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口の悪い魔人達と俺様ノルト
035.セントリアに打つ布石(1) 死霊の出る町
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セントリア王都南部 ―――
セントリア王都テラの南に位置する郊外に彼らはいた。
もう少し北に行けば都らしく非常に栄える活気に満ちた町並みなのだが、ここはどことなく空虚で廃れた、生気のない印象を受けた。
建物は建てられた後一度も補修していないと思えるほど酷いもので、壁にも屋根にも穴が空いていた。
道には物乞いや、いかにも柄の悪そうな者が屯し、チラチラと旅人であるノルト達を観察する様に盗み見ていた。
(スラムか。どいつもこいつも目が死んでるぜ)
道にへたり込む者、口を開けて天を仰ぐ者。テスラはそれらを無表情で観察していく。
北の方へと向かう大きな通りを進む一行にはノルト達5人に加え、どうしても着いて行くと言って譲らなかったサキュバスのマァムとエイミィもいた。
「全く。だが次……飛竜には乗せねーからな?」
「え――折角、涙の再会を果たしましたのに」
「また離れ離れになっちゃうんですか?」
「あたしらの旅は大人数で目立つと困るんだよ」
ロゼルタに真面目にそう言われて2人共シュンと項垂れる。
彼女達の隣を歩いていたテスラだったが、そんな会話には全く興味がなさそうだった。いくつも通り過ぎる寂れた路地裏の方を見ていると、珍しく人だかりを見つけた。
立ち止まって様子を伺う。
(喧嘩か?)
だがどうやら乱闘、というより一方的なリンチの様に見えた。
細い路地の中央で、両手で頭を守る様にしながら地面に突っ伏し、亀の様になっている男がひとりいる。
その男を数人で取り囲んで殴る蹴るを繰り返しているのはその恰好から、警備兵の様な者達だとわかる。
(くだらねー)
やがてテスラも興味をなくし、前を行くノルト達に追いつこうかとした時、やられている男の目が腕の隙間からチラリと覗いた。
(おや?)
その目は振るわれている暴力など全く意に介していないと思われる目だった。といって諦めている様でもない。
このスラムで初めて見る生者の目だった。
(へえ? おもしれー奴もいるんだな)
だがテスラの興味はそこで消えた。前を歩く皆の後に少し離れて、再び歩き出す。
やがて建物の角や路地裏に立つ女性が増えて来た事に気付く。
(スラムの次は娼婦街、いやここもスラムの一部か)
そんな事を思っていると1人の中年の女が声を掛けてきた。
「そこのあんた」
「あ? 俺か?」
「なかなか格好良いね。どう? 今夜。今でもいいけど」
自分を買わないか、という事らしい。
その女は両目の下にクマがあり、頰はこけ、身に付けている衣服も皺の入った、お世辞にも綺麗とは言えない女だった。
「他をあたれ」
「そんなつれない事言わないでさぁ。あたいはマリヤ。こんな身なりだけどさ、あっちの方はとってもうまいんだよ?」
手で輪っかを作って上下させながら下品な流し目をするマリヤにさすがのテスラも閉口していると、そのやりとりに気付いたロゼルタが「どうした?」と言いながら引き返してきた。
「あ? いや、こいつが」
テスラが説明しようとする前でマリヤが信じられないとばかりに目を剥いてロゼルタを見た。
「こりゃあ参った。あんたこんな美人の彼女がいたのか」
「は?」とロゼルタ。
「こら、勝手な妄想してんじゃ……」
そろそろ我慢の限界が彼に近付いてきたその時。ちょこちょことロゼルタの後を追う様に近付いてきたノルトの顔を見たマリヤが息を呑んだ様に見えた。
「あ……ご、ごめんね兄さん。ま、気が向いたらまた来てくれよ、今度は1人でな。じゃあ」
言うが早いか、そそくさと路地裏の中へと消えて行った。
◆◇
歩いている内、いつの間にかスラムの区画は終わった様だ。暫くしてお目当ての飛竜屋に辿り着いた。
建物の大きさは周囲のそれに比べて群を抜いて大きい。10頭ほどは常備出来るだろう。テスラが先陣を切って中に入り、交渉をし始めた。
