最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

文字の大きさ
8 / 51

蒼きブレス

しおりを挟む
それは、神の力が行使された破滅的な威力の決戦魔法に向かい
盾を掲げた親衛隊が皆、確実な死を覚悟し
全てを焼き尽くすような、灼熱の大蛇が口を開き全てを焼き払おうとする
獰猛な炎の牙を見せ、声にならない悲鳴をあげた、少女の頬をつたう
雫が、その清らかな身体から離れ落ちていく瞬間だった。

最後の力を振り絞り、漆黒の大盾を掲げている親衛隊の前に
立っていた人物は白いマント姿に、銀で装飾が施された衣服に身を包み
背丈が低く、小さな身体をしていた。

何が起こったか理解している暇さえなく
まるで死の間際に幻でも、見ているかのような
親衛隊の目の前に、突如現れ、背中を向けて立ちふさがった
人物はまるで魔道師のように呪文を詠唱し始める。

「ラー、ラー、ラーサ
太陽神ラーフィネル
古(いにしえ)の友との盟約したがい
その業火の全てを我に託せ」

風の巫女ラーシャを守り抜くため
全てを焼き尽くそうとする圧倒的な熱量の前に絶望的最後を向かえるしかない
魔道師達と親衛隊の兵士達の目の前で、奇跡を巻き起こそうとしている
呪文を詠唱し、その魔法の執行を宣言した、人物の声はたしかに少年のものだった。

「ラーステイムソリュート」

フードのないマントから見える頭髪が白い銀髪をしている少年は
ラーシャと同じで、年齢から明らかに戦場にいるには違和感があり
場違いでしかないが、その姿だけは、れっきとした魔道師である事を印象づけている。
しかし、少年の声や姿だけでなく、
呪文の詠唱内容に最長老のスフィルオルは驚きの表情を隠せない。

「ーーこの呪文はまさか、古代に失われた
神々との直接盟約呪文(デレクタナル)
そんな人を超えた魔道師が、もしや神々の使いか
いや神そのものかもしれん……」

少年の白い髪が自らの呪文で発生した膨大な
熱量で生じはじめた上昇気流で揺れている。

生じた始めたその炎が発している異様な色から
通常の魔道師なら自らの結界でさえ持ちこたえられず
魔法で出現した炎に魂までの全てを焼き尽くされるような
信じがたいような、通常の域を超えた超高熱なのは明らかだ。

気がつくと少年が生み出した膨大な熱量から
自らの身を護るための結界はラーシャ達に対してだけでなく
魔法による被害が及ばないように外に向かっての影響まで遮断している。

親衛隊の兵士達だけでなく、魔法を研究して知り尽くしているはずの
魔道師達までもが失われたはずの少年が詠唱する
初めて見る、伝説の魔法を息を呑んで見守る事しか出来ない。

「おおおっ」

何が起こっているのか、わからない親衛隊の隊長マージナスと兵士達だけでなく
エリサニア4賢者の一人とまで言われている最長老スフィルオルまで
滅多に出す事はない畏怖を込めた感情を露にしている。

全ての魔道師の頂点に立つ最高位の巫女である
ラーシャまでもが、自らを包み込む、結界に強大で圧倒的な魔力を感じ
一歩でも結界の外に出れば命はない事から、その場に只、立ち尽くすしかない。

「大きな力……、でも、まだ私とおなじ子供…… そんな……」

少女と言っても、ラーシャは一国の姫であり巫女として
戦場で戦う事が運命ずけられている特別な立場だ。

だが目の前にいる少年は自分と同じぐらいで
よほどの事がなければ戦場にいるような年齢ではない。

白い髪をした少年の放った強力な神々しい魔法はまるで
古代にラシアル大陸の大空に巨大な翼を広げて君臨していたと言う
伝説のシルバードラゴンの強力なブレスのごとく、その信じ難いような
高熱を示すように、青く煌くような神々しい輝きを放つ。

青き輝きは火の巫女ソフィアの放った赤き炎の大蛇に正面から襲いかかり
そこに何の障害もなかった様にその全てをあっという間に消し去る。

超高熱の青きブレスが灼熱の赤き大蛇をなぎ払う
その魔法の絶大なる威力に恐怖ではなく美しさえ感じ、目を奪われた
ラーシャとその配下の魔道師達と親衛隊が
奇跡の光景を引き起こした白い髪をした少年のいたはずの場所に
再び目を移すとその役割を終えると消え去った青き業火と同じように
煌くような青く澄んだ瞳をしていた
白い髪の少年は影も、形もなく、幻のように消え去っていた。

ラーシャは信じられない光景に、その場に只、立ち尽くすしかない。

「あれ、私…… 立ってる……」

気がつくと、疲労の極限で一人で立つことさえ
ままならなかったラーシャだけでなく
周囲の深く傷ついていた全ての魔道師達や
親衛隊の兵士達の傷も回復し、癒されている。

白い髪の少年は、失われた古代の呪文詠唱と同時に、結界で皆を包んで
回復の魔法で癒し、幻のように消え去ったのだ。

「ミストラルの水の巫女の癒しと同等、それ以上かもしれない」

通常の魔道師の力では癒す事はできず
回復魔法でさえ、死までの時間稼ぎにしかならないような
深く傷ついて、倒れて死を持つしかなかった、親衛隊員と魔道師達までもが
再び立ち上がり始めた奇跡のような一連の出来事を
ラーシャ達は、目の当たりにしていた。

ふと何かを感じて空を見上げると
白い小竜が、大空を舞い飛び去っていく。

小竜の姿が遠くになり見えなくなると、ラーシャは晴れ渡り
青く澄み切った空から、雪が舞い落ち始める気配を感じる。

「ラーシャ様、ラーシャ様っ、ご無事ですか、一体何が……」

後方での異様な事態を感じた一人の女性剣士が慌てた様子で
馬に乗って、ラーシャの身を案じて、駆け寄ってくる。

軽装で背中に矢筒と弓を背負い、手に持っていた剣を腰の鞘に納めた女性は
透きとおった白い肌をしていて、耳がラーシャよりも
はっきりわかるほど尖っている、神秘的で透き通った白い肌のエルフの女性だ。

「エミリア……雪が……
ミストラルの援軍…… 水の巫女の警告かもしれない
父上に早く撤退の知らせを出さない……と…… 急いで……」

言葉はエミリアにはその全ては届かなかったが
そう言って、馬から降りて近づいてきた
エルフの女性の前で、安心したのか気を失ってしまう。

エミリアは倒れるラーシャを、なんとか抱きかかえるが
晴れて、青く澄み切った空を仰いで見上げるだけしか出来ない。

「えっ、雪、ラーシャ様、どこに……」

巫女であるラーシャしか、気がつかない程のかすかに、雪が降る気配は幻ではなく
強力な魔法によって、戦場にたしかに舞い落ちようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...