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第5章 陽の当たる場所に
出発前夜
しおりを挟む「つまり……本来ならもうランディア王からのミッションは達成しているけど、貴方達はあの超人を倒しに行くって言ってるのね?」
「そうだ」
ケルベロスだった彼女達の住処から王城に向かう間に、今の俺達のミッションが神の種の収集である事と、ヘルドゥーソをぶっ飛ばしに行く事を告げる。
「アイツは俺達の大事な友人、コンスタンティンに手を出した。絶対に許さない。だが生身のアイツの力は強大らしい。是非、お前達の力を貸して欲しい」
「私はマッツ様の言う事は何でも聞くよ!」
「そうね。勝手に操ってくれた借りも返さないとね」
ナディヤとラディカがすぐに応じてくれ、ディヴィヤもコクッと頷く。
敵の本拠に乗り込む前に心強い味方が増えたものだ。
そうして王城に戻り、改めて皆に説明、紹介をする。戦った当事者のリタやクラウスも反対するどころか、歓迎して受け入れてくれた。
―
1日、2日、と過ぎ、各自、出発の日に向けて、準備、支度をする。
そして、聖騎士オレスト ―――
コイツには本当に世話になった。腹が立つ事もしばしばだったが、聖剣2本を気前良く貸してくれた上、コイツがいなければ神の種の発見も、ディヴィヤ達が仲間になる事もなかった。
今、この旅の支度中も、王城の一画を貸切にしてくれ、各自個別の部屋と会議室、荷物置き場など、自由にさせてもらっており、非常に手厚い待遇を受けている。是非とも礼を言い、帰ったらまた会う約束を、とそう思い、奴の部屋へ向かったのだが、「は?」と言われてしまう。
「『は?』って何だよ。世話になった礼を言いに来たってのに」
「礼って何だよ。俺も出発する準備してるってのに」
「……は?」
「『は?』って何だよ。俺も行くって言っただろうが」
どうやらオレスト、本当に俺達に付いて来てくれるらしい。既にそのように周囲と調整し、国王エーヴェルトにも話は通してあるらしい。
エルトルドーとの戦いの前にオレストが言っていた言葉は本気だったらしい。適当な気分屋の言葉位にしか受け取っていなかった。
「オレスト! ……助かる!」
手を握りしめ、頭を下げるが、やめろ、と言われる。「コンスタンティンは俺にとっても大切な友人。助け出すのは当たり前だ」と。そして固く握手を交わす。
こいつが戦った所を見た事はないが、強いのは立ち居振る舞いで既にわかっている。
ヒムニヤとコンスタンティンのお墨付きもある。
ディヴィヤ達と違い、ヘルドゥーソとの戦いが終わればアスガルドに帰ってしまうが、最後の決戦前に超強力なメンバーが加わった。
更に4日、5日と過ぎ、ついに支度が整った。
やはり荷物が多くなり、リンリンに荷物持ち用の幻獣はいないかな、と相談した所、オルトロスという犬だか狼だか見当のつかない双頭の巨獣を2頭、召喚してくれた。戦っても強いそうだが、荷物を持たせる以上、場所が場所だけにこれを守る担当がいるだろう、とアドバイスを貰う。
それを機に、パーティ内の役割分担を決め、周知しておいた。
◾️前衛
マッツ・オーウェン
リタ・ケルル
ヘンリック・シュタール
オレスト・ディーン
◾️中衛
リディア・ベルネット
アデリナ・ズーハー
クラウス・シャハト
リンリン
(マメ)
ディヴィヤ・クラナ
ラディカ・クラナ
◾️後衛
ナディヤ・クラナ
オルトロス
これで、総勢11人プラス3匹のパーティとなった。中衛、強すぎ!
広い場所で敵の数が多い場合は、リンリンの大型幻獣召喚による一掃、狭い場所ならラディカ、ディヴィヤは後衛に回り、背後の敵を討つ。
大抵の奴には負けようが無い。だが、相手は《滅導師》ヘルドゥーソ。神の種発現に備えて、ずっと計画を練っている奴だ。
しかも戦う場所は奴の本拠地、そして今度こそは思念体では無く、実体が相手だ。エルトルドーが言っていた事も気になるし、何を味方にしているかわからん。
どれだけ戦力を整えても不安は拭えない。
だがようやく、明日、出発する。
長かったこの旅の、遂に最終目的地だ。
そして……
夜中、コッソリと部屋を出る。
この日、俺は決行する。
ヘルドゥーソ戦を前に本能的に命の危機を感じているのかも知れないが、それが理由では断じてない。
リンリンに、俺には正妻がいる、と言われて意識したのかもしれないが、それが理由でもない。
廊下に誰もいない事を確認し……抜き足差し足、目的の部屋に向かう。
ドアの前まで辿り着き、ガチャ……とノブを回すと、空いているではないか!
不用心な!
王城の中とはいえ、誰か入って来たらどうすんだ?
この俺みたいに……
実は鍵が掛かってたら帰ろうと思っていたのだ。
だが、空いていた。
これはしょうがない。
もう入るしかないだろう。
ソロリソロリと部屋に侵入。
ソッと後ろ手でドアを閉める。
カ……チャ
小さな明かりとベッドが見える。
ベッドに近づく。
俺の心拍音がとてもうるさい。
息を殺しながら布団に手をかけ……
ゆっっっくりとめくる……
……
あれ?
