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第5章 陽の当たる場所に
5人目の超人(2)
しおりを挟む「参ったわね……こんなの、探しようがないわ」
マッツ達が特大の塵旋風に巻き込まれ、砂丘の死角にある岩陰の裂け目から地下に落下した後、そうとは知らないヘンリック、アデリナ、リタ、クラウス達は、4人で手分けして付近を捜索していた。
しかし、見渡す限りの似た景色、どこを探したのかも曖昧なまま、時間だけが過ぎて行く。
夜になり、これ以上の捜索は困難と思われた。
「取り敢えず、今日はここでテントを張るわ。明日の朝まで待って見つからなかったら、予定通りウェルゴを目指しましょう」
マッツ達の旅のルール、『はぐれた時は次の目的地が集合場所』に則って、そう判断するリタ。そうして野営する事にしたリタ達だったが、実はこの時点では、高低差を除けば、彼らは非常に近い所にいたのだ。
―――
ほぼ同時刻、マッツ達は地下の洞窟の中で移動を始めていた。
「一体、何なんだ、ここは……?」
洞窟内は、リヒト・サボテンと言われる一風変わった植物が生えている。
このサボテン、砂漠で見た時は何の変哲も無い、ただのサボテンだと思っていたんだが、この洞窟内では緑色に光っており、照明になってくれる。暗所で光る性質を持つ、デキる奴らしい。
とにかく敵意から離れよう。
そう考えて進んでいるが、行けども行けども、一向に離れる気配が無い。
そいつは、ピッタリと着いて来ている。
「やれやれ……一体、誰なんだ?」
いい加減、業を煮やした俺が剣を抜き、振り向こうとすると、慌ててリンリンが小声で制止する。
「止まるなマッツ。ここで奴と戦うのはまずい。マッツが五体満足ならまだしも、今の状態では……」
「リンリンはこの場所について、どこまで知ってるんだ?」
そう聞くと、子供の癖に苦虫を噛み潰したような顔をするリンリン。
「ここはダマ砂漠の地下迷宮じゃ。そしてここの主は死神ガイア・ヴラスト」
死神って、これまた、怖そうな名前だな。
……
……
……地下迷宮?
なんだって!?
「ちょっと待って、リンリン。俺の聞き間違いだったらすげぇ嬉しいんだが……今、ひょっとして『地下迷宮』と言ったか?」
「言った」
ガ―――――――――ン!!!
なんてこった!!!
「どうしたのじゃ?」
リンリンが聞き返すが、リディアも思い出したようだ。口を押さえている。
「マッツ、ひょっとして……コンスタンティンが言っていた……」
「オ――ウ……」
頭を抱える。
行ってはいけない、戦ってはいけない、そう教えてもらうと必ずそれに遭遇する。
この旅のオカルトなところだ。
―――
『どうやらあそこにも地下迷宮があるようだ。だが、絶対に行ってはいけない』
―――
コンスタンティンは、自分が行けばきっと死ぬだろう、とも言っていた。
あいつが歯が立たないとか、想像もつかん。
「こりゃ、やばいぞ」
「マッツ、ついでにもう1つ、言っておくわ」
リディアが真剣な眼差しで俺を睨む。
この話の流れで『ついで』って……
「この地下迷宮、魔法が使えないわ」
……
ガ――――――――――――ン!!!
「魔力無効の地下迷宮じゃ。だからリディアはマッツにヒールをかける事が出来なかった。無論、リンも召喚魔法が使えない」
「ごめんね、折角、ツィ系統も使えるようになったのに……」
「オ―――ウ……」
両手で頭を抱える。
「……あれか、古竜の大森林で俺とアデリナが落ちた谷。蝙蝠谷、だったか。あそこと同じって事か」
「蝙蝠谷まで行ったことがあるのか。なかなか面白い旅をしておるのう。そうだ。あそこと同じ、一切の魔力は無効。そして……」
リンリンが話を続けようとしたその時!
敵意が飛躍的に高まる!!
「マズい、一気に近くまで来た」
もはや、逃げられない。
リンリンとリディアを俺の背後に庇い、敵意の方向へシュタークスを構える。
(やるではないか……気付いたか……)
姿は見えないが、嗄れた恐ろしい声がこだまする。
「取り敢えず姿を見せてくれよ。もう逃げないからさ」
まずはフレンドリーに接してみる。
声は怖いが優しい奴、という可能性もある。
(目の前にいるぞ)
え!?
どこだ?
