短編まとめ

ちゃあき

文字の大きさ
上 下
8 / 10
サキュバスのアリアドネ(恋愛R18)

2※

しおりを挟む


「しっかし本当に何もないんだな」
「うるさ……あッ……」

 青衣はブラの上から胸を揉んだ。むしろ胸の膨らみを探しているようなかんじになった。そこは非常に平坦で平穏な土地だ。

「ん……ん……」
「いつもこうする?」
「え?」
「他の人間の男も」
「え……いや……」
「しない?」

 じゃどうする? と言って青衣がまた妖艶さを醸して笑う。その余裕の表情に背筋が寒くなる。見つめられると逃げられなくなるような……これではどちらが淫魔か分かったものではない。
 だから言い出せなかった、いつもするもしないもこれがはじめてだとは。

「探せばあるかな」
「えっ……?」

 青衣はリアのブラのホックを外して、眼前に裸の胸を晒した。そこには確かに少しだけ膨らみがあって興味深そうに手を伸ばす。指先で小さなピンク色の飾りを摘んで転がした。

「……ん、あ、あお……」
「ちょっとあるじゃん!」
「うぅ……うるさい」

 怒りの表情を浮かべるリアを尻目に、青衣は指で転がしていたそこに今度は唇を寄せてちゅと吸い付いた。そのまま片方を舌で舐めて、もう片方を指先でやわやわと転がす。リアは段々力が抜けて後ろ手についた腕が震えはじめた。
 不意に青衣に持ち上げられて、ソファにころんと転がった。

「疲れてきた?」
「……ん、はぁ……ちょっと……」
「サキュバスって意外に体力ないのかな」

 ぶつぶつ言いながらも、ふたたび両手の指が胸の頂に絡む。先ほどより少し強くきゅっと摘まれて、リアは背中をびくんとのけぞらせた。転がっているだけなのに何故か息が苦しくなった気がする。

 ひとまず刺激から逃れようと身を捩るけれど、つままれた突起を優しく転がされ逃げるに逃げられなくなる。触れられてもいない下半身に甘い熱が集まっていく。

「あ、あぁあ……や……」
「ちょっとはサキュバスらしくなってきた?」
「ん、んん……はぁっ……」
「どう?」

 見上げる青衣はまた優しく綺麗な顔で笑う。でも視線の奥にはじめはなかった熱の気配を感じる。胸を弄る手つきは緩慢だけど有無を言わさなくて、嫌だとも逃げ出したいとも言いづらい。
 インキュバスが相手ならこうなのかも知れない。普段は優しいあのアルジャーノンも、人間の女の前ではこういう姿を見せるのかも知れない……。
あらぬ想像をしたせいで、余計に背筋が寒くなる。

「あ、あ…あおい……それ、なんか……」
「なに? もっとして欲しい?」
「んんん……」

 青衣がまたそこに唇を寄せてきた。舌を絡めてぺろれろ舐められ、くすぐったいけれどへんな気分になる。

「うぅ……」
「あまい……何か味するよね?」
「え? ……分かんない」
「サキュバスだからって訳じゃないの?」
「さ、さぁ……」

 リアにも身に覚えのない現象だ。もっとも他人に身体を舐められた事などないので、もしかしたら元々そうだったのかも知れないが、リアにも分からなかった。
 青衣は不思議そうに胸の飾りから、あまり主張しない乳房に舌を這わせ、そのまま鎖骨や首筋に口付けて白くて小さな耳たぶをぺろりと舐めた。

「う、あぁ……」
「やっぱり甘い、ねぇシュガープラムフェアリーって知ってる?」
「ん?」
「魔界にもいないの? お菓子の妖精なんだって」
「へぇ」
「アリアドネはサキュバスっていうよりシュガーフェアリーっぽいよね」
「うぅ……」
「溶けるんじゃない? このまま舐めてたら」

 ふふと笑う顔が綺麗で、別の意味で蕩けそうな気がする。何でよりにも寄ってこの男を選んだのだろう。リアは少し後悔していた。これでは人間の男を捕まえたサキュバスではなく、インキュバスに襲われたシュガーフェアリーだ。

