神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第5章 陽の当たる場所に

5人目の超人(1)

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 正直、砂漠の交通を舐めていた。
 いやカルマル王国を舐めていたようだ。

 下手したら今までで一番、過酷な旅だろうと覚悟していたのだが、なんとグリフォンのレンタルがあったのだ。

 過酷? とんでもない。物凄く快適! 当然だ。俺達、乗ってるだけだから!

 しかもこのグリフォン、しっかりと人の手で飼育されており、目的地に着くと勝手に帰還するのだそうだ。

 ……という訳で3頭のグリフォンをレンタルし、移動中の俺達。ヘンリックとアデリナ、クラウスとリタ、そして俺とリディア、リンリン、マメとペアを組んで搭乗し、快適な空の旅の途中だ。


 日差しは強烈、見渡す限りの砂と岩。
 だが、空気が乾燥しているため、ジメッとしていない分、爽やかだ。暑いけど。

 夜に進む人々もいるらしいが、景色も見たかったため、日中に移動。砂埃が結構舞うため、目に布を被せて全員ミイラのようになっており、客観的に見るとなかなか滑稽だ。

 グリフォンは1時間に1回は休憩が必要との事で、度々、休憩を取りながら進む。


 マッツ御一行様アスガルドツアーは、カルマル全土に渡って広がっているダマ砂漠を縦断する。まずはミンチェスタから北上し、ウェルゴの街を目指す。

 ここは、コンスタンティンがオレストと出会った、と言っていた街だ。そこから更に北へ向かい、カルマルの王都ネイロをスルーして、一気にアスガルドへ。

 途中、ウェルゴでも、うまくグリフォンをレンタルできれば2週間ほどで辿り着くという。


 チビ竜のマメを抱えたリンリンを先頭に、リディアがそのリンリンを抱くような感じで座り、更に俺がその後ろで2人を守るような形で搭乗、グリフォンの手綱を持つ。

 何か久々に、そしてごく、ごく! リディアにくっついた気がする!

 あ~~癒される……

「気持ちいいなぁ、マッツにリディア!」

 そんな不謹慎な考えを知ってか知らずか、リンリンが楽しそうに叫ぶ。

「ほんとね! こんなの、別に砂漠だけでなくたって、どこでも用意したらいいのにね!!」

 全くだ。

 いや、待てよ……確かにそうだ。観光にもなるな。

 ランディアで船の街を作り上げた後、やってみるか?
 この役をアルトゥールに頼んでみたらどうだろうか。

 ……やめとこう。
 絶対に炎の息フレイムブレスを吐くだろうからな。
 何人死人が出るかわからん。


 そうして旅を続け、5、6日ほどたったろうか。

「マッツ! まずい、塵旋風だッッ!! デカい!」

 いつものようにリディアの後頭部に顔を埋めながら、ランディアの観光ビジネスに思い耽っていると、急にリンリンが騒ぎ出す。

「塵旋風? ……うぉあッッ!!!」

 リディアの頭越しに前を見ると、巨大な竜巻が何本も発生していた!

 しかも、今、ここで沸いたかのごとく、何の前触れも無しに!


「皆、振り落とされるな! しがみつけ!!」

 言うより早く、旋風に巻き込まれる。

 グルグルグルッッ!!

「キャアアア―――ッッ!!」
「うわぁぁぁぁ―――ッッ!!」

 あちこちで悲鳴が聞こえる!

 グリフォンなら竜巻でもある程度は平気だろう、俺達が落ちなければ! そう思い、ヘンリックやクラウスに向けて叫んだのだが……

 ミャアァァァァ~~~ッッ!!

「あや! マメェェ!!」

 マメが風に持っていかれたらしい。

 これはマズイ! そう思った瞬間、やはりマメを追い、躊躇なく空中に飛び出すリンリン!

「ダメよ! リンちゃん!!!」

 そしてリンリンを掴もうと手を伸ばし、これまたグルグルと旋風に巻き込まれるリディア!

「やれやれだ……幸先、悪いなぁ」

 ポツリと呟き、シュタークスを放つ!!

風竜剣技ダウィンドラフシェアーツ!!」

 グリフォンの背中を蹴り、2人へと飛ぶ!

「『クシア』!!」

 リンリンとマメをキャッチ!
 そして、リディアも確保ッッ!!

 旋風の中でも風属性の飛翔剣技は負けない!


 そう思っていた俺がバカだった……

 砂の上に叩き付けられ、そして、やたらと深く落下する感覚と、硬い地面にぶつかる衝撃を鈍く感じる。

 そして鼻の奥からくる血の味を感じた後、大いなる自然現象の前にあっさり飲み込まれた俺の意識は、途切れた。


 ―

「リンちゃん、もう少し、寝かせておいてあげよう」
「うん。大丈夫かのぅ、体中、骨折しているぞ」
「ここまで酷いのは初めてだけど……きっと……大丈夫よ!」

 う……

 2人の声が……聞こえる……

 よかった……無事か……

「ここは……どこかしら?」
「きっと、あの砂漠のじゃな」
「ええ!?」

 何だって……!?