え? え? あ、いや、確かに……
何やら輪郭がはっきりしないが、段々と姿が見えてくる。
「ええぇぇぇ……」
骸骨だった。
いや、正確には骨と皮のみか。目がギョロッとしてて不気味な事、この上ない。
背丈は2メートルほど。
剣を構えているし、筋肉質なので、剣士だとわかる。
体は筋肉モリモリなのに、顔はほぼ骸骨というアンバランスさが不気味さを醸し出す。
そこまでであれば、ちょっぴり背の高い強面の剣士、というだけだったのだが……
腕が6本あった。
そして、それぞれに剣を握っている。
「どうも、初めまして、マッツ・オーウェンです!」
いきなり斬りかかってこないところを見ると、礼儀を重んじるタイプかもしれない。
ここは挨拶だ。
(うむ。なかなか良き心構え。我こそは『死神ガイア・ヴラスト』。現在の5超人には含まれんが、前々代位の超人である)
ぐっは。
なにこの試練の道。
「前々代……の超人様ですか。一体、お幾つ位なんです?」
(生まれがパルゥス歴500年位だから、5000歳といった所か。存分に敬うがよいぞ)
「はは―――ッッ!!」
大仰にお辞儀をする。
ヒムニヤより歳上か。ほんとに凄い。
ケッケッケと、奇妙な笑い方をする目の前の骸骨。
いや、顔が骸骨っぽいだけなのだが。
しかし、会話のおかげで敵意がかなり引いてきた。
こんな事もあるんだな。
(我は、史上初めて、魔力を一切持たずに超人となった人間だ)
「おおお! なんと素晴らしい!!!」
腕は6本だが、人間なんだな。
またもやケケと笑い、悦にいるガイア・ヴラスト。
(我は何故かこの地下迷宮から出る事が出来ん。その為、時々、こうやって上を通る奴らを引き摺り込んで相手させるのだ)
ぐっは。最低!
てめえの暇つぶしの為に俺は死にかけたってのか!
しかし、魔力無効ってんなら、修羅剣技の詠唱も使えないって事だ。確かにリンリンの言う通り、今の俺は五体満足とは言い難い。分は悪そうだ。
だが、こうやって話している間にも、どんどん回復していくのがわかる。
「相手させると言いますと……」
(我を魔法で楽しませてくれるか……もしくは、剣の勝負だ。わかっているぞ? お前、腕に覚えがあろう? 我が満足すれば、地上に返してやろう)
魔法で楽しませるってどう言う事だ?
「ここが魔力無効の場所だと気付いていないんじゃ。元々、魔力0だから」
背後に隠れるリンリンが小声で耳打ちする。
成る程。
参ったな……
「そうじゃ! リディア! お主……」
何かリンリンが思いついたらしい。リディアにボソボソと耳打ちし始める。
だがガイアの言ったのは選択肢のようで、そうではない。実質、一択だ。逆に悩む事もあるまい。
「わかった。しょうがねぇ! 俺が……」
「待って!!」
不意にリディアがそう叫び、俺の横に出て来る。
「リディア……?」
「死神さんを魔法で楽しませたらいいのね?」
(おお! そうだ。そもそも魔法とはどんなものかもよく知らんが、楽しませてくれればそれで良い!!)
そりゃ、ここに引きこもってたら、一生、魔法なんてわからねえだろう。
「フフフ……稀代の魔術師、エルナ・グナイストの一番弟子、リディア・ベルネットの魔法を見せてあげるわ!」
そう言って、見慣れない短いロッド? のようなものを取り出し、頭の上に掲げる。
「今から、このタネも仕掛けも無い杖から爆炎をおこして見せるわ!」
??
(おおおおお! そんな凄い事が出来るのか! ワクワク……)
ワクワク……ってお前……
しかし、リディア、大丈夫か?
「よぉく、この杖の先を見てなさい? 行くわよ? 3、2、1……それッッ!!」
(おおおおおおおおおおおおお!!!)
……
ポンッッ
杖の先から、花が咲いた。
……
「(ちょちょちょっとリンちゃん! 話が違うじゃない!)」
「(あれれ? 何でじゃろ? 間違えたかな……?)」
何をやっとるんだ、何を……
あ! ―――
さては、ニヴラニア東海岸の船上の店で買った、奇術のオモチャだな?
これじゃガイア・ヴラストも怒り心頭……
(のおおおおおお!! す、す、凄い! これが魔法という奴か!! 何も無い杖から花が咲くだとぉ! しかも、最初に『爆炎』と言っておくことで、見る側を緊張、怯えさせ、そこに白く儚げな花を咲かせる事で一気に安心、且つ朗らかな気持ちにさせる、緊張と緩和を用いたテクニック! こんな高等な魔術を見れるとは……長生きは、するものだ!!)
……何言ってんだこいつ。
(こんな素晴らしいものを見せられては感服するよりない。見事だッッ!!)
「わわわ、私にかかれば、こここ、こんなものよ!!」
腰に手を当て、何とか威厳を保つリディア。
(ううむむ……これ程見事なものを見せられては、引き下がるより無い。約束通り、地上に連れて行ってやろう)
何これ……
助かった……のか?
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