6 / 6
06.身代わり魔女は騎士から逃げ切れるか?
しおりを挟む
その頃、神殿では。
「えーとぉ…………」
かわいい妹が頑張っているっぽいので、予定を切り上げて早めに帰宅したセレスは、神官長や女官長、そして先ほど駆け付けてきた護衛責任者のアスターに取り囲まれていた。
自分の部屋に転移したので、カイエを呼んだのだが返事がないし、なんだか神殿が騒がしい。
とりあえず外見だけは戻さなくてはと、カイエのために作った薬を飲んで姿を銀髪銀眼の聖女にしたところで、神官長と女官長、そして金髪碧眼の竜騎士が駆けこんできたのだ。
「聖女様、これはどういう……」
神官長がこめかみに青筋を立てながら問い詰めるのも道理で、セレスは持ち帰ったカバンいっぱいにぬいぐるみや抱き枕、マグカップ、イラストブックにあらゆる薄い本と、本人には宝の山、第三者には謎なグッズを詰め込んでいたのである。
それを神殿の責任者三人に見つかり、目の前に並べさせられ、じっくり検分されたうえに、アスターの報告からカイエの正体がバレていることを知り、自分は実は魔女で、東の魔女と呼ばれる妹に聖女の代役を頼んでライブに出かけていた旨の説明をさせられるという、地獄を味わっていた。
「だ、だって、私、ずーっとここにいるんだもん! つまんないんだもん! でもパパとの約束だから結界の維持はしなきゃいけないんだもん! 代役を頼めるのが妹しかいなかったんだからしかたないじゃな――――い!」
だからグッズの没収はしないでぇー、と泣くセレスに三人はしばらく固まっていたが、
「まあ、今回は何も……被害はなかったので……そういうことでしたら……」
神官長が唸る。
「そうですわよ、神官長。セレス様が長らくこの国を守っていらっしゃるのは事実。セレス様の正体に関しては問題ないかと思います。ただ……そうですね……正体が魔女であると明るみになるのは得策ではないと思います。これからも、セレス様は聖女様でいらっしゃってくだされば、私達としては……」
女官長がちらりとセレスを見る。
「いいの?」
「セレス様はどうなのですか。もうずっとこの国をお一人で守り続けていらっしゃいますが、いやになったりは? お辛くは?」
アスターの問いかけに、セレスは首を振った。
「この国には私の子どもたちの子どもたちの子どもたちの子…………要するに私の子どもたちがたくさん住んでいるもの。いやになったり、つらいと思ったりしたことはないわ。家族がニコニコ暮らせるのが一番よ」
セレスに答えに、三人は「ふむ……」と黙り込む。
そろそろグッズを片付けてもいいだろうか。
じっくり見られたあとだけど、出しっぱなしだと恥ずかしい。
「魔女カイエに関しては、なんらかの手違いで迷い込んだ魔物、すでに退散済みということにしましょう」
しばらく考えたあと、アスターが口を開く。
「被害は何も出ていません。結界もほころんでいないし、聖女様も無事。大事にするべきではありません。騒ぎが大きくなると、聖女様の立場が悪くなる。それでは神殿も困るでしょう?」
ちらりとアスターが神官長を見る。
「ヴェンデール隊長のおっしゃる通りですな。……聖女様、これからお出かけ前には私たちにも教えてくださるとありがたい。魔女カイエに悪いことをしました」
「あらっ、これからお出かけを認めてくれるのかしらっ」
「聖女様のこの国への貢献度を鑑みれば、ダメとは言えますまいが……問題は聖女様の代役ですな。魔女カイエが引き受けてくださればのお話ですよ。……そういえば、その魔女カイエはどこに行ったのでしょう。ヴェンデール隊長、ご存じですか?」
「さあ、私には……。見つかったという報告はありませんので、どこかに隠れているのでは?」
神官長の質問にしれっと答えるアスターに、セレスは思わず噴き出しそうになった。
アスターがカイエを自分の部屋に閉じ込めていることは知っているのだ。何しろカイエに持たせているのは、セレスのうろこだから。
あのきれいな顔の下で何を考えているのやら。
うろこを通じてアスターの告白を聞かなければ、アスターの気持ちなんて気付かなかった。
セレスがカイエに身代わりを頼んだタイミングでアスターが護衛責任者として神殿に現れたのは、本当に偶然だ。
別名、運命。
おもしろそうなので二人を……というか、主にカイエをつつきまわしたいところだが、カイエが怒り狂うのは目に見えているので、今は我慢我慢。
その時。
大きな衝撃が、神殿のすぐそば、王城のあたりで炸裂し、その衝撃波が一瞬にして王都に広がった。
神官長、女官長、アスター、そしてセレスの四人はそろって震源地に目を向けた。
誰かが大きな魔法を使った。
「……やってくれるじゃないか」
アスターが低く呟く。
どうやらカイエはアスターを怒らせたようだ。
「何かよくないことが発生したようなので、見てきます」
神殿の護衛責任者であることを放棄して駆けだすアスターを、呼び止める者は誰もいなかった。
神官長と女官長が顔を見合わせる。
全員の注意が逸れたのをいいことにセレスはいそいそと推しグッズをバッグに詰め戻しながら、一人でニヤニヤしていた。
アスターはしつこそうだし、魔力も強い。
不意に、セレスのもとにぽとりと虹色に輝くうろこが突然落ちてきた。
カイエが送り返してきたようだ。
おやおや、うろこなしでカイエはアスターからの逃走を試みるらしい。
――カイエちゃん、幸せになるのよ……!
セレスは必死の形相で逃げ回っているだろう妹に、心の中で声援を送った。
あとで話を聞こう。
半年……いや三か月くらいで勝負がつくかな?
