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第6章 魔獄
『世界の眼』突入(2)
しおりを挟むテンペラとオレスト、2人の戦いは熾烈を極めた。
振り回される数メートルの金棒を双剣でうまく受け流し、衝撃破による斬撃を繰り出す。
サイズが違いすぎるため、近づくことが出来ない。従って衝撃波でしか攻撃できないのだろうが……
簡単に衝撃波と言うが、誰にでも出せるものではない。
常時、衝撃波を繰り出すオレストは、常に剣の先端が音速を超えているということだ。両手に1本ずつ持つ双剣で、この事実は尋常ではない。
オレストの攻撃は確実にテンペラに傷をつけていく。
が、どこまでダメージが届いているかは微妙だ。
戦いながら何やら会話する二人。
「この前の魔法使いも存外強かったが、お前もやるのう」
言いながらも金棒を振り回すのは止まらない。
「この前の魔法使い……コンスタンティンの事か」
「名前など知らん。が、俺のここに穴を開けて行きやがった」
そう言いながら額の3つ目の目を指して言うテンペラ。
「あるじゃないか、目」
オレストがそう言うとフンと鼻を鳴らし、
「どれだけ時間がたったと思っているんだ。これだけ時間たったら、普通、再生するだろ」
「いや、しないだろ」
そしてあのでかい金棒を双剣で受け止めるオレスト。
「おお! お前、凄い力だな。ちっこいのに」
「フン。余裕こいていられるのも今の内だぜ?」
そう言うと、受け止めた金棒に飛び移るオレスト。
そして、テンペラの眼前に飛び移る。
「とぉりゃッッ!!」
一刀両断!!
いや、二刀両断か。テンペラが綺麗に3分割!!
されたかと思いきや、なんとテンペラ、薄く消えていく!!!
「え~~何だよ、面白くなってきたってのに……」
口をへの字に曲げ、つまらなそうに金棒を肩に担ぐテンペラ。
「おい、そこのちっさいの。残念だが、召喚者に呼び出された。続きはまた、だ」
そう言うとどんどん薄れていき、そして完全に消えてしまう。
「やれやれ。全くダメージは受けていなかったようだが……取り敢えず追っ払ったぜ?」
「いや、十分さ! やっぱり強いな! オレスト!!」
「まぁな! あんなの、全然余裕だぜ」
そう言って、悪びれず仰け反って胸を張るオレスト。
分かり易い奴だ。
だが、こいつが聖剣を持っていたら……ひょっとしたら致命のダメージを与えていたかもしれない。
「さて、少し邪魔が入ったが、行くぞ」
そんな泣き言は一切言わないオレスト。
口は悪いが、立派な奴だ。
皆、オレストの下に集まる。
再度、『飛行』し出すと、今度は目の前の大きな穴に落ちていく。
1分ほど飛んだだろうか。
段々と地底が見えてくる。
赤い。
そして何やら恐ろしい、身の毛もよだつオーラを感じる。これが『魔界に近い』という事だろうか。
地底が動いている。
いや、違う。
落下しながら、目を凝らす。
モンスターだ。
それも尋常な数ではない。
以前、『タカ』にモンスターの大群が押し寄せてきた事があったが……
あれの10倍はいる。
そして、感じる強さは数百倍か。見たことの無い奴らばかりだ。
モンスターの群れを見渡せる位置まで降りて来た。
「むむむ?」
リンリンが首を傾げている。
「どうしたの?」
「いや……『探訪者』ヘネ・ルードの記述が正しければ、この程度の数ではない筈なんだが……」
そっち!?
まだ少ないってことか。
それでも数千はいる超ド級のモンスター群。
「ま、いいか。では、一掃するぞ?」
事も無げに言う少女。
体が銀色の光を帯び、輝き出す。
「来たれ神の尖兵。我が剣となり、我が敵を滅せよ……『神巨人』!!」
リンリンがそう叫ぶと、目の前に段々と姿を見せる銀色の巨人!
大きさは先ほどのテンペラの倍以上ある。
ウオオオオオオオッッッ!!
体の芯に響く唸り声を上げたかと思うと、手に稲妻を発現させる!
稲妻って持てるのかよ!!
ドッシュゥゥゥゥゥゥ!!!
上手投げで稲妻を投げる巨人タイタン。
稲妻が落ちた付近にいたモンスターは根こそぎ、消滅する。
凄まじい威力!
そして次から次へと稲妻を作り出しては投げる。
ドッシュゥゥゥ……ドォォォォン!!
ドッシュゥゥゥ……ドォォォォン!!
ドッシュゥゥゥ……ドォォォォン!!
それが繰り返され、あっという間に殲滅。
殲滅し終わると何も言わずにそのまま、ス―――ッっと消えゆくタイタン。
「すご……」
ナディヤが可愛らしい大きな目を見開いてため息をつく。
しかし、全員が同じ気持ちだろう。
これは凄い。
海竜王の時も思ったが……圧倒的すぎる。
人間がどうこう出来る次元の戦いじゃない。
オレストの先導の元、一旦、地底に降り立つ。
「さて、ここからは飛竜に乗って移動するぞ」
そう言ってリンリンが人数分の飛竜を召喚する。
皆が素早く飛竜の背に跨ると、次々と翼を広げて羽ばたき出す。
オルトロス2頭は本気で走ればかなり早いらしく、地底を走らせる。
「見て、マッツ!」
俺の横にいたリタが、タイタンが掃除した広場を指差し、大声を出す。
言われる方向を見ると、なんと、ポツポツと新たにモンスターが湧いてくるではないか。
「げっ。何あれ……」
なるほど。
これが『いくら倒しても果てしなく生まれ続ける』ってやつか。
「そうか……わかったぞ。ヘネの書にはこの広場に万を超えるモンスター群、と記述があった。確かにここは、今見たみたいに、放っておけばすぐに再生し出す。だと言うのに、ここには数千体しかいなかった」
「コンスタンティンか!」
後方からオレストが嬉しそうに叫ぶ。
「そうだ。おそらく、コンスタンティンだ。あいつがやったんだ。あいつが数万のモンスターを壊滅させたに違いない」
「なんと! たった1人の魔法使いがか! すごいなあ、それは!」
リンリンがビックリしてそう言うが、きっと数万でもリンリンなら殲滅出来たんだろうな。さっきの凄まじい召喚魔法を見てしまうとそう思ってしまう。
だが、超人たるリンリンがそう言ってくれるのは素直に嬉しい。
「そうだ。凄いんだ、あいつは!」
自分の事のように自慢気にそう叫んだ。
そうしてしばらく飛竜で進んでいると、遂に広場の壁に辿り着く。
その壁面にはいくつか穴、つまり、通り道がある。
ヘネ・ルードによれば、『魔力の暴風域』に行くには、常に大きな道を通れば良いという事だった。
だが……違う。
俺はあの小さい洞窟へ進まなければならない気がする。
「皆、すまん。少し、寄り道させてくれ」
「え?」
「お前、この場所、知ってるのか?」
無論、知っている訳が無い。
「一体、どうしたの?」
リタが怪訝そうに聞いてくる。
「俺にもよくわからないんだけど……この小さな洞窟から『テンさま』の気配を感じるんだ」
「ええぇ!?」
「お前、そんなのわかるのか!!」
驚くオレストに、「ああ、なんとなくね」と返し、数ある小さな洞窟のひとつを進む。
飛竜でかろうじて進める程度の規模だ。
そのまま10分ほど進んだだろうか。
何かが壁際で光るのが見える。
近くまで寄ると、どうやら小さな『祭壇』のようだ。
飛竜を降りて祭壇に近づく。
「おそらくだが、ここに神の種があったんだろうな」
俺がそう呟くとリンリンが近寄って来た。
「成る程。確かにここにあればヘルドゥーソは手が出せんじゃろな。これほどの神霊力で守られていたのでは……」
そして……
敢えて見たくなかったのだが。
祭壇の前に真っ赤なローブだけが人型のまま、落ちている。肉体は無い。
忘れもしない。
この派手なローブはエッカルトのものだ。
この洞窟の霊気で消滅したか、はたまたヘルドゥーソにやられたか、痕跡も無く綺麗に体だけが消えているが、手のあたりを見ると「先生を助け……」と地面に書いてあった。
死ぬ直前、最後の力を振り絞ったか。そして不意に思い出す。ニヴラニアからマリー島へ船で移動しながら『世界の眼』を見つめていた時に聞こえてきた声。
『助けてくれ』
きっとあれはこいつだ。死ぬ間際、最後の力を振り絞り、俺に伝えたんだ。先生を助けてくれ、と。
不意に涙が込み上げて来る。
『タカ』では苦しめられたが、再会したこいつはコンスタンティンと本当に楽しそうにしていた。
振り向くとリディア、アデリナも大粒の涙を流していた。
「俺に任せとけ。お前の先生は絶対に助け出してやる。そしてお前をこんな目に合わせたヘルドゥーソは、必ず……ぶっ飛ばしてやる」
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