「いつの予約だい?」店員がテスラに声を掛ける。
「予約? いや、今からでいいんだが」
「今! 今は1体もいないぜ」
「いないだと? こんなに建物がデカいのに?」
「基本的に殆どいつも空きは無いんだが、今は特に予約が多いね」
店主は予約表の様なものを見ながら、交信の指輪でどこかに連絡をする。やがて話がついたのか、テスラ達に向かって言う。
「3日後の朝にミニスロームの店から2体来る。最短でこれだね」
「2体か」
ロゼルタは小さく反芻しながらマァムとエイミィを見てニヤリと笑った。
「残念、お前達。飛竜2体で7人は無理だ」
「えええぇぇ!」
「酷いです横暴です、くっついたら乗れます!」
「うるせ――! テメーらの事は何か考えるから」
「うう……」
そんなやり取りをよそに、テスラはじゃあそれを予約しようと店主と話を進めていた。
「はいよ。行き先は?」
「ネイザールのヴィラール」
「あー、悪いが王都には飛竜屋がいなくてな。警備の問題とかで置かせて貰えないんだ」
「どこならあるんだ?」
「ネイザール王国なら西にひとつ、東にひとつ。どっちも国の端っこだ。正規の国境を越えて暫く行った所にある。ベルン大砂漠の手前だな」
西側は今彼らがいるセントリアに近く、東はロトス王国側で、最終的に目指す魔界スルークに近い。先を急ぐなら迷わず東、なのだが、
『最短距離でスルークに向かったとしてもリドには勝てない』
それはロゼルタ達と事前に話し合っている事だった。彼にしてみれば歯噛みする程腹の立つ事ではあったが否定は出来ない。
(まーどっちにしろ、マクルル達のが時間かかるだろうしな)
そう考え直し、
「じゃあ西で頼む」
「はいよ。同じ村にトカゲ屋があるから砂漠を渡るのに使うといい」
「へえ。よく出来てるな。わかった」
「代表者の名前を教えてくれ」
「カーリアで」
それは勿論、名が知られているテスラやロゼルタ、サラ達の名前を隠す意図だ。
咄嗟に今朝まで彼らが居たヒエラルドの町の名を言った。幸いカーリアという名前はそれ程珍しい部類の名前ではない。
店主は特に疑うこともなく、
「カーリアさんね。若干前後するかもしれんが3日後に来てくれりゃあ飛べる様にしておこう」
「3日はなげーが仕方ねえな」
「お客さん、これでもラッキーな方だぜ? タイミングが合わない時はひと月いなかったりするしな。すまないがまあ気をつけて待っていてくれよ」
店主が何気なく言った最後の言葉に引っ掛かる。
「気をつけて?」
「あれ、知らないのか? そこかしこで噂になってるだろ」
「噂? 何の事だ? わかる様に言ってくれ。俺達ゃこの町に来た所でね」
あー、と納得する様に唸ると、店主は眉を顰めて、
「死霊だよ」
「死霊?」
「ああ。出るらしいぜ? 夜はスラム方面には行かないこった」
ロゼルタと顔を見合わせ、ひとつ鼻息を吐くと、
「ああ、そうするぜ。3日後にまた来る」
手を上げながら店を出た。
◆◇
夜、彼らはノルトとアンナも連れて酒場にいた。
そこではノルトによって思いもよらないカミングアウトがなされていた。
「なんだって!? ここが生まれ故郷?」
酒を浴びる様に飲んでいるロゼルタが赤い顔で目を丸くする。
「はい。僕はここで生まれたそうです」
「おいおい何でそんな第三者目線なんだ?」
「いや、その……僕は親を知らなくて、物心ついた時にはスラムにいた爺ちゃん達に育てて貰ってたので」
「そういやぁ身寄りはないって言ってたな」
「その爺ちゃん達が言うには僕はここで生まれたそうです。その人達ももう亡くなってしまったんですが」
割と明るくそう言ったノルトだったのだが、既に人間界では最も強いと言われるワイナブーク酒を20杯程飲み干し、すっかり出来上がっていたロゼルタは思い切りノルトを抱き締め、激しく頬擦りをした。
「そうか……そうか! よしよし、よく頑張ったな。これからはあたしをママと呼んでいいからな?」
「え、ええ?」
力強いロゼルタの腕に抱かれ、みるみるノルトの顔は紅潮した。
