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老魔道師
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両軍の上空で互いに一歩も譲らないまま
互いに消え去るかと思われた魔法の炎の大蛇と巨大な竜巻の正面からの激突は
わずかばかりだが、炎の大蛇が渦を巻いた邪魔者を
食いちぎるかのように押しのけ始めていた。
「やはり、これはいかんぞ、マージナス隊長」
味方の兵士達の士気をあげるためだけではなく
決死の突撃を行い、ラーラントの中央を
より短時間で破る必要性があるため
王が前線での陣頭指揮をとり後方にいない中
国王直属となる親衛隊の隊長であり
自らと供にラーシャを補佐し、自軍の全体を見渡していた
最長老の魔道師スフィルオルが親衛隊長に呼びかける。
信頼を寄せている、老魔道師からの呼びかけに
親衛隊長のマージナスは今日まで一緒に戦い抜いてきた
親衛隊の兵士達に眼をやり、珍しく少し躊躇したあと、苦渋の決断を下す。
「くっ、風の巫女を……
姫様だけでも我らの命に代えてもお守りする、盾を掲げるんだ!」
シーザリアの親衛隊長がまだ生き残っている
親衛隊の兵士達に支持を下すと
隊長の心情を理解してか、回復の癒しの魔法により命を取り留め
傷ついて倒れていた兵士までもが、よろめきながらも
膝をたて、最後の気力を振り絞り
いくつもの魔法に祝福された漆黒の大盾が掲げられると
満足に立って歩く事さえできない兵士の姿を見てマージナスは叫ぶ。
「国王親衛隊、前へっ! 進めええ」
ソフィアからの復讐の炎により、多くの兵士が傷ついた
親衛隊への総力を上げた癒しに全力を尽くし
防御魔法を放つ十分な魔力と時間すら
残されていない魔道師達が覚悟を決めたように
続々と集まりラーシャの周囲を取り囲んでいく。
「私が最初から決戦の魔法を放つことさえ出来ていれば……」
そこにいるのは毅然とした表情をした王の娘ではなく
これまで自分を支えてくれた魔道師達を失なう事に怯え
力が及ばなかった自分を必要以上に責める一人の少女の姿だった。
「精霊の血を引いておられてはいても、姫が人でしかないのは、このスフィルオルは
幼き頃から、お傍にいさせて頂きようく、存じあげておりますぞ」
自分を責める少女を気使い、その思い上がりを教え諭すように
最長老の魔道師スフィルオルが、冷静に事実だけを淡々と語る。
「はなから、強力な呪文の詠唱を、そこまで早く、終える者などおりますまい
少々、思い上がりが過ぎますが、そこが姫さまの良きところでもありますな」
ラーシャがたまらず、老人と魔道師達の表情に
何かを感じ取り、めったに出す事はない
不安げな少女の表情を魔道師達に向ける。
「そんなの嫌、みんな死んじゃだめ」
自分を取り囲んでいる配下の魔術師達に向けた
一人の少女としての無垢な気持ちが魔術師達を勇気づける。
無理を承知ですがる様な姿に魔道師達を代表し、老人は別れを告げる。
「姫様はまだお若い、生きて我らの事を後の世に」
詠唱時間が無い中、残された魔力も少なく
集中の祈りで魔力を高めることすら出来ない
魔道師達に残された最後の手段は自らの命を全て魔力に変換し
その身を犠牲にして、防御魔法を即座に発動する最終手段しかない。
「皆、覚悟はできておるな」
最長老のスフィルオルの重い言葉に
覚悟を決めラーシャの下に集っている
魔道師達は無言で目を合わせ答える。
その様子を黙って見守るしかできない
力を使い果たし、自分さえ護ることすらできない
只の少女にしかすぎなくなったラーシャは何も言う事は出来なかった。
史上最年少で王国最高の魔道師である風の巫女となった
自分の全力をかけた魔法がまるで、歯がたたなかった現実に
所詮、人でしかない自分の無力さを始めて知ったのだ。
「人は弱さを知り、誰かの為に涙を流せるからより強くなれるのです」
ラーシャはスフィルオルがこれまで語りかけてくれた言葉の数々を思い出す。
王の娘である事にこだわるあまり、他者に弱さを決して見せようとしない
少女を気にかける一人の老人の素直な気持ちだった。
自分に欠けていた、足りないものを自覚した
ラーシャの悲鳴は声も出なく、言葉にもならない。
ただ気がつくと、何も出来ない自分のあまりの無力さに絶望し
目からこぼれた一筋の雫が頬をつたっていく。
「風のように、心やさしき姫様に精霊のご加護を」
時が来たのを感じた老魔道師が最後にラーシャに感謝の気持ちを伝えると
火の巫女の放った獰猛に燃え盛る炎の大蛇は
当然のように竜巻を食いちぎり、その先に獲物を見つけた
飢えた獣のように衰えるどころか邪魔者がいなくなったことで
