【R18/完結】4人の魔王をその身に宿す少年は魔神達と共に人間の英雄を倒し、魔界の復興を目指す

南祥太郎

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最終章 魔王をその身に宿す少年

138.メルタノの三賢者(中)

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 リドは無表情で血塗れで横たわるロゼルタの姿を見た。

 舌打ちをひとつし、

「ロゼルタに手を出したのか」

 とマッカを睨んだ。

「まさか」

 飄々と答えるマッカを無視する様にその前を横切り、ロゼルタの側までやって来てしゃがみ込んだ。

「待ちきれず会いに来たぞ。お前はどんな状態でも美しい。俺の妃にしてやろう」
「揃いも揃って……似たような事言いやがって。脳みそ……腐ってん、のか」

 血が流れ過ぎてリドの姿が二重に見えた。

 リドは笑いもせず、その様子をじっと観察する。

「どうやら、クリニカの手下がうまくやったらしいな」

 視線はロゼルタを捉えたまま、

「で、今更お前は何をしに来たのだ」

 それはマッカに向けられた言葉だった。

「ラクニールで待ち伏せ、ひとりでも多くこいつらを殺せと命じておいた筈だが?」
「そりゃあ……」

 ロゼルタの目に映る。

 リドの背後で戦斧を振り上げるマッカの姿が。

「てめえをるためだ」

 リド目掛けて振り下ろされた巨斧は凄まじい破裂音を鳴らす。

 真っ二つに割れたはずのリドの姿はなく、ロゼルタの眼前の床が割れ、その遥か下に僅かな灯りが灯っているのがみえた。

(何故マッカがリドを)
(訳がわかんねーが……今は、逃げねーと)

 一体いつの間に移動したのか、リドはマッカの背後に立っていた。

「俺を裏切ったか。残念だ」
「へっ。俺はオークの王になった。なんで人間の言う事を聞かなきゃならねえ? 俺が狙う女を全部奪いやがって」

 ゆっくりと振り返り、マッカがニタリと笑う。

 リドは目だけをギョロリと動かしてマッカを睨む。

「そうか。王の力を手に入れたか。残念だと言ったが訂正しよう」
「は? どういう意味だ?」

 リドが目を剥き、ニヤリと笑う。

「この上ない幸運だ。よくぞ俺の前に現れてくれた」

 ふたりのやりとりを見ながらロゼルタはどうすべきか考えていた。

(意味がわかんねー)
(意味はわかんねーが……とにかくここにいてはまずい)

 マッカが開けた大きな穴をもう一度覗き込む。

 さっきはかなり下の位置に僅かな灯りが見えただけだったが、よくよく見るとそこは縦通路のようだった。

 縦に降りる梯子があり、その下には、

(あんな地下に……ありゃ何かの部屋か?)

 どうやら床がある。
 あの灯りは間違いなく魔法トーチの光だ。

 つまりマッカが破った床は隠し扉という事だ。どうにも出来過ぎで気に食わないが、

(ええい。この部屋にいるよりは)

