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砂漠の王太子
046.砂漠の国ネイザール
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太陽が照りつけ、空気は乾燥しきっていた。
辺境の町、アッサムガル。
ネイザール王国最西端の、集落ほどの規模の非常に小さな町である。
ここで宿をとろうとすれば選択肢はひとつしかない。勿論、宿以外も似た様なものだ。従って住人の数もしれており、この町の世帯数は店の数と同じであとは定期的に交代する王国の兵士達だけだ。
国境を閉じてはいるものの、ノルト達に対しての入国検査はそれほど厳しくはなされなかった。
『ようこそ砂と豊穣の国ネイザールへ』
飛竜屋の後に立ち寄った衛兵の詰所で頭にターバンを巻いた恰幅の良い女兵士が両手を広げてそう言った。
トカゲの丸焼き亭。
ロゼルタはそう書かれた看板の宿に入って行った。
◆◇
ノルト達以外にも数十人の客がいた。辺鄙な場所だが、飛竜屋がここと東の2箇所にしかない為、どうしても集中してしまうのだろう。
宿の規模はかなり大きく、まだまだ部屋数には余裕がありそうだ。
大部屋ひとつを借りた5人はそれぞれで寛いでいた。
3日間飛竜に乗り続けた彼らに疲労の色は濃い。特に初めての経験だったノルトとアンナはぐったり、といった感じだ。
「砂はわかるが、豊穣ってのはどういう意味だ?」
入国時にネイザールの兵士に言われた言葉が気になっていたのか、テスラがそんな事を言い出した。
「確かにこの国は砂漠しかねーからな。貧しさを皮肉ってんのかもな」
ロゼルタがそう相槌を打つ。だがサラがその本当の意味について知っていた様だ。
「確かにネイザールはついこの前まで、食糧は他国からの輸入に頼りきりでした」
「だよな。よく国交断絶なんぞしたもんだ」
「実はそれには秘密があります」
ニヤッとサラが笑う。
「秘密?」
聞き返すテスラに頷きながらサラがノルトとアンナにもわかる様にネイザールという国について語り出した。
◆◇◆◇
砂漠の王国ネイザール。
治めているのは二百年程続いているネイザール王家である。
国王は7世で、既に齢60を超える老齢である。
王太子のハミッドは30代で今が絶頂期と言ってよく、頭脳は明晰で剣技に非常に優れていた。
兄妹は弟にラハル、ヴィジャイ、アラン、そして唯一の妹ナウラはまだ若干12歳の少女だった。
西はセントリア王国、北はメルマトラと国境を分つスィヴニ山脈、北東にかつては魔界と言われたデルピラ、南東に同じく魔界メルタノ、東にロトス王国と国境を接する。
南部はセントリアからメルタノ、ロトス辺りまで乾燥した地域に生えるシマの木が大量に生え、細長く巨大な樹林地帯となっていてそれを越えると海となる。
王都はスィヴニ山脈にほど近い位置にあるヴィラール。
マクルルの祖国、魔界デルピラと同じくこのネイザールも非常に乾燥した地域で、国土の7割がジャン・ムウと呼ばれる砂漠であり、民は強いが最近まで非常に貧しい国だった。
魔界討伐に反対して以降、各国から孤立。現在は全ての国境を閉じ、僅かな必需品のみをロトス王国と交易を続けている。
以前までなら国境を閉じると自滅するのは分かりきっていた事だった。
ところが30年程前。
リドによる魔界討伐が行われてから数年後、王都ヴィラールから程近い砂漠の中で突如としてダンジョンが見つかった。
ダンジョン主はダズという者らしく、それは『ダズの地下迷宮』と呼ばれた。
すぐに調査を行ったところ、どうやらダンジョンの浅い層から潤沢に、そして無限に穀物、果物、野菜が採れる事が分かる。
元々砂漠に生息する無数の砂漠トカゲによって肉は不足していなかったネイザールにとってそのダンジョンは神の恵みと言えた。
それ以降、ダズの地下迷宮は別名、豊穣ダンジョンと呼ばれる様になり、現在に至るまで王家によって厳重に管理され、守られていた。
◆◇◆◇
「なるほど。そのダンジョンのお陰で国交断絶出来たってことか」
