神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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最終章 剣聖と5人の超人

《滅導師》超人ヘルドゥーソ(3)

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 カナン歴 1030年。

 遠隔から間断なく破魔矢を放つ厄介な《狩人》ロビンへの対策として、ヘルドゥーソは『闇の波動』を編み出す。ただの洗脳では無い。この波動に触れ、闇の世界に落ちた者は完全にヘルドゥーソの管理下に置かれ、普段通りの行動を行う事も、意思を持つ事も、想像を絶する力を持つ事もヘルドゥーソの匙加減一つとなる。

 ロビンに対して実行する前の練習台として、いずれ神の種レイズアレイクが発現する国の王、ランディア王国の国王カノープスを選んだ。
 だが結果としてこれは失敗に終わる。ビルマーク王国を建国した、かつてはランディアの王子だったヴィルマーは、神の種レイズアレイクがランディアに発現する事を知っており、その為に魔導王国とも言えるビルマーク王国を建国していた。それから200年強が過ぎ、そこで育った宮廷魔術師レイがランディア王国共々、強固な結界で守っていた為だった。

 ヘルドゥーソはここで無理をせず、ならばと次はランディアの南に位置する修羅大陸に目をつける。そしてエヴントス王国の国王ブラニウスをその闇の世界に引きずり込んだ。

 闇の波動は成功し、ブラニウスは意思を持つ傀儡となり、ヘルドゥーソの命令通りにランディアに対して侵略戦争を始める。
 王都までもう少し、という所まで攻め入ったものの、結局はこれも失敗に終わる。1043年にブラニウスが病死してしまった為だ。元々、戦争に反対していた家臣達はランディアに和睦を申し込み、ツヴァリアまで侵攻していた軍を引き上げた。

(クク……成る程成る程)

(この世は思い通りにいかぬもの……)

(なら、また別の方向から考えよう)


 ―――

 カナン歴 1185年。

 ヘルドゥーソが準備をしている内に、なんとヴォルドヴァルドとロビンがノーズ大陸で同居しているという情報が入る。とはいえ『闇の波動』を手に入れた今、負ける気もしない。

 だが、ヘルドゥーソは慎重だった。
 それぞれが1人になるタイミングを待つ。


 ある日、ヘルドゥーソは思念体で修羅大陸を漂っていた。もちろん通常の人間には見えないようにしていたのだが、

「おや、その姿はひょっとして《滅導師》では?」

 不意に声を掛けられた。

(む……我を感知するとは、何者だ)

 見ると灰色の衣を纏い、茶碗と酒壺を両手に持ち、首から大きな数珠をかけている老人が視界に映る。そして感じるオーラから、《神妖精》同様、この男も自分に匹敵する力を持っている事がわかった。

「儂はサイエンと申す者。お初じゃの、《滅導師》」

 無論、その名を知らぬヘルドゥーソではない。
 自ら《中立者》と称し、テン系統を基本とする魔術師。確か200年程前に超人となった男だ。

(ふむ。お前がサイエンか。我に何か用か)

「うむうむ。ここでヌシと出会ったのも縁じゃろ。一つ、儂の研究を手伝って貰えんだろうか」

(研究だと?)

「儂の研究は『気象』じゃ。儂1人では足りぬ。超人2人分の魔力があれば広範囲、それこそ国全体の気象を変える事が出来る」

 少し考えるヘルドゥーソ。だが、気象の変化を人為的に操作する事など、あの黒い城の書庫にあった数々の本にも記されていなかった事だ。

(気象を……なかなか面白いな。いいぞ、手伝ってやろう)

「おお。そうかそうか。元々はミラー系統の応用じゃからして、お主は得意分野じゃろ」

(その代わり……)

「皆まで言わんでええ。借りは返す。それが儂の生き方じゃからな」


 ―――

 カナン歴 1222年。

 辛抱強く時期を待った彼に好機が訪れる。ロビンが1人、アスガルドに帰った、という報告を受けたのだ。

(ククク……痴話喧嘩か?)

(いずれにしても、この機は逃さぬ)

(次の神の種レイズアレイク発現の時がそろそろ近付いている)


 ある夜、ロビンが眠りに入った所に思念体で現れたヘルドゥーソ。ロビンはそれに気付いたものの、闇の波動により闇の世界に落とされ、そして敢え無く殺害されてしまう。

 これで直接、自分に届き得る武力の持ち主は他の4人の超人達以外にはいなくなった。だがヘルドゥーソは首を傾げる。

(ペルセウスの弓は……どこだ?)

 所有者が居なくなったので、消えて無くなったか?
 一抹の不安を抱えながらも、

(この館にはない。仕方がないな)

 何の手がかりも無しに一つの弓を探し歩くことなど不可能に近い。ヘルドゥーソはそう考え、ペルセウスの弓については諦める事にした。


 実はオリオンが殺された事で自分の身に起こり得る最悪の事態を想定していたロビンは、この時既に知己であった《大召喚師》リンリンに自分が死んだ後の魔弓ペルセウスを託していた。

 ロビンが死ぬ事をトリガーに、リンリンの手元に発現するように術式を施していたペルセウスの弓。ヘルドゥーソがいくら探しても見つからなかったのはそういう理由だった。


 ―――

 カナン歴 1266年。

 ヘルドゥーソはオリオン、ロビンに続き、力を持つ者を次々と屠っていく。

 この年、まだ建国して100年強のドラフジャクド皇国に入り、コンスタンティン・グローマンの両親を殺害する事に成功する。


 ―――

 カナン歴 1492年。

 リディアが『シシ』に配属され、マッツが『タカ』に移動した翌年の事。

 まもなくヴォルドヴァルドの元、そしてランディアに発現する筈の神の種レイズアレイクを奪う計画を実行に移す。

 手始めにアスガルドの暗殺者アサシンギルド長、そして最高の暗殺者アサシンと名高いケルベロスの姉妹の内、ディヴィヤ、ラディカの2人を闇の波動で傀儡にし、ドラフジャクドに潜入させる。また、ドラフジャクドの領主であるゴビンとアクシェイ、暗殺者アサシンのアル、シャムを含めたゴロツキの数人も傀儡とする。

 一方でエイブル島、ニヴラニア島に根を張る豪商ラッドヴィグをも闇の波動により傘下に収め、ビルマーク王国を混乱に陥れる為に動き出す。
 ビルマーク王国を引っ掻き回し、あわよくば乗っ取ることでランディアへの魔法の加護を消そうとしたのだ。

 だが、その2つの計画は、翌年1493年、共にマッツ・オーウェンと名乗る若者によって阻まれてしまう。

(マッツ・オーウェン……奴は只者ではない)

(超人でもなく、資質も目覚めていないが……)

(忌々しい事に聖なる加護が見える)

(ヒムニヤが助力するのもその為か?)

(もしやミラー様が仰った、ツィ、テンの子かもしれぬ)

(この男は我の敵だ。確実に消さねばならぬ)

 そして、ミラーの忠告を思い出す。


『……その髭はこの暴風域内のみで神力を行使出来る。使わずに済めばお前の勝ちだが、使う事があれば心せよ。其奴らは世界の眼を踏破し、虹竜リーゲン・ドラフですら克服してやってくる奴らという事なのだから』

『いつかは現れる、ツィ、もしくはテンの子は、必ずやお前の敵となろう。その日が来るまで励め』


 まもなく、この髭の神力を使う時が来るだろう。


 ヘルドゥーソはそう、あっさりと受け入れた。
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