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永遠なる魂
096.変わるマヤ
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マヤの両肩を手で押し、そのまま勢い良く上体を起こした。
「きゃん!」
驚いた顔のままマヤがひっくり返る。
「あ! ごめん、マヤさん」
「痛たたた……どうしたの? 嫌だった?」
今にも泣きそうな顔で言う。
その姿を見てすぐに絆されそうになるところをブンブンッと首を振って耐える。
「マヤさん。その……違ってたらごめん。ひょっとして、君、サキュバス、じゃない?」
その言葉を聞いたマヤが愕然とした表情を浮かべ、絶句する。
暫くして、その大きな目から一筋の涙が伝う。程なくボロボロと後から後から溢れ出した。
それを見たノルトが焦る。なんと言ってもこんな経験は全てが初めてなのだ。どうしていいか、全くわからない。
内股でぺたりと座り込み、泣き続けるマヤの近くに行き、手を取ってただ謝り続けた。
「ごめんなさい……女性に失礼な事言って本当にごめんなさい」
「う、うう……なんでぇ……そう、思ったの?」
「実は前に一度サキュバスさんに襲われた事があって……その時の状態に似てたんだ。本当にごめんね」
「うう、ぐすん。ギュッてして、くれたら、いいよ?」
その仕草の可愛さたるや、自分があんな状態になったのはこの人の魅力のせいなんだ、とノルトが考え直したほどだった。
膝立ちになり、マヤを抱きしめた。
すると耳元でマヤが熱い吐息と共に言う。
「凄いねノルト君。あたしの魅了に抗えるなんて」
驚いて体を離し、距離を置いた。
「や、やっぱり!」
「ふふ。こう見えて結構長く生きてるんだけどさ。ちょっと記憶にないよ、あたしの魅了に逆らった人間は。いや魔族も含めて、ね」
距離を置いた分、マヤが詰め寄った。
「う……はな、れて」
「なんで? あたしの事嫌い?」
「い、いや、そうじゃ……でも、僕には」
「ひょっとして、好きな人がいるのかなぁ?」
何故か瞬時にアンナとロゼルタの顔が脳裏を過ぎる。
「僕には……大事な人がいる。それに僕はこんなことしてる場合じゃ」
「いいじゃん? ずっとあたしとここに、いようよ」
「ここに……マヤさんと……」
「あたしが全部、ノルトを敵から守ってあげるよ?」
「全部……」
「なんでもしてあげるよ。気持ちいい事、いっぱいしようよ」
「う……」
いつの間にかまた、意識が微睡み始めた事に気付く。
首を振り、「やめて!」とマヤを突き飛ばした。
ガクンと首が揺れ、またマヤが後ろに倒れた。
「あ、ごめんなさい……」
「ハァ……大丈夫よぉ。魔族だもの……でも、ハァ……残念だわぁ」
仰向けのままそう言ったマヤの声と口調が突然変わったように思えた。
「あ――あ。私は本当に恋がしたかっただけなのになぁ……どうしてもサキュバスの本能が勝っちゃうのよねぇ」
その様子を見て、このままここにいてはまずいと感じたノルトは衣服を直し、
「僕はもう行くよ。でもマヤさん……本当にありがとう」
ジッとノルトを見ていたマヤだったが、不意にニタリと笑う。
「う――ん。この状況で私にお礼を言うなんてなかなかたらしなとこ、あるのねぇ。今のセリフ、キュンときちゃった。見逃してあげたいけど……」
更に目を細めて嬉しそうに、恐ろしい言葉を言い放った。
「でもダメよ。だって君、リドちゃんから指名手配されてるもの」
その表情、妖しい気配、そしてそのセリフ。
一瞬で背筋が凍った。
「リ、リド、だって!?」
驚愕の表情を浮かべるノルトを楽しそうに、揶揄う様に見つめていたマヤがゆっくりと立ち上がる。
彼女の身長はノルトより頭半分高い程度だったはずだ。それが今はどうだ。体半分ほど高くなっている。それはロゼルタやテスラとほぼ変わらない高さだった。
赤毛で短髪だった髪はクルクルに巻かれた長い赤髪に変わっている。
いやそれよりも、顔がさっきまでと全然違う。快活で弾ける様な可愛さを持っていたマヤの顔は、妖艶で美しく、顎にホクロがある艶かしい大人の女性の顔付きに変わっていた。
裸だった体は目の前で凝視していたのに気付かない内にスリットの入ったセクシーな衣装となっていた。
「あ……あ……君は……一体」
「ウフフ。初めまして、内に魔王を持った少年君。私は暗黒魔導師クリニカ」
その名を聞いて総毛立つ!
ロゼルタ達が絶対に許さぬと目の敵にしている敵の1人ではないか。
「ク……クリニカ! あなたが……?」
「そ。淫乱魔女とも呼ばれてるわ。ラドニーは怒るけど私は結構気に入ってるのよねえ」
みるみる辺りを包む紫の霊気は引力でもあるかの様にクリニカの周りを護衛する様に回りながら増えていく。
「楽しかったわぁノルト君。本当はあと何日か恋人ごっこをしたかったんだけど、私の絶対の魅了がそれを許してくれないのよねぇ」
「……」
「うーん。でもリドちゃんから聞いてた感じとちょっと違うわねぇ。痣はあるけどネルソ様の魂を内に持ってるって感じ、しないわねぇ」
唇に人差し指を付け、首を傾げて言う。
「人違いかなあ? 折角それっぽい気配を頼りにひと芝居打ったのになぁ」
「芝居……一体、どこから……」
「あーん。もうノルトくん可愛いなぁ! ごめんねぇ。全部よ全部」
「ぜ、全部?」
何を言っているかわからないと言わんばかりの顔で聞き返すノルトを前に妖艶に微笑む。
「ロンギスがここを目指す様に言ったのもぉ、私がオークに襲われてたのもぉ、兵士に体を売る商売をしてる設定もぉ……全部」
「せ、設定……だって……」
「ウフフ。男ってね? 特にこの『泣く泣く体を売ってる』って設定をつけると魔族、人間関係なく落ちやすいのよぉ。優しいね?」
言葉が出なかった。
だからロンギスはあっさりと引き下がったのだ。
だからオークは彼女の一撃で屠られたのだ。
だから夜中にノルトが目覚めたタイミングで都合よく男の乱暴が始まったのだ。
ロンギスはわからないがオークと男は既にクリニカの絶対の魅了で魅了されていたのだ。
そうとは知らず、マヤに同情し、自分の母親のことまで話した自分を殴り倒してやりたい気分になった。
(なんて、僕は、バカなんだ)
(本当に……ネルソ様がいないと僕は……)
自分でも知らない内にポロリと涙がこぼれ落ちた。
「きゃん!」
驚いた顔のままマヤがひっくり返る。
「あ! ごめん、マヤさん」
「痛たたた……どうしたの? 嫌だった?」
今にも泣きそうな顔で言う。
その姿を見てすぐに絆されそうになるところをブンブンッと首を振って耐える。
「マヤさん。その……違ってたらごめん。ひょっとして、君、サキュバス、じゃない?」
その言葉を聞いたマヤが愕然とした表情を浮かべ、絶句する。
暫くして、その大きな目から一筋の涙が伝う。程なくボロボロと後から後から溢れ出した。
それを見たノルトが焦る。なんと言ってもこんな経験は全てが初めてなのだ。どうしていいか、全くわからない。
内股でぺたりと座り込み、泣き続けるマヤの近くに行き、手を取ってただ謝り続けた。
「ごめんなさい……女性に失礼な事言って本当にごめんなさい」
「う、うう……なんでぇ……そう、思ったの?」
「実は前に一度サキュバスさんに襲われた事があって……その時の状態に似てたんだ。本当にごめんね」
「うう、ぐすん。ギュッてして、くれたら、いいよ?」
その仕草の可愛さたるや、自分があんな状態になったのはこの人の魅力のせいなんだ、とノルトが考え直したほどだった。
膝立ちになり、マヤを抱きしめた。
すると耳元でマヤが熱い吐息と共に言う。
「凄いねノルト君。あたしの魅了に抗えるなんて」
驚いて体を離し、距離を置いた。
「や、やっぱり!」
「ふふ。こう見えて結構長く生きてるんだけどさ。ちょっと記憶にないよ、あたしの魅了に逆らった人間は。いや魔族も含めて、ね」
距離を置いた分、マヤが詰め寄った。
「う……はな、れて」
「なんで? あたしの事嫌い?」
「い、いや、そうじゃ……でも、僕には」
「ひょっとして、好きな人がいるのかなぁ?」
何故か瞬時にアンナとロゼルタの顔が脳裏を過ぎる。
「僕には……大事な人がいる。それに僕はこんなことしてる場合じゃ」
「いいじゃん? ずっとあたしとここに、いようよ」
「ここに……マヤさんと……」
「あたしが全部、ノルトを敵から守ってあげるよ?」
「全部……」
「なんでもしてあげるよ。気持ちいい事、いっぱいしようよ」
「う……」
いつの間にかまた、意識が微睡み始めた事に気付く。
首を振り、「やめて!」とマヤを突き飛ばした。
ガクンと首が揺れ、またマヤが後ろに倒れた。
「あ、ごめんなさい……」
「ハァ……大丈夫よぉ。魔族だもの……でも、ハァ……残念だわぁ」
仰向けのままそう言ったマヤの声と口調が突然変わったように思えた。
「あ――あ。私は本当に恋がしたかっただけなのになぁ……どうしてもサキュバスの本能が勝っちゃうのよねぇ」
その様子を見て、このままここにいてはまずいと感じたノルトは衣服を直し、
「僕はもう行くよ。でもマヤさん……本当にありがとう」
ジッとノルトを見ていたマヤだったが、不意にニタリと笑う。
「う――ん。この状況で私にお礼を言うなんてなかなかたらしなとこ、あるのねぇ。今のセリフ、キュンときちゃった。見逃してあげたいけど……」
更に目を細めて嬉しそうに、恐ろしい言葉を言い放った。
「でもダメよ。だって君、リドちゃんから指名手配されてるもの」
その表情、妖しい気配、そしてそのセリフ。
一瞬で背筋が凍った。
「リ、リド、だって!?」
驚愕の表情を浮かべるノルトを楽しそうに、揶揄う様に見つめていたマヤがゆっくりと立ち上がる。
彼女の身長はノルトより頭半分高い程度だったはずだ。それが今はどうだ。体半分ほど高くなっている。それはロゼルタやテスラとほぼ変わらない高さだった。
赤毛で短髪だった髪はクルクルに巻かれた長い赤髪に変わっている。
いやそれよりも、顔がさっきまでと全然違う。快活で弾ける様な可愛さを持っていたマヤの顔は、妖艶で美しく、顎にホクロがある艶かしい大人の女性の顔付きに変わっていた。
裸だった体は目の前で凝視していたのに気付かない内にスリットの入ったセクシーな衣装となっていた。
「あ……あ……君は……一体」
「ウフフ。初めまして、内に魔王を持った少年君。私は暗黒魔導師クリニカ」
その名を聞いて総毛立つ!
ロゼルタ達が絶対に許さぬと目の敵にしている敵の1人ではないか。
「ク……クリニカ! あなたが……?」
「そ。淫乱魔女とも呼ばれてるわ。ラドニーは怒るけど私は結構気に入ってるのよねえ」
みるみる辺りを包む紫の霊気は引力でもあるかの様にクリニカの周りを護衛する様に回りながら増えていく。
「楽しかったわぁノルト君。本当はあと何日か恋人ごっこをしたかったんだけど、私の絶対の魅了がそれを許してくれないのよねぇ」
「……」
「うーん。でもリドちゃんから聞いてた感じとちょっと違うわねぇ。痣はあるけどネルソ様の魂を内に持ってるって感じ、しないわねぇ」
唇に人差し指を付け、首を傾げて言う。
「人違いかなあ? 折角それっぽい気配を頼りにひと芝居打ったのになぁ」
「芝居……一体、どこから……」
「あーん。もうノルトくん可愛いなぁ! ごめんねぇ。全部よ全部」
「ぜ、全部?」
何を言っているかわからないと言わんばかりの顔で聞き返すノルトを前に妖艶に微笑む。
「ロンギスがここを目指す様に言ったのもぉ、私がオークに襲われてたのもぉ、兵士に体を売る商売をしてる設定もぉ……全部」
「せ、設定……だって……」
「ウフフ。男ってね? 特にこの『泣く泣く体を売ってる』って設定をつけると魔族、人間関係なく落ちやすいのよぉ。優しいね?」
言葉が出なかった。
だからロンギスはあっさりと引き下がったのだ。
だからオークは彼女の一撃で屠られたのだ。
だから夜中にノルトが目覚めたタイミングで都合よく男の乱暴が始まったのだ。
ロンギスはわからないがオークと男は既にクリニカの絶対の魅了で魅了されていたのだ。
そうとは知らず、マヤに同情し、自分の母親のことまで話した自分を殴り倒してやりたい気分になった。
(なんて、僕は、バカなんだ)
(本当に……ネルソ様がいないと僕は……)
自分でも知らない内にポロリと涙がこぼれ落ちた。
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