神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第6章 魔獄

救出(2)

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 ルート①は、やはり……真っ暗だった。

 ヘネ・ルード様の仰る通りに飛竜ワイバーンの召喚を解き、皆、徒歩となっている。


 まずは取り急ぎ、『光弾』の霊符を破り、発動する。

 ボワッと人の頭の2倍ほどの明るい球が生まれ、辺りを照らす。フワフワと漂い、俺達の前方10メートルあたりまで移動、そのまま少し上の方に移動し、止まる。

 俺が進むとあの光の玉も動く。
 そのようにクラウスが設定してくれている。とても便利だ。

 中は縦横5メートルほどの小さな洞窟となっていて、先頭に俺、後ろにラディカとディヴィヤの2人が並んで歩く。


 軽く火竜剣技をぶっ放し、問題無く魔力が発動することを確認。だがそれは、残りの3隊のいずれかが魔力無効である、という事を示す。

 心配だ……


 少し進むとすぐに死霊レイスの大群に出会う。

  不死者アンデッド聖竜剣技サインドラフシェアーツが使える俺しか戦えないかというと、そうでもない。予め、リディアが全員の武器にあらゆるバフをかけてくれており、しかも相当に強力なものらしく、リンリンに言わせると希少な魔剣レベルに仕上がっている、との事らしい。

 光弾があるとはいえ、暗いのに加え、洞窟自体が広くはないため、戦い易いとは言えない。

 その中でディヴィヤもラディカも器用にお互いを避け、利用し、実体の無い敵を打ち倒していく。

 俺の戦い方が根本的に彼女達と異なるため、どちらかというと俺の方が足を引っ張っている位だ。


 取り敢えず、剣撃や衝撃波が飛ぶような攻撃は彼女達の邪魔になるだろう……

聖竜剣技サインドラフシェアーツ! 『ビラウスタ』!!」

 剣の振り幅が描く扇から照射される、聖なる光撃!
 これなら邪魔にもなるまい。

 死霊レイスの群れを瞬く間に殲滅する。

 が、まだまだ後ろにいるようだ。

 止まる事なく、一瞬で近寄り、時には洞窟の壁すらも利用し、確実に仕留める。さすがは元暗殺者アサシン、リタ達と互角以上に戦えるわけだ。

 彼女達を後ろから見ているが、まったく隙が無い。

 あせって『世界の眼』に出発せず、彼女達に声をかけてよかった。


 ―

 ようやく敵がいなくなる。
 数百体の死霊レイスを剣だけで斬り伏せた。

「後ろからずっと見ていたが……やっぱりすごいな、お前達!」

 だがラディカが笑いもせず、

「何言ってるのよ……凄いのはあんたでしょ……さっきのはヨトゥム山で怪物相手に見せた技ね。あんな威力の技は見た事ないわ」

 丸みを帯びた剣、カトラスを鞘に納め、腰に手を当てる。

「ケネトだっけ? あいつも似たような事やってたけど、大した事無かったし……」

 ディヴィヤも幅の広い見事な剣ファルシオンを戻しながら呟く。

「ええぇ……ケネトが大した事ないっつ―んなら、ドラフジャクドで戦ってたら、俺、負けてたかもしれないな……お前達とやったのが俺じゃなくてよかったよ」

 何故かお互いに褒め合いながら、道なりに進む。
 相変わらず洞窟は暗く、そして心なしか、ひんやりとしてきた。

 しばらく、モンスター共を倒しながら進んでいたのだが……


「む……」

 洞窟が3つに分かれている。
 聞いてないぞ!

