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第4章 聖武具
闇の断崖(5)
しおりを挟む結局、根負けした俺達は、リンリンを仮加入させる事にし、出航した。
正式に加入するかどうかは、今回の調査と解決が上手くいって、無事にカルマル王国に渡航できたら、もう一度話し合って決めよう、という事になった。
俺達の旅の目的も告げずに仲間に入れるなどはあってはならないしな。
そして、いくら高度な召喚魔法を扱えるといっても子供は子供だ。親御さんがいないため、旅の間、俺が保護者となる事になってしまった。
航海3日目の朝。
「リンちゃん、どうしてそんな高度な魔法が使えるの?」
甲板で潮風を受けながら、リディアがそんな疑問を口にした。
「ふふふ。リンは生まれつき、召喚魔法が使えたのだ!」
「ええ!? ほんとなの??」
「うむ。ほんとじゃ」
リディアからすれば不思議だろう。
学校で勉強し、1人になっても勉強し、エルナという素晴らしい師匠について勉強し、超人ヒムニヤにも教えを請い、とにかく勉強しまくっていたのだ。
ツンなリディアしか知らない人間からは見えにくいが、彼女はとても勤勉家だ。
今でも毎晩、エルナから預かったテン系統の魔術奥義書を読んでいるのを俺は知っている。
だからこそ、エルナのお眼鏡に適ったのだが。
「まさに、天才、なんですね」
何故かリンリンに敬語を使うクラウス。
「いやいや、世界は広い。リンより才能のある奴など、ゴマンといる。そういうお主もリディアも素晴らしい才能に恵まれておるぞ?」
「そんな事もわかるんだ! え~~~何か、そう言われると嬉しいな!」
……
何だかリディアが素直だ。
無邪気に笑うリディアを見ていると、心があったまる。
但し、少し離れて彼女にわからないように見ないとダメだ。
ジッと見ている事がバレると怒られるからな。
紅茶をすすりながら、俺は少し離れたテーブルから甲板の方を見ていた。
「どしたの?」
ニコリと微笑みながらアデリナが横に座る。
テーブルに両の手で頬杖をつきながら、小首を傾げて俺の方を見る。
「いや、ここからあの3人のやりとりを聞いていたんだ」
そう言って、アデリナから目を逸らす。
今日のアデリナは、無茶苦茶可愛い。
もう気温はかなり暑い時期、薄い緑のチュニックにハイウェストのミニスカート、まぶしい生足に足首までを包むブーツ、と服装も刺激的だ。
目を逸らしたのは、見ていると何やら悪魔マッツがゴソゴソ出てこようとするからだ。
そんなまったりした日常の空気を、俺の敵意感知センサーが突然ぶち壊す。
キィィィ……ン!
小さい。
今、俺のセンサー圏内に入った、というところか。
「敵を捕捉した。まだ遠いが、少しずつ近づいてくる。気を付けろ!」
皆、俺の方を向き、一瞬の驚きの後、構え出す。
船室からヘンリックとリタが寝ぼけ眼で出てくるが、その状態でも隙が無いのは流石だ。
「近付いて……くる!」
「いや……違うぞ。マッツ」
リンリンが沖の方を見つめる。
「来るのでは無い。この船がそこに向かっておるのだ」
……
やがて ―――
薄っすらと水平線が黒く見え出す。
「!! 何だ……あれは……」
黒い……壁!!
近づくほどに異様!
海にポッカリと、では無い。
見渡す限り、海に垂直に反り立つ、黒い壁。
ある意味、『世界の眼』よりも異常なもののように見えた。台風や竜巻は自然現象として存在するが、海に立つ壁、などと言うものは有り得ないからだ。
リンリンは厳しい視線を崩さない。
「あれが、ここ最近の船の失踪の原因。近付くものを全て闇の世界へと飲み込む『闇の断崖』」
……
待て。
あんなの、どうすればいいんだ。
俺の敵意感知センサーがビンビン警鐘を鳴らす。
取り敢えず……
「船長! 船を止めろ!」
「あいよー!!」
呑気な声で返事をする船長。
帆を下ろし、魔法の動力を切り、この船は止まった筈だ。
だが、黒い壁はドンドン近付いてくる。
つまり、引き寄せられてるって事か。
……なるほど。
感じるぜ。あいつの気配。
「隊長、ヘルドゥーソの闇の気配を強く感じます!」
クラウスにはあの壁が見えていないが、わかるのだろう。すぐそこに何かがある事を。
「だな。これだけの規模のものを顕現させるとは……さすがに超人か」
「一体、何が見えているの? 『闇の断崖』って何?」
戸惑いながらリディアが叫ぶ。
「見えているものをそのまま言うと……すぐそこの海の上から、数十メートル程の高さの黒い壁が見渡す限り、そびえ立っている。ドンドン近付いて……いや、リンリンの言う通り、この船が引き寄せられている」
「なるほど。船の失踪の原因は、それに飲み込まれたって事ですね」
クラウスは冷静だ。実に頼もしい。
「このまま、あの壁を吹き飛ばしてやってもいいんだが……今までに消えた船はどこに行った?」
破邪の魔剣、シュタークスを鞘から抜き放つ。
「きっと、その壁の中、つまり奴の世界を彷徨っているのではないでしょうか」
「俺もそう思う。だからこのまま俺があれをブチ破ると出てこれるかも知れない。だが、永遠に出てこれなくなるかも知れない」
「そうですね」
ニヤリと笑う俺とクラウス。
「船長!! 船を反転し、ファンジアへ向けて全力で戻れ!」
「あいよ――」
またまた間延びした返事をする船長。だが、腕は確かだ。
ちょいと危険だが、あの壁を中からぶっ壊してやる。
「ちょっと待ってマッツ、どうするつもりなの!?」
リディアが心配そうな顔付きをしているが、男は度胸! ここはやらねばならない!
