【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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永遠なる魂

097.恐るべき淫乱魔女

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 ノルトの涙を見たクリニカが体をくねらせる。

「泣かないでノルト君。だから言ったじゃない。悪いのは全部あたしだって」

 ノルトはクリニカを見つめて呆然と立ち尽くす。

「美少年の涙、尊いわぁ……抱き締めていい子いい子したくなっちゃう」
「マヤさん……いやクリニカさん。僕を……揶揄ったんですか?」

 ポロリ、ポロリと降り始めた雨の様に少しずつ溢れ落ちる涙を拭おうともせずノルトが言う。

 すると困った様な顔をしてクリニカが言う。

「揶揄った、っていうのとはちょっと違うかなぁ。私はいつだって本気だもの」
「……」
「人化の私が最後に言った言葉も本当だよ? ノルト君が私の事をちゃんと好きになってくれてたらリドちゃんから守ってあげようと思ったんだよ? ……あ、もう正体明かしちゃったからダメだけどね?」
「どこからが魅了チャームのせいなのか曖昧だけど、多分好きに……なりかけてた、と思います」
「そっかぁ。じゃあ変に勘繰らないで身を委ねていればよかったのに。残念ねぇ?」
「いや」

 グッと腰を落とし、戦闘の体勢に入る。

「好きになった人が倒さなきゃならない人だと知る前に目が覚めてよかった」

 その言葉を聞いたクリニカが頬を赤らめ、手を上げて悦ぶ。

「か……っこう良いなぁノルト君! 私の方が惚れちゃいそうだわぁ」

 その様子をジッと睨みつける。

(ちょけているけど、この人の力はリドやマッカ、サラさんと並ぶものだ)
(今の僕が到底敵う相手じゃない)
(きっとネルソ様なら『逃げよ』って言うだろうなあ)

「どうしても僕を行かせてくれないなら、僕は戦う」
「いいわねぇ。魔王を使役する少年のお手並み拝見だわぁ」
「雷撃!」

 バリバリと雷が鳴る音と共にクリニカ目掛けて稲妻が横走る。

 それはあっさりと直撃したが、その美しい肌は焦げのひとつもつかなかった。

「こんなレベル?」

 クリニカが前髪を払う仕草を見せた時、ノルトはもういなかった。


 雷撃を放ったと同時にノルトは反対を向き、居間の窓から外へと飛び出し、一目散に逃げ出した。

(とても敵わない。逃げろ! 逃げるんだ!)

 ネルソの言葉を無視して後悔した事は忘れない。

(倒すべきはリドだ。あいつさえ倒せば……きっとクリニカさんと戦わなくて済む)

 やはりマヤという人格に惹かれていたのか、クリニカとの戦いを避けたいという意志が働く。

 だが。

 ドンと何か柔らかいものに当たり、尻餅をついた。

「う……いてて」
「どこに行くの? 私と戦うんでしょう?」
「う!」

 クリニカだ。
 強靭な腹筋の上に程よく脂肪のついたその魅力的な腹に当たって跳ね返されたのだ。

 姿勢良く立つその姿を呆然と見上げる。

「うーん、可愛いけど……ちょっと期待外れだなぁ。なんでリドちゃんは君に手間取ったのかな? ロゼちゃんやテスラちゃんが手強かっただけかな?」
「踊る剣!」

 刹那、丸みを帯びた剣が一斉にクリニカに襲い掛かる。

 その剣を、まるで綿毛を振り払うかの様に指先で払い除ける。
 本来なら執拗に敵を切り刻むはずのその剣はクリニカの指に触れた途端、次々に消滅していった。

 その余裕の笑みが絶えることはない。

「ウフフ。もっと見せてよノルト君。こんなもんじゃないんでしょう?」

(な、なんて弱い威力……)
(本当に……僕はネルソ様がいないと、何もできない! クソッ!)

「なかなか本気出せないみたいだね。じゃあ私から軽くいこうかしらぁ」

 クリニカの指先から黒い霊気のようなガスが出、それがゆっくりとノルトに向かい、両手に纏い付いた。

「うわぁぁ!」

 黒い炎が小さく燃え出し、腕から煙が上り始めた。
 両手の肘から先が焼け付く様に痛む。

「ウフフ……ホラホラ、いつまでも過去の恋愛を引きずってないで! 早く私を倒さないと死んじゃうよぉ、死なないで、ノルト君!」

 勝手な事を言うクリニカを前に、死に晒されたノルトの周囲に薄く霊気が現れだした。

「ひょ、氷結!」

 その詠唱と共に現れた氷はノルトの腕、というよりはそこで燃え盛る黒い炎とガスを包み込み、凍らせた。

(エキドナ様の転移は出なかったけど氷結は出た!)

 そこでノルトは思い切って知る限りの最強の魔法を詠唱し始めた。

「古の魔神、炎のヘレナよ! 我が怒りを全てを燃やし尽くす地獄の炎に……」

 詠唱の途中でノルトは前屈みになり、ハァハァと荒々しく息を吐く。

(ダ、ダメだ……魔法が発動する感覚が出ない)

「あら、どうしてやめちゃうの?」

 不思議そうに首を傾げるクリニカが柔らかく言う。

(クソッ! ネルソ様がいないと発動しないんだ)

「うーん、困ったね?」

 本当に困った様にクリニカが小首を傾げる。

「よぉし! お姉さんがもう一肌脱いであげる。でも今度ダメなら……」

 突如クリニカの目に冷徹な色が宿る。

「死ぬしかないわよぉ?」

 背筋がゾクリとする。

 クリニカの指から黒く光る『輪』が何十と生み出され、ノルトへ向かって次々と発射された。

 形は小さいが恐らくあれを食らえば大ダメージを負ってしまうのだろう。

「う、う! て……転移!」

 黒いその輪がノルトの眼前に迫った時、それは遂に発動した。

 一瞬でクリニカの背後に回ってみせた。

(転移……でき、た?)

 クリニカが振り返り、笑みを浮かべる。

「凄いわノルト君! 転移なんて見たの、エキドナ様以来だわぁ! さあ次々ぃ~~!」

 再び黒い輪の攻撃が始まる。

 今度は彼女の全方向、彼女の頭上も含めて放たれた。更にノルトを攻撃する以外の輪はそのまま空中に滞留し、見える限りの範囲を埋め尽くす!

 メルタノの魔族だった彼女はエキドナの転移を知り尽くしている。それは空へ転移する事も可能だと。

「もう逃げられないね?」

 少女っぽく、クスリと笑う。
 クリニカからすればこれくらいの攻撃で死ぬようなら生きてても無駄、くらいの感覚なのだろう。

(思い出せ! 思い出せっ! ネルソ様と戦った全てを!)

「ペールセトーのぉ、大盾ぇっ!」

 青く輝く透明なそれは襲い来る輪を跳ね返す。だがすぐに耐久は尽きるだろう。

「炎弾!」

 オークに放ったそれよりも少し大きな火炎球が放たれる。

 それは軌道上にある彼女の放った黒い輪を一瞬で燃やしながらクリニカに向かう。

「ウフフ」

 それらを今度は手の甲ではらう。それだけで火の玉は次々と消え去った。
 だがノルトは続けて攻める。

「黒炎弾!」

 それは俺様状態でも自分では放った事のない、ネルソの力を借りてリドと対峙した際に一度だけ発動した魔法。

 黒く燃え盛るそれが黒い輪を屠っていく。

 初めてクリニカは自身の前にバリアを張った。黒炎弾はそれに当たると全て消え去る。

「調子出てきたじゃない。それにその霊気オーラ……黄色なんて初めて見たわぁ。一体何を示す色なのかなぁ? さあもっとキミを見せてちょうだい」

 クリニカは両腕を掲げると「絡みつく毒の糸」と唱える。

 すぐにノルトの頭上から紫色の蜘蛛の巣の様なものが降って来た。

「踊る剣!」

 先程クリニカに軽くあしらわれた魔法を蜘蛛の糸の切断に使う。白銀の剣はそれらを細切れに消えていく。

「それを防御に使うのね! やるぅ!」

 ギロリとクリニカを睨み、

「炎の踊りと土の走りで哀れな生き物の身を拘束せよ!」

 クリニカの足元から蔦の様に伸びる赤と茶色の2本のロープが彼女を拘束する。

「可愛い拘束デバフねぇ。じゃあお姉さんもひとつ……これはちょっとキツイかもよぉ?『闇の手の捕縛』!」

 刹那ノルトの足元が暗闇の沼となり、その中から現れた、まるでロン=ドゥのそれの様な黒い手がノルトを掴む!

「ウフフ。エキドナ様ですら捕縛する拘束魔法よ?」
「クッ、転移!」

 転移は発動はするのだが、黒い手の力によって動けない。まさしく次元魔導王エキドナに対抗する為に作られたかのような拘束魔法だった。

「来たれ古の七剣神!」

 クリニカを囲む様に燃え盛る7本の剣が現れる。

「ネルソ様のオリジナル魔法ね。懐かしいなぁ」
「紅蓮の刃!」

 ノルトの号令でそれらは猛スピードでクリニカを襲う。

 だがその刃は彼女の体に触れると同時に逆に弾け飛んだ。

「バ、バカな……」
「フフ……」

 驚愕の色を浮かべるノルトに小さく微笑みかけると、彼が仕掛けたデバフを軽く引き千切るようにして脱出した。

 闇の手の捕縛から全く抜け出せないノルトを目指して飛ぶ。

(まだ……まだだ!)
(やれる、やれる、やるんだ、やらなきゃ……やられる!)

「絶雷!」

 ネルソの力でリドに放ったそれとは比ぶるべくもない。

 だが量を制限して一撃の威力を増した。
 そうしてですら、威力はネルソが出したそれの半分にも満たない。

 最強の拘束魔法を与え、まさか反撃が来るとは思わなかったクリニカはまともにそれを食らってしまった。
 初めての有効打だったと言えよう。

 クリニカは地面に降り立ち、膝を突きかけるがグッとノルトを一瞬睨み、すぐに相合を崩す。

「油断しちゃった。考えたなぁ……紅蓮の刃はおとりね? でもちょおぉっと威力不足だわぁ」

 クリニカが纏う霊気の動きが激しさを増す。右腕を掲げ、その手のひらを天に向ける。

「ここまでかなぁ。生き物を殺すのは趣味じゃないんだけど、君の場合は仕方ないかな」

 彼女が掲げた手のひらにはまるでロンギスがどこからか出した悪魔の槍の様に、黒く、先端が3本の爪に分かれた槍が突如として現れた。

「じゃあねノルト。短い間だったけど、本当に好きだったよ?」

 マヤの口調になり、なんとも言えない目でノルトを見たが、それはほんの一瞬、すぐに元の妖艶なクリニカに戻り、不敵に微笑む。

「さよならノルト君! 黒い三叉の槍ダーク・ジャベリン!」

 クリニカがその手を振り下ろすと、その槍は弓から放たれる矢の様に宙を走り、ノルトに迫った。

 既にノルトは頭まで黒い手で掴まれ、完全に動けない。

 逃げることも、いや動くことすらできないノルトの首にその槍が突き刺さる!

 次の瞬間、その三又の槍は何故かクリニカの腹に突き刺さっており、勢いそのまま突き破った。









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