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第6章 魔獄
『世界の眼』突入(1)
しおりを挟むオレストとリンリンが交代で飛行している。
今、俺達はニヴラニアやマリーなど、リナ諸島、ペレ諸島の島々を遥か下に見ながら、素晴らしい景色を堪能しつつ、竜に乗った時よりも遥かに快適な空の旅の途中だ。
遂に『世界の眼』に突入する。
一刻も早くコンスタンティンを助け出したい。
その為の準備は万全だ。
「今日はマッツの誕生日ね」
「え!?」
ほぉ……
もうあれから1年たったのか。
前回は……ドラフジャクドで皆と1週間の面談期間中だったか。
「その顔は、また忘れていた顔ですね」
クラウスが笑いながら指摘する。
「ああ。まあ、忘れていたな……ハハ。だが」
皆に向かい、宣言する。
「皆に言っておく。ここからもそこそこ日にちのかかる旅となる。そして今までに無い過酷な旅となる。これから誕生日の事は一旦忘れろ。無事、地上に戻り、全てを解決してから改めて皆でやろう」
皆、大きく頷く。
「さて、じゃあ『世界の眼』についておさらいしようか」
アスガルドの王都、ミルディクで何度か勉強会を開き、予習をし、対策を打った。突入前に最後の総ざらいだ。
オレストに飛行を任せている間に、リンリンが過去に存在した超人、《探訪者》ヘネ・ルードが書いた書物の複製を取り出し、概要を語りだす。
―――
『世界の眼』は、文字通りこの世界の中心に位置する、地上とは一線を画した魔界に近しい場所である。
『魔力の暴風域』と呼ばれる、隔離された地域と出入り出来る、唯一の場所でもある。
大地から生まれ出づる魔力で形成された黒い竜巻で覆われているが、それは通常、目に見えるものではなく、卓越した魔力を持つ超人、もしくは『神視』特性を持つ者のみがそれを目視でき、安全に出入り出来る。
そこは地上ではほぼ見る事の出来ない、超級モンスターの巣窟である。太古、創世神達がこの美しく善意に溢れた世界を作り出した時の歪み、カスのようなものより生まれた者達ではないか、と推測する。
従ってこれらのモンスターは地上の善意とは表裏一体、いくら倒しても果てしなく生まれ続ける。
『世界の眼』の地底は、海の底の更に下にあり、そこは洞窟と広大な空間で構成される。
歩いて魔力の暴風域まで行こうとすれば半年以上はかかる為、基本は飛竜等、飛行種もしくは大型の四足動物に乗って移動することになる。
基本的には一本道となっているが、所々に脇道があり、全て踏破すると数年はかかる。
『魔力の暴風域』への道は、常に大きな道である。
稀に、更に深い階層に落ちる場所があり、落ちてしまうと脱出は極めて困難、ヘネ・ルードの同行者も落ちた事があり、上から助け出すことは出来ず、脱出するのに難儀した、と書かれている。
魔力無効の領域が複数、存在する。
『魔力の暴風域』との境界には巨大な門があり、物理無効、魔力無効の虹竜が守護している。神界の生物の1つと思われる。
手ぶらで行くと戦闘になるが、戦って勝つ事は人類では不可能。
地霊達が住まう村があり、そこに辿り着けば終わりは近い。
彼らに助力を求め、虹竜と交渉することで、『魔力の暴風域』への門を通る事が可能となる。
―――
以上が、『世界の眼』踏破への概要だ。
たったこれだけで踏破が困難であることがわかる。
魔力無効の領域ではリンリンが召喚した召喚獣が消えてしまうため、その対策として、既にオルトロスが召喚できる召喚符を全員に配っている。
また、同じようにこれに備えていたリディアとクラウスも、バフ効果が現れる霊符、治癒効果を持つ霊符を魔力を込めて作っていた。
空の旅は結局、7日間。
そして、諸島を船で移動していた時に見た『黒い台風』が近づいてくる。
皆、異様な何かを感じているようだが、視えている俺はたまったものじゃない。
もう、目の前に暴風が渦巻いている。
オレストに飛行を停止してもらう。
「今、俺達の目の前にあの黒い台風が吹き荒れている。今から突入するが、書物によれば超人か、『神視』を持つ者のみが安全に出入りできるそうだ。つまり俺とリンリン以外は安全じゃないかもってことだ。……覚悟はいいか?」
「ま、何とかなるだろ。コンスタンティンも入れたんだからな」
オレストがぶっきらぼうに言い放つ。
「行くぞ?」
「ああ、頼む」
目の前に黒が迫り―――
そして突入!