勢いを取り戻し、凄まじい速さで、ラーシャ達に近づいてくる。
互いに消え去るかと思われた魔法の炎の大蛇と巨大な竜巻の正面からの激突は
わずかばかりだが、炎の大蛇が渦を巻いた邪魔者を
食いちぎるかのように押しのけ始めていた。
「やはり、これはいかんぞ、マージナス隊長」
味方の兵士達の士気をあげるためだけではなく
決死の突撃を行い、ラーラントの中央を
より短時間で破る必要性があるため
王が前線での陣頭指揮をとり後方にいない中
国王直属となる親衛隊の隊長であり
自らと供にラーシャを補佐し、自軍の全体を見渡していた
最長老の魔道師スフィルオルが親衛隊長に呼びかける。
信頼を寄せている、老魔道師からの呼びかけに
親衛隊長のマージナスは今日まで一緒に戦い抜いてきた
親衛隊の兵士達に眼をやり、珍しく少し躊躇したあと、苦渋の決断を下す。
「くっ、風の巫女を……
姫様だけでも我らの命に代えてもお守りする、盾を掲げるんだ!」
シーザリアの親衛隊長がまだ生き残っている
親衛隊の兵士達に支持を下すと
隊長の心情を理解してか、回復の癒しの魔法により命を取り留め
傷ついて倒れていた兵士までもが、よろめきながらも
膝をたて、最後の気力を振り絞り
いくつもの魔法に祝福された漆黒の大盾が掲げられると
満足に立って歩く事さえできない兵士の姿を見てマージナスは叫ぶ。
「国王親衛隊、前へっ! 進めええ」
ソフィアからの復讐の炎により、多くの兵士が傷ついた
親衛隊への総力を上げた癒しに全力を尽くし
防御魔法を放つ十分な魔力と時間すら
残されていない魔道師達が覚悟を決めたように
続々と集まりラーシャの周囲を取り囲んでいく。
「私が最初から決戦の魔法を放つことさえ出来ていれば……」
そこにいるのは毅然とした表情をした王の娘ではなく
これまで自分を支えてくれた魔道師達を失なう事に怯え
力が及ばなかった自分を必要以上に責める一人の少女の姿だった。
「精霊の血を引いておられてはいても、姫が人でしかないのは、このスフィルオルは
幼き頃から、お傍にいさせて頂きようく、存じあげておりますぞ」
自分を責める少女を気使い、その思い上がりを教え諭すように
最長老の魔道師スフィルオルが、冷静に事実だけを淡々と語る。
「はなから、強力な呪文の詠唱を、そこまで早く、終える者などおりますまい
少々、思い上がりが過ぎますが、そこが姫さまの良きところでもありますな」
ラーシャがたまらず、老人と魔道師達の表情に
何かを感じ取り、めったに出す事はない
不安げな少女の表情を魔道師達に向ける。
「そんなの嫌、みんな死んじゃだめ」
自分を取り囲んでいる配下の魔術師達に向けた
一人の少女としての無垢な気持ちが魔術師達を勇気づける。
無理を承知ですがる様な姿に魔道師達を代表し、老人は別れを告げる。
「姫様はまだお若い、生きて我らの事を後の世に」
詠唱時間が無い中、残された魔力も少なく
集中の祈りで魔力を高めることすら出来ない
魔道師達に残された最後の手段は自らの命を全て魔力に変換し
その身を犠牲にして、防御魔法を即座に発動する最終手段しかない。
「皆、覚悟はできておるな」
最長老のスフィルオルの重い言葉に
覚悟を決めラーシャの下に集っている
魔道師達は無言で目を合わせ答える。
その様子を黙って見守るしかできない
力を使い果たし、自分さえ護ることすらできない
只の少女にしかすぎなくなったラーシャは何も言う事は出来なかった。
史上最年少で王国最高の魔道師である風の巫女となった
自分の全力をかけた魔法がまるで、歯がたたなかった現実に
所詮、人でしかない自分の無力さを始めて知ったのだ。
「人は弱さを知り、誰かの為に涙を流せるからより強くなれるのです」
ラーシャはスフィルオルがこれまで語りかけてくれた言葉の数々を思い出す。
王の娘である事にこだわるあまり、他者に弱さを決して見せようとしない
少女を気にかける一人の老人の素直な気持ちだった。
自分に欠けていた、足りないものを自覚した
ラーシャの悲鳴は声も出なく、言葉にもならない。
ただ気がつくと、何も出来ない自分のあまりの無力さに絶望し
目からこぼれた一筋の雫が頬をつたっていく。
「風のように、心やさしき姫様に精霊のご加護を」
時が来たのを感じた老魔道師が最後にラーシャに感謝の気持ちを伝えると
火の巫女の放った獰猛に燃え盛る炎の大蛇は
当然のように竜巻を食いちぎり、その先に獲物を見つけた
飢えた獣のように衰えるどころか邪魔者がいなくなったことで
勢いを取り戻し、凄まじい速さで、ラーシャ達に近づいてくる。
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