれ!? マメ! マメは!?」
「豆? ……いや、豆なんぞ煮込んでないが……」
ヘンリックが真面目に返答するが、何故かそのヘンリックに向かって怒鳴り返す女の子。
「当たり前じゃ! 煮込まれてたまるものか! マメ! マァメェ~~~!!」
……チリリン……
「ん? 鈴の音が聞こえるな……」
「え! どこ!?」
チリリリリンッッ!!!
赤い小動物が木の上から鈴を鳴らしながら木の幹を駆け下りてくる。
赤ネズミ? ……いや、羽があるぞ? 羽トカゲか? 今作った新種だが。体長20センチ位の小さな、例えるなら竜のミニスケール版の生き物だ。こんなのは今まで見た事がない。
途中でジャンプ! 女の子に飛びつき、ミャーと猫のように鳴く。
「うわっっぷ! ……マメェ~~~! よかった! 迷子になったかと思ったぞ~~~!!」
両手で受け止めた少女がうしゃしゃしゃしゃ! と揉みくちゃにしている。
どうやら、ペットらしい。
「マメ……っていうのか。可愛いな」
名前が……と思いつつ、それは言わなかった。
「お! 青年、見る目あるじゃないか」
どうやら俺達を怖がっている感じは無い。
つまり、事件って訳でもないようだ。
「まあ、ちょっと落ち着いたら話そう」
「あ、もう大丈夫だ。……でも先にご飯、めぐんでくれんかのう……」
ぐるるるるるる……
またもやタイミングよく、少女の腹が鳴る。
お腹を抑えながらも小首を傾けて、ウフッと笑顔で頼み込んでくる。
何やら、厄介者の匂いが……
「できたぞ」
ヘンリックが無愛想にそう言うと目を輝かせる少女。
リディアが器に盛って渡すと、物凄い勢いでガツガツとかっこっんでいく。
「飢えてるな……」
「ムシャムシャ……朝から……モグ……何も食べてなくてな……ムシャムシャ……んマイッッ!!」
「わかったわかった。取り敢えず、落ち着いて食え」
どうやらあまり心配しなくても取り急ぎは大丈夫そうだ、と判断し、他愛もない雑談をしながら食事にする。
―
「食った~~~」
少女が満足げにバタンッと後ろに倒れる。
すぐにマメと呼ばれる生物が彼女の胸の上に乗り、チリンと音をたてる。
「マメにはやらなくていいのか?」
一応、聞いておく。
「どこかで食べてきたのであろう。腹は減っておらんようだ」
そう言いながら目でマメを追っている。俺達の名前を教え、まずは彼女の名前を聞くことにする。何かと不便だからな。
「……で、お嬢ちゃん、名前は?」
「リンリンだ。よろしくな」
仰向けに寝転びながら、そう言うとスッ……と目を閉じる。
いや、食ってすぐ寝るんかい!
「もうちょい話さないか? リンリン」
「……ん。まあ、よかろう」
よかろうって……
何故、上から!
上半身だけムクッと起き上がるリンリン。
マメと呼ばれる『それ』が、器用に肩の上に移動する。
「どうしてあんなとこで寝てたんだ?」
「うむ。実はな……普段この森に入らないから、迷子になってしまったのだ! 彷徨っている内に腹が減ってきて、あの木の上で力尽きたのだ」
「ふーん。何故、この森に?」
口の周りをペロリと舐め回し、ニコッと笑う。
とても愛らしい笑顔だ。
「ミラー大陸の方までマメと旅行中でな。たまには船でなく歩こう、と決めたのはいいが……てへへ」
「旅行って……お父さんやお母さんは?」
アデリナが皆思っていた事を聞いてくれる。
「おらん。リンは天涯孤独なのだ……だが、マメがいるから寂しくはないぞ?」
「ありゃ、そうなんだ……ごめんね」
申し訳なさげに首をすくめるアデリナに、しかし、快活に笑うリンリン。
「ハッハッハ! 気にする事はない、アデリナ。なかなかこれで、人生、充実しとるしのう」
人生……
なんか調子狂うな……。
この旅に出て、初めてのタイプだ。
「天涯孤独なら俺と同じだな……そのペット? は何なの?」
「マメはペットではない。リンの親友、いや家族なのだ。竜族だが、これ以上でかくならん。成竜じゃ。喋れもせん」
なんと、竜なのか!
そんな気はしていたが。
成竜と言うんだから、このサイズで大人ってことか。
そう言われてふと気付くとマメと言われる小竜と目が合っている。
そして、首を傾げたかと思うと……突然ジャンプして俺の懐に収まった!
「うわっとと……」
「ミャー!」
これにリンリンが目を丸くして驚いている。
「おおう!? これは……初めて見たぞ? マメがリン以外に懐く所なんぞ……しかも男に!」
「は……は……不思議と竜に好かれるんだ……俺……」
そう言って、恐々、マメの後頭部から背中にかけて撫でてみる。
ミャーと鳴きながら気持ち良さげだ。
「リンリン。ミラー大陸なら俺達と同じ方向だ。途中まで一緒に行くか?」
「……ま、旅は道連れというしな。マメもお主を気に入ったようだし、それもよかろう」
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