 いや、洞窟の構成は毎回変わる、とヘネ様が仰っていたな。予期できないってことか。

「こっちだ」

 左のルートを選ぶ。

「わかるの!?」

 ディヴィヤが驚いて声を上げる。

「わからん」

 キツネにつままれたような顔をするディヴィヤ。

 わかる訳ないじゃないか!
 ただ、迷っている暇はないし、選ぶ根拠がないんだから、そもそも迷う理由が無い。

 ダメだったら戻ってくればいい。というか、そうするよりないんだ。

「フフ。ディヴィヤ、隊長の指示に従いましょう?」

 おお。そういえば俺は彼女達の隊長になったんだった。ラディカもディヴィヤも、既に所属はランディア守備隊だ。

「まあ、ラディカがそう言うなら……」

 少し唇を尖らし、不承不承、頷く。

「よし、行くぞ」

 左のルートを選択し、更に進む。


 ―

 食事にする。
 恐らく、晩飯だ。外が見えないため、腹の減り具合に頼る。

 食事と言ってもパンと干し肉だ。
 いつ、どこから襲われるかわからないので、鍋や火など悠長なものは使えない。
 硬いまま、かじる感じだ。

 食べながら、ふと気になっていた事を聞いてみる。

「お前達……物心ついた時から暗殺者アサシンと言っていたが、どうしてなんだ?」

 ちらっと俺の方を見やるラディカ。

「……私とディヴィヤは暗殺者アサシンとして育ったの」

 そのまま、表情を変えずにポツリと吐き捨てる。

暗殺者アサシンとして育つ……?」
「私もディヴィヤもカルマル国境の近くで生まれたのよ。私が4歳の時、家族はカルマルの暴徒に殺された。途方に暮れて泣いていた時に、旅の一座に助けられて王都ミルディクに連れて行かれたの」

 またカルマルか……
 エッカルトの家族もそうだし、評判悪いな、あの国は。

 干し肉をかじりながら、ディヴィヤも平然としている。

「その時、赤ん坊だった私がそこにいたみたいね」
「あれ? お前達、姉妹じゃないの?」

 真面目にそう聞いたんだが、何がツボったのか、アッハッハと口を開けて大きく笑うラディカ。

「面白い隊長だわ。私達、そんなに似てるかしら?」

 言われてみれば……
 改めて2人をマジマジと見比べる。

 ラディカはどちらかと言うと、フワッとした顔をしている。少しだけタレ目で唇が厚く、とにかく色っぽい。胸もお尻も素晴らしいボリュームだ。実にけしからん。

 ディヴィヤは猫目で唇はラディカほど厚くはなく、黙っていれば、ドラフジャクドで初めて会った時と同じ、キツい印象。スレンダーでスラっと長い脚をしている。

 2人とも実に綺麗だ!

「いやぁん……ディヴィヤ、うちの隊長がエッッロい目で身体中、舐めるように見てくるわ!」

 ラディカが怯えたフリをしてディヴィヤの後ろに隠れる。ディヴィヤも眉を下げ、ため息をつきながら、俺にとって最も恐ろしい言葉を吐く。

「……本当だわ。今の貴方の顔、守備隊長っていうより、『エロ隊……」
「ストォォォォォッッップ!! それ以上、言うんじゃあない!! その言葉は悪魔の言葉だ……絶対に言うんじゃない」

 立ち上がって、手を出し制止する。

 こんな地底まで来て、恐ろしいワードを聞かされる所だった。また無意識に顔がニヤけていたんだろうか。自覚が無いのが怖いな……

 ディヴィヤの背中から顔を出して、フフッと笑うラディカ。

「しかし、言われると確かに似てないな。ごめんごめん。ナディヤもディヴィヤも姉さんって言ってたからさ。疑いもしなかった」
「フフッ。別に何だっていいのよ。姉妹として生きていこうって誓ったのは確かだし」

 端正な口の端を少し上げながら、ディヴィヤが微笑む。

「でも、旅の一座だったら暗殺者アサシンと関係ないじゃないか」
「その『座』が暗殺者アサシン達だったのよ。そしてアスガルドの暗殺者アサシンギルドの前身」

 心なしか寂しげな顔をするディヴィヤの後ろからラディカの凛とした声だけが聞こえてきた。

「とにかく来る日も来る日も人を殺す技術ばかり教えられて……実際に人殺しもさせられた。逃げ出そうとした事はあったけれど……手練れの暗殺者アサシン相手に子供が逃げきるなんて、出来なかったわ」

