160 / 204
第5章 陽の当たる場所に
出発前夜
しおりを挟む「つまり……本来ならもうランディア王からのミッションは達成しているけど、貴方達はあの超人を倒しに行くって言ってるのね?」
「そうだ」
ケルベロスだった彼女達の住処から王城に向かう間に、今の俺達のミッションが神の種の収集である事と、ヘルドゥーソをぶっ飛ばしに行く事を告げる。
「アイツは俺達の大事な友人、コンスタンティンに手を出した。絶対に許さない。だが生身のアイツの力は強大らしい。是非、お前達の力を貸して欲しい」
「私はマッツ様の言う事は何でも聞くよ!」
「そうね。勝手に操ってくれた借りも返さないとね」
ナディヤとラディカがすぐに応じてくれ、ディヴィヤもコクッと頷く。
敵の本拠に乗り込む前に心強い味方が増えたものだ。
そうして王城に戻り、改めて皆に説明、紹介をする。戦った当事者のリタやクラウスも反対するどころか、歓迎して受け入れてくれた。
―
1日、2日、と過ぎ、各自、出発の日に向けて、準備、支度をする。
そして、聖騎士オレスト ―――
コイツには本当に世話になった。腹が立つ事もしばしばだったが、聖剣2本を気前良く貸してくれた上、コイツがいなければ神の種の発見も、ディヴィヤ達が仲間になる事もなかった。
今、この旅の支度中も、王城の一画を貸切にしてくれ、各自個別の部屋と会議室、荷物置き場など、自由にさせてもらっており、非常に手厚い待遇を受けている。是非とも礼を言い、帰ったらまた会う約束を、とそう思い、奴の部屋へ向かったのだが、「は?」と言われてしまう。
「『は?』って何だよ。世話になった礼を言いに来たってのに」
「礼って何だよ。俺も出発する準備してるってのに」
「……は?」
「『は?』って何だよ。俺も行くって言っただろうが」
どうやらオレスト、本当に俺達に付いて来てくれるらしい。既にそのように周囲と調整し、国王エーヴェルトにも話は通してあるらしい。
エルトルドーとの戦いの前にオレストが言っていた言葉は本気だったらしい。適当な気分屋の言葉位にしか受け取っていなかった。
「オレスト! ……助かる!」
手を握りしめ、頭を下げるが、やめろ、と言われる。「コンスタンティンは俺にとっても大切な友人。助け出すのは当たり前だ」と。そして固く握手を交わす。
こいつが戦った所を見た事はないが、強いのは立ち居振る舞いで既にわかっている。
ヒムニヤとコンスタンティンのお墨付きもある。
ディヴィヤ達と違い、ヘルドゥーソとの戦いが終わればアスガルドに帰ってしまうが、最後の決戦前に超強力なメンバーが加わった。
更に4日、5日と過ぎ、ついに支度が整った。
やはり荷物が多くなり、リンリンに荷物持ち用の幻獣はいないかな、と相談した所、オルトロスという犬だか狼だか見当のつかない双頭の巨獣を2頭、召喚してくれた。戦っても強いそうだが、荷物を持たせる以上、場所が場所だけにこれを守る担当がいるだろう、とアドバイスを貰う。
それを機に、パーティ内の役割分担を決め、周知しておいた。
◾️前衛
マッツ・オーウェン
リタ・ケルル
ヘンリック・シュタール
オレスト・ディーン
◾️中衛
リディア・ベルネット
アデリナ・ズーハー
クラウス・シャハト
リンリン
(マメ)
ディヴィヤ・クラナ
ラディカ・クラナ
◾️後衛
ナディヤ・クラナ
オルトロス
これで、総勢11人プラス3匹のパーティとなった。中衛、強すぎ!
広い場所で敵の数が多い場合は、リンリンの大型幻獣召喚による一掃、狭い場所ならラディカ、ディヴィヤは後衛に回り、背後の敵を討つ。
大抵の奴には負けようが無い。だが、相手は《滅導師》ヘルドゥーソ。神の種発現に備えて、ずっと計画を練っている奴だ。
しかも戦う場所は奴の本拠地、そして今度こそは思念体では無く、実体が相手だ。エルトルドーが言っていた事も気になるし、何を味方にしているかわからん。
どれだけ戦力を整えても不安は拭えない。
だがようやく、明日、出発する。
長かったこの旅の、遂に最終目的地だ。
そして……
夜中、コッソリと部屋を出る。
この日、俺は決行する。
ヘルドゥーソ戦を前に本能的に命の危機を感じているのかも知れないが、それが理由では断じてない。
リンリンに、俺には正妻がいる、と言われて意識したのかもしれないが、それが理由でもない。
廊下に誰もいない事を確認し……抜き足差し足、目的の部屋に向かう。
ドアの前まで辿り着き、ガチャ……とノブを回すと、空いているではないか!
不用心な!
王城の中とはいえ、誰か入って来たらどうすんだ?
この俺みたいに……
実は鍵が掛かってたら帰ろうと思っていたのだ。
だが、空いていた。
これはしょうがない。
もう入るしかないだろう。
ソロリソロリと部屋に侵入。
ソッと後ろ手でドアを閉める。
カ……チャ
小さな明かりとベッドが見える。
ベッドに近づく。
俺の心拍音がとてもうるさい。
息を殺しながら布団に手をかけ……
ゆっっっくりとめくる……
……
あれ?
……
枕が1つ。置いてある……だけ。
誰もいない……
「何の用かしら? こんな夜更けに……」
ドッッッッッッッッッッキィィィィィィィィィィィィィンッッッ!!
「ヒッッッッ」
口から心臓が飛び出た。
俺の背後、すぐ後ろからの声。
いかん。
これは予想外!
何故、こんな時間に起きているんだ……
「……私は毎晩、勉強していますから」
ぐっは!!
相変わらずの『読心』の鋭さよ。
俺の頭は覗けない筈なのに、確実に考えている事を当ててくる。
「そそそそうかい! ささささすがだなッッ!」
振り返りながら取り繕った笑顔でそう言ったが、リディアは笑いもせず、腰に手を当てて姿勢良く立っている。
そう。俺はリディア・ベルネットの部屋に夜這いに来たのだ!
その姿勢で数秒間、真顔で俺の顔を見つめる。
冷や汗がタラ~~~……と頬を伝う。
これはヤバい。
まさか背後を取られるとは思ってもいなかった。
ドアのノブと反対方向にテーブルがあり、成る程、あそこでエルナから預かったテン系魔法の奥義書を読んでいたんだな。
何か言わなければ……
だがこういう時なんと言ったらいいんだ? どう言えば正解だ?
「もう一度聞くわ。何の用かしら? こんな時間に」
全く笑わない。真顔のリディア。
だが、怒っている感じでも無い。
……取り繕っていてもしょうがない。
俺は何しに来たんだ?
「リディアを……抱きに来た」
「……はぇ?」
1、
2、
3秒……
ボッッッッ
リディアの顔が真っ赤に染まる。
いや彼女だけじゃない。
言ってる俺も一緒だ。顔が熱い。
だが、何も言わないリディア。
怒らない代わりに、頷くわけでもない。
ただこんなにはっきり言われるとは思わず、言葉が出ない感じか。
「リディア……ランディアに戻ったら……俺と結婚してくれ」
「え……なな、け!?」
言った!
これを言おうと決意するまで、どれほど考えたか!
旅の途中はマズイんじゃないか、とか、リディアは今、それどころじゃないんじゃないか、とか。
だが、決めた。
決めて、今日、夜這いに来たのだ。
まあ、そっちは失敗したんだが……
ビックリしたまま固まるリディア。
どう感情を持っていったらわからないみたいだ。
だが、頑張って口を開く。
「そ……それは、これから親玉を相手にしようって時に言ってはいけないヤツじゃ……ないの?」
「大丈夫だ! それは俺も考えた……だが、よく考えたら、ダメなパターンは、帰ったら故郷にいる彼女と結婚するんだ! と遠い目をして言うパターン、もしくは今みたいに告白するが、俺だけ死地に飛び込むパターンのいずれかだ!」
「お……おぅ……」
勢いで押し切る。
再び、俺の目を見つめて黙り込むリディア。
ベッドを背にして、リディアに近付く。
動かないリディア。
いや、動けない?
肩に手を置き……優しく抱き寄せる。
「あ……」
小さく呻く。
フワッと俺の大好きなリディアの匂いで満ちる。
「リディア、大好きだ。…………愛しています」
「……!」
俯いて俺の胸の中で震え出すリディア。
数秒後、ふと顔を上げると……
見事な泣き笑い顔をしていた。
リディアのはにかみなど、年に一回、見れるかどうかの超レアなものだ。
決戦前に良いものが見れた。
右手の人差し指で涙を拭いながら、小さく呟く。
「………………わたしも」
……!!
ズッキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!
クラクラする。
完全に撃ち抜かれる。
本当に目眩がして、ベッドにドスンっと座ってしまう。
すると、照れながらも俺の膝の上に後ろ向きに座るリディア。
おお……
そして俺の方に振り返って、
「ねぇ……私、もし今日寝てたら、その……本当にマッツに襲われてたの?」
そんな事を聞いてきた。
「ん……そうだ。襲われてた。そのつもりで強い決意で来たんだ」
そう言うとプッと吹き出し、口にグーをあてて可愛く笑う。
「え? どうして笑うの?」
「あ、いや、ごめん。だってマッツ、順番、無茶苦茶だもの……私を無理やり襲ってから、結婚してくれって言うつもりだったの?」
「あ……」
「それにプロポーズの後に『愛してる』って言ってたわよね。全部、逆よ、逆」
そこまで言ってフフッと笑う。
「でも……そんなマッツが……私も、大好き」
ひゃ~~~
リディアの口からはっきりとそんな言葉が聞けるなんて!!
不意に立ち上がり、俺の方に向き直る。
俺の顔を両手で押さえて、リディアから……唇を重ねてくれる。
そのまま、リディアの背中と腰を両手で抱き寄せる。
「フグッ……」
目を見開いて驚くが、構わずにそのまま、体を入れ替えてリディアを仰向けにベッドに寝かせる。
何度も唇を重ね、そして……体を重ね、激しく、何度も求め合った。
初志貫徹。
ようやくリディアと結ばれた俺は夢見心地のまま、彼女と朝まで1つのベッドで過ごしたのだった。
あ……結局、プロポーズの答え、聞くの忘れた。
0
あなたにおすすめの小説
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました
ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公
某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生
さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明
これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語
(基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!
naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】
気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。
大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。
魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。
しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、
気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。
王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。
「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」
異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、
悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。
笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる