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最終章 魔王をその身に宿す少年
137.メルタノの三賢者(前)
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◆◇ 月の塔 2階 ◆◇
「っく……ハァハァ」
流れ出る血は少し止まってきたとはいえ、背中は円月輪によって奥までバッサリと斬られており、そう簡単に治るような傷ではない。
それでももう5、6階は降っている筈だった。
最初は休みながら螺旋の階段を降りていたロゼルタだったが、時間が経つほどに体の動きが鈍くなることに気付き、焦っていた。
暗殺者の王ハモンは倒したがリュカオンの術式は解けていない。治癒能力も吸血鬼の力も取り戻せていない。
流した血は人間ならとっくに死んでいるほどのもの、魔族の彼女でもかなり危険域に達している。
「ハァハァ……外から見た感じ、さっきのが最上階だとしてもそろそろ地上に近いはずだが……」
肩で息をしながら独り言を呟いていると、ようやく地上の通路へ通じると思われる塔の出口が見えた。
(やっとか。サラを探さねーとな)
(サラならこの術式を解けるかも知れねー)
ここまで来る間、皆に念話を送ってみたがまともに返ってきたのはマクルルのみで、結局サラの居場所は分からなかった。
ドーンは通じはするが返事がなかった。察するに戦闘中ということか。
テスラには念話が届きもしなかった。マクルルによれば今は失神しているとの事だった。
階段を降り、最後の一段、というところで足を止めた。
疲労もあったがそれよりも脇の扉の中から僅かに殺気が感じられたのだ。
(霊気は感じねーが)
なるべく息を殺し、暫く気配を探った。
先にそちらを処理するか、放っておいて出口へ向かうかを決めかねた。
(ただの兵士ならいいんだが)
ここでまたユークリアやロンギスなど、幹部級の相手と出会すのは避けたかった。
今、彼らを相手出来るほどの戦闘力はないと自分でわかっている。
考えた末、扉を開ける事にした。
こんな誰もいない所で殺気が出ている以上、狙いは彼女しかいない。
それに背を向けることは危険すぎる。
(ふう……)
一息吐き、扉を開けようと手を伸ばしたその瞬間!
扉をぶち破って出てきたのは途轍もなく太い腕だった。
それは一瞬面食らったロゼルタの首を掴み、部屋の中へと一気に引き摺り込んだ。
そのまま床へと力任せに投げ捨てられ、体中を痛みが駆け抜ける。
うつ伏せのまま顔を上げる事も出来ない彼女へ太い声が掛けられた。
「久しぶりだなロゼルタ」
その声を聞いてゾッとした。
(こ、この声……最悪のヤローと出会っちまった)
(ここまで完璧に気配を消せるとは……)
体をゴロリと転がせて仰向けになる。
男は巨体を揺らし、醜い顔を歪めていた。
「よくよく俺とてめえは縁があるようだ。もう俺の女になれよ」
「て、てめー……マッ……カ」
幹部級どころではない。
そこにいたのはリドの次に厄介と言っていい、英雄パーティの二番手だったマッカだった。
「なんだか面白えことになってんな? あっちこっちで戦ってるようだが、こりゃいいところに来たもんだ」
動きの鈍いロゼルタの血塗れの体を見て下卑た笑いを浮かべた。
「ロトスでのベッドの続きをしようか」
ロゼルタの全身を舐めるように見て言う。
(クソッタレが! ここまで来て……)
ロゼルタが歯噛みした時、突然マッカが思いもよらない事を言い出した。
「……だがその前にでかい仕事があるんでな。お前とサラに俺の子を孕ませるのはその後だ」
(でかい仕事だと?)
ラクニールの都ラサの城でノルト達との直接対決を避けたマッカは、実はノルト達よりも先にこの城へと入り、ひとりひっそりと何かの作戦を練っていた。
マッカの周囲から黒い霊気が噴出する。
頭髪は青から黒へと変わり、立て髪のように長くなった。
(ゲッ。これは……)
その見覚えのある姿を見てロゼルタの全身が凍る。
それはロトスの王城で見せたオークキングの姿だった。
(やべー、今はこんな狂戦士みてーな奴と……)
到底戦えるような状態ではない。
「ククク。隅っこに行ってジッとしてろ」
「な……」
王城の時、マッカは白目を剥き、自我を失っていた筈だった。
今は違う。白目は黒となり、瞳は金となり、竜族の様に縦筋の瞳孔となった。
マッカはオークキングとなっても自我を失わなかった。
壁に立て掛けていた大きな戦斧を持つと扉に向かい、肩に担ぐ。
「……?」
ロゼルタは後ろ手に這う様にして何とか壁際まで逃れるように移動した。
(何があった? ロトスの時と違う)
(それに、ただでさえバケモンみてーだった霊気が更に膨れ上がってやがる)
その時、半壊している扉の向こうから足音がし、何者かがやってくる姿が見えた。
(一体誰……こ、これはまさかっ!)
突然扉が爆発したように粉々になり、その向こう側に立つ背の高い男がいた。
男はマッカを見て意外そうな顔つきをする。
「ハーフオークの気配がすると思ったらマッカではないか」
「ヘッヘッヘ」
(さい、あくだ……)
ギリッと歯を鳴らす。
こいつを殺す為にここまで来た。
現れたのは、決して許してはならない男、魔族の仇敵リド=マルストだった。
動けないロゼルタの前に、リド軍最強の2人が揃ってしまった。
「っく……ハァハァ」
流れ出る血は少し止まってきたとはいえ、背中は円月輪によって奥までバッサリと斬られており、そう簡単に治るような傷ではない。
それでももう5、6階は降っている筈だった。
最初は休みながら螺旋の階段を降りていたロゼルタだったが、時間が経つほどに体の動きが鈍くなることに気付き、焦っていた。
暗殺者の王ハモンは倒したがリュカオンの術式は解けていない。治癒能力も吸血鬼の力も取り戻せていない。
流した血は人間ならとっくに死んでいるほどのもの、魔族の彼女でもかなり危険域に達している。
「ハァハァ……外から見た感じ、さっきのが最上階だとしてもそろそろ地上に近いはずだが……」
肩で息をしながら独り言を呟いていると、ようやく地上の通路へ通じると思われる塔の出口が見えた。
(やっとか。サラを探さねーとな)
(サラならこの術式を解けるかも知れねー)
ここまで来る間、皆に念話を送ってみたがまともに返ってきたのはマクルルのみで、結局サラの居場所は分からなかった。
ドーンは通じはするが返事がなかった。察するに戦闘中ということか。
テスラには念話が届きもしなかった。マクルルによれば今は失神しているとの事だった。
階段を降り、最後の一段、というところで足を止めた。
疲労もあったがそれよりも脇の扉の中から僅かに殺気が感じられたのだ。
(霊気は感じねーが)
なるべく息を殺し、暫く気配を探った。
先にそちらを処理するか、放っておいて出口へ向かうかを決めかねた。
(ただの兵士ならいいんだが)
ここでまたユークリアやロンギスなど、幹部級の相手と出会すのは避けたかった。
今、彼らを相手出来るほどの戦闘力はないと自分でわかっている。
考えた末、扉を開ける事にした。
こんな誰もいない所で殺気が出ている以上、狙いは彼女しかいない。
それに背を向けることは危険すぎる。
(ふう……)
一息吐き、扉を開けようと手を伸ばしたその瞬間!
扉をぶち破って出てきたのは途轍もなく太い腕だった。
それは一瞬面食らったロゼルタの首を掴み、部屋の中へと一気に引き摺り込んだ。
そのまま床へと力任せに投げ捨てられ、体中を痛みが駆け抜ける。
うつ伏せのまま顔を上げる事も出来ない彼女へ太い声が掛けられた。
「久しぶりだなロゼルタ」
その声を聞いてゾッとした。
(こ、この声……最悪のヤローと出会っちまった)
(ここまで完璧に気配を消せるとは……)
体をゴロリと転がせて仰向けになる。
男は巨体を揺らし、醜い顔を歪めていた。
「よくよく俺とてめえは縁があるようだ。もう俺の女になれよ」
「て、てめー……マッ……カ」
幹部級どころではない。
そこにいたのはリドの次に厄介と言っていい、英雄パーティの二番手だったマッカだった。
「なんだか面白えことになってんな? あっちこっちで戦ってるようだが、こりゃいいところに来たもんだ」
動きの鈍いロゼルタの血塗れの体を見て下卑た笑いを浮かべた。
「ロトスでのベッドの続きをしようか」
ロゼルタの全身を舐めるように見て言う。
(クソッタレが! ここまで来て……)
ロゼルタが歯噛みした時、突然マッカが思いもよらない事を言い出した。
「……だがその前にでかい仕事があるんでな。お前とサラに俺の子を孕ませるのはその後だ」
(でかい仕事だと?)
ラクニールの都ラサの城でノルト達との直接対決を避けたマッカは、実はノルト達よりも先にこの城へと入り、ひとりひっそりと何かの作戦を練っていた。
マッカの周囲から黒い霊気が噴出する。
頭髪は青から黒へと変わり、立て髪のように長くなった。
(ゲッ。これは……)
その見覚えのある姿を見てロゼルタの全身が凍る。
それはロトスの王城で見せたオークキングの姿だった。
(やべー、今はこんな狂戦士みてーな奴と……)
到底戦えるような状態ではない。
「ククク。隅っこに行ってジッとしてろ」
「な……」
王城の時、マッカは白目を剥き、自我を失っていた筈だった。
今は違う。白目は黒となり、瞳は金となり、竜族の様に縦筋の瞳孔となった。
マッカはオークキングとなっても自我を失わなかった。
壁に立て掛けていた大きな戦斧を持つと扉に向かい、肩に担ぐ。
「……?」
ロゼルタは後ろ手に這う様にして何とか壁際まで逃れるように移動した。
(何があった? ロトスの時と違う)
(それに、ただでさえバケモンみてーだった霊気が更に膨れ上がってやがる)
その時、半壊している扉の向こうから足音がし、何者かがやってくる姿が見えた。
(一体誰……こ、これはまさかっ!)
突然扉が爆発したように粉々になり、その向こう側に立つ背の高い男がいた。
男はマッカを見て意外そうな顔つきをする。
「ハーフオークの気配がすると思ったらマッカではないか」
「ヘッヘッヘ」
(さい、あくだ……)
ギリッと歯を鳴らす。
こいつを殺す為にここまで来た。
現れたのは、決して許してはならない男、魔族の仇敵リド=マルストだった。
動けないロゼルタの前に、リド軍最強の2人が揃ってしまった。
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