神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第4章 聖武具

闇の断崖(2)

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 その衛兵は、自分達は外で待っているから、存分にお楽しみ頂いてから出てきて頂ければ、と言っていたのだが、店の外なんかで待たれては気になって仕方がない。

 出された料理だけを平らげ、ヘンリックの誕生日祝いは、また折りを見てやり直そうという事にして、取り急ぎ店を出る事にした。

 外ではさっきよりも数の多い、数十人の衛兵達が整列して待っていた。
 一体、何の騒ぎなんだ……?


「おや、もうお済みでしょうか? 急かせたようで、大変申し訳ございません!!」
「ほんとですよ……今日、着いたばっかりなんですよ?」

 ちょっとだけ恨めしそうにそう言うと、真面目に焦りだす衛兵達。

「ちょちょちょ、いや、あの、これは私の独断ではなく……」
「あ、いや、かと言ってトビアス様が悪い訳でもなく」
「そそそそうだ。そうです。とにかく大変申し訳ありません!!」

 それだけ言われたら、何かこっちがクレームを入れてるみたいだ。

「いや、あの、わかったので……とにかく連れて行って下さい」
「ははッッ! 何卒、ここでの非礼についてはトビアス様にはご内密に……」
「わかりました、わかりました」

 俺がそう言うと、ホッ……としている。明らかに。
 額には汗が浮かび、作り笑いを必死でしている。

(……あんた、皆殺しか何かしたの?)
(してないよ! 怖い事言うな! 皆、一緒に行動してるだろ!)

 リディアと小声でひそひそと話してると、衛兵の数人が馬車を2台、引いてきた。

「馬車!?」
「勿論で御座います! 名高い剣聖シェルド・ハイ様御一行を徒歩で歩かせるような真似はトビアスは致しませんッッ!!」

 うーむ。

『剣聖』がいくら名高くても、これはおかしい。

「ささっどうぞ! 3人乗りで申し訳ございませんが、すぐに着きますので……」

 そう言って、必死に笑顔を作り、中へと手招く。

 始めは何か企んでいるのかと考えていたが、この笑顔はそうではない。
 何か知らんが、異様なまでに俺達に怯えている笑いだ。

 勿論、敵意も関知しない。

「何の用か知らないが、行くとしようか」

 俺がそう言うと、男と女で分かれて、ゾロゾロと馬車に乗り込む。

 ファンジア島に着くなり、おかしな雲行きとなったが、まあ、退屈凌ぎにはなるだろう。


 ―

 領館へは1時間弱で辿り着く。

 外から見るに、恐らく4階まである。
 頑丈な木材と石材、レンガを使って建てられた建物は、全体に白を基調とした落ち着いた雰囲気を持つ豪邸だ。

 勿論、ドラフジャクドやビルマークなどの『城』とは比べ物にならないものの、個人所有の建造物としてはなかなかだ。トーケル爺ちゃんも真っ青、と言った所か。

 中へどうぞ、と促されるが衛兵達は外に留まる。ここでアデリナと同い年位の美しいメイドさんと交代のようだ。

 深々とお辞儀をし、ニコリと可愛く微笑むこのメイドさんも何やら挙動不審だ。

 体が震えているようだが、なんだか……俺にとても近い。
 そしてお風呂上がった所です的な、いい匂いがする。
 何だろう。夜勤で今から仕事スタートなシフトなんだろうか。

 並んで廊下を歩く。
 案内するのに俺の真横にいるのも違和感がある。

 が、そんな事より、もっと気持ち悪い所がある。

「これだけ歓迎ムードで俺達を呼んでるのに、トビアスさんは出て来ないんだな」

 ポツリと呟いた。
 悪気は全く無かったのだが。

 口から小さくヒッと漏らし、目を向いて恐怖の色を顔に浮かべるメイド。

 悪気は無く、というよりは、不審に思って口にした、という方が近い。
 これだけ歓待しておいて、何故、出て来ない?

 衛兵やこのメイドから受ける感じが正しければ、トビアス本人こそが正門まで出てきて『ようこそようこそ!』と平身低頭、言う位で相応だろう。

「ももも申し訳ございません! 仰る通りかと存じます! トビアスに伝え、以後、このような事の無いように致しますッッ!!」

 そう言ってガタガタと震えているのを呆気に取られて見つめる俺達。

「何やら……本格的におかしいですね」

 クラウスが首を傾げて不思議がる。
 全員、同じ気持ちだ。

「いや……怒ってる訳じゃ……ないんだよ?」

 上目遣いでビクつくメイドに、努めて優しく言う。

「ていうかさ、さっきの衛兵達もそうだったけど、どうして皆、俺達を怖がっているの?」
「ヒッ! いえ、御一行様ではありません! 剣聖シェルド・ハイ様を恐れているだけで……ヒャッ!!」

 どうやら失言だったらしく、口元を押さえて涙を浮かべる。

「お許しを……違うんです、あの……違うんです。お許しを……」

 ついに内股でペタリと座り込んでしまう。

 ……

 埒が開かんではないか!!