「えーとぉ…………」
かわいい妹が頑張っているっぽいので、予定を切り上げて早めに帰宅したセレスは、神官長や女官長、そして先ほど駆け付けてきた護衛責任者のアスターに取り囲まれていた。
自分の部屋に転移したので、カイエを呼んだのだが返事がないし、なんだか神殿が騒がしい。
とりあえず外見だけは戻さなくてはと、カイエのために作った薬を飲んで姿を銀髪銀眼の聖女にしたところで、神官長と女官長、そして金髪碧眼の竜騎士が駆けこんできたのだ。
「聖女様、これはどういう……」
神官長がこめかみに青筋を立てながら問い詰めるのも道理で、セレスは持ち帰ったカバンいっぱいにぬいぐるみや抱き枕、マグカップ、イラストブックにあらゆる薄い本と、本人には宝の山、第三者には謎なグッズを詰め込んでいたのである。
それを神殿の責任者三人に見つかり、目の前に並べさせられ、じっくり検分されたうえに、アスターの報告からカイエの正体がバレていることを知り、自分は実は魔女で、東の魔女と呼ばれる妹に聖女の代役を頼んでライブに出かけていた旨の説明をさせられるという、地獄を味わっていた。
「だ、だって、私、ずーっとここにいるんだもん! つまんないんだもん! でもパパとの約束だから結界の維持はしなきゃいけないんだもん! 代役を頼めるのが妹しかいなかったんだからしかたないじゃな――――い!」
だからグッズの没収はしないでぇー、と泣くセレスに三人はしばらく固まっていたが、
「まあ、今回は何も……被害はなかったので……そういうことでしたら……」
神官長が唸る。
「そうですわよ、神官長。セレス様が長らくこの国を守っていらっしゃるのは事実。セレス様の正体に関しては問題ないかと思います。ただ……そうですね……正体が魔女であると明るみになるのは得策ではないと思います。これからも、セレス様は聖女様でいらっしゃってくだされば、私達としては……」
女官長がちらりとセレスを見る。
「いいの?」
「セレス様はどうなのですか。もうずっとこの国をお一人で守り続けていらっしゃいますが、いやになったりは? お辛くは?」
アスターの問いかけに、セレスは首を振った。
「この国には私の子どもたちの子どもたちの子どもたちの子…………要するに私の子どもたちがたくさん住んでいるもの。いやになったり、つらいと思ったりしたことはないわ。家族がニコニコ暮らせるのが一番よ」
セレスに答えに、三人は「ふむ……」と黙り込む。
そろそろグッズを片付けてもいいだろうか。
じっくり見られたあとだけど、出しっぱなしだと恥ずかしい。
「魔女カイエに関しては、なんらかの手違いで迷い込んだ魔物、すでに退散済みということにしましょう」
しばらく考えたあと、アスターが口を開く。
「被害は何も出ていません。結界もほころんでいないし、聖女様も無事。大事にするべきではありません。騒ぎが大きくなると、聖女様の立場が悪くなる。それでは神殿も困るでしょう?」
ちらりとアスターが神官長を見る。
「ヴェンデール隊長のおっしゃる通りですな。……聖女様、これからお出かけ前には私たちにも教えてくださるとありがたい。魔女カイエに悪いことをしました」
「あらっ、これからお出かけを認めてくれるのかしらっ」
「聖女様のこの国への貢献度を鑑みれば、ダメとは言えますまいが……問題は聖女様の代役ですな。魔女カイエが引き受けてくださればのお話ですよ。……そういえば、その魔女カイエはどこに行ったのでしょう。ヴェンデール隊長、ご存じですか?」
「さあ、私には……。見つかったという報告はありませんので、どこかに隠れているのでは?」
神官長の質問にしれっと答えるアスターに、セレスは思わず噴き出しそうになった。
アスターがカイエを自分の部屋に閉じ込めていることは知っているのだ。何しろカイエに持たせているのは、セレスのうろこだから。
あのきれいな顔の下で何を考えているのやら。
うろこを通じてアスターの告白を聞かなければ、アスターの気持ちなんて気付かなかった。
セレスがカイエに身代わりを頼んだタイミングでアスターが護衛責任者として神殿に現れたのは、本当に偶然だ。
別名、運命。
おもしろそうなので二人を……というか、主にカイエをつつきまわしたいところだが、カイエが怒り狂うのは目に見えているので、今は我慢我慢。
その時。
大きな衝撃が、神殿のすぐそば、王城のあたりで炸裂し、その衝撃波が一瞬にして王都に広がった。
神官長、女官長、アスター、そしてセレスの四人はそろって震源地に目を向けた。
誰かが大きな魔法を使った。
「……やってくれるじゃないか」
アスターが低く呟く。
どうやらカイエはアスターを怒らせたようだ。
「何かよくないことが発生したようなので、見てきます」
神殿の護衛責任者であることを放棄して駆けだすアスターを、呼び止める者は誰もいなかった。
神官長と女官長が顔を見合わせる。
全員の注意が逸れたのをいいことにセレスはいそいそと推しグッズをバッグに詰め戻しながら、一人でニヤニヤしていた。
アスターはしつこそうだし、魔力も強い。
不意に、セレスのもとにぽとりと虹色に輝くうろこが突然落ちてきた。
カイエが送り返してきたようだ。
おやおや、うろこなしでカイエはアスターからの逃走を試みるらしい。
――カイエちゃん、幸せになるのよ……!
セレスは必死の形相で逃げ回っているだろう妹に、心の中で声援を送った。
あとで話を聞こう。
半年……いや三か月くらいで勝負がつくかな?
212
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる