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理想
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親衛隊と魔道師隊の周囲を取り囲む大勢の敵との間を
隔てている魔法で出現した炎の城壁はさらに勢いを弱め始めている。
壁が完全に消えさり周囲を取り囲んでいる大勢の敵がなだれ込んでくる前に
残された時間の中でより早く、ベルナルド王子は決断しなければならない。
全滅を覚悟で助かる見込みがほぼないソフィアを
最後まで見捨てず渓谷にこのまま留まるか、魔道師達と逃げ延びる代わりに
魔法による癒しを続けることを諦めて
命が尽きるだろう、亡骸をラヒニに持ち帰るかだ。
「ソフィア様に、これを」
ベルナルドは自らが鎧の上つけていた上衣(サーコート)を脱いで
かすかな息をしながら、眠るように目を閉じているソフィアにそっとかける。
ステリオ渓谷を心なしか、少し冷たくなった向かい風が吹き抜けていき
見えない、その風を追い振り返ると
ステリオ渓谷でシーザリアとの決戦を行うために
ここまで突き進んで来た、帰路となる
ラーラントの王都ラヒニへの道が
壁となった炎が揺らめく向こう側に、たしかに続いている。
ベルナルドは王子である前に軍人であり指揮官として純粋に思う
1000年に渡るこれまでの戦いで、この渓谷を何度も越え
その度に、どれだけのたくさんの命が失われたて来たのだろうかと。
どうすれば鎮魂がため、王族である自分が報いる事ができるのだろうか
ソフィアも、その失われていく命の一つとなりつつある。
「ソフィア様…… 私は……」
ベルナルドは魔道師達がわが身を捨てて
全力を尽くし、癒しの魔法で命をつなぎとめている
ソフィアの顔を見つめる。
ヴェサリウス王の下で勢いを増す
大国シーザリアを相手にラーラントは戦いを重ねるが
このステリオ渓谷での決戦に至るまで敗戦が続いている。
今回の決戦でも、敵軍の迅速さもあるのだが
ミストラル公国の援軍も遅れており、同盟の連携もうまくいっていない。
戦乱の世が続く中で、父であるアウグスト王が
戦場での主力となる騎兵の多くを占めている、貴族達に頼りがちになるのは
わからないでもない。
ベルナルド自信も騎兵隊長として、貴族達とは
ともに命を賭けて戦ってきたので、騎士として誇り高く
潔よく、献身的に戦う彼らに問題があるとも思えない。
だから、ずっとベルナルドは父である王に黙って従い
政治は父に任せ、自分は一軍人として、出来る事をやろうと決めていた。
そんなベルナルドの前に精霊信仰の頂点に立つ巫女として
民衆から敬愛されているソフィアが現れた。
自分も民衆の為に少しでもより良く、世を変えたいとは
願ってはいるが、救済をするのは
軍人の自分ではなく、ソフィアのように
民衆に支持される宗教者のやる事だと考えていた。
民衆の立場を戦場で、命がけで訴えるようにして
犠牲になったようにさえ見える、ソフィアを見ると
出合った時から、どうしようもなく、その姿に惹かれてしまう
自分が心の底では父や貴族達とは違う考えを持っていたのだと
心が揺さぶられるような気になっていた。
「私がもっと……」
ソフィアを自分の心の奥底にある願望を叶える
羨望の対象としてしてしまい
行き詰まっていく政治の結果、今に至るまでの敗戦による犠牲が
あるとすれば若き王子とし、民衆の意見を代弁して
政治の場で、父や貴族に時に歯向かうことになっても
異論を唱え、熱弁をふるい、説得を試みる事もすべきではなかったのか。
自分が怠っていたから、この決戦の危うくなりつつある勝敗だけでなく
これまでの戦いで敗れ、ついにはソフィアまで犠牲にしてしまう事に
なったのではないか、ならば遅すぎたかもしれないしれないが
自分が今ここですべき事は何なのか。
これは決戦なのだ、後はなく、勝利しなければならない。
しかし、勝利とは必ずしも戦いに勝つことだけではないだろう。
「王子のお好きになされるべきです、我らは只、付き従うのみです」
ラスマールと魔道師達はベルナルドの決断に全てを委ねるつもりだ。
自分達で決めてくれとすれば、彼らの全てを失う事になるだろう。
まだ息のあるソフィアを見捨て、ラスマールをはじめとした
魔道師達が自分達だけが生き延びるために
逃げ帰る様な雰囲気ではないのはたしかだ。
副隊長ラッセルに預けた屈強な親衛隊の兵士達は炎の壁の内側に
取り残されていた敵に、数の上では負けていても互角以上の戦いを演じている。
ラッセルは親衛隊の全滅も構わず
最後まで王子達が逃げるために戦い抜く覚悟だろう。
「ラッセル……」
そうつぶやいた王子は先ほどのラッセルの言葉をまた思い出す。
「ラスマール、ここを頼む」
残された時間の少ない中で、何かを決断したベルナルドは
時間を惜しんで、そのまま馬に飛び乗り
襲いかかってきた敵を全て倒し、余裕さえ見せ
敵を威嚇し、指揮官として親衛隊の様子を
伺っているラッセルの元へ向かう。
どうせ人は遅かれ早かれ死に行く運命だ。
ならば、手遅れになるかもしれないが
自分はここで、皆にそれを示さなければならない
そう、ベルナルドは決断したのだ。
「何かあったんで、王子、いや隊長……」
逃げる準備をするはずだった相手が
馬で自分の下に駆け寄って来たのに気がつき
ラッセルは少々、困惑気味だ。
ベルナルドから今起きている全ての事情を聞いたラッセルは
事態の困難さに、さすがにお手上げの様子で良い方法も提案できず
しばらく黙り込んだ後、王子にどうするのか即座に尋ねた。
「私はもう聞こえなくても、最後にソフィアさまに愛を告げ
この手でしっかりと抱きしめようと思う、ラッセル」
自分が先ほど言った事を手遅れになった、この状況で
真顔でやろうと言い出す、ベルナルドにさすがにラッセルは呆れ顔だ。
「隊長のお心はわかりました、仲良く皆で心中という事で
止めても無駄ですな、その顔じゃ、でも、そこをなんとか……」
ラッセルの返事を聞いた王子は、それは違うと言った怪訝な顔をした
その表情はこれまで思い悩んでいた
何かにようやく気づいたように自信に満ち溢れていた。
「ちがうな、ラッセル、ソフィア様と私はここに残るんだ」
これから逃げるように指示を出す、魔道師隊をベルナルドの代わりに
ラッセルが護衛するように、わざわざ直接指示を出しに来たのだ。
「生き残った者として、皆に伝えてくれ、王族として
祖国が護るべき一番大事な事を見捨てず、最後まで護りぬいたと」
言ってる意味を掴みかねているので
ラッセルらしく、まず俗な、そのままの問いかけから始める。
「女は星の数ほどいる居るってえのに
良い判断だとは思えねえな、しかも、あんたは将来の王様になるって寸法だ
それを、たった一人の元平民の女のために、全部捨て去る、おつもりで」
ソフィアは精霊の巫女であり宗教者なので
今は下手な貴族より上の存在として、敬われているが
子供の頃から、周囲を驚かせるような魔力を持っており
それを見つけた精霊教会が巫女として、育てあげたと言う事だ。
戦乱の世では珍しくもないが、
元は平民で、親も兄弟もわからない孤児だという話で
その程度についてはラッセルだけでなく、皆も当然知っている。
「正直それも、否定はしないがな、ラッセル」
真意を遠回しに問いかけられていると王子は感じている。
俗に愛してると告げて抱きしめると言うのは
実際にそうするのではなく、何かの例え話なのかと聞かれているのだ。
「私は父とは違うと言う事だ、ソフィア様だけでなく
お前と出会って心底思い知らされたよ、私は王子のままで
いたいのではなく、父を超えて、この国の王になりたいのだと」
なるほどと、盗賊とは言えそのまとめ役で、頭の回転が速く
頭領(かしら)でもあったラッセルは気付く、王子の言いたい事は
父親とは違う自分なりの王としての戦いを今ここで宣言したい
と言う事だとしか受け取れない。
「私はソフィア様とともに一緒に民衆の側に立つ
できるかどうかはわからない……が、
ここで命を賭けて、自分を試したいんだ、その資格があるのか」
ここを逃げ延びても、今のままの世が続けば
いずれ王国は滅び、王族でしかない自分も先が見えている。
自らの理想を掲げ王や貴族に異論を唱え認めさせ
世を変え建て直していく事は命がけだ、ソフィアはそれを示した。
自分の愛している理想とは何か、ソフィアの今の姿そのものだ。
「私は王や貴族とかではなく、ソフィア様と魔道師達、そして