 動けない体を狙うふたりの怪物と同じ場所にいるより、身を投げた方が余程希望があると思えた。

 ロゼルタはゆっくりと気取られない様に動き、意を決してそこから飛び降りた。

 数秒後、ドンッ! と派手な音が鳴り響く。

 真っ直ぐ尻から落ちた音だ。

「あいっ! ってぇぇ!」

 目から火花が出る程の衝撃で暫く動けない。

 当然そんなところに誰もいないと思い、少し油断していたロゼルタの背後から声がした。

「ロ……ロゼ……? まさかロゼルタなの?」

 驚いて飛び退く様に振り返った。

 瞬時に両手を前にし、戦闘体勢をとったロゼルタの目が見開き、その体は硬直する。

「ハ……」

 口を大きく開けたまま、数秒の間絶句した。

 ガリガリに痩せこけ、裸同然の姿で磔にされた女性がロゼルタを凝視し、同じ様に次の言葉を継げないでいた。

「ハ、ハルッ!」

 体の痛みを一瞬にして忘れるほどの衝撃だった。

 彼女こそ、ロゼルタがずっと探していた盟友、アークウィザードのハルヴァラ。

 絶対絶命の状態から逃げ出した先で見つかるなど、思いもしなかった。

 立ち上がり、駆け寄った。

「なんてこった。なんて姿で……こんな暗い……狭いとこで30年も……ひとりで……可哀想に……ハル……」

 ハラリと落ちるその前髪を指で梳かし、押し寄せる様に流れ出る涙を隠す様にハルヴァラを抱き、その頰に頰を擦り付けた。

「君の方が、酷い姿だよ……ロゼ」
「会いたかった……ずっと探してたんだぜ……」
「私も……会いたかったよ……本当に……生き返ったんだね……よかった……」

 そこでふとロゼルタの目がハルヴァラの手足を結ぶ、あの忌々しいロープと頑丈そうな鎖に向く。

「ヤロー……」

 魔素が枯渇した魔法使いなど無力そのもの。
 その上手足の自由を奪い、これだけの美女を拘束してあの外道が何をしていたかなど容易に想像がつく。

 リドへの怒りが煮えたぎる。

「あんの、クソヤロー……!」

 ロゼルタは人化した時によく使う短剣を手に取り、まずロープの方を切った。

「取り敢えずこれで魔素は回復する筈だ」

 ハルヴァラの、クリニカにも匹敵する膨大な魔素タンクに30年振りに魔素が溜まり始める。

 だが一体どんな鉄で出来ているのか、短剣では傷すらつかない鎖を前にロゼルタはため息を吐いた。

「クソが……能力を殺されててもこれくれー……」

 体の至る所から、止まりかけていた血が再びブシュッと噴水の様に噴き出し始めた。

 それを気にも止めず、歯を食いしばり、両腕に力を入れて引き千切ろうとした。

「あああ! クソッタレのリドめっ!」
「治癒、しない? ロゼ……吸血鬼ヴァンパイアの力を、封じられているの?」
「ああ。ちょっと色々あってな。だがもうちょい待ってろ、これくらいなんてこたあねー」

 力を入れる度に血が噴き出し、飛び散る。

「ロゼ。あとは大丈夫。それより今すぐここから逃げて」
「なに? ……いや放っておける訳ねーだろ。いくらお前でもこの鎖を切れるものか」
「リドが来る。あいつは私の横に君とクリニカも繋ぎ、三賢者全員を侍らせたいらしいから」
「何だそりゃ。胸糞ワリ……」

 その時、ロゼルタが落ちた時よりももっと大きな音が鳴り響いた。

「……!」

 ハルヴァラが息を呑む。
 ロゼルタも何事かと後ろを振り返り、ゾッとした。

「おやおや、こんな所にもうひとり絶世の美女が隠れていたか」

 それは体中の筋肉を漲らせたマッカだった。

 短剣を持ったまま、咄嗟にロゼルタが身構える。

(ハルだけは、絶対に渡さねー)

 だがマッカは着地したその場から動こうとせず、ただニヤリと笑った。

「あ――、俺も三賢者……抱きたかったぜ……」

 最低で下劣なその言葉と共に、ロゼルタ達の目の前で頭から股間まで、一直線に亀裂が走った。

「な……な……」

 驚愕の表情で固まるロゼルタの耳に嫌な声が聞こえてきた。

「リリア。最後の贄だ、受け取れ」

 リドの声と共にマッカの体は真っ二つに裂け、左右に転げ落ちた。

 その後ろに剣を携えて立つリドの姿が現れる。


 更にその背後。


 ロゼルタとハルヴァラの目に薄ぼんやりと何かが見えた。

 性別は男女どちらにでも見えたが、いずれにせよ美しく整った顔に見えた。

 体に色は殆ど付いていないが、唯一、瞳だけは明確に赤い。

『確かに。受け取ったよリド。これでようやく私は……

 男の様で女の様なその声は聞く者をゾッとさせた。

「なに?」

 リドが驚いて振り返った。

 ドス黒い霧が充満し、リドの体が雷に打たれたように激しく痙攣した。

 数秒後、ただでさえ禍々しい気配を色濃く持っていたリドの霊気オーラは更に濃い黒となり、その存在自体がふたりには『邪悪そのもの』と感じられた。

















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