【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

文字の大きさ
92 / 154
永遠なる魂

092.ノルトひとり

しおりを挟む
 一体、どれほど時間が経ったのだろうか。

「う……」

 気付くとノルトは水に浸かっていた。

 どうやら太い木の枝に引っかかっているらしい。

 足を伸ばすと幸いにして底に着いた。
 立ち上がると太腿辺りまでの深さだとわかる。

 一気に体重が彼にのしかかり、ふらついて必死に木の枝にしがみ付く。


 何とか岸辺に上がり、振り返ってぺたりと尻餅をついた。

 今までいたのは川の中だった。

「流されてきた、のかな……これが言ってたミゼラン川かな。でもサラさんが言うほど流れが急ではない、ような」

 テスラやロゼルタ達は近くにはいない。

 そもそも記憶にある風景とは全く異なる場所の様だ。

 彼の背後は森が豊富ではあるが、その先にかなり背の高い建物が見え隠れしており、逆に川の対岸からはるか先には延々と山脈が続いているのが見える。

「あれは『ロン=ドゥの棲家』、かな。いや、ちょっと形が違うような……」

 暫く放心した様にその場にへたり込み、山が連なる風景を見ていた。

 徐々に記憶が蘇る。

(ネルソ様)

 恐る恐る、頭の中で話し掛けてみた。

 数秒たっても何も返ってこない。
 エキドナにも話し掛けてみたが、同じだった。

(本当に、死んだの? ネルソ様、エキドナ様)

 俺様、と呼ばれる状態になろうと試みた。
 だがダメだった。

 ポロリと涙が出た。

 手で擦ると砂が付いて痛い。
 顔を洗う為、川にもう一度向かう。

 そこで川面に映る自分の姿を見て愕然とした。

「あ、痣が……」

 なくなっていた。

 左首筋の青い痣、胸の赤い痣が無い。
 ネルソとエキドナを示すそれが綺麗に消えていた。

「ネ、ネルソ様……エキドナ様……」

 不意に涙がとめどなく溢れ出た。

 ネルソの言う事を聞き、素直にさっさと逃げおくべきだったと激しく後悔する。

「なんだ。一体なんなんだ、何をしてるんだ僕は……」
「ネルソ様達のおかげで強くなっていただけなのに、自分が強くなったと自惚れていたのか」

 俺様ノルトと呼ばれる状態の彼は別人格と言うわけではなく、あくまで自我は彼なのだ。

 もちろん普通の状態の彼なら素直にネルソの言う事を聞いていたはずだ。

 だが彼にはリドへの怒りで自分が判断した記憶がまざまざと残っている。

「なんて、なんてバカなんだ僕は……ごめんなさい、本当にごめんなさい。ネルソ様……エキドナ様……」

 ノルトは頭を垂れ、その場で土下座する様に激しく嗚咽をし、泣き続けた。


 やがて日が暮れ始める。

 ふと我に返り、交信の指輪をつけていた右手を見る。

「そうだ。指輪は壊されちゃったんだ……どうしよう」

 記憶を辿り、どこに向かっていたのかと頭を動かし始めた。

(確かロン=ドゥの棲家を目指して……その後は、メルマトラ、だっけ?)

 そこに行けば皆と合流出来るかも知れない。

(僕ひとりでロン=ドゥの棲家を越えてメルマトラに……)

 そう考えてブルブルと首を振る。
 それはさすがに自信が無い。

 ふと背後の森を見る。

(とにかく人に情報を聞いてみよう。まず、ここがどこかがわからないと)

 森の向こう側に見える、建物の方へ行けば誰かに出会うだろうと考えた。

 その森は案外狭く、幸いすぐに抜ける事が出来た。

 が、そこから見えた光景にゾッとする。

 建物は城であった。
 あろう事か、そこにはロトス王国の旗が立ち並んでいるではないか。

(え、えええ!?)
(まさか! ぼ、僕ひとりだけ、ロトス王国まで戻ってきたの?)

 ロトス王国では、王女メイと侍女のジュリアのふたりが数日だけ旅を共にした唯一の知り合いと呼べる人間だが、彼女達は今、ハミッドと共にネイザールにいるはずだ。

(あと、この国で僕と関係があるのはフュルトまで案内してくれたリサさんと……その他はマッカとその勢力、つまり敵しかいない)

 それはネルソとエキドナの死によってただでさえ落ち込んでいた彼を更にどん底に突き落とすものだった。

 だが。

 ノルトは深呼吸をする。

(慣れてるさ、だってアンナに出会うまではこんな事の繰り返しだっただろ)

 それは諦めに似た気持ちにも見えるが、ノルトなりに前向きな思いだった。

 自分のせいで2人も魔王を死なせた事は到底許せないが、今は頭を切り替える事にした。

(今は悩んで悔やんでたって仕方ない)

 もう一度、そこから見える景色を整理した。

(ロトスにあんな大きな城はあったかな)

(少なくともフュルトにはなかったし、遠くに見えた王城もこんな規模ではなかったような)

(……つまりフュルトでも王都でもない、ロトスのどこかって事だ。きっとマッカも居ないはず)

(町に出て魔道具屋を探そう。交信の指輪さえあれば)

 まさかサラを除く全員が指輪を壊されたとは知らず、魔道具屋を探す事を当面の目的とした。

 念の為に森の中を歩きながら城の入り口を探す。


 1時間ほど歩いただろうか。

(うーん。一体どこが入り口なんだろう……あ!)

 ふと城の外でマクルルよりも大きな人間が何人も首や足を鎖で繋がれているのを見つけ、反射的に木陰に隠れた。

 二輪車を大勢で引いており、木材や巨石を運んでいるようだ。

(奴隷だ。ロトスにもいるんだな……)

 ふとセントリアでの嫌な記憶が蘇る。奴隷という身分ではなかったものの、虐げられ、日常的に暴力を振るわれていたのは同じだった。

(解放してあげたいけど今は……)
(でもリドを倒し、マッカを倒せばきっとここも変わる)

 そんな事を考えていると、奴隷達の前に複数の兵隊達と一際大きな黒い馬に跨った、同じく真っ黒な甲冑を着込んだ騎士が姿を表す。

 その騎士にノルトは見覚えがあった。

(あ、あいつ……!)

 かなり離れているにも関わらず、その騎士は何を感じたのか、不意にノルトの方を向く。

 慌てて口を手で塞ぎ、その太い幹に体をめり込ませる様に隠れた。

(ロンギス! あいつはロンギスだ。マッカの部下の……暗黒騎士ダークナイト!)

 汗がとめどなく流れてきた。

 いつも側にいた頼もしい仲間はいない。
 そしてノルトは今、になれず、とても戦える状況ではない。

(いいい、生きていた!)
(あの時サラさんとアンナにテイムされたのに自力で抜け出したのか!)

 目を閉じ、そのまま息を殺し、動かずに耐えた。

 永久にも感じられるその時間は唐突に終わりを告げる。

「この辺りだと思ったが?」

 一際、心臓が大きく波打った。








しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...