黒衣の将軍と竜神の花嫁

ほづみ

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28.出戻り花嫁 3

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 就寝時刻になり自室にやってきたジェラルドは、居間の床の上で寝間着からおへそを出して寝ているアイリーンを発見して、思わず呆れた。

「なんでそんなところで寝ているんだ?」

 ソファから転がり落ちたことは容易に想像できる。ひとつしかない――当然ジェラルのものである――ベッドを使うことにためらいがあったのだろう。
 あどけない寝顔を見ていたら、不意に胸に「アイリーンは未成熟ゆえに選ばれたのかもしれない」という疑念が浮かんだ。
 竜族は外部との交流をほとんど持たない。

 確かにアイリーンは「女王エルヴィラの妹」という、人質に値する立場ではある。だが、こちらにはわからないのだから実の妹ではなく第三者を妹にでっちあげて送りつけることだってできたはずだ。体つきが幼い娘を出すことでトラブルが発生する懸念の方が大きいのだから。

 なのに、アイリーンが選ばれた。これは、竜の国内においてアイリーンが「外に出しても惜しくない」と判断されたのではないか?
 もっともこれはジェラルドの推測でしかなく、当たっているかどうかはわからない。
 もしそうなら、アイリーンはどう思ったのだろう。
 あっけらかんとして見えるが、実際は?

 床に転がっているアイリーンを抱き上げてやる。
 信じられないくらい華奢で、軽い。起きて動き回っている時は威勢のよさが際立つから気にならないが、本当はこんなにも頼りない。
 寝室に運び入れ、そっとベッドに寝かせる。ジェラルドに抱き上げられても、起きる気配はない。

 疲れているんだろうな、と思う。
 頬にかかる藍色の髪の毛をかき上げてやる。
 ただ、竜の国でのアイリーンは大切にされているようには見えていた。

 ――結局のところ、俺たちが行かなければ人身御供として差し出されることもなかったのだろうな……。

 誰かがやらなくてはならないから、アイリーンに白羽の矢が刺さった。たぶん、そう。
 手を伸ばし、白い頬に触れる。……そして赤く色づく唇にも。
 アイリーンの吐息が指先にかかる。
 自分たちが竜の国に行かなければ、アイリーンは穏やかに暮らしていけたはず。

 ――俺はこの娘にとっては疫病神なのかもしれないな……。

 アイリーンに会わなければ自分はどうしていただろうかと思う。
 リーウベルフで軍の指揮を執る日々が続くのだろう。ヴァイス公爵のご令嬢との縁談は、おそらく全力回避している。誰かと結婚する未来はなぜか想像できない。
 結婚への願望はない。煩わしいだけだ。
 そのはずだった。

 アイリーンの唇をそっとなぞる。
 やわらかい唇を触っているうちに堪えきれなくなり、ジェラルドは体をかがめてそっとアイリーンの唇に自分の唇を重ねた。
 触れるだけのキスをし、すぐに体を離す。
 寝ている娘に俺は何をしているんだと、軽い自己嫌悪に陥る。
 どんな事情があるにしろ、竜の国がアイリーンを選び、差し出してくれた点には感謝する。
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