「クラウスと2人で、ちょっと行って助け出してくるよ」
「ちょっと行ってって……」
「あそこが闇の世界だというなら、一気に全滅の可能性もある。皆は一旦、ファンジアに帰れ。船を救助したら俺とクラウスも帰る」
全員の顔を見る。
そして、手を挙げて挨拶を済ませる。
「クラウス!! 俺に掴まれ! 『闇の断崖』とやらに乗り込むぞ!!!」
「了解ですッッ!!」
俺とこいつの2人なら出来る。
反転中の船の甲板から目の前の壁に向かって飛ぶッッ!!!!!
その時!!
ギュッッ!!
クラウスとは違う。
暖かく、小さい手が俺の首に巻き付いた!
「リンも行くッッ!!」
なぁぁぁぁ~~~??
―
今までに経験した闇の波動による、闇の世界。
ここもそれらと変わらなかった。
永遠に続くかのような漆黒の闇。
光など一切存在しないこの世界だが、俺、クラウス、リンリンは互いに目で見えている。
そんな中……
「お前なぁ!! 危ないにも程があるぞ!! こんなとこまで付いて来て、どうするつもりなんだ!! 生きて戻れる保証なんて無いんだぞ!」
リンリンを俺の目の前に立たせて説教する。
「……そんなに怒らんでも……いいじゃ無いか……マメもビビっておるわ、可哀想に」
怖がるフリをしながらも、この少女は全く意に介していない。
どうやったら、これほど肝っ玉の据わった子に育つんだ? ここはしっかりお灸を据えてやらないとな!
「い―――やッッ! 怒るね! 怒ったね、俺は! 船に戻ったら、たっぷり絞ってやる」
「ほれ、今、船に戻ったら、と言ったじゃないか。戻れるんじゃないか」
「一々、揚げ足をとるなッ! 俺はお前の保護者になったんだ! きつ~~~く叱ってやる!」
「まあまあ、隊長……あまり長くこの中にいるのはまずいです。さっさと仕事して帰りましょう」
おっと、そうだった。
「自我を保てなくなるため、時間が吹き飛んでしまう、とサイエンが言っていたな。手短かに済ませよう……とは言うものの、今、俺達って自我はあるよな??」
だが、その疑問はリンリンに遮られる。
「何と。サイエンと言えば《中立者》の。奴と知り合いか」
リンリンが怪訝そうな顔をして俺を覗き込む。
「まあ、色々とな。ドラフジャクドで助けてもらったんだ。あいつがいなければどうなっていたかわからない」
フーム、と小さく唸り、黙り込むリンリン。静かで良い。今の内にさっさと済ましてしまおう。
「クラウス、ここに方向や方角があるかどうかは別として……あっちの方に人の気配を感じる」
感じる方を指差して知らせる。
この闇の世界ではヒムニヤから光の波動を受け継いだクラウスだけが頼りだ。
「わかりました。そちらに進みましょう」
すると、確かに進む感覚がある。
クラウス、やるなぁ。
ヒムニヤに弟子入りした時間は無駄じゃなかったって事か。
しばらく進むと何かが見えてくる。
……
見つけた。船だ。
何十隻もの。
暗闇の中に船がいろんな方向を向いて浮かんでいる。
「あれだな? 失踪した船ってのは」
「中の者達は……闇の波動に干渉され、気を失っているようだな」
肩口のリンリンがそんな事を言う。
いつの間にやら、おんぶさせられていた。
「うわっ! いつの間に背中にいたんだ!」
「さっきから。うふ。マッツは暖かいのう」
うふって何なんだ。
調子狂うな……
「しかし、リンリンはどうしてそんな事までわかるんだ?」
「フッフッフ! リンは生まれつき、色々凄いのだ!」
……確かに。
凄いのは確かだ。そこは否定しない。
クラウスは俺のベルトを掴み、リンリンは俺の背中にしがみついている。万が一、戦闘が発生するケースを想定し、俺の両手を空けてくれているのだ。
スルスルッと最初の船の中に乗り込む。
「いたッ! 船員、乗客、皆、倒れています!」
クラウスが叫ぶ方向に、うつ伏せ、仰向け問わず、バタバタと倒れていた。
「どうやって、起こすのだ?」
耳元で可愛い声を発するリンリン。
「俺がヒムニヤを助けた時は、体に触れて名前を呼んだな……」
「何!? お主、ヒミにゃ……ん、コホン。《神妖精》とも知り合いなのか!!」
「ああ。元々はドラフジャクドで一人きりにした俺が悪いんだが……ヘルドゥーソの闇の波動を食らっちまってな。サイエンと一緒に助け出したんだ」
これには心底驚いた感じのリンリン。
「う―――む……只者ではないと思っていたが……それほどとは」
「さて……この人達の名前、知らないからな。取り敢えず、呼びかけてみるか……」
そうして一番手前にいた水夫の肩に触れ、お――い! と呼びかけてみる。
すると、あの時のように、少しずつ、少しずつ、目を開ける。
ほう。
これで合ってるみたいだな。
そうして次々に起こしていく俺達。
しかし視線を感じる。
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返事は無い。
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どうやら今回は出てくるつもりは無いらしい。
「ふん……じゃ、好きにさせてもらうぞ」
そう言って救助活動を続ける。
「頑張れ~~~マッツ~~~!!」
「ミャ~~~」
背中から応援してくれるリンリンとマメ。
ヒムニヤに似た慈愛の温もりを肌で感じるのは、気のせいだろうか。
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