視界が真っ暗になる。
頭の中を轟音が響く。
オレストを見ると……今のところ、問題はなさそうだ。他のメンバーも大丈夫そうだ。よかった。
そのまま数十秒、暗く、何やら神秘的な力が渦巻いている台風を抜ける。
入ってみると、やはり台風や竜巻、そのもののように思えるが、物理的に風が吹いている訳ではないらしい。オレストの飛行にも影響はないようだ。
不意に明るくなる。
抜けた。
黒い台風を。
見ると、台風の内側、目の部分にいる感じを受ける。
今、俺達は渦の中心にいる。
下を見ると島が見える。そして島の中心はポッカリと穴が空いている。
「あれが『世界の眼』……」
誰かがポツリと呟く。
皆、無事なようだ。
どうやら超人もしくは『神視』を持つ人間が1人いれば大丈夫なようだ。
「よし、皆、無事だな? オレスト、あの島に降りてくれ」
頷き、島に向けて下降するオレスト。
無事に着地、1週間振りの地上だ。
「足がフワフワしていて気持ち悪いですね」
ずっと空にいた後遺症か。クラウスの言う通り、まだ足の感覚が陸地に慣れておらず、ふわふわして気持ち悪い。
「この穴が『世界の眼』の地底へと続くのか……」
島の中心にポッカリと空いている大きな大きな穴。
「ヘネ・ルードによれば、ここを降りると超ド級モンスターの巣窟となっているそうだ。皆、心の準備はできたか?」
リンリンが周りを見渡して確認する。
無論、この期に及んで異論の有る奴などいない。
皆、強く頷き、オレストが「じゃあ、行くぞ」と言ったその瞬間!
目の前の空中が割れた!
バリバリッ! バリバリバリバリッッッ!
あろうことか、そこから2メートルほどの巨大な頭がのぞき出す。
「入る前にも洗礼があるってことか」
オレストは平気そうだ。いや、むしろ少し笑っている。
俺達の旅の話を聞いて羨んでいただけの事はある。
丸い顔に、普通の顔の造形。
額にも目があり、3つの目にはいずれも瞳が無く、金色の長髪、憤怒の形相を見せ、空間から産まれてくるように出現する巨人!!
体長10メートルほどの巨大な体躯、そしてそれに似つかわしくない……
「足、みじかッッ!!」
見事に11人がハモる。
「誰が……短足じゃいッッ!!」
両手に持つ数メートルサイズの金棒が振り下ろされる!!
ドッゴォォォォン!!
皆、問題なく、初撃を避ける。
「声、たっかッッッ!!」
「誰が高音が綺麗じゃいィィィ!!」
ヘンリック、リンリン、ラディカの辺りを狙った2撃目!!
飛び退き、これも綺麗に避ける。
「誰も言ってねぇよ、そんな事!」
言いながら、修羅剣技のモーションに入ろうとする所をオレストが制止する。
「マッツ、俺がやろう」
するとリンリンが口を挟む。
「待て、オレスト。あいつは魔界の7魔神の1人、テンペラ。何故こんな所にいるかはわからんが、奴は魔法の耐性が極めて高く、攻撃は物理のみ。お前とは相性は良いはずじゃが、人間が簡単にどうこう出来る存在ではない」
魔神!
アスラと同じ……そう考えるだけで寒気がしてくる。アスラとの一戦はいまだにトラウマだ。
しかしオレストはニヤリと笑うと、
「魔人……いいなぁ。そういうのとやりたかったんだよ。アスガルドで偉そうに椅子に座ってても経験できねぇ事だからなぁ。オリオンもこんなのとやってたんだろ? 問題ねぇ」
そう言って双剣を抜き放つ。
「おお。お前、強そうだのう。来んかいッッ!!」
金棒をクロスの形にして胸の前で構えるテンペラ。
「ふん。俺に出会った事を後悔して魔界に帰れッッ!」
なんて頼もしい奴だ!!
任せた!
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