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第6章 魔獄
魔神(7)
しおりを挟むリンリンに召喚された、目の前の4人の魔術師。
ローブに赤、土、青、黄の光をまとった、その魔術師達が詠唱を終える!
「『雷神の極撃』」
「『水神の極撃』」
「『炎神の極撃』」
「『土神の極撃』」
霊符に閉じ込められた時点で魔力を発動しているため、魔力無効のエリアでは、その結果だけが発現する。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
シュバババババババババババババババッッ!!
ミラー系統の全属性極撃魔法を展開、果てしなく伸びる4体4属性の『竜』は、見渡す限りのモンスター群を一気に壊滅させた。
「うお~~~やったぁ! リンちゃん!!」
アデリナが一旦、撃つのをやめて振り返る。
それら、『4人の魔術師』の攻撃は、モンスターだけではなくテンペラ、そしてエリゴールにも届く!
「アダダダダダダダダダダッ!!」
痛がるテンペラ、だがこれまで同様、大して効いてはいない、とオレストは判断した。
だが、地中から出現した『怒る蛇』、あっという間にテンペラに巻き付き、その動きを封じる!
「やるじゃねぇか、リンリン!」
しかも巻き付いている部分から緑色の体液が染み出し、テンペラに付着、動きを拘束、毒付与の二重の攻撃だ。
「うががががッ! おんどりゃあ~~~!!」
3つの目でオレストを追うテンペラ。
『怒る蛇』の巻き付いた体を利用し、テンペラの目の高さまで跳ぶオレスト!!
「ずぇりゃあああぁぁぁぁ!!」
シュバババババババ!!
双剣を横に薙ぎ払い、両目を潰す!
「イダダダダダ!!」
そして一旦、『怒る蛇』の体に着地、再度、額にある3つ目の目を潰しに、顔の高さまで跳び上がる!
「これで視界はなくなるだろ!」
双剣を突き刺す為に逆手に持ち替え、上方に振りかぶったその時!
「いや、無くならん」
「なに?」
ピィ―――――――――ッ!!
額の目から不意に射出された細いビーム!
呆気なくオレストの胸を突き破り、天井に到達し、弾けるッ!!
「ガッッッ!!」
血を吐いて地上に落ちる。
ドォォォン……
「全く、チビ助が調子乗りやがって……おーいててて……」
そう言いながら『怒る蛇』に巻き付かれた体に力を込め始める。
「ふぬ~~~おぅらおら! おらおらおらぁぁ!」
ブッチィィィィィ!
テンペラの盛り上がった筋肉と締め上げる『怒る蛇』の筋肉が戦い、やがて体が2つに千切れ飛ぶ『怒る蛇』!
同時に体が薄れていき、そして遂には消え去ってしまった。
「ふっふっふ~~~ん! 魔神だぜ? 魔神。そこらの幻獣や人間に負けるかって―――のッ!!」
再び金棒を手にして、ニヤニヤしながら地上に横たわるオレストに近寄るテンペラ。
「マズい、クラウス!」
「はい、もう治しています! きっとオレストさんはワザと隙を見せているのかと」
リンリンが慌てて言うのに落ち着いて返すクラウス。
「そうか、フゥ……じゃが『怒る蛇』をあんな風に倒す奴など初めて見たぞ。それにさっきから何やらずっと嫌な予感がしてならん。気を付けろ、オレスト」
祈るようにそう呟き、肩口の竜に顔を向け懇願するリンリン。
「マメ……頼む。早く、早く出てきてくれ……」
小竜はリンリンの顔をジッと見て、首を傾げていた。
一方のヘンリック。
フェンリルの『魔哮』とも言うべき、唸り声がエリゴール、いや、むしろ巨馬に効いていた。
実はあの巨馬が、ヘンリックを戦いにくくしている理由の1つだった。
槍の衝撃波に気をつけていると、隙あらば踏み潰そうとしてくる黒馬。
それを避けていると上から槍が飛んでくる。
なかなかヘンリックに攻勢を与えない魔神エリゴール。
だが『地を揺らす狼』の参加で、まずは馬が怯え出す。そしてエリゴールも『地を揺らす狼』の咆哮の度に耳を抑えている。
何が嫌なのか、効果が届かないヘンリックには分からないが、とにかく勝機だ。
「ぬぅ……むぅぅぅん! 六芒槍術!『絶破槍』!!」
魔力は使えないが、そもそも魔力を使わない槍技はいくらでもある。旅の間も、ヘンリックは鍛錬を怠らなかった。
凄まじい速度で突き出される魔槍レベッカ!
馬に突き刺さり、瞬間捻り、引き、突き、を相手が致命するまで繰り返す!!
悶絶し、突かれるがまま、為す術なく攻撃を受ける巨馬。エリゴールの援護も無い。
ドシィィィィィィンッッ!!
