【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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最終章 魔王をその身に宿す少年

115.反撃の狼煙(中)

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 ドラゴニアと呼ばれた合成魔物キメラはハミッドの少し手前に降り立つと夢中で肉に齧り付いていたバーバリアンをひとり掴み、なんとそのままボリボリと食べてしまった。

 バーバリアン達の間に動揺と恐怖が走り、ワッとそこから逃げ始めた。

 ハミッドの目の前でそのバーバリアンは生きながら爪で体を貫かれ、食べられた。

「フゥ……体の、大きさの割に、スジ、だらけ」
「しゃ、喋るのか」
「クックック。当たり前さ。誰が合成したと思ってるんだい? 天才なんだよ私は」

 だがそのワンクッションはハミッドにとっては幸いだった。

 見た事のない、あまりの異形さに珍しく取り乱していた彼が冷静さを取り戻すきっかけとなった。

「生きていると色んな物を見るものだ」

 長剣をひと振りし、構え直す。

 遅れてやって来た兵士達を手で制し、下がらせた。

「も、もう、ひとつ、食べる」
「おおいいぞ、ドラゴニア。ネイザールの王太子様だ、美味いぞ!」
「う、うまい?」

 ドラゴニアと呼ばれたその怪物が視線をハミッドに据え、グルルと喉を鳴らす。

 不意に右腕を振り上げた。
 同時に一瞬でハミッドの目の前に跳ぶ。とんでもない脚力だった。

「!」

 ハミッドは動く事すら出来ず、その巨大な拳をまともに胸で受けてしまった。

 馬から飛ぶ様にして彼は後方に吹き飛ばされた。

「ゴ、ゴフッ」

 口から大量の血を吐く。
 体中が一瞬麻痺した。

 それが握った拳ではなく、伸ばした指先であったら今頃命は無かったかも知れない。

 だが危機は変わらない。

 すぐにドラゴニアはハミッドの元へと飛び、今度はその鋭い爪を剥き出しにし、地面に寝そべるハミッドを串刺しにせんと振り上げ……突き刺した!

 間一髪、体を転がせその一撃は避けたハミッドだったがドラゴニアの目がそれを追う。

 息をも吐かせず、再び腕を振り上げると同じ様に振り下ろす。

 だが今度はハミッドが狙っていた。

 再度転がりながら、なんとか離さなかった長剣を振り抜いた。

 ドス、と鈍い音と共に怪物の腕が落ちた。

 そのまま二回転したハミッドがなんとか膝立ちとなり、態勢を整えた。

 ところがその怪物は肘から先が無くなったことに気付かないのか、気にせずまた振り上げた。

 するとどうだ。

 なんと振り上げた位置で腕が再生した。

「ええい、化け物めっ!」

 後方に跳んで距離を置こうとする。
 だが闇魔導士ラドニーがそれを許さない。

「ちょこまかと……『鈍い足スロウ』! さあドラゴニア、やっちまえ!」

 ハミッドにスロウの魔法がかかる。
 体が思うように動かない。

(いかん、やられるっ!)

 ドラゴニアが涎を垂らし、ハミッドを突き刺そうとしたその時。

 突如、見た事もない赤い槍がその巨体を貫いた!

「う、ぐ、あああ……痛い、イタイ……」

 ドラゴニアが呻く。

 その槍から炎が溢れ出し、瞬く間にドラゴニアを焼き尽くした。

 その後ろから槍の持ち主であろう、長い銀髪に竜の被り物をした男が現れ、呟く。

「いまや竜族は絶滅の危機にあるというのに……なんとむごい」
「あ、あああ! わ、私の、ドラゴニア……一体、誰……ヒッ!」

 その男を見たラドニーの顔が途端に恐怖に歪んだ。

「ド、ドド、ドラック様……な、なぜ!?」

 それは少し前までクリニカに魅了され、ドーンの助力でなんとかそれから逃れ、メルマトラを彷徨っていたドラック=フォニアだった。

 ドラックはギロリとラドニーを睨むと、吐き捨てる様に言った。

「何故だと? お前、俺が竜人族と知っているだろう? こんな合成魔物キメラを許せるとでも思っているのか?」
「そ、それは……しかし貴方はクリニカ様の」
「その名前を、口にするなぁ!」

 ドラックが手を上げるとハミッドの前にあった槍はまるで消える様にして一瞬で彼の手元に戻る。

 再びそれをラドニー目掛けて凄まじい勢いで投げつけた!

