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第2話 ホトトギス
托卵
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俺は何度、人に騙されるんだろう。
くたびれたスーツを着て佐々木義行がゆっくり歩いていく。
国のプロジェクトと聞かされていたから信用した。実際に議員が来て狭い会議室で顔突き合わせて何度もミーティングした。
「佐々木さんのせいじゃないですよ」
新しく出来た居酒屋でしこたま飲んで、若い青年がひとりカウンターにいるバーで、同じ再開発企画のメンバーである山中孔明が俺の愚痴を呆れもせず聞いてくれる。
農水省の役人と聞いて簡単に信用した自分の甘さに反吐が出る。だが篠宮は上手だった。地元の人間や、シェアハウスの住人にすぐ溶け込んだコミュニケーション能力の高さ。
それが詐欺師の真骨頂といえばそれまでだが。
町役場に出向き説明を求めても、書類上問題ないと何度も突っぱねられた。
「確かにそうだが、移住希望者のハードルが低すぎないか?」
田舎に若者が移住する新しいコミュニティ。だが地元の住人には余所者扱いで混ざり合うことができない。
それを一瞬で解決したのが篠宮だった。
崩れかけた家の撤去と工事作業員の住居の確保。作業員のリクエストで歓楽街が出来て、小さな田舎町が華やかになった。娯楽の少なかった住人はすぐ手の平を返した。
これから大型複合商業施設の建設予定があり、ますます人が増えるだろう。そのために必要な労働者向けアパートや定住希望者のマンション建設。
「言いたくないけど労働者はガラ悪いのが多いのがイヤだね。入れ墨が見える服でうろうろしてるし、元反社や建築業の経験があるホームレスを連れてきてさ。今この町は奴らのものだ」
元々再開発計画が進んでいたとはいえ、篠宮と一緒に来た女・佐伯洋子が全ての申請を通した。どんな最強のコネがあっても難しいのに。
薄暗いバーで、5杯目のオーダーをしようとした佐々木の腕を、山中がそっと掴む。
「飲み過ぎです。さっきも居酒屋でだいぶ飲んだでしょ?」
「飲まなきゃやってらんねえよ。あいつらもいなくなって誰に文句言ったらいいか」
「僕でよければ聞きますよ。ふたりきりになれる場所で」
華奢で細い中性的な山中がふわりと笑う。
「お前もさあ…。男なら…」
「しっ。その先は言わないで。男女差別です」
また吐き出しそうな愚痴を言わせないために、山中は俺の唇を人差し指で封じた。
「もう失礼しましょう。遅い帰りにみんなも心配しています」
泥酔している俺を支えて店を出て、タクシーを拾う。
男同士だが、酔っ払ったふたりがする行動はひとつ。
シェアハウスの山中の部屋で、ふたりベッドの上に寝転んだ。
「男同士でヤるなんて、あいつら気色悪かったな」
「それだけ愛が深かったんでしょうね、篠宮さんたちは」
俺はLGBTQに理解がない。
シノとユウトが恋人同士だと知った時は吐き気がした。
「佐々木さん、これ」
ペットボトルの水を俺に差し出してきた時、腰に腕をまわして山中をベッドに引きずり込んだ。
酔った勢い。
女性的に見える柔らかい仕草。
言い訳はなんとでも言える。
気がつくと俺は山中にまたがり、下着とスラックスを一緒にはがして足を大きく広げさせた。
「あ…山中さ……」
山中は経験があるのかうっとりした表情で俺を受け入れている。
酒が脳を麻痺させた。
くたびれたスーツを着て佐々木義行がゆっくり歩いていく。
国のプロジェクトと聞かされていたから信用した。実際に議員が来て狭い会議室で顔突き合わせて何度もミーティングした。
「佐々木さんのせいじゃないですよ」
新しく出来た居酒屋でしこたま飲んで、若い青年がひとりカウンターにいるバーで、同じ再開発企画のメンバーである山中孔明が俺の愚痴を呆れもせず聞いてくれる。
農水省の役人と聞いて簡単に信用した自分の甘さに反吐が出る。だが篠宮は上手だった。地元の人間や、シェアハウスの住人にすぐ溶け込んだコミュニケーション能力の高さ。
それが詐欺師の真骨頂といえばそれまでだが。
町役場に出向き説明を求めても、書類上問題ないと何度も突っぱねられた。
「確かにそうだが、移住希望者のハードルが低すぎないか?」
田舎に若者が移住する新しいコミュニティ。だが地元の住人には余所者扱いで混ざり合うことができない。
それを一瞬で解決したのが篠宮だった。
崩れかけた家の撤去と工事作業員の住居の確保。作業員のリクエストで歓楽街が出来て、小さな田舎町が華やかになった。娯楽の少なかった住人はすぐ手の平を返した。
これから大型複合商業施設の建設予定があり、ますます人が増えるだろう。そのために必要な労働者向けアパートや定住希望者のマンション建設。
「言いたくないけど労働者はガラ悪いのが多いのがイヤだね。入れ墨が見える服でうろうろしてるし、元反社や建築業の経験があるホームレスを連れてきてさ。今この町は奴らのものだ」
元々再開発計画が進んでいたとはいえ、篠宮と一緒に来た女・佐伯洋子が全ての申請を通した。どんな最強のコネがあっても難しいのに。
薄暗いバーで、5杯目のオーダーをしようとした佐々木の腕を、山中がそっと掴む。
「飲み過ぎです。さっきも居酒屋でだいぶ飲んだでしょ?」
「飲まなきゃやってらんねえよ。あいつらもいなくなって誰に文句言ったらいいか」
「僕でよければ聞きますよ。ふたりきりになれる場所で」
華奢で細い中性的な山中がふわりと笑う。
「お前もさあ…。男なら…」
「しっ。その先は言わないで。男女差別です」
また吐き出しそうな愚痴を言わせないために、山中は俺の唇を人差し指で封じた。
「もう失礼しましょう。遅い帰りにみんなも心配しています」
泥酔している俺を支えて店を出て、タクシーを拾う。
男同士だが、酔っ払ったふたりがする行動はひとつ。
シェアハウスの山中の部屋で、ふたりベッドの上に寝転んだ。
「男同士でヤるなんて、あいつら気色悪かったな」
「それだけ愛が深かったんでしょうね、篠宮さんたちは」
俺はLGBTQに理解がない。
シノとユウトが恋人同士だと知った時は吐き気がした。
「佐々木さん、これ」
ペットボトルの水を俺に差し出してきた時、腰に腕をまわして山中をベッドに引きずり込んだ。
酔った勢い。
女性的に見える柔らかい仕草。
言い訳はなんとでも言える。
気がつくと俺は山中にまたがり、下着とスラックスを一緒にはがして足を大きく広げさせた。
「あ…山中さ……」
山中は経験があるのかうっとりした表情で俺を受け入れている。
酒が脳を麻痺させた。
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