神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
133 / 204
第4章 聖武具

闇の断崖(3)

しおりを挟む

 領主トビアスの誤解の紐を解くのは大変だった。

 トビアスは長身の中年男性だ。
 とにかく俺達の機嫌を損ねまい、と必死だったから中々会話が噛み合わない。

 メイドのミライさんは本当に腰が抜けたみたいで、俺が肩を貸し、トビアスが待つ部屋に入ったのだが、それを見て何を勘違いしたのか、

「いやいや、お楽しみいただけたようで……よかったです。この短時間で女性をそこまで腰砕けにするとは……噂に違いませんな!」

 と、全く見当違いな事を言い出した。

 そこから俺の必死の訂正が始まる。

 最初、何を言ってるんだ? と、あまり俺の話を聞かずに、予め用意していた接待メニューをこなす事に必死だったトビアス。

 だが、ミライが口を挟み始めたところから、ようやく何かおかしい、と気付き始める。

「ハァハァ……もう一度、最初から言うぞ……?」
「……わかりました。今度はちゃんと伺います」

 今度は? それ言っちゃう?
 ぶっ飛ばすぞ。

 いや、今度こそ、根も葉もない噂に事実がくっついてしまい、どうしようもなくなってしまう。ここは我慢だ。

「まず、『ヴォルドヴァルドを1人で余裕で倒した』って噂だが、事実はもう1人の超人、ヒムニヤに助けてもらった上でこのパーティ全員プラス、テン系統最高位魔術師でかかって、ようやく参ったさせたってだけだ」
「ほう……? ご謙遜ではなく?」
「それが事実だ! 『数十匹のドラゴンの群れを1人で狩り尽くした』ってのも嘘だ。行きがかり上、1体は確かにタイマンで倒したし、10体程の群れを追い返した事もあったが、後のはドラゴンと打ち合わせ済みの話だったんだ。ドラゴンに恨みもない俺がそんな事をする訳がない」

 そうして1つずつ誤解を解いていった。


「ドラフジャクドの女性はみんな俺の手が付いてるって? そんな嬉しい……あ、いや、そんな酷い事を俺がやる訳はないし、そんな事してる時間も俺達にはない。何より俺がそんな事してたら、仲間から殺される」
「……という事は……」

 トビアスがそう言うと、リタがスッと言葉を被せる。

「明らかに悪意を持って捏造されている、嘘の噂ね。それを流している奴がいるってこと」

 リタがそう言うと、バタン、バタン、とそこかしこで音が聞こえた。

 ミライと同じように、腰が抜けたらしく、へたり込んでいる。

 当のトビアスも同様だ。

「そうですか……それは、良かった」
「良くねぇよ」
「あ、いや、こっちの話で……ラッドヴィグの護衛を皆殺しにし、金品を巻き上げたってのも、嘘ですか? てっきりこの島も同じ様に荒らされると思い……」
「ミライさんを生贄にしたって言うの? こんな若い女性1人に押し付けるなんて感心しないわね」

 リディアがご立腹だ。
 腕を組んで、お説教モードに入っている。

「仰る事は分かります。私も悩みに悩みました。だが、悩んでいる間にも貴方方はこの島に近づいてくる。ラッドヴィグがニヴラニアで酷い目に会ったと聞き、断腸の思いで決断致しました。ミライにはどう償っても償いきれません」

 俯いてポツリと涙をこぼすトビアス。
 それだけで確かに相当悩んだのであろう事がわかる。

「あれはラッドヴィグが悪いのさ。人非人とは奴の事だ。護衛共は全員ブチのめしはしたが、1人も殺しちゃいない。奴の金品を巻き上げたのは確かだが、二度と悪事が出来ないよう、そうする必要があったんだ。俺達は金貨1枚たりとも手にしちゃいないし、全ては奴に巻き上げられた人々に返される手筈になっている」

 大きく息を吐き、ようやく真実が腑に落ちた様子のトビアス。

「今までに聞いた話と今の話を私なりに整理すると……貴方方は各国を旅して、生ける伝説と言われる超人達とも関わりがあり、ドラゴンの友がいて、行く先々で起こった問題を解決、多くの民衆を救っている、凄腕の方々。その正体はランディア王国の兵士達……という事になろうかと思いますが、その認識で合っていますか?」

 ……え?

 あ?

 そう……なのか?

「結果的にどれも事実ですが……はっきりとそう言われると物凄く照れますね」

 クラウスが頭をポリポリと掻く。

「でも、嘘や誇張は入ってないよね!」

 アデリナが嬉しそうにはしゃぐ。

 うむ。
 確かに。

 だが、こんな感じでまとめられてしまうと、まるで俺達が……

「そうですか。貴方がたは『英雄』だったのですね。私は何という早とちりを……」

 そうだ。それだけ聞くと俺達が『英雄』のようだ。
 かのロビンやオリオンのような。

「違いますよトビアスさん。俺達はそんなんじゃない。別に誰かを救おうと思って旅をしている訳でもないし、全部、結果論だから」
「いや、『英雄』とは、むしろ、そういったものでしょう。昔、ロビンとオリオンが世界を回ったのも、人々を救う為ではなく、彼らの武者修行の色が強かった。いや、彼らと並ぶ英雄がこのファンジア、そして我が家にに来て頂けている、という事が光栄であり、誇らしいです。代々、子孫までこの事は伝えていきましょう!」

 はあ……

 ま、好きにすりゃいいさ。
 マッツ? 誰それ? とか子孫に言われなきゃいいが。

「では、俺達はこれでお役御免だよね? 別に接待してもらわなくても暴れやしないよ」
「いえいえ、むしろちゃんと接待させて頂きたい。現金な話ですが、そういう事なら1つ、マッツ・オーウェン様に助けて頂きたい事が……」

 ほんとに現金だな!
 こんなやり取りの後で、良く言えるな!