そもそも人の温もりなど縁遠い人生だったのだ。スキンシップには極端に弱い。
サラとマァム、エイミィは手を打って笑い、アンナは目を吊り上げて何とか間に割って入ろうと2人の体の間に無理矢理腕を入れる。
「ちょっとぉ! あんた、ノルトにくっつかないでよ!」
「んあ? 誰だお前?」
「誰だじゃないわよこの酔っ払い! とにかく手を離しなさい!」
据わった目でアンナを睨みながら更に力を入れてノルトを抱き締め、その顔を自分の胸の谷間に埋めた。
「あああ~~コラコラァァッ!」
「あ! テメー、よく見りゃあアンナじゃねーか! よしよしお前も来い」
「は? あ、うわ、ちょ、ぶっ」
今になってやっとアンナを認識したらしい。最早何の抵抗もなくロゼルタにされるがままのノルトの横にアンナも抱き抱えた。2人を胸に抱き、その頭の間に鼻を埋め、思いっきりその匂いを嗅ぐ。
「はあ~~ガキってなあ良い匂いだなあ」
サラ達は楽しそうにその様子を見ていたが、テスラは興味なさげに「ケッ、バッカだねえ。魔族が人間界の酒に飲まれてどーすんだ。カッコわりぃ」と言い捨て、何気なく酒場の中を見回していた。
ふとカウンターの奥で目が止まる。スッと静かに裏口が開くのが見えた。それ自体は怪しいものではない、がそこに現れたのは昼間スラムでよく目にした物乞いの姿をした男だった。
(あーあ。追っ払われるぞ)
酒をグイッと飲みながらそう思っていると店員はその男を追い払うでもなく、それどころか奥から食事を持って来てそれを手渡した。
(ほう?)
少し興味を持ったテスラは酒が空いたついでにその店員を呼んだ。まだ若い青年だった。
「意外にスラムの連中と仲が良いんだな?」
ハッとした顔をした店員だったが、苦笑いをしながら答えた。
「いえ、俺もあそこの出なんで。まあ助け合いですね」
ギラリとテスラの目が光るがそれ以上追求はしなかった。空になった木のコップを差し出し、
「そうかい。ところで話は変わるがよ。スラムに死霊が出るから気をつけろと言われたんだが、本当の事かい?」
「はい。夜な夜なスラムの周りを彷徨くんです。夜は絶対に立ち寄らない方がいいですよ」
心配そうにそう言うと、店員は酒を注ぎ、会釈をして立ち去った。
その後ろ姿を目で追っていたテスラだったが、やがてそれも飲み干すと、
「まあ何だろうが、俺たちにゃあ関係ねー」
誰にともなく言った。
セントリア王都テラの南に位置する郊外に彼らはいた。
もう少し北に行けば都らしく非常に栄える活気に満ちた町並みなのだが、ここはどことなく空虚で廃れた、生気のない印象を受けた。
建物は建てられた後一度も補修していないと思えるほど酷いもので、壁にも屋根にも穴が空いていた。
道には物乞いや、いかにも柄の悪そうな者が屯し、チラチラと旅人であるノルト達を観察する様に盗み見ていた。
(スラムか。どいつもこいつも目が死んでるぜ)
道にへたり込む者、口を開けて天を仰ぐ者。テスラはそれらを無表情で観察していく。
北の方へと向かう大きな通りを進む一行にはノルト達5人に加え、どうしても着いて行くと言って譲らなかったサキュバスのマァムとエイミィもいた。
「全く。だが次……飛竜には乗せねーからな?」
「え――折角、涙の再会を果たしましたのに」
「また離れ離れになっちゃうんですか?」
「あたしらの旅は大人数で目立つと困るんだよ」
ロゼルタに真面目にそう言われて2人共シュンと項垂れる。
彼女達の隣を歩いていたテスラだったが、そんな会話には全く興味がなさそうだった。いくつも通り過ぎる寂れた路地裏の方を見ていると、珍しく人だかりを見つけた。
立ち止まって様子を伺う。
(喧嘩か?)
だがどうやら乱闘、というより一方的なリンチの様に見えた。
細い路地の中央で、両手で頭を守る様にしながら地面に突っ伏し、亀の様になっている男がひとりいる。
その男を数人で取り囲んで殴る蹴るを繰り返しているのはその恰好から、警備兵の様な者達だとわかる。
(くだらねー)
やがてテスラも興味をなくし、前を行くノルト達に追いつこうかとした時、やられている男の目が腕の隙間からチラリと覗いた。
(おや?)
