BLちょっと長い短編集

希京

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第1話 ハリネズミ

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同棲をやめようと言ったのは僕だった。
「一緒に住むのやめよう」
心臓の鼓動が全身に響く。
どんなに好きな人でも、狭い空間に男二人、小さな事にいらつきストレスが溜まる。

「なんだ突然」
ソファにごろりと寝転がってスマホを操作したままシノが聞いてくる。

そういう所だよ。話を聞く気があるならスマホを置いてこっちを向け。

僕はいらだちながら話を進めた。
「僕さ、こっちで就職しないで実家に帰るつもりなんだ」
「へえ」

あっけない態度に何故か傷つけられた気がする。
スマホ男の名前は篠宮正義(しのみやまさよし)、友人たちは『シノ』と呼んでいる。明るい色にしていた髪も、さすがに黒に染めて就職先も決まっていた。
僕は就活しなかったので、髪色はブラウンのまま、肩につくまで伸ばしている。

短くカットした後頭部とボリュームを残した前髪を揺らせて、シノは身を起こした。
細くて鋭い目つきが美しく僕に突き刺さるが、部屋着のTシャツと短パンがそれを半減させている。
「いつ出てくの?」
「なんで僕が出るって決まってるんだよ」
「俺もユウトもあと少しですぐ卒業なんだからその時引き払えば?俺もそうするし」
「……」

僕、花井勇人(はないゆうと)はシノの前に呆然と立っていた。
「もう…、僕たちは終わり?」
無意識にベッドを見て、視線をシノに戻す。

その時ガシャン!と大きな音が鳴った。急いで立ち上がった時にテーブルに足をぶつけたようだった。
「何してんの」
僕は腕を組んだままため息をついた。

彫刻のような美しくたくましい容姿のくせに、どこか間抜けで、それで気になって。

華奢で細い僕と、なにもかもが正反対。それが逆にうまくいくと思ったのだが甘かった。
神経質な僕と、大ざっぱなシノでは合わない。
今もテーブルにふたを開けたままのペットボトルが倒れて、中身がこぼれている。

ちっ、と小さく舌打ちして僕はタオルを取りに行こうとした。

その腕をぐっと掴み、シノは僕の体をソファまで引きずり込んで上に乗ってきた。
「何だよ!別れるから最後に抱かせてってパターン!?」
精一杯暴れても、スポーツマンで筋肉質のシノの体から逃れられない。
「誰が別れるって言った?ユウト」
シノが耳元でささやくと全身に電流が流れる気がした。僕はこれに弱い。つかまれている両腕から力が抜けた。

逃げようと顔を背けたが、逆に首筋を舌でなぞられて吐息が出てしまう。
「あ…」
シノの左手が、僕の股間を服の上からなぞる。知り尽くしている感覚に、僕の体は反応してしまう。
「俺は多分職場は東京だけど、ユウトの実家ってお隣の県だろ?遠距離恋愛ってほどでもない」
あくまでシノは僕と別れるつもりはないようだ。

僕も別れるつもりはない。

好きな気持ちはそのまま、物理的に少しだけ離れたい。これを説明して納得してもらうのは難しい。

「俺もユウト以外の人間とは一緒に住めないな。お互い様だね」
シノは口角を上げて、長い細長の眼を大きく開いて笑顔を浮かべた。悪い顔にぞくりとする。
「…別れるんじゃなくて…僕は…誰…かと同居……できな…い」
本音を聞き出すためか、自分から離れないようにするためか、シノの腰が激しく動いて僕を突いてくる。

「ぁ…あ、シノ…」
僕たちはハリネズミ。近づけば近づくほど相手を傷つける、寂しい生き物。



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