 遠い目をしたディヴィヤも呟くように話す。

「私が7歳、ラディカが11の時にまた赤ん坊が1人。それがナディヤ。私達は地獄のような世界の中で、助け合い、姉妹として生きる事にしたのよ」

 そんな小さな子が毎日人殺しの訓練か……いや、訓練じゃなく……の時もあると言ったな。

 そりゃ確かに地獄だ。

「そう誓ったのに、毎日、人を殺し続け、いつしか感覚が麻痺していったわ。殺しのターゲットは大抵、恨みを買ってたり、不正な役人だったりしたけれど……優しくしてくれた町の人を命令で殺した事もある。好きになった人も命じられて殺したわ」

 不意にディヴィヤが言葉に詰まる。

「ふむ、なるほど。思い出させて悪かったな」

 ポンっと肩を叩く。
 ふと俺の顔を見上げるディヴィヤの顔に、頬を伝う涙が見える。

「だが、安心しろ。2度と人を殺すような事は無い。俺がそんな事はさせない。そうだな……ランディアに戻ったら、厨房に入ってみるか」
「そんなの無理よ!!」
「殺ししか出来ないって言ったでしょ!」

 2人仲良く、反論してくる。

「ハッハッハ! そんなのは覚えればいいさ。ま、厨房ってのは今、適当に言っただけだ。守備隊と一口にいっても仕事は山程あるんだ。その内、やりたい事も見つかるだろう。お前達はもう、あのスラムから抜け出したんだよ」

 ハッとした顔をしてラディカとディヴィヤの2人が見つめ合う。

 そしてラディカが覗き込むような目で俺を見て、

「貴方……なかなかの……ね」

 そう言うと、ディヴィヤも額に手をやり、嘆くように言う。

「リンちゃんが『マッツはよくモテる』って言ってたのが、凄くわかるわ」
「あ、え?」

 いや、そんなつもりで言ったんじゃなかったんだが……

「ねぇ、そういえばリンちゃんが言ってたマッツの『正妻』って、リディアちゃん?」

 ラディカが意地悪そうな顔をして、そんな事を言い出した。すると、ディヴィヤもジッと俺を見てくる。

「え? あ、うん。『正妻』って言い方が合ってるかどうかはともかく……俺はリディアが一番好きだ」

 言ってから『しまった』と後悔するが、もう遅い。

「ふぅん………………あのさ」

 ラディカがまだ何か言いたそうだ。嫌な予感がする。

「大人が異性を好きって言う時に、普通、『一番』って言わないよね? 世界で一番、とか歯の浮くような言葉は聞くけど。今のはそういう意味じゃないよね?」

 ギクリ。や、やはりか。

 デジャヴ……

 ディヴィヤもそれに乗り、片手で膝を抱えながら、顔だけこっちに向ける。

「私達の身の上なんて、今まで人に話した事無いんだから。今度はマッツが話してよ……一体、何番までいるの?」

 そして頰を染め、上目で見つめながら近づいてくる。

「その中に……私……入ってるかな……?」


 くっは……!!

 可愛すぎて……し、死ぬッッ!


 ―

 4ルートを攻略する前に、皆に、晩飯を食った後は動かず野営する、というルールを周知しておいた。

 最後の鍵を開けるため、ある程度、皆の足並みを揃える必要があるためだ。

 なので、今日は俺が寝ずの番をし、色んな話をしてから2人は寝かせた。

 結局、何番とか何人といった質問は、全て黙秘権を発動した。その代わり、といってはなんなんだが、ディヴィヤの可愛い可愛いについては、大きく、何度も頷いておいた。


 ヤバイヤバイ。

 ラディカがいなかったら、と思うとゾッとする。

 もし、仮に、万が一。

 ディヴィヤと2人きりであの顔、あのセリフをされたら……確実に絶対に速攻で押し倒していただろう。

 薄暗く狭い洞窟で二人きりとか……シチュエーションがヤバすぎる。


 ラディカがいた事に感謝しながら、誰も見ていないのを良い事に、無許可でディヴィヤの頭を撫でまくる。


 フッフッフ……

 見張り、最高!

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