「と、とけない」
「ほんと? じゃまだ舐めてもいいの?」
「ん、んーー……」

 青衣はやや楽しそうになって首筋や耳に噛みつきはじめた。舐めるどころかかじられそうで、リアは少しの怖さと肌に感じるぞくぞくした刺激にきゅっと目を閉じて耐える。
 青衣は苦笑いを漏らして、最後にちゅと唇にキスを落とした。

「今まで溶けなかったんだもんな」
「ん……なに」
「他の人間の男に舐められても無事だったんだろ?」
「あ……ッ」

 青衣の片手が脚の間に入り込んで、下着の隙間からそこをぬると撫でた。確かに湿った感触がして、触れられた事への羞恥も無い混ぜになり頬が熱くなってうつむいてしまう。

「ごめん、嫌だった? 他のやつの話は」

 ごめんねと言いながら、身体を起こした青衣はそのまま下に下がってリアの脚の間に鼻先を寄せた。

「あ……えっ……!?」
「あまい」

 ぺろ、とアイスでも舐めるようにそこを舐められた。リアはびくと身体を強張らせる。青衣は忍笑いを漏らしながら、そこに唇を寄せてその潤いに舌を絡めていく。

「ん、や……や、あお……ぁ……!」
「飴みたいだよね? ほんと、なんでだろ」

 ほんとにへんなゆめと青衣は独り言を言う。だから夢じゃないと否定したかったが、どうにもし難い時にばかりそう言われるので、今度も情けない呻きを漏らすだけになってしまった。

 青衣の舌が花弁の奥を暴いていく。熱くて滑った感触に、はじめて押し開かれるそこが蹂躙され、確かな刺激を覚えていく。

「どんどん出てくる、甘いの……」
「え、あ、あーー……ッ……」

 ちゅと花芯に吸いつかれて、頭の奥で白い星がチカチカした。知らないうちに彼の頭を押さえていたけれど、青衣の方もいつの間にか熱に浮かされた顔をしていた。ふと目が合って、濡れた唇で微笑まれまた背中がぞっとする。





 おだじまあおいの方が、サキュバスよりエロい。
 アリアドネは真剣にそう思う。彼の顔を見ているとドキドキするし、身体に触れられるとその甘い刺激から逃げ出せなくなってしまう。

 淫魔とはこういうものの筈だ。そう言った意味で勉強になる事にはなった。人間界に来た当初の目的とは全く違うけれど……。

「中から甘いのが出てくるの?」
「し、知らな……」
「中も溶けてる?」
「あぁあ……」

 ぐちゅ、と音をたてて指が中に滑り込んできた。何度か具合を確かめるように出入りさせて、もう一本増やしてその壁を押し開いていく。

「あ、ぁあ……ぅ、や……」
「柔らかい」
「はぁっ、ああっ……ぁ……」
「砂糖って溶けたら何になるんだっけ?」

 ぐちゅぐちゅと指で中を探りながら、青衣が尋ねるけれど、思考が乱れてリアには何とも返事ができない。指の刺激で中の壁が充血し熱く腫れてよけいに溶けていく。まるでそこに受け入れるもののぶんだけ場所をあけていく準備をしているようだ。

「あ、水飴……?」
「や、やぁ……ぁ、あーっ……!?」

 ぬる、と青衣の指が押し込んだところに堪らない刺激を感じた。上がった高い声に自分でも驚いた。感じた刺激の余韻にまだ少し腰が震えている。

「ここ好き?」
「あっ……あっ、待っ、ちが……あぁぁ」

 青衣は笑って優しくそこを指の腹で撫でる。逃げようと腰を引くと、太腿を押さえて動けなくされた。彼の瞳にも興奮の色が強いとリアもようやく気がついた。
 空いた親指で花芯を柔らかく擦る。中の指は先程の所を掠めながら出し入れを続けて、じゅぽと言う水音がだんだん高くなるのがリアにも分かる。

