神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第4章 聖武具

闇の断崖(4)

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「ねぇ、その話、私達にも詳しく聞かせてくれないかしら?」

 リタが声を掛けると、その男は待っていたと言わんばかりに手を打って喜ぶ。

「おう、姉ちゃん、あんた美人だな……こりゃヤバいぜ。絶対に剣聖シェルド・ハイに見つかっちゃダメだ」
「まあ! 見つかったら、どうなるのかしら……」
「あんたみたいに綺麗な女は、まず間違いなく奴の餌食になる。それで泣いている女をドラフジャクドでたくさん見てきたぜ?」

 ピキッ……

「おや……? 姉ちゃん、あんた、どこかで会った事あるか?」
「いいえ。知らないわ」

 澄まし顔でそう言うリタ。
 だが、確かに俺達はこいつを知らない。

「ねぇ、他に剣聖シェルド・ハイの話はないの!?」

 アデリナがそう言うと、ん……と1つ歯切れの悪い呻きを返す男。

「いや、まだまだあるぜ……? だが、おかしいな。お嬢ちゃんもどっかで見た事がある気がするんだが……」
「ふーん。私は知らないよ?」

 俺の手を握りつつ、素知らぬ顔で返すアデリナ。

「お嬢ちゃんも可愛いな……そうだ、剣聖シェルド・ハイのパーティもこんな感じで、綺麗なお姉ちゃんばっかりでな……5人いたんだが、全員、奴の女なんだぜ? 有り得るか普通?」

 ピキピキピキッッ!!

「そんなの有り得ないわ! 女の敵ね! 許せない!!」

 リディアが何故か俺を睨みながら叫ぶ。
 誰に言ってんだよ!

「う……おお! あんたらのパーティも別嬪さん揃いだな。特にあんたは……あれ? あんたは見覚えがある……な。絶対……」
「私はあんたなんか、知らないわよ!」

 腕を組んでそいつから顔を逸らし、唇をとんがらせる。

「う……むむ……ハッ!! ゲェッッ!!!」

 うむ。
 気付いたな?

「ちょ……ちょっとすまん、どいてくれ。小便だ。トイレ、行かせてくれ」
「おっと……今、ここからいなくなることは……許さないぜ?」

 ガシッ!

 そいつの肩を掴み、立てないようにする。

「ヒィィッッ!」

 悲鳴を上げながら、俺を見上げる男。そして見る見る顔色が変わっていく。

「……おま……おま……シェ、剣聖シェルド・ハイ!!」
「ご名答。何故、俺に肩を掴まれてるかは……わかっているよな?」

 を効かせて睨みつける。

「周りにいる皆さん、我々が今、噂されていた剣聖シェルド・ハイのパーティです。貴方がたも少し、お時間、頂けますか?」

 彼らが逃げられないように、テーブルの前にクラウスが立つ。

「さて……」

 ギロリ。

「ヒッ!」
「散々、無い事無い事並び立てて、酒場を歩き回り、俺の悪い噂を撒き散らしたのは、お前だな?」
「い、いや、ち、違う! 誤解だ、です!!」
「ほう? お前じゃ無いと?」
「は、はひ! 俺は……聞いただけです、そう、旅の奴に聞いただけです!」

 肩に置いた手に力を込める。

「さっき、ドラフジャクドでこの目で見たって言ってたじゃないか。嘘ついたのか?」
「は……いや、それは、そのぅ……」

 この怯え方は、明らかに俺達の強さを知っている奴だ。

「こっちは『読心』があるんだ。『読心』は知ってるな?」

 コクッコクッ!
 恐々頷く男。

「じゃあ、嘘吐こうが、隠そうが無意味って事位はわかるな?」

 コクコクッ

「それを踏まえて、もう一度聞こうか。諸島の各島で俺の噂を撒き散らしたのは、お前だな?」
「…………はい」
「どうして、そんな事をした?」
「あなたが……羨ましかったから……です」

 はぁ?
 何のこっちゃい!

「真面目に答えろ!」
「ヒッ! 真面目です! マリさんを彼女だと言うあなた、そしてそこにいるお二人もあなたの恋人とか。羨ましかったんです!!」
「……」

 ひょっとして……

 ―――

「マリ様! 明日、僕とデートしてください!!」
「いや、間に合っておる。マッツ、助けてくれ。もう懲り懲りだ」
「すまない、皆。マリは俺の彼女なんだ。遠慮してくれないか」

剣聖シェルド・ハイの女か……無理だ……)
(リディアって子もアデリナって子も、そうらしいぜ)
(くそ~あいつばっかし……)
(しょうがねぇよ。あいつにゃ勝てねえ)
(俺が女でもお前より剣聖シェルド・ハイのがいいぜ。へっへ)

 ―――

「プッ……お前ひょっとして、『マリさん付き合って下さい行列』に並んでた連中の1人か?」

 顔を真っ赤にして項垂れる目の前の男。

「アハハッ! そりゃ、ヤキモチ妬くよねえ!」

 アデリナが他人事のように笑う。
 だが、こりゃおかしい。人間の恨みって、こんな下らん事でずっと続くんだな……

「お前、そんな事位で兵士辞めてまで俺の噂を吹聴する為に行脚するとか……暇なんだな……」

 憐れみすら覚えてしまう。

「お、俺にとって、初恋だったんだよ! あんな可愛い子は初めて見たんだ。ど、どうしてあなたばっかり!!」
「この人がいい男だからでしょ? 少なくとも、この人はあなたのような生き方をする人じゃないもの」

 リタがナイスフォローを入れてくれる。

「あのさ……まあ、もう言ってもいいか。マリってのは仮の名前なんだ。あの人の本当の名前は『ヒムニヤ』っていうんだ。名前位、知ってるだろ?」

 一瞬の静寂。そして、

「え……ええええぇぇ!?」

 男だけでなく、周囲にいた商人風の奴らも騒めき出す。

「お前が見た外見も、ヒムニヤがそう見えるように術をかけていただけだ。彼女がその気になったら、お前、吹き飛ばすなんて朝飯前だからな? 俺を恨むなんて筋違いもいいとこだぜ?」

 口を大きく開け、ワナワナと震え出す男。

「あー言っとくけど、勿論、俺の彼女だってのも嘘だから」
「す……すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」



 ―

 正直、あの程度の事に関わっている暇は無い、というのが本音だが、ああいう噂が溜まっていくと、この先、どんな尾鰭がついてしまうかわからない。これからの旅に支障をきたしていたかもしれないのだ。

 諸島を出発する前にきっちり悪評の根を断てた事で憂いが無くなった。

(とはいえ、実はこの十日間の間に新たな噂の火種を作りかけたらしい。らしい、というのは、諸事情により俺はその時の記憶が殆ど無いのだ。リタの尽力で何とか事なきを得た、と後からアデリナから聞いたのだった)