遂に崩れ落ちる黒い馬。
エリゴールは受け身を取りながら1回転、すぐさま槍を構え、何を思ったか、高くジャンプッッ!!
ヘンリックが見上げると、何とエリゴール、『地を揺らす狼』の背中に着地する!
「なんだそれ……さすが魔神だ、何でもありだな」
なかば呆れるヘンリック。普通の人間である彼に到底真似できる芸当ではなく、こうなっては周りのモンスターを倒しながら降りてくるのを待つしかない。
『地を揺らす狼』の背中から後頭部に向けて槍を突き刺すエリゴール!
「グゥゥゥオオオオオオ!!」
その叫びでまた耳を塞ぐエリゴール。
『地を揺らす狼』を救いに来たのか、はたまた偶然か、ゆっくりと狼の鼻先に近付く『精霊蛾』。
エリゴールは俯きつつ、蛾を睨み、再びジャンプ!
蛾と狼の鼻が重なった、その一点に槍を振り下ろす!!
ズッシャアァァァァァァァァァァァァッッ!!
槍は『精霊蛾』の体を突き抜け、『地を揺らす狼』の上顎と下顎を縫い付けるように刺さる!
と同時に、2体の召喚獣の姿が薄っすらと消えていき……やがていなくなってしまう。
ヒュゥゥゥゥ……ダンッッッ!!
ようやく地上に降り立つエリゴール。
「うう……ダメか……? 大した戦果も上げれんかったか。マズい、マズいぞ。嫌な予感がする」
肩を窄めて両手で自分を抱くリンリン。
戦果、という意味では『4人の魔術師』が最も大きかったかもしれない。
4種の極撃魔法は辺りの敵を根こそぎ焼き払い、凍てつかせ、破壊し尽くしたからだ。1万体以上は消滅した筈だ。
とはいえ、まだ万のオーダーで残るモンスター群。付近には少なくなったが、それでも奥の方には雲霞の如く蠢いているのが見える。
そして始末の悪い事に、ここの敵は、『世界の眼』に突入して最初の広間にいたモンスター達と同じく、少し時間を置くと、少しずつ沸いてくるのだ。
それは彼らが陣取る、この壁際も例外ではない。
最初に落ちた時、偶然、ここにモンスターがいなかっただけなのだ。それをまるで安全地帯であるかのように錯覚してしまっていた。
ヴニュニュ……
アデリナの真後ろに突然沸いてきた巨大なモンスター、アーク・ギガンテス!
「アデリナァァァァ!!」
クラウスの叫びに振り返り、ゾッとして硬直してしまうアデリナ!
「ダメだ! 止まるな! アデリナ!!」
ラディカがアデリナに体当たりをし、弾き飛ばす!
だが、身代わりにギガンテスに捕まるラディカ。
片手で5、6メートルの高さにまで持ち上げられ、地面に……投げられたッッ!!
(あんな勢いで投げられたら……姉さんが死ぬッ!!)
ナディヤが飛び出し、着地点に滑り込む。
しかし3人姉妹の中でも、か細いナディヤだけでその衝撃を吸収できる訳もない。
ドォォォンッッ!!
「アグッッッッ!!」
「ギャッッ!!」
「アガッッ」
……
最初にラディカが目を開ける。
身体中が動かない。
死ぬ……自分を見下ろす怪物を見て、単純に彼女はそう思った。だが、自分の下に何かいる。
激痛を我慢して下を見ると、ナディヤ、そしてクラウスがいた。
ナディヤは完全に気を失っており、クラウスも意識があるのかどうか、曖昧だ。
(2人とも私を助けるために……?)
そう、ナディヤだけでは無理と判断したクラウスが逡巡せずに飛び込んだのだ。
「こんの……野郎!」
態勢を立て直したアデリナが魔弓を引き、ギガンテスに狙いをつける!
しかし、その弓はむんずと何者かに掴まれる。
「……へ?」
振り向くと、今そこに沸いたのであろうデヴィルロードが2体、その内の一体がアデリナの体越しにペルセウスを掴んでいた!!
この距離、しかも弓を掴まれてはアデリナに出来る事は何も無い。目を見開き、硬直するアデリナ。
「……マメ! 頼む!! 今、お前が出て来なければ……死ぬ! 皆、死んでしまう!!」
悲痛な顔で小さな竜、マメを鷲掴みにし、叫ぶリンリンの背後の壁から沸き出すネイロ・ヒドラ!
「リンちゃん!!」
ヒドラの狙いに気付いたリディアがリンリンに抱き着き、頭を抑える。が、3本の首をくねらせ、目の前にいた少女2人と小竜をあっという間に丸呑みにした!!
不意に近くに現れた4体の大型モンスターに、魔法の使えない魔術師達を含む陣形は脆くも崩れ去った。
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