「あ、やぁ……ひゃ、も、あぁぁ、あ、やら……ぁ」

 指を咥えた花弁から蜜が溢れ、身体を垂れてソファに滴っていく。まだ浅い膣口と弱い花芯を弄られるだけなのに、指の刺激でどんどん追い上げられて未知の快楽の向こう側へと落ちていきそうになる。

「……や、やぁ、あお……、あぉい…….待っ、イっ……」
「イってよ、アリアドネ。我慢しないで」
「あ、あぁ、や、だめ……だめ、ぁ……」

 イくとこ見せて? と耳元に唇を寄せた青衣が囁いた。耐えていた快感が一気に背筋を駆け上がって、背中がのけぞり身体全体ががくがくと痙攣した。
 彼の指の隙間からぽたぽた潮が滴って、ソファと彼の腕、太腿を汚す。

「わ、やっぱサキュバスなんだね」
「ん……ん……?」
「エッチじゃん」
「ほ、ほんと……!?」

 赤い頬をして、虚な目のままリアは今日一番嬉しそうな顔をした。青衣はそんなリアの様子がおかしくて笑ってまなじりに溜まった涙を拭ってやる。

「エロいって言われたかったの?」
「うん、そう」
「……あ、あははっ! 何それかわいい」
「……かわいいはいや……」

 リアはまたむくれてしまう。青衣は眉を寄せるリアの頬にキスしてあげた。

「じゃもっとエロい所見して」
「え……ぁ……ッ!」

 抱えられた太腿の間に、彼が腰を擦り寄せてくる。指より硬くて熱いそれが柔らかくなった花弁を捲って中に入り込もうとしている。
 予想より大きく硬く感じて、リアは息を詰めた。
ぐっと入口を割って、花弁を散らしながらそれが中を侵していく。思った以上の圧迫感と力強さにリアは仰け反ってその衝撃に耐える。

「え、あ、あーーっっ……!」
「大丈夫? インキュバスでもつらいもの?」
「わ、分かんない、はじめて……」
「え!?」

 青衣が大きな声を出して、それどころじゃなかったリアも驚いて顔を上げた。中途半端な位置で止まったまま青衣は呆気に取られたような顔をしてリアを見ていた。

「はじめてって? 何がはじめて……?」
「これ」
「これ?」
「これ、ここにこうするの」

 リアは細い指で、自分と青衣の繋がりのふちをなぞった。その瞬間、中断されていた挿入が一気に進んで、凄まじい衝撃とともにリアの最奥が突き上げられた。

「あ、あぁあ……!?」
「ご、ごめ……え!? でも、嘘だろ? サキュバスじゃないの?」

 青衣は額に汗をかきはじめている。訝しげな顔でリアを見下ろすけれど、ゆらゆら腰が揺れていて、リアは刺激と苦しさで息をするのがやっとになる。
 腹の中がいっぱいで苦しい。けれどそれが中で身動ぐたび、知らなかった感覚が目覚めて、そこに切ない熱が溜まっていく。

「さ、サキュバス……だけど……」
「だけど、はじめて?」
「そ、そう……」
「それで可愛い下着を着て、エロいとか言われたいって言ってたの?」
「うん……」
「なにそれ、ドチャクソエロいじゃん」

 欲情が明らかな瞳に見つめられ、リアはきゅんと中を締めた。青衣も気が付いて中でびくりとそれが震える。
 中に馴染んできた青衣の欲望が、リアにとって少し物足りないものになってきた。リアはやっぱりサキュバスで、その淫魔たる本能がようやく目を覚ましはじめたのだ。





「あ、あおいっ……」
「え?」

 リアはゆら、と繋がりを揺らして青衣を見上げた。
 上目遣いの潤んだ目に、攻戦一方だった青衣の方が今度は戸惑ってしまう。黙っているとリアが濡れた小さな唇を懸命に開いて言った。