 ウッ……

 激痛と同時に、また、プツリと意識が飛んだ ―――


 ―

「見える範囲では……ここ、洞窟よね」
「うん。遥か上から陽の光が差し込んで来ている。恐らくは砂漠の下にある空間。たまたま地上に隙間があり、そこから落下したようじゃな」
「あの高さから……こんな岩の上へ……私達をかばって……うう……マッツ……マッツ……」

 リディアの声だ……

「頭を打ってなきゃいいが……ゴメンよマッツ。リンのせいで」
「大丈夫……大丈夫……きっと……昔からバカみたいにタフだもん!」
「確かにマッツのタフさは生来のものじゃが……リンは心配じゃ……」

 グヌヌ……身体が……動かん……

 確かに、あっちこっち、骨折しているな。
 肋、手、足……

 しばらく、回復に努めよう。
 どっちにしても動けない事だしな。

「リディアは……マッツの事が好きなのか?」

 なぬ!!

「えッッ!? リ、リンちゃん、きゅきゅ急に何を………… …… ……」

 き……聞こえん……

 あ、ダメだ。もう一度、死ぬ……
 何て言ったんだぁぁぁぁ~~~……

 そして、3度目の気絶……


 ―

「マッツ~~! お願い! 帰ってきて!!」
「う~~~ん、かなり重傷じゃ……」
「マッツマッツマッツマッツ……」

 はいはいはい、いるよ、ここに。

「む、ここ……ひょっとして……」

 ……どうしたんだ? 一体。

 ピクッ

 お! 指が動く!

「あ! マッツ!! リンちゃん! 指が動いた!!」
「おお! マッツ! しっかりしろ! またリンの頭を撫でてくれぇぇ!!」

 ピクッピクッ……

 グッ……

 お、腕が……少し、動く!

 あ……目が……開く……!!

 スゥ――ッ

「マ……ッツウウウ!!!」

 うおう!!

 生き返るなり、天国!!

 リディアの熱く優しい抱擁……
 ダメだ。本当に天国に行ってしまう!

「う……イッ……テテテ……」

 頭がとても痛い。

 ゆっくり手で触ると、布が巻き付けられており、それ越しに手に血がつく。

「リ……ディア……リン……」

 それだけ言うのが精一杯だった。
 ここまでダメージを食らったのはアルトゥール戦以来か。

「ううう! よかった……マッツゥ……」

 可愛いリディアの目が腫れてるじゃないか!
 ごめんよ……

「う……他の……皆は……」

 フルフルと首を振るリンリン。

「……はぐれた」
「そ……か」

 まあ、大丈夫だろう、あいつらなら。

 むしろ、一番ヤバいのは俺か。

「大丈夫? 大丈夫じゃないのはわかってるけど……」

 ボロボロ涙を落としながら顔を覗き込んでくるリディア。よかった。リディアに外傷はないようだ。

「ああ……」

 そこまで言って、ふと意識が遠のく。

「マッツ!!」

 ……が、持ち堪える。

「大丈夫……」

 少し目を瞑り、体内の気を巡りを意識して落ち着かせよう。何故かはわからないが、こうする事で早く回復する気がする。

「マッツ……」
「……!! リディア、邪魔してはいかん。マッツの生まれ持った特性が本格的に目覚めそうだ」
「生まれ持った……特性?」

 リディアが呟く。
 が、俺にとってもなんのこっちゃい!!って感じだ。

 いかんいかん。
 集中集中……

「え……? 傷が……」
「やった! 凄いぞ! マッツ!!」

 集中、集中……

「傷が塞がっていくわ!」
「うむ。血も止まったようじゃ!」

 おお! そうか。傷が塞がったか。
 なら次は、骨折、そして体力回復……回復……

 心臓の鼓動が速くなる。

 凄まじい勢いで血が体を巡る。

 パチ……

 目を開ける。

 頭痛がやんだ。
 体のあちこちの痛みは若干残っているものの……動く。

 俺の意思通りに。

「マッツ……」
「フゥ……復活!」
「!!」

 ファサッッ……

 リディアの髪が俺の鼻先を覆う。
 心地良い力で抱きしめられる。

 なに? 今日、人生で一番幸運な日なの?

「やったな、マッツ! お主はもう怖いもん無しだ! お主、どれだけツィ様に愛されておるのだ! 『超治癒アイマ・ヒィラ』、リンもその特性を授かった者を見るのは初めてじゃッッ!!」

 言ってる事はよく理解できないが、喜ぶリンリンの目から涙が止めどなく溢れる。

「すまないな、リンリンにまで心配かけて」
「本当じゃ! マッツにはもっとリンを……撫でてもらわんといかんというのに! フゥ……ウェェ……ウワ―――ン!!!」

 空いている左側でリンリンを抱き寄せて、頭を撫でてやる。

「ごめんごめん。リディアも、リンリンも……」


 ミャアァァァァ―――ッッ!!

 グルルルルル……


 突然の唸り声。
 と同時に、俺の敵意感知センサーも警報を発令する。

「むっ?」

 マメだ。
 咄嗟に涙を拭きながらリンリンがマメを抱く。

「まずい、見つかった」
「どうした?」
「話は後だ。体は動くか? マッツ。動くなら……逃げるぞ」

 確かに恐ろしい気配がビンビン伝わってくる。

「わかった、行こう」

 リディアの肩を借りて立ち上がるが、意外に大丈夫そうだ。だが、もうちょっとくっついていてもらおうか。

 フッフッフ……


 そんな俺の顔をジッと見つめるリディア。

 う……見透かされている……やはり俺はここで死ぬのだろうか。


「助けてくれたし、許しといてあげるわ」

 ニコッと笑い、小声で囁く。


 ……なんと! やっぱり天国じゃないか!

 敵意をビンビンに感じながら、そんな馬鹿な事を考えていた。


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