テスラが腑に落ちた様に言った。
「しかしお前、知識がすげーな。ガイドみてーだ」
「オホホ。まあ知識だけはある森の妖精ですから。ハーフですけどね」
その横でロゼルタは、
(ダズ……豊穣? どっかで聞いた記憶が……)
と首を捻っていた。
「さて。これからどうすんだ?」
不意にテスラに話しかけられ、ロゼルタが我に返る。
「あ、ああ。これからか」
「飛竜で東まで一気に行く位なら最初からそうしてるしな」
「だな。考えたんだが、砂漠トカゲで砂漠を突っ切ろうかと思っている」
「え――!」
叫んだのはサラだった。
「ここからだと最東端のラアイガルまで2、30日かかりますよ?」
この町とラアイガルの間には広大なジャン・ムウ砂漠が広がっており、飛竜以外の移動手段となると砂漠トカゲか砂漠馬位しかない。
ネイザールは転移装置をダズの地下迷宮にひとつ、あとは王都付近と第2の都市クダルール付近にしか置いていない。
勿論その理由は他国と同じく防衛の観点からだ。
砂漠馬は王都にしかおらず、必然的にここでは飛竜か砂漠トカゲのみが移動手段であった。
「わかってるぜ。でもまあいーじゃねーか。急いでねーんだし」
「ええええ……股擦れしちゃいそうですねえ」
「実はこれからはノルトとアンナも積極的に戦闘に参加させようと思ってるんだ」
2人に視線を移しながらロゼルタが言った。
「研究所やスラムでの戦いでよくわかったんだが、この子達はあたしらにはない素晴らしい能力を持っている。これからは戦いを通じてそれを伸ばしていくべきだと思っているんだがお前達はどう思う?」
ポカンとするノルトとアンナを放っておいて、テスラとサラに言う。
テスラは首を竦めて「強くなってくれねーと最後に困るしな。いーんじゃねーの?」とあっさり賛成した。
サラもそれ自体は賛成の様だったが、しきりに股間をさすりながら、
「わかりました。でもどうしましょう。お股当てとか売ってますかね……」と言った。
アンナが「変なとこさすらないでよ!」と怒鳴る。が、本格的に戦闘に参加という事を考え、少し困惑の表情を浮かべていた。
辺境の町、アッサムガル。
ネイザール王国最西端の、集落ほどの規模の非常に小さな町である。
ここで宿をとろうとすれば選択肢はひとつしかない。勿論、宿以外も似た様なものだ。従って住人の数もしれており、この町の世帯数は店の数と同じであとは定期的に交代する王国の兵士達だけだ。
国境を閉じてはいるものの、ノルト達に対しての入国検査はそれほど厳しくはなされなかった。
『ようこそ砂と豊穣の国ネイザールへ』
飛竜屋の後に立ち寄った衛兵の詰所で頭にターバンを巻いた恰幅の良い女兵士が両手を広げてそう言った。
トカゲの丸焼き亭。
ロゼルタはそう書かれた看板の宿に入って行った。
◆◇
ノルト達以外にも数十人の客がいた。辺鄙な場所だが、飛竜屋がここと東の2箇所にしかない為、どうしても集中してしまうのだろう。
宿の規模はかなり大きく、まだまだ部屋数には余裕がありそうだ。
大部屋ひとつを借りた5人はそれぞれで寛いでいた。
3日間飛竜に乗り続けた彼らに疲労の色は濃い。特に初めての経験だったノルトとアンナはぐったり、といった感じだ。
「砂はわかるが、豊穣ってのはどういう意味だ?」
入国時にネイザールの兵士に言われた言葉が気になっていたのか、テスラがそんな事を言い出した。
「確かにこの国は砂漠しかねーからな。貧しさを皮肉ってんのかもな」
ロゼルタがそう相槌を打つ。だがサラがその本当の意味について知っていた様だ。
「確かにネイザールはついこの前まで、食糧は他国からの輸入に頼りきりでした」
「だよな。よく国交断絶なんぞしたもんだ」
「実はそれには秘密があります」
ニヤッとサラが笑う。
「秘密?」
聞き返すテスラに頷きながらサラがノルトとアンナにもわかる様にネイザールという国について語り出した。
◆◇◆◇
砂漠の王国ネイザール。
治めているのは二百年程続いているネイザール王家である。
国王は7世で、既に齢60を超える老齢である。
王太子のハミッドは30代で今が絶頂期と言ってよく、頭脳は明晰で剣技に非常に優れていた。
兄妹は弟にラハル、ヴィジャイ、アラン、そして唯一の妹ナウラはまだ若干12歳の少女だった。
西はセントリア王国、北はメルマトラと国境を分つスィヴニ山脈、北東にかつては魔界と言われたデルピラ、南東に同じく魔界メルタノ、東にロトス王国と国境を接する。
南部はセントリアからメルタノ、ロトス辺りまで乾燥した地域に生えるシマの木が大量に生え、細長く巨大な樹林地帯となっていてそれを越えると海となる。
王都はスィヴニ山脈にほど近い位置にあるヴィラール。
マクルルの祖国、魔界デルピラと同じくこのネイザールも非常に乾燥した地域で、国土の7割がジャン・ムウと呼ばれる砂漠であり、民は強いが最近まで非常に貧しい国だった。
魔界討伐に反対して以降、各国から孤立。現在は全ての国境を閉じ、僅かな必需品のみをロトス王国と交易を続けている。
以前までなら国境を閉じると自滅するのは分かりきっていた事だった。
ところが30年程前。
リドによる魔界討伐が行われてから数年後、王都ヴィラールから程近い砂漠の中で突如としてダンジョンが見つかった。
ダンジョン主はダズという者らしく、それは『ダズの地下迷宮』と呼ばれた。
すぐに調査を行ったところ、どうやらダンジョンの浅い層から潤沢に、そして無限に穀物、果物、野菜が採れる事が分かる。
元々砂漠に生息する無数の砂漠トカゲによって肉は不足していなかったネイザールにとってそのダンジョンは神の恵みと言えた。
それ以降、ダズの地下迷宮は別名、豊穣ダンジョンと呼ばれる様になり、現在に至るまで王家によって厳重に管理され、守られていた。
◆◇◆◇
「なるほど。そのダンジョンのお陰で国交断絶出来たってことか」
テスラが腑に落ちた様に言った。
「しかしお前、知識がすげーな。ガイドみてーだ」
「オホホ。まあ知識だけはある森の妖精ですから。ハーフですけどね」
その横でロゼルタは、
(ダズ……豊穣? どっかで聞いた記憶が……)
と首を捻っていた。
「さて。これからどうすんだ?」
不意にテスラに話しかけられ、ロゼルタが我に返る。
「あ、ああ。これからか」
「飛竜で東まで一気に行く位なら最初からそうしてるしな」
「だな。考えたんだが、砂漠トカゲで砂漠を突っ切ろうかと思っている」
「え――!」
叫んだのはサラだった。
「ここからだと最東端のラアイガルまで2、30日かかりますよ?」
この町とラアイガルの間には広大なジャン・ムウ砂漠が広がっており、飛竜以外の移動手段となると砂漠トカゲか砂漠馬位しかない。
ネイザールは転移装置をダズの地下迷宮にひとつ、あとは王都付近と第2の都市クダルール付近にしか置いていない。
勿論その理由は他国と同じく防衛の観点からだ。
砂漠馬は王都にしかおらず、必然的にここでは飛竜か砂漠トカゲのみが移動手段であった。
「わかってるぜ。でもまあいーじゃねーか。急いでねーんだし」
「ええええ……股擦れしちゃいそうですねえ」
「実はこれからはノルトとアンナも積極的に戦闘に参加させようと思ってるんだ」
2人に視線を移しながらロゼルタが言った。
「研究所やスラムでの戦いでよくわかったんだが、この子達はあたしらにはない素晴らしい能力を持っている。これからは戦いを通じてそれを伸ばしていくべきだと思っているんだがお前達はどう思う?」
ポカンとするノルトとアンナを放っておいて、テスラとサラに言う。
テスラは首を竦めて「強くなってくれねーと最後に困るしな。いーんじゃねーの?」とあっさり賛成した。
サラもそれ自体は賛成の様だったが、しきりに股間をさすりながら、
「わかりました。でもどうしましょう。お股当てとか売ってますかね……」と言った。
アンナが「変なとこさすらないでよ!」と怒鳴る。が、本格的に戦闘に参加という事を考え、少し困惑の表情を浮かべていた。
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