「あおい、なか……して」
「……えっ」
「う、動いてっ……!」

 つらい、と小さな腰が揺れた。青衣はそれを掴み上げて、リアの身体をくるりとうつ伏せに倒してその上にのし掛かった。

「あ、あ……!?」
「なんだよもう! 処女だったりサキュバスだったり……!」
「あっあっ……あっ…ぁ、あお……」

 腰だけ上げさせて、背後から彼女の中を責め立てていく。濡れた音がぐちぐちと上がってその繋がりから飛沫が滴ってソファを汚した。
 リアは感じた事のない快感に身を震わせていた。それが中を擦り上げるたび、身体を狂わせる快楽が神経を流れ、唇からだらしなくよだれが溢れてしまう。

「あ、あーー……や、あぁ、だめ……」
「変な夢だよ、マジで」
「ゆ、夢……夢じゃない……」
「嘘だよ。窓からエロいサキュバスが入ってくるとかある? あたおかじゃん。飲みすぎたわ」
「え、エロい?」

 わたし、エロい? と懸命に振り返ったリアがたずねた。青衣はリアを抱き起こしてひざの上に抱える。対面座位の体勢で、ふたたびそれをリアの中に埋めていく。

「あ……、あ、ぁ……」
「アリアドネ? 僕の事すき?」
「……え?」

 息も絶え絶えのリアの瞳の奥を、青衣がまた無遠慮に見つめる。アンドレアのように淫らで、アルジャーノンのように綺麗な男だ。リアは見つめられてまたきゅんとそこを締め付ける。

「こう言う事をするなら、エロいとかエロくないとかじゃなくて、まずは気持ちが大事なんだよ」
「気持ち?」
「そう、気持ち次第でエロくもそうじゃなくもなるって事」
「ふぅん……?」
「好きな事が大事なんだよ」

 大事? とリアは復唱した。青衣はいくらか真面目な顔でうなずく。確かにエロいこの男が言うのだから、それは本当なのかも知れない。好きな事が大事とリアはひとつ学んだ気になった。

「好き、おだじまあおいの事」
「……なんでフルネーム?」

 青衣は苦笑いした。だけどうれしそうだった。唇が近付いてまたキスをした。今度は舌が入り込んで、リアの小さな舌を誘い出し絡みついていく。
 止まっていた腰の動きも、リアの身体を支えて徐々に下からの突き上げを再開した。

「ん、ふぅ……ぁ、あ……」
「あまい……リア、好きだよ」
「んん……」

 好きと言われて、彼を咥えたそこからじわりと愛液が滲んだ。好きな事が大事、はあながち間違いではないのかも知れない。
 突き上げが激しさを増していく。奥を突かれるたび、身体が痺れて膝が笑う。青衣の肩に掴まると背中に腕を回して抱きしめてくれた。

 支えられて、中を突かれて、また段々絶頂へと追い上げられていく。細い身体の奥に堪らない欲望が熱を増して、ぐり、と奥を突き上げられた時、意識がスパークして腰がガクガクと震えた。
 今度はその繋がりの隙間から透明な潮がびゅっと飛び出してくる。

 青衣も二、三度奥を突いて、そのままそこで震えて欲望を吐き出した。

「あ……はぁ、ぁ……」
「アリアドネ」
「うん?」
「好きだよ」
「うん……」

 青衣が微笑みかけてくれた。
 ずる、と楔が抜けて二人の間に白くて粘った糸を引く。
 リアは脱力して青衣の肩に掴まったまま、耳元で彼の忍笑いを聞いていた。






 ……————柔らかな布の感触がする。
 誰かの声が遠くで聞こえる。

「そーだからさぁ、サキュバスっていうからドエロいの想像するじゃん? 何かね、ぬいぐるみみたいだった。俺の想像力どうなってんだろうね……」

 話しているのはおだじまあおいだとアリアドネは思った。多分扉一枚向こうで誰かと話をしている。

「本当に誰か忍び込んだんじゃないかって? でも、ここ32階だよ。さすがに登れないよ。え、上から? やばめの忍者じゃん。夢だよ夢! ……まぁ、本当に誰かいたらTwit○erに書くわ」

