海に抱かれる

希京

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けじめの味

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最後に響いた銃声は利休を貫くものではなかった。
「行くぞ」
呆然としている彼の腕を掴んで祐樹は階段につながるドアを開けた。
釈然としない様子の今井もそれに続き、先回りしてエレベーターのボタンを押してふたりを待っている。
状況が把握できない利休は恐る恐る祐樹の顔を見上げるが、無言のまま下まで降りて待機させていた車に乗せられた。

わざと派手に銃声を鳴らしたのに警察は来ていない。
聞こえないはずはない。誰も通報しなかったのか。

「自分の命をかけてまで逃がすなんて、抱かれて情でもうつったか?」
ようやく腕を離されて、利休は隣に座ったまましばらく答えを探していた。
「わかんない…」
助手席に座る今井としてはそんなあやふやな感情で銃口を向けられたのかと思うと腑に落ちなくて顔をしかめる。

「男の子はやんちゃなほうがいいけどな」
利休の髪の乱れを指で直しながら優しく諭すと、後部座席は静かになった。
「冗談じゃないですよ、そんな気持ちで銃を向けられ…」
文句のひとつも言いたくなって今井がふり返ると、首筋に注射針を刺されている利休の姿があった。
液体が全て注入される頃には、利休の瞳は色を失う。

「白い女教祖に売った純度の高い代物だぞ。どうだ気分は」
祐樹の言葉は届かないのか、うつろな表情のまま利休は祐樹の肩に頭を乗せて車の振動に揺れている。
「行き先変更だ」
座り直して今井は運転手の若い男に目的地を告げた。

車はしばらく走り、やがて廃屋のような古いマンションの駐車場に停まる。
一応住人がいるマンションの一室のドアを今井が開けて利休を部屋の真ん中にある黒いマットレスに投げた。
コンクリートの壁に囲まれて、拷問用の拘束椅子と道具、エアコンと一人がけの革の椅子とマットレスしかない広い空間に、意識が朦朧としている利休は仰向けに寝かされる。

いつもと違うのは逃走防止のため全裸にされた敵対組織の人間が数人、手足を縛られて部屋の隅に放置されていたことだった。
女がひとり拉致されてきたと思った男たちが何事かと利休を見る。
「この男を満足させることができたら開放してやる」
革の椅子に足を組んで座る祐樹を背景に、今井が男たちに言い放った。

「…男?」
戸惑う人間もいたが開放するという言葉を信じて利休のまわりを囲んだ。
恍惚な表情を浮かべている利休はどこから見ても女にしか見えないが、服を剥ぐとたしかに体は男だった。
この際性別なんかどうでもいい。
数日痛めつけられて神経が尖っていた連中は利休の白い足を開いて後ろの穴に強引に突っ込んだ。
「あぁ…っ」

頭上に両手を押さえつけられて動けない利休の体が快感で跳ねる。
野獣の臭いをはなつ連中に容赦なく腰を動かされて口から透明な液を漏らしながら喘ぐ利休を、祐樹は満足げに見ている。
その様子を見て今井は悪趣味なと思いつつ無言を貫いた。
「あ…、あ…ん…いい……」
見知らぬ男たちに輪姦されるという屈辱的な状況なのに利休は嬌声を上げて悦んでいる。

「親族なのに容赦ないですね」
「誰が主人か躾け直さないとな」
快楽に狂っているこれが折檻なんだろうか。今井には理解しがたい。

「その男は何度でもできるぞ。シャブ食って絶好調だ。気持ちよくしてやれ」
祐樹がそそのかすまでもなく男たちは利休に群がる。
「あ…、は…気持ちい……」
コンクリートの壁に声が反響して異様な空間になり、男たちの罪の意識が薄くなっていく。

「藤…堂さ…ん…」
甘い声に混ざって小さな呟きを祐樹は聞き逃さなかった。
「そんなに良かったのか、あの男」
頬杖をついて眺めていたが意外な人間の名前を呼ぶ甥を見て顔を上げた。
「今こうなっているのはどうしてなのかわかってないな悠人」

一回り犯されて、男たちが肩で息をしている下で利休はうっとりした表情で横たわっている。
これは記憶が飛んでほとんどおぼえていないだろうなと今井は心の中でため息をつき、甥への異常な仕打ちを理解できない自分の理性はまだ生きていることに安堵した。
「まだだぞ。朝まで相手しろ」
数日間飲まず食わずの男たちにそんな体力は残っていない。
「それとも今ここで死ぬか?」

「今井」
祐樹がジャケットのポケットから注射器ケースを取り出して今井に渡す。
「全員腕を出せ」
ぎょっとしている男たちのひとりを蹴り上げて、倒れた体を押さえて今井は腕に針を刺した。
全員回し打ちすると立ち上がって、マットレスに横たわる利休を見ながら下がっていきケースを祐樹に返す。

「続けろ」
一気に薬効が血管を走り、男たちは瞳孔が開いた目で今度こそ獣のように獲物に襲いかかった。
利休をうつ伏せにして容赦なく穴を犯すが、漏れる声は悲鳴ではなく嬌声だった。
今井と祐樹が見下ろす中、利休は腰を掴まれて激しく突かれて喘いでいる。
「何か俺に言うことはあるか?悠人」

けじめは済んだのか単に飽きてきたのか、椅子に座ったまま祐樹が利休に問いかけた。
「気持ちいい…あ…、すご…っ…は…」
「聞こえてないですよ」
やってられないという今井の表情を見て笑いつつ、祐樹は立ち上がって雄の集団に近づき、男たちの頭を撃ち抜いていった。
薬莢が足元にばらまかれる。

「例のクルーズ、もう締め切られたか?」
「白教祖の女のやつですか?まだ若干空きがあったと思いますけど。確認します」
「藤堂って男、招待してやれ」
スマホで予約確認をしていた今井が驚いた表情で顔を上げる。
「は?」
血の臭いが充満する部屋に転がる死体の処理方法を考えていた今井に、ボスは余計な仕事をふっかけてくる。
「話をしてみたい」
増えた仕事に今井は目を閉じてうなだれると、綺麗に切りそろえられた髪がさらりと垂れた。














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