神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第4章 聖武具

闇の断崖(1)

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 7月に入った。

 謎の行商人が現れた日は、トーケル爺ちゃんのカミングアウトの日から7日前で考えると、ユリアやコンスタンティン達と別れて3日後、そしてリンリンと出会う前日だ。

 つまり、まだニヴラニア島の東海岸を目指し、森を歩いていた時だ。


「目的が謎だな……」

 お借りしている大きな部屋で、リディア、リタと過ごしながら、その事を考えていた。

「うーん。でも、悪い話ではないよね。弓に呪いがかかっている訳でもないし。あの弓自体、物凄い性能である事は間違いないんだから」

 リディアも一応は疑っていてくれたらしく、既にクラウスと鑑定をしていたのだ。結果、特に呪いのようなものは無く、遠隔魔術的な気配も感じない、むしろ弓自体から聖なるもののオーラすら感じる、といい事ずくめだったのだ。

「だよね。あまり気にしないでもいいんじゃない?」

 テーブルに頬杖を付きながらリタもそんな相槌を打つ。

 いや~~~、さすがに楽観的過ぎやせんかね……

 銅貨数枚とあの魔弓では、全く釣り合っていない。
 得する話にろくなものは無い。

 とはいえ、何の手がかりも無いのは事実だ。
 リタが言いたいのは、今、考えていてもしょうがない、という事か。


 一方で、クラウスの治療も上手くいっているようだ。

 クラウス曰く、あの芝居がもたらした効果は大きいとの事。ヒールさえかけてあげれば、精神的には非常に安定している、さすがは隊長、と褒められた。

 フッフッフ!
 座長と呼び給え!

 あの時、もうランディアに帰りなさい、と格好良く言っていた爺さん婆さん。やはり、すぐにダニエラにいなくなられるのは寂しいらしい。

 俺達とも話し合い、俺達が旅の目的を果たして帰って来た時、皆で一緒にランディアに行こう、という事になった。


 そして、ここに来てから1週間が瞬く間に過ぎ ―――

 出発の日が訪れる。


「お母さん、元気でね……」

 アルムグレン家の邸宅の玄関先で、トーケル、ハンナとは別れたが、アデリナの母ダニエラは、最後まで見送ると言って聞かず、港まで歩いて2時間程の距離を一緒に来てくれた。

 ファンジア島行きの便に乗船する前にお別れだ。
 アデリナはもう泣かない、と決めているようで、頑張って耐えている。
 別に泣いてもいいと思うんだがな。

「体に気をつけてね、アデリナ」

 そして俺達全員に向き直る。

「皆さん、この度は本当に有難う御座いました。娘と会えたのも、両親の体調が良くなったのも、全て貴方方のお陰です。これからの旅も大変でしょうが、頑張って下さいね」

 そう言って深々と頭を下げる。

「いえいえ、お気になさらず。お爺様から素晴らしい弓を頂いたお陰で、俺達も旅が楽になりそうです。しばらく先にはなりますが、必ず迎えに来ますので、それまで待っていて下さい」

 こちらも皆、頭を下げる。そしてこれからのトーケル、ハンナの療養について、クラウスが伝える。

「ご両親にはお伝え致しましたが、今日まではヒールの効果で楽だったはずです。が、明日からはまた、少し疲れが出るかもしれません。ご無理なさらぬよう、見ていてあげて下さい。少しずつ快方に向かうかと思います」
「本当に有難う御座いました。クラウスさん。そして皆さん、お迎えいただける日を待っております」