 あははと何だか聞き慣れてしまった笑い声とともに、急に静かになる。リアはごそ、と布団から頭を出した。その時部屋のドアを誰かが開いた。
 扉の前に立っていたのはおだじまあおいだった。リアは彼を見上げて、目が合った。

「おだじま、おは……」
「ほんとにいるーーーー!」
「!?」

 青衣が突然大きな声を出したから、リアは驚いて布団の中に引っ込んだ。バタバタと走ってくる音がして両腕を掴まれ、布団の中から引き摺り出された。

「……アリアドネ?」
「そうだけど……」

 また青衣の腕に抱かれて、真っ直ぐに瞳を見つめられる。リアはゆらゆらと小さな羽を揺らした。


□□□

「なんか……」
「ん?」
「何かむし歯菌みたいだね」

 サキュバスっていうよりと青衣が言う。青衣に出してもらった朝食の目玉焼きをフォークでつついていた時だった。

「…………」
「ああぁごめんね、泣かないで」
「泣かない。いわれすぎてこころがいたみをかんじなくなってきた」
「かわいそう……」

 青衣が隣に座って、同じように卵焼きを突きながらなでてくれた。それが余計に気にさわる。

 ————『さぁ続いてのニュースは!』

 アイキャッチとともにテレビからアナウンサーの軽快な声がした。続いてキャーッという若い女の子たちの悲鳴と、耳慣れない歌が流れてきた。

 どこかのコンサート会場だ。ワイヤーに釣られた男性達が笑顔で宙を舞って、歌声を掻き消さんばかりの歓声が会場を包む。

「……あれっ?」

 リアは男の一人に見覚えがあった。あったというか、今隣にいる男がテレビの中にもいて胸元のはだけだ衣装でキラキラしながら宙を舞っていた。

『13日に行われた今一番人気のアイドルグループ〇〇の××公演千秋楽は大盛況のうちに幕を閉じました———……『我々は直撃取材を敢行!無事一人のメンバーに今後の意気込みを語ってもらう事ができた』』

『番組をご覧の皆さんおはようございます!○○のセクシー担当、小田島おだじま 青衣あおいです』

「おだじまじゃん」
「そうだよ」

 青衣は何でもない事のように言った。

『皆さんの応援のおかげで、無事今回のツアーも終わりを迎える事ができました。僕たちとしましてもまた皆さんとお会いできる機会を作るために、新曲、そして次のツアーへとバトンを繋ぐための準備期間へ進めればと思っています』

「おだじま何かちゃんとした事言ってるね」
「そう? ちょっとくたびれたからしばらく休むねって言ってるんだよ」
「へぇ」

『だから皆さん、僕たちとまた会う日まで※◎Δ×□♪⁂◆ピ————ッしててくださいねっ!』

 キャーッというスタジオの女性陣の悲鳴とともに画面が切り替わった。
 リアはぼんやりテレビを見つめていた。

「何でピーって音になってたの?」
「公共の電波では流せないような卑猥な事を言ったからだよ」
「どうして?」
「セクシー担当だから言わないといけないの」
「流せないのに何で言うの?」
「ライブ会場まで、直接なんて言ってるか聴きに来てもらうためだよ」
「なんで?」

 アイドルだから、と青衣は笑った。
 アイドルというものをアリアドネは詳しくは知らない。だけど若い女性達に絶大な人気を誇る何かな事は先ほどの放送を見て何となく理解した。

「お客さんいっぱい来る?」
「来るよ、日本中から」

 簡単にドログチャにできそうだと思っていた小田島青衣は、冴えないオタクみたいな中年ではなく、『今一番人気があるアイドルグループ』の『セクシー担当』だった。

 それは勝てるはずがないとアリアドネも何だか納得してしまう。

「おだじまあおいすごいじゃん」
「あはは、ありがと」

 青衣は照れ隠しにほっぺたにキスしてくれた。そして、なぜフルネームで呼ぶのかとまた聞いた。



fin.


初出 2020.12.27
しおりを挟む

処理中です...