……
枕が1つ。置いてある……だけ。
誰もいない……
「何の用かしら? こんな夜更けに……」
ドッッッッッッッッッッキィィィィィィィィィィィィィンッッッ!!
「ヒッッッッ」
口から心臓が飛び出た。
俺の背後、すぐ後ろからの声。
いかん。
これは予想外!
何故、こんな時間に起きているんだ……
「……私は毎晩、勉強していますから」
ぐっは!!
相変わらずの『読心』の鋭さよ。
俺の頭は覗けない筈なのに、確実に考えている事を当ててくる。
「そそそそうかい! ささささすがだなッッ!」
振り返りながら取り繕った笑顔でそう言ったが、リディアは笑いもせず、腰に手を当てて姿勢良く立っている。
そう。俺はリディア・ベルネットの部屋に夜這いに来たのだ!
その姿勢で数秒間、真顔で俺の顔を見つめる。
冷や汗がタラ~~~……と頬を伝う。
これはヤバい。
まさか背後を取られるとは思ってもいなかった。
ドアのノブと反対方向にテーブルがあり、成る程、あそこでエルナから預かったテン系魔法の奥義書を読んでいたんだな。
何か言わなければ……
だがこういう時なんと言ったらいいんだ? どう言えば正解だ?
「もう一度聞くわ。何の用かしら? こんな時間に」
全く笑わない。真顔のリディア。
だが、怒っている感じでも無い。
……取り繕っていてもしょうがない。
俺は何しに来たんだ?
「リディアを……抱きに来た」
「……はぇ?」
1、
2、
3秒……
ボッッッッ
リディアの顔が真っ赤に染まる。
いや彼女だけじゃない。
言ってる俺も一緒だ。顔が熱い。
だが、何も言わないリディア。
怒らない代わりに、頷くわけでもない。
ただこんなにはっきり言われるとは思わず、言葉が出ない感じか。
「リディア……ランディアに戻ったら……俺と結婚してくれ」
「え……なな、け!?」
言った!
これを言おうと決意するまで、どれほど考えたか!
旅の途中はマズイんじゃないか、とか、リディアは今、それどころじゃないんじゃないか、とか。
だが、決めた。
決めて、今日、夜這いに来たのだ。
まあ、そっちは失敗したんだが……
ビックリしたまま固まるリディア。
どう感情を持っていったらわからないみたいだ。
だが、頑張って口を開く。
「そ……それは、これから親玉を相手にしようって時に言ってはいけないヤツじゃ……ないの?」
「大丈夫だ! それは俺も考えた……だが、よく考えたら、ダメなパターンは、帰ったら故郷にいる彼女と結婚するんだ! と遠い目をして言うパターン、もしくは今みたいに告白するが、俺だけ死地に飛び込むパターンのいずれかだ!」
「お……おぅ……」
勢いで押し切る。
再び、俺の目を見つめて黙り込むリディア。
ベッドを背にして、リディアに近付く。
動かないリディア。
いや、動けない?
肩に手を置き……優しく抱き寄せる。
「あ……」
小さく呻く。
フワッと俺の大好きなリディアの匂いで満ちる。
「リディア、大好きだ。…………愛しています」
「……!」
俯いて俺の胸の中で震え出すリディア。
数秒後、ふと顔を上げると……
見事な泣き笑い顔をしていた。
リディアのはにかみなど、年に一回、見れるかどうかの超レアなものだ。
決戦前に良いものが見れた。
右手の人差し指で涙を拭いながら、小さく呟く。
「………………わたしも」
……!!
ズッキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!
クラクラする。
完全に撃ち抜かれる。
本当に目眩がして、ベッドにドスンっと座ってしまう。
すると、照れながらも俺の膝の上に後ろ向きに座るリディア。
おお……
そして俺の方に振り返って、
「ねぇ……私、もし今日寝てたら、その……本当にマッツに襲われてたの?」
そんな事を聞いてきた。
「ん……そうだ。襲われてた。そのつもりで強い決意で来たんだ」
そう言うとプッと吹き出し、口にグーをあてて可愛く笑う。
「え? どうして笑うの?」
「あ、いや、ごめん。だってマッツ、順番、無茶苦茶だもの……私を無理やり襲ってから、結婚してくれって言うつもりだったの?」
「あ……」
「それにプロポーズの後に『愛してる』って言ってたわよね。全部、逆よ、逆」
そこまで言ってフフッと笑う。
「でも……そんなマッツが……私も、大好き」
ひゃ~~~
リディアの口からはっきりとそんな言葉が聞けるなんて!!
不意に立ち上がり、俺の方に向き直る。
俺の顔を両手で押さえて、リディアから……唇を重ねてくれる。
そのまま、リディアの背中と腰を両手で抱き寄せる。
「フグッ……」
目を見開いて驚くが、構わずにそのまま、体を入れ替えてリディアを仰向けにベッドに寝かせる。
何度も唇を重ね、そして……体を重ね、激しく、何度も求め合った。
初志貫徹。
ようやくリディアと結ばれた俺は夢見心地のまま、彼女と朝まで1つのベッドで過ごしたのだった。
あ……結局、プロポーズの答え、聞くの忘れた。
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