 それは見事にラドニーを貫くが不思議な事に突き抜けはせず、柄の中程にその体が来るとまるで槍自身に意志がある様にピタリと止まる。

「ぐぁっ……ドラック、様……クリニカ様が、許しません、ぞ……」
「燃えろ! バルチカ!」

 ドラックが叫ぶと先ほどのドラゴニアと同じ様に一気に体全身に火が回り、ラドニーは数秒で焼き尽くされて灰となった。

 呆気に取られていたハミッドだったが、剣を杖にしてなんとか立ち上がるとドラックへと近付いた。

「貴殿が高名なドラック殿か。助かった」
「……君は?」

 怪訝な顔でドラックがハミッドを見る。

「俺はネイザールの王太子ハミッド」
「ふむ。これも何かの縁であろう。だが私はこの戦自体に興味はない。このまま先を急がせて貰う」
「それは構わぬが、どこへ行くか聞いても?」
「スルークへ」

 ハミッドの目が光る。

「スルーク……何をしに?」

 ドラックが手を上げると、赤い槍はまた主の元へ空間を超えるように瞬時に現れた。

「私に殺気を向けるか。何故君が?」
「ある魔族に大きな借りがあってね。リドの味方をしにスルークへ行くと言うなら、たとえ命の恩人であってもここを通すことは出来ん」
「ほう。これまた奇遇、実は私もある魔族に借りがある。だがそれを返す前にやる事があってね」
「それを聞いても?」
「リド=マルストを」

 風切り音をさせながら器用に槍を回し、脇の下に構えて見せ、笑いもせずに言った。

「殺す」

 真逆の想像をしていたハミッドは差し違えてでも、と考えていた。
 一瞬驚いた顔をした後、フゥと小さく息を吐く。

「なんと。ここで貴方に会えて良かった」
「ちなみに君が恩があると言う魔族は?」
「ロゼルタ」

 それを聞くと今度はドラックが目を見開いた。

「なんと! ドーンだけでなく彼女も蘇ったか。良かった。では先を急がせて貰う」
「御武運を」

 ◆◇◆◇


「ドラック。そうか。無事、クリニカの呪縛から逃れたか」

 ドーンが感慨深そうにポツリと言う。

『その後デルピラの奴らをなんとか撃退し、事なきを得たといったところだ』
「そうか。とにかく無事で良かった。他にもあるのか?」
『ロトスでクーデターがあり、マッカ不在の中、クヌムとヨアヒムがスライブ達、王族を監禁してしまったらしい』
「スライブが?」

 ロゼルタはハミッドと共にスライブ王子にも助けられた恩がある。

『俺達はスライブから事前にオーク共の不穏な空気を聞き、先手を打ってロトスを攻めようとしていたのだ。そこにロンギスが来たと言う訳だ』
「なるほど。それほど統率された動きを見せるという事は」
「あらかじめマッカが手を回していた、じゃな」

 それはマッカが自身の父ブシュカルを倒し、新たなオークの王となった際に部下に命じていたことだった。

『だろうな。メルタノも奴の配下ハルサイがいて我々はそちらの動きも気になって動けないでいる』
「ふむ。他にもあるか?」
『あとは、少し待て……ナウラ!』

 するとドタドタと走る音がする。
 やがて耳を劈く大声が聞こえて来た。

『あなた!』
「うっるさ……お前、その登場の仕方やめろ」
「ナウラ」
『あなた! 無事なのね。よかったわ! また神託が降りたみたいなの』
「ありがとう。どんな神託なの?」
『どう致しまして。早く私の元に帰ってきてね? フロニー、その紙を』

 数秒後、ナウラが神託を読み上げ始めた。


『虹の力を得し者の体内に

 魔を喰らう剣を取り込み

 アリオンダッチを纏う者の復活を阻止せよ』


 皆がそれを咀嚼する時間が流れる。
 最も早く口を開いたのはノルトだった。

「僕の体の中に、リドの『魔喰』を取り込む……?」
「なんだ? 飲めってことか?」とテスラ。
「バカ。んなわけねーだろ、奇術師じゃねーんだぞ」
「アリオンダッチとはこれまた厳つい名前が出たのう」
「暗黒神ですね。神の中で唯一の闇の神」とサラ。

 そんなことを言い合っている間に、指輪の向こうではまたハミッドに変わったらしい。『そういえば』と声が流れてきた。

『大した事ではないかもしれんがひとつ、ずっと気になっている事がある』
「なんだ?」
『最初、リドはどうしてナウラを誘拐しようとしたのだろうとな』

 皆、押し黙ってしまう。
 誰も喋らないのを確認した様にハミッドが続けた。













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