「いや、あのね……」
「身勝手な話というのは理解しておるのですが、しかし、元々、剣聖シェルド・ハイの悪い噂通りだったとしても、私財を投げ打ってお願いするつもりだったのです。そして、恐らくこれは貴方がたも避けては通れない問題」
「ほう?」

 それは興味深い。
 俺達の旅を邪魔するトラブルは排除しておかねばならない。

「何でしょう、その問題とは」
「実はこの1ヵ月近く……カルマル、アスガルドとの交信が途絶えています。帰って来ない船はもう……20隻近くになりましょうか。ですので、今、ミラー大陸行きの船は出ていません」



 ―

 あの日のトビアスの話は予想だにしない話だった。

 誰もが、後一回船に乗れば目的地に着ける、と思っていたのだから。

 取り敢えず何とかしてみるよ、と約束して、但し、俺達が着くより先に、北海岸の港町に話をつけておいてくれるように頼む。

 解決するには船を出さないといけないだろうし、現地で俺達が説明しても『船は出せん!』とか頑固な奴がいるかもしれないからな。地元の名士に話をつけておいてもらう方が話が早い。


 あれから10日、俺達は今、北海岸の港町にいた。

 トビアスの話通り、全く活気がない。
 港町が船を出せないんだから、そうなるだろう。

 打ち合わせておいた目印の銅像の前で、トビアスの使者と合流する。
『船を出してくれる船主と話はつけておいた、ただ準備の為、出港はあと10日間はかかるらしい』と、状況を教えてもらう。

 その使者と一緒に船主の所に出向く。
 話の引き継ぎを終え、使者はトビアスの元に帰って行った。


 さて!

 やる事はやったし、あと10日間のおヒマが出来た事だし……

「じゃ、ヘンリックの誕生日祝いをやり直すか!」
「さんせーい!」
「別に……(やらなくても)いいんだけどな」

 アデリナの可愛い賛成と、ヘンリックのツンデレな賛成を頂いた所で、開いていた酒場に入る。

 閑散としているかと思いきや、閉まっている店が多いからか、客はそこそこ入っていた。

 南海岸の酒場の時と同じ注文をし、また乾杯からスタートする。



「ところで隊長、次の具体的な目的地は分かっているんですか?」

 クラウスが小声で聞いてきた。

 アスガルドへのルート、という意味ではなく、神の種レイズアレイクがどこに発現するか知っているのか? という問いだろう。

「見当はついているんだが、正確にはわからない。ま、ここじゃ何だから、その話はまたにしよう」

 ここは酒場だ。
 どこで誰が聞いているか、わからない。

 特に『神の種レイズアレイク』については、普段から必要時以外は口に出すな、と伝えてある。

 情報漏洩の観点で言うと、酒場などは一番危険だ。
 それを察したクラウスが、頷きながら別の話をしだす。


 飲み始めてから30分程経っただろうか。

 1人の旅人風の男と5、6人の商人風の男女が店に入って来た。彼らは俺達の席の後ろに座ると酒を注文し出す。

 まあ、なんて事の無い、当たり前の風景だ。

 だが……引っかかる。

 その旅人風の男……何故だか、俺に敵意を向けている。
 敵意感知のセンサーが弱々しく反応する。

 この感覚からわかる事は、恐らくは今、俺がここに居ることに気付いていないが、俺個人に対して恨みを持っている奴だ。

 今、この場で間接的に俺を攻撃しようとしている。

 瞬時にそこまで理解し、後ろに座った奴らの話に耳を傾ける。


『その話、本当なのか?』
『ああ、本当だ』
『そんなひでぇ奴がこの島に来ると?』
『そうだ。今頃、ニヴラニア、マリー島の若い女性は皆、アイツに無茶苦茶にされているだろう。お前らも早く家族や友人に教えてやれ。女を表に出すな』
『どうしてお前はそんな事を知ってるんだ? 俺が聞いた所、剣聖シェルド・ハイってのは正義漢で、行く先々を救って回っているって聞いたぜ?』
『ハッ! そんなのはデタラメだ。何せ、俺はドラフジャクドの首都ペザで勤めていた兵士だったんだ。俺は直接、奴を見、この目で奴の女癖の悪さを見たんだからな』
『お前が言う事が本当なら、どうすりゃいいんだ?』
『とにかくこの話を流し、皆に危機を知らせるんだ。カルマルやアスガルドにも流せ! 間違っても捕まえようなどとは考えるな? 奴は残酷非道で凄まじく腕が立つ。簡単に殺されるぞ』


 ……


 クックック……

 ついに見つけたぞ。
 俺の嘘の噂を流しているクソ野郎。
 どうしてくれようか。


 リタと目が合う。
 彼女も今の話を聞いていたようだ。

 俺は右にいるアデリナの方に顔を向け、奴らからはクラウスに隠れる感じで一旦、機会を待つ事にした。


「ねぇ、その話、私達にも詳しく聞かせてくれないかしら?」

 そしてリタが口火を切った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...