その目は振るわれている暴力など全く意に介していないと思われる目だった。といって諦めている様でもない。
このスラムで初めて見る生者の目だった。
(へえ? おもしれー奴もいるんだな)
だがテスラの興味はそこで消えた。前を歩く皆の後に少し離れて、再び歩き出す。
やがて建物の角や路地裏に立つ女性が増えて来た事に気付く。
(スラムの次は娼婦街、いやここもスラムの一部か)
そんな事を思っていると1人の中年の女が声を掛けてきた。
「そこのあんた」
「あ? 俺か?」
「なかなか格好良いね。どう? 今夜。今でもいいけど」
自分を買わないか、という事らしい。
その女は両目の下にクマがあり、頰はこけ、身に付けている衣服も皺の入った、お世辞にも綺麗とは言えない女だった。
「他をあたれ」
「そんなつれない事言わないでさぁ。あたいはマリヤ。こんな身なりだけどさ、あっちの方はとってもうまいんだよ?」
手で輪っかを作って上下させながら下品な流し目をするマリヤにさすがのテスラも閉口していると、そのやりとりに気付いたロゼルタが「どうした?」と言いながら引き返してきた。
「あ? いや、こいつが」
テスラが説明しようとする前でマリヤが信じられないとばかりに目を剥いてロゼルタを見た。
「こりゃあ参った。あんたこんな美人の彼女がいたのか」
「は?」とロゼルタ。
「こら、勝手な妄想してんじゃ……」
そろそろ我慢の限界が彼に近付いてきたその時。ちょこちょことロゼルタの後を追う様に近付いてきたノルトの顔を見たマリヤが息を呑んだ様に見えた。
「あ……ご、ごめんね兄さん。ま、気が向いたらまた来てくれよ、今度は1人でな。じゃあ」
言うが早いか、そそくさと路地裏の中へと消えて行った。
◆◇
歩いている内、いつの間にかスラムの区画は終わった様だ。暫くしてお目当ての飛竜屋に辿り着いた。
建物の大きさは周囲のそれに比べて群を抜いて大きい。10頭ほどは常備出来るだろう。テスラが先陣を切って中に入り、交渉をし始めた。
「いつの予約だい?」店員がテスラに声を掛ける。
「予約? いや、今からでいいんだが」
「今! 今は1体もいないぜ」
「いないだと? こんなに建物がデカいのに?」
「基本的に殆どいつも空きは無いんだが、今は特に予約が多いね」
店主は予約表の様なものを見ながら、交信の指輪でどこかに連絡をする。やがて話がついたのか、テスラ達に向かって言う。
「3日後の朝にミニスロームの店から2体来る。最短でこれだね」
「2体か」
ロゼルタは小さく反芻しながらマァムとエイミィを見てニヤリと笑った。
「残念、お前達。飛竜2体で7人は無理だ」
「えええぇぇ!」
「酷いです横暴です、くっついたら乗れます!」
「うるせ――! テメーらの事は何か考えるから」
「うう……」
そんなやり取りをよそに、テスラはじゃあそれを予約しようと店主と話を進めていた。
「はいよ。行き先は?」
「ネイザールのヴィラール」
「あー、悪いが王都には飛竜屋がいなくてな。警備の問題とかで置かせて貰えないんだ」
「どこならあるんだ?」
「ネイザール王国なら西にひとつ、東にひとつ。どっちも国の端っこだ。正規の国境を越えて暫く行った所にある。ベルン大砂漠の手前だな」
西側は今彼らがいるセントリアに近く、東はロトス王国側で、最終的に目指す魔界スルークに近い。先を急ぐなら迷わず東、なのだが、
『最短距離でスルークに向かったとしてもリドには勝てない』
それはロゼルタ達と事前に話し合っている事だった。彼にしてみれば歯噛みする程腹の立つ事ではあったが否定は出来ない。
(まーどっちにしろ、マクルル達のが時間かかるだろうしな)
そう考え直し、
「じゃあ西で頼む」
「はいよ。同じ村にトカゲ屋があるから砂漠を渡るのに使うといい」
「へえ。よく出来てるな。わかった」
「代表者の名前を教えてくれ」
「カーリアで」
それは勿論、名が知られているテスラやロゼルタ、サラ達の名前を隠す意図だ。
咄嗟に今朝まで彼らが居たヒエラルドの町の名を言った。幸いカーリアという名前はそれ程珍しい部類の名前ではない。
店主は特に疑うこともなく、
「カーリアさんね。若干前後するかもしれんが3日後に来てくれりゃあ飛べる様にしておこう」
「3日はなげーが仕方ねえな」
「お客さん、これでもラッキーな方だぜ? タイミングが合わない時はひと月いなかったりするしな。すまないがまあ気をつけて待っていてくれよ」
店主が何気なく言った最後の言葉に引っ掛かる。
「気をつけて?」
「あれ、知らないのか? そこかしこで噂になってるだろ」
「噂? 何の事だ? わかる様に言ってくれ。俺達ゃこの町に来た所でね」
あー、と納得する様に唸ると、店主は眉を顰めて、
「死霊だよ」
「死霊?」
「ああ。出るらしいぜ? 夜はスラム方面には行かないこった」
ロゼルタと顔を見合わせ、ひとつ鼻息を吐くと、
「ああ、そうするぜ。3日後にまた来る」
手を上げながら店を出た。
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夜、彼らはノルトとアンナも連れて酒場にいた。
そこではノルトによって思いもよらないカミングアウトがなされていた。
「なんだって!? ここが生まれ故郷?」
酒を浴びる様に飲んでいるロゼルタが赤い顔で目を丸くする。
「はい。僕はここで生まれたそうです」
「おいおい何でそんな第三者目線なんだ?」
「いや、その……僕は親を知らなくて、物心ついた時にはスラムにいた爺ちゃん達に育てて貰ってたので」
「そういやぁ身寄りはないって言ってたな」
「その爺ちゃん達が言うには僕はここで生まれたそうです。その人達ももう亡くなってしまったんですが」
割と明るくそう言ったノルトだったのだが、既に人間界では最も強いと言われるワイナブーク酒を20杯程飲み干し、すっかり出来上がっていたロゼルタは思い切りノルトを抱き締め、激しく頬擦りをした。
「そうか……そうか! よしよし、よく頑張ったな。これからはあたしをママと呼んでいいからな?」
「え、ええ?」
力強いロゼルタの腕に抱かれ、みるみるノルトの顔は紅潮した。
そもそも人の温もりなど縁遠い人生だったのだ。スキンシップには極端に弱い。
サラとマァム、エイミィは手を打って笑い、アンナは目を吊り上げて何とか間に割って入ろうと2人の体の間に無理矢理腕を入れる。
「ちょっとぉ! あんた、ノルトにくっつかないでよ!」
「んあ? 誰だお前?」
「誰だじゃないわよこの酔っ払い! とにかく手を離しなさい!」
据わった目でアンナを睨みながら更に力を入れてノルトを抱き締め、その顔を自分の胸の谷間に埋めた。
「あああ~~コラコラァァッ!」
「あ! テメー、よく見りゃあアンナじゃねーか! よしよしお前も来い」
「は? あ、うわ、ちょ、ぶっ」
今になってやっとアンナを認識したらしい。最早何の抵抗もなくロゼルタにされるがままのノルトの横にアンナも抱き抱えた。2人を胸に抱き、その頭の間に鼻を埋め、思いっきりその匂いを嗅ぐ。
「はあ~~ガキってなあ良い匂いだなあ」
サラ達は楽しそうにその様子を見ていたが、テスラは興味なさげに「ケッ、バッカだねえ。魔族が人間界の酒に飲まれてどーすんだ。カッコわりぃ」と言い捨て、何気なく酒場の中を見回していた。
ふとカウンターの奥で目が止まる。スッと静かに裏口が開くのが見えた。それ自体は怪しいものではない、がそこに現れたのは昼間スラムでよく目にした物乞いの姿をした男だった。
(あーあ。追っ払われるぞ)
酒をグイッと飲みながらそう思っていると店員はその男を追い払うでもなく、それどころか奥から食事を持って来てそれを手渡した。
(ほう?)
少し興味を持ったテスラは酒が空いたついでにその店員を呼んだ。まだ若い青年だった。
「意外にスラムの連中と仲が良いんだな?」
ハッとした顔をした店員だったが、苦笑いをしながら答えた。
「いえ、俺もあそこの出なんで。まあ助け合いですね」
ギラリとテスラの目が光るがそれ以上追求はしなかった。空になった木のコップを差し出し、
「そうかい。ところで話は変わるがよ。スラムに死霊が出るから気をつけろと言われたんだが、本当の事かい?」
「はい。夜な夜なスラムの周りを彷徨くんです。夜は絶対に立ち寄らない方がいいですよ」
心配そうにそう言うと、店員は酒を注ぎ、会釈をして立ち去った。
その後ろ姿を目で追っていたテスラだったが、やがてそれも飲み干すと、
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