 さて……

 一旦、俺達は消えるか。

「アデリナ。俺達は先に船に乗ってるよ。お別れ出来たら乗ってこい」
「……! うん、わかった!」

 そう言って先に船に乗り込む俺達。

 しばらくすると『お母さん!』と大きな声が聞こえる。

 思春期の数年間を、離れて暮らしたんだから、寂しかっただろう。
 思いっきり甘えるがいいさ。

 ……などと、偉そうに思いながら船の中を歩き、甲板に出ると不意に後ろに人の気配。

 振り返ると、アデリナだ。

「あれ? もういいのか?」

 想像していたような泣き腫らした顔では無い。
 むしろ、晴れ晴れとした、爽やかな笑顔をしている。

「うん。もう大丈夫だよ! ちゃんとお別れしたし。一応、仕事中だし!」
「そ、そうか。もっと甘えてきたらいいのに……」

 すると、パァンッ! と俺の背中を叩いて片目を瞑る。

「大丈夫だって! 家でお別れは済ましたし。帰りにまた来るし! 次はランディアに一緒に帰れるんだし!」
「……ふふ。そうか、そうだな」

 アデリナは俺が思っている以上に成長したみたいだ。
 しっかりしている。

 そうだ。
 また来る。

 その為にも、誰一人欠ける事なく、無事に旅を終えるんだ。

「お母さん!! バイバ―――イ!!」

 甲板から皆で手を振る。

 お互いが見えなくなるまで、ダニエラはずっと手を振り返していた。


 ―

 ファンジア島へは船で6日間。

 マリー島の東海岸から出発し、島の北を通って、ファンジア島の南側へと抜ける航路となっている。

 距離的にはマリー島の南側を進む方が近い筈だが、座礁する船が多く、迂回するようなルートとなっているそうだ。


 そしてその6日間は瞬く間に過ぎ、特に何事も起こらないまま、無事、夕方にファンジア島南海岸に到着する。

 ミラー大陸まで、船の旅も残すところ、あと1回。

 ここから陸路で北の港に移動し、そこからミラー大陸最南端、カルマル王国領のミンチェスタという小さな港町への船便だ。



 港に降り立つ。

 夜も近いというのに、行き交う人が多い。
 ここはエイブル島のように活気が溢れていた。

「あ! あったわ! あそこ!」

 実は今日、ヘンリックの誕生日だったのだ。

 ファンジア島に上陸してから飲もうという事になり、酒場を探していたリディアが上陸後、早々にそれを見つける。

「お、良さげな所だな」

 パッと見た感じ、そこそこ大きな酒場で、客も多く賑わっている。辺りに食べ物のいい匂いが充満し、出される料理も美味いと想像できた。


「料理人数分、オススメの酒が5に、オススメの非アルコール1ね」

 店の中に入り、座るなりそう注文し、荷物を下ろす。

 アデリナはあまり好んで酒を飲まない。
 リディアは好きな方だが、限度を覚えるまであまり飲ませていない。
 だが今日は特別という事で、2人とも飲みたいと言っていたので、未成年のヘンリック以外は全員、アルコールで乾杯だ。

 少し待つとドカドカドカッと料理と飲み物が運ばれてくる。

「じゃあ、ヘンリック君16歳の誕生日を祝いまーす!」
「「「「「誕生日、おめでとう~~~!!」」」」」
「……ああ」
「『ああ』って何じゃい!」

 バシッと突っ込みながら、グビグビといく。
 諸島の船は、ルール上、どの船も禁酒となっていた為、ずっと酒が飲めなかったのだ。

 別に飲まなくても禁断症状が出る訳では無いが、やはり時々口が恋しくなる。


「そろそろ旅に出てから1年だな」

 ヘンリックがしみじみと言う。

 ……そうか。
 もうそんなになるか。

「今まで以上の敵が出てこなけりゃ嬉しいけどな」

 そんな事を思いつつ、実は乾杯から俺達を見ている奴がいる事に気付いていた。そいつは視線を外しつつも俺達に注意を向け、そして、この酒場を出て行った。

 リタ、クラウスと視線が合う。
 多分、皆、口に出さないだけで、気付いているんだろう。

 やれやれ。
 なかなか気を抜いて飲めないな。

 まあ、そんじょそこらの奴らに負ける俺達ではないが……厄介ごとは少ないに越した事はない。


 そのまま1時間ほど過ごしただろうか。
その間も、俺達が名前を出す度に、こちらを伺う奴らがいる事に気付く。
 何なんだ?

 不意に、10人程の衛兵の姿をした奴らが酒場に入ってくる。
 その中に、さっきここを出て行った奴が混じっている。
 一体、何事だ?

 明らかに俺達の方へ向かって来る。

 隊長っぽい、ガタイの良い1人が俺に向かって話しかけてきた。

剣聖シェルド・ハイ、マッツ・オーウェン様、とお見受け致しますが……?」
「ああ。そうだけど」

 その物腰から、喧嘩を売りにきた訳ではなさそうだ。

 そして、突然、腰が折れんばかりに頭を下げだす。

「お楽しみの所、大変、失礼いたしましたぁ!! 後程で結構ですので、私達と共にファンジア島領主トビアスの領館まで御足労頂けないでしょうかぁ!!」


 ……


 何なんだ、これ。

 誕生日もゆっくり祝えないのか!

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