 こうなったら……
 あまり一般人に対して使いたくはないが、そうも言っていられない。

「リディア、一体、どういう事?」

 困り果てた俺はリディアに頼る事にした。そう言うだけでリディアには伝わる。ハァ……と1つ溜息をつき、メイドをジッと見つめるリディア。

 そして『読心』を開始したリディアの表情が、クルクルと目まぐるしく変わる。

 真面目な顔つきから徐々に怪訝な顔付きに変わり……大きく口を開けて驚いたかと思うと、最終的にケタケタ笑い出した。

「アッハ……アハハハハ!! これは……ヤバい! ヤバいわマッツ。知らなかったわ。あんたって……最低ね!!」
「何だよ! どうして俺が最低なんだよ!!」

 更にヒッと呻くメイド。

 自分をジッと見つめていた、見るからに魔術師風の女性がそんな事を言い出したのだ。
 勘が良ければ、頭を覗かれたと気付くだろう。

「違うんです、違うんです……!!」
「ねぇ、ミライさん。その噂……ひょっとして、この島全体的に流れているの?」

 噂? 何の事だ?

 リディアがへたり込んでいるメイドさん(ミライさんというらしいが)に問いかける。

「ヒッ! 私の名前……お願いします、親や姉妹だけには手を出さないで下さい!! 私はどうなっても構いません。この仕事を命ぜられた時から覚悟はしております」

 何の覚悟だよ……

「あんたに抱かれる覚悟してるらしいわよ?」

 何だとッッ!

 いやいや、意味がわからない。

 そう言って俺の表情をじっと観察するリディア。意地の悪い事だ、全く。

 こんな可愛い子を意味もわからず頂けるなんて、いや、ダメだ。そういう事を考えてると顔に出てしまう。

「もう……顔に出てるわよ?」

 リタが溜息混じりにそう言うと、俺の顔を見つめる目の前のリディアの顔が、呆れ顔に変わっていく。

「トビアスさんはこの子にあんたの相手をさせてご機嫌を取ろうとしてたみたいね。だから自分は迎えに来ず、ミライさんに任せた。ところが私達がいてベッドに誘おうにも誘えず、困っていたみたいね」

 何だそりゃ?

「あんた……自分がどんな噂立てられてるか、教えたげようか」
「お、おう! 教えてくれ!」
「超人ヴォルドヴァルドを1人で余裕で倒したの?」

 ブンブン!!

 大きく左右に顔を振り、否定する。

「ヒムニヤに助けてもらって、全員でかかって、ギリギリだったろ!?」
「そうね……」

 冷ややかな流し目をしながら、言葉を続ける。

「数十匹のドラゴンの群れを1人で狩り尽くした……?」

 ブンブンッ!!!

「ドラフジャクドで起こったクーデターで、反乱側についた兵士をドラゴンを率いて皆殺しにしたっていうのは?」

 ブンブンブンッ!!

「アスガルドで恐れられた暗殺者ケルベロスを触れる事なく瞬殺したのもあんた?」
「いや、ケルベロスなんて戦ってもいないぞ!」
「そうよね。だってあの時、あんたは私と一緒に別の敵と戦っていたものね」

 目の前でへたり込むメイド、ミライさんが初めてハッとした表情を見せる。

「パーティの女5人は、皆あんたの女なんだってさ。5人てことは私とアデリナ、リタさんだけじゃなく、ヒムニヤさんと師匠も含まれてるわよねぇ……」
「いやいやいやいや!!」
「……ま、そうよねぇ。少なくとも師匠があんたに口説かれる訳無いし。そんな事したら私があんたを殺すから!」
「ヒィィィィィィィ」

 心底、リディアへの恐怖を見せる俺に、ミライさんが首を傾げ出す。

「そしてこの噂がミライさんがこんな仕事させられた一番の理由でしょうね。ドラフジャクドの主要な地域にいる女性はみんな剣聖シェルド・ハイの手が付いているんだって。これはこれで凄いわね。あんた、いつの間にそんな事したの!?」
「する訳ないだろ! ずっと一緒に居ただろ!!」
「そうね」

 そしてチラッとミライさんを伺うリディア。

「ねぇ、その噂……ひょっとしてモロンハーナの皆が言ってた話と同じなんじゃない? あの時は深く考えなかったけど、悪意がある噂だとは思ってたのよね」

 リタが口を挟む。

 ガ―――ン!!

 そう言えば、ユリアにずっと女の敵って言われてたな!!

 そうだ。
 その他の噂も、似たような事、言ってたぞ!

「うお―――! 何だその噂は!! ユリアに訂正しにエイブル島に戻りたい!!」
「あのぅ……それらの噂って……」

 恐る恐る、という感じでミライが口を挟む。

「そっ。根も葉もない、とは言わないけど、概ね悪意に満ちた嘘ばっかりね。女の敵って訳でもないわ。だらしないけどね」

 リタがそう言うと、恐々、上目遣いで俺を見やるミライ。
 目を合わせ、ブンブンッともう一度首を振る俺。

 それを見ると胸に手を当て、ホッと大きく息を吐き、泣きそうな顔をしながらも、ようやく安心したっぽいミライ。

「こりゃあ、トビアス領主にも、一から説明しないとダメですね」

 クラウスに言われるまでもなく、これは面倒だ、と思っていた所だ。

「ミライさんや。取り敢えず、ご主人のとこまで案内してくれるかい?」

 まだへたり込んでいるミライにそう頼むと、片目を瞑りながら、絞り出すように声を出すミライ。


「……畏まりました。ただ、少々お待ちを……安心したら……腰が……抜けました」


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