「よし、じゃあ出発するか!」

 約束の日となり、他の乗客は1人も乗せず、俺達と船員だけで出航、ミラー大陸に向かう。

 船が帰ってこれない理由がある筈で、それを見つけ出し、解決するのが今の俺達の最優先ミッションだ。


「待て待て待て! その船、待てぇぇッ!!」

 錨を上げ、出発し始めた船に向かって、手を振りながら大声を出して走ってくる奴がいる。

「あれぇ!? あれ、リンちゃんじゃない??」
「えっ?」

 アデリナの声で、慌てて陸の方を見ると……ほんとだ。リンリンが必死で走ってくる。

「ごめん! 船長、ちょっと止まってくれ!」
「はいよ――!」

 ゆっくり動きを止め、もう一度、岸に戻る船。
 頭にチビ竜のマメを乗せ、それに飛び乗ってくるリンリン。

「間に合った~~~!!」

 そう叫びながら、俺に思いっきり抱きついてくる。
 軽~~~い赤毛の少女を抱き抱えながら、ゆっくりと下ろしてやり、

「いや、間に合ってないから」

 と、一応、言っといてやる。

「まあまあ、小さい事は言いっこなしじゃ。リンも乗っけてってくれ! どの船も出ずに困っておったのだ」

 少女らしい屈託の無い、天使のような笑顔を見せながら無茶苦茶な事を言う。

「いや、ダメだよ。この船は普通の渡航が目的じゃ無いんだ。今まで20隻位、行方不明になっているのは知ってるだろ? その問題を解決しに行くんだ」

 諭すようにそう言ったのだが、ニコニコしながら、俺の言葉が全く響いていない様子のリンリン。

「さすがはマッツ。この難題を解決しに行くのじゃな!? そうであろう。リンの目に狂いは無かった。だから、乗せてもらいに来たのじゃ!」
「お、おう!? ……や、危ないからダメだって言ってるんだぜ? 何があるかわからない。原因によっちゃあ、モンスターと戦う事になるかもしれない」

 不意にリンリンの家族、と言っていた小竜のマメがミャ~と一鳴き。

「可愛いなあ、マメちゃん~~!」

 アデリナは可愛いもん好きだからな。
 鳴き声は確かに可愛らしいが……

「ほれ、マメも乗せてくれと言っておる。なに、モンスターが出たらお主が守ってくれたら良いのじゃ!」

 それが困るんだよなぁ……
 守りきれなかったらどうするんだ!

「いや~~~責任持てねぇよ。やっぱりダメだ。特に海の上だからな。逃げ場が無い。俺達が必ず解決してやる。次の船を待て」
「断るッッ! ……なあ、頼むよマッツ! この通り! 大人しくしてるからさ? な? な?」
「いくら頼まれてもダメだ。お前の事を考えて言ってるんだぜ? 敵がわかってりゃともかく、今回は皆目、見当がつかない。そもそも敵などおらず、驚異的な自然災害かもしれないんだ。俺達だって命懸けなんだ」

 ここまで俺に頑なに断られる事は予想していなかったか? 悩み出すリンリン。
 ちょっと可哀想だが、さすがにこの船に乗せて行くわけには行かない。

 しばらく考えた末に、予想だにしない事を言い出す。

「船が失踪している『原因』がわかれば……連れて行ってくれるか?」
「え?」
「リンは船が消えた理由を知っておる。マッツ、お主なら解決できるであろう事も」

 信じられない話だが……
 嘘をつくような子でも無い、と思う。

 もし、何らかの不思議な力でそういった事がわかるのなら……その情報は是非欲しい。

「話の内容によるな。教えてくれ」
「じゃあ2つ、約束してくれ」

 真面目な顔をして俺の目の前に指二本を持ってくる。

「2つ? ……一応、言ってみな?」
「1つ、リンを乗せて行ってくれる事。2つ、リンをパーティに参加させる事。ま、2つ目の約束があれば1つ目はいらんかもしれんがな」
「はぁ??」

 仲間は皆、口を出さないが、今のは一斉に、はぁ?と思った筈だ。

 戦えない子をパーティに入れるわけにはいかない。
 そんな事をすれば、皆、戦いに集中出来なくなり、戦力ダウンは免れない。

 ダメだ……と言おうとした所を、リンリンが言葉を続ける。

「やれやれ……これは言いたく無かったのだが……頑固じゃのう、お主も」

 そう言って掌を上空に向ける。

「お主らのパーティ、個々に凄まじい力を持っている事はわかる。が、1つ、足りない部分がある。リンはそれを補える力を持っている」

 ゴゴゴゴ……

 な、何だ?
 大気が震えている……

「召喚魔法……だわ!!」

 不意にリディアが呟く。

 パシィィィィッッ!!

 空気中に亀裂が入ったかのような音が辺り一面に響く。

 そして、空中に目を疑うモノが……


「……ワ……飛竜ワイバーン!!」

 翼を広げ、こちらを睨みつける1匹の青い飛竜。
 リンリンによって召喚された飛竜が空中に漂っていたのだ。

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