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番外
(後)ピンクのリボンとアクリル板のむこう
しおりを挟む別日。
「いつかあるとは思ってたけど、まさかこんなに早いとはねーーーー」
木蓮さんはまいったと言いながら、割れたアクリル板を見つめた。
感染防止対策に客席に置いてたものだ。テンションをあげた大型犬が早速ヒビを入れてしまった。
僕たちがパソコンで購入履歴をさかのぼる間、遊びに来たあつしくんが取り外して外に出してくれるらしい。
「あつしくんはいつからバイトはじめる?」
「……考えときます」
なかなか釣れないわと木蓮さんは僕に目配せした。
ふと見るとあつしくんは外したアクリル板を床に立てて三匹の子犬をからかっていた。
透明の板越しに尻尾をふるあずきと、おっとりした性格の二匹が彼を見あげてる。
ヒビ割れた板はまるで鏡のようだ。
それはもしかしてその者本来の姿を映し出すのかも知れない。
鏡がくだけてしまえば、虚像はくずれるのか……それとも中からそれが飛びだしてくるのか。
そのときは何だか急にそんなことを考えた。
……——リビングのテーブルに置いた鏡の前で、人間のあずきが髪にバレッタをつけていた。
小さくのばらのメロディーを口ずさんでる。
蛍光グリーンのビニール製ショッパーの中にはたくさんのアクセサリーが透けて見える。
一つだけのものもペアもある。一見芸術品みたいだが、縫製が甘いから部品がとれたらボンドでくっつけといてと言われた。
あずきはプラスチックの赤いチェリーがついた丸いバレッタを気に入ったみたいだ。まわりを白いレースが囲ってる。
サイドの髪を耳にかけてそれを挟んだ。
贔屓目だけどうちの犬が世界で一番可愛い。
そう思って見つめていると、鏡越しに微笑まれた。見てたのは完全にバレていた。
「似合う、それ」
「でもこのピンクはあつしくんのですねっ」
「……そうだな」
袋の中からピンクのエナメルリボンがのぞく。
あずきはサンゴみたいなピンク色が似合う。
一方あつしはサクラみたいなピンクが似合う。
だからあの青味の強いエナメルのリボンはあつしにわりとしっくりきてたのだ。
ふとした時無言で心に深く入ってくる動物と、当然言葉は通じるけど中々その輪郭を掴めない人間がいる。
見えて聞こえている以上の真実があるのかも知れない……でも、まるで支配するようにその全てを把握する事はむずかしい。
好奇心には駆られるけれど、自分でさえ望んでいないことにはやはり腰が引けるのだ。
何もかも知られたいなんて思わない。
僕が内心、あのネオン管みたいなピンクのエナメルリボンが一番似合うのは緑のインコなんじゃないかと思っていた事とか。
もしかしたらあつしは子犬の仲間で、僕はインコの仲間なのかも知れない。
でもそれはべつに白黒つけなくてもいいことだ。
fin.
みじかかったので番外にさせていただきましたm(_ _)m
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