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田舎
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シノは試験に合格して国家公務員になり農林水産省に入省した。
僕は地元に帰り、国と共同で行われている地域活性化のプログラムに参加した。
過疎化が進み、空き家になっている横に長い一階建ての大きな古民家を助成金で買い取って、若い人が数人シェアハウスにして住んでいる。
「ネットさえあれば何でもできるしね」
リーダー格の佐々木君が案内してくれる。その横に並ぶようについていく。
山奥の古い土地で、わずかな世帯に数人の住人。佐々木はまず各家庭にパソコンとスマホを寄付したが
「年寄にはこんなもんわからん」
と言って受け取ろうとしなかった人が多かったので、若いメンバー達が教えに回った。
女性メンバーは虫が部屋に入ってくるたび悲鳴をあげている。
僕は苦笑いするしかなかった。都会の人が田舎にくれば人間関係が悪い意味で濃くてしんどいし、ネットより早く噂話が広がる。すぐに音を上げてやめる人が多いそうだ。
「花井さんはここが地元だっていうし、頼りにしてるね」
辞めるなよという圧がすごい。本音は佐々木もうまくいかない事だらけでイライラしているんだろう。
ふたりともTシャツにジーンズというラフな格好で大きな田んぼのあぜ道を歩いていると、その先に人影が見えた。
「おーいユウト!」
地味なグレーのスーツに黒いカバンを持って、3年会っていなかったシノが立っていた。
あれから3年。
「大学の同級生で農水省のお役人です」
一応説明しておこうと思って紹介する。
「そうなの!?」
怪訝そうにシノを見ていた佐々木の顔が明るくなる。
「どうも!アポも取らずいきなり来てすいません。ユウトがいるから大丈夫かなと思って視察に来ました」
名刺を渡しながらシノが豪快に笑う。
「何で来たの」
若干訝しげに僕は聞いてみる。
「お・し・ご・と♪」
油断した。僕のそばに来るためだけに、出世とは無縁な農水省を選ぶなんて。
シェアハウスに戻って佐々木とシノがiPadを使って何か話している。仕方なく僕も対面のソファに座ってそれを眺めていた。
「カクカクして動き悪いですね。速度上げるためにせめてここだけでも回線変えませんか。業者はこちらで手配します」
シノの言葉に佐々木がすぐ反応する。
「ぜひお願いします!」
「それと空き家を修繕しましょう。古民家ってけっこう怖いですよ。開かずの間があったり壁の中に御札埋め込まれてたり。そちらもプロの業者を手配します。全部撤去してから移住者募集をかけましょう」
肩がくっつくくらい近づいてふたりが並んで話し合っている。僕はなんとなくその状態を見ていた。
「お願いします。いやあ、シノさんが来てくれて僕も肩の荷が下りました。ひとりではそこまで手が回らなくて困っていたんです」
いつの間にか佐々木まで『シノ』さんと呼んでいた。少し長めの前髪を後ろに梳いたシノがちらりと僕を見る。
悔しいがシノのコミュニケーション能力はすごい。
「佐々木さん、もう終電の時間過ぎちゃって。どこか空き部屋に泊めてもらえませんか?小屋とかでもいいです」
「え?そんなに話してました?すみません言ってくれれば…。そうだ、花井さんの部屋どう?友達でしょ?泊めてあげてよ」
悪気のない佐々木の提案に、僕は薄い笑顔を返すしかなかった。
僕は地元に帰り、国と共同で行われている地域活性化のプログラムに参加した。
過疎化が進み、空き家になっている横に長い一階建ての大きな古民家を助成金で買い取って、若い人が数人シェアハウスにして住んでいる。
「ネットさえあれば何でもできるしね」
リーダー格の佐々木君が案内してくれる。その横に並ぶようについていく。
山奥の古い土地で、わずかな世帯に数人の住人。佐々木はまず各家庭にパソコンとスマホを寄付したが
「年寄にはこんなもんわからん」
と言って受け取ろうとしなかった人が多かったので、若いメンバー達が教えに回った。
女性メンバーは虫が部屋に入ってくるたび悲鳴をあげている。
僕は苦笑いするしかなかった。都会の人が田舎にくれば人間関係が悪い意味で濃くてしんどいし、ネットより早く噂話が広がる。すぐに音を上げてやめる人が多いそうだ。
「花井さんはここが地元だっていうし、頼りにしてるね」
辞めるなよという圧がすごい。本音は佐々木もうまくいかない事だらけでイライラしているんだろう。
ふたりともTシャツにジーンズというラフな格好で大きな田んぼのあぜ道を歩いていると、その先に人影が見えた。
「おーいユウト!」
地味なグレーのスーツに黒いカバンを持って、3年会っていなかったシノが立っていた。
あれから3年。
「大学の同級生で農水省のお役人です」
一応説明しておこうと思って紹介する。
「そうなの!?」
怪訝そうにシノを見ていた佐々木の顔が明るくなる。
「どうも!アポも取らずいきなり来てすいません。ユウトがいるから大丈夫かなと思って視察に来ました」
名刺を渡しながらシノが豪快に笑う。
「何で来たの」
若干訝しげに僕は聞いてみる。
「お・し・ご・と♪」
油断した。僕のそばに来るためだけに、出世とは無縁な農水省を選ぶなんて。
シェアハウスに戻って佐々木とシノがiPadを使って何か話している。仕方なく僕も対面のソファに座ってそれを眺めていた。
「カクカクして動き悪いですね。速度上げるためにせめてここだけでも回線変えませんか。業者はこちらで手配します」
シノの言葉に佐々木がすぐ反応する。
「ぜひお願いします!」
「それと空き家を修繕しましょう。古民家ってけっこう怖いですよ。開かずの間があったり壁の中に御札埋め込まれてたり。そちらもプロの業者を手配します。全部撤去してから移住者募集をかけましょう」
肩がくっつくくらい近づいてふたりが並んで話し合っている。僕はなんとなくその状態を見ていた。
「お願いします。いやあ、シノさんが来てくれて僕も肩の荷が下りました。ひとりではそこまで手が回らなくて困っていたんです」
いつの間にか佐々木まで『シノ』さんと呼んでいた。少し長めの前髪を後ろに梳いたシノがちらりと僕を見る。
悔しいがシノのコミュニケーション能力はすごい。
「佐々木さん、もう終電の時間過ぎちゃって。どこか空き部屋に泊めてもらえませんか?小屋とかでもいいです」
「え?そんなに話してました?すみません言ってくれれば…。そうだ、花井さんの部屋どう?友達でしょ?泊めてあげてよ」
悪気のない佐々木の提案に、僕は薄い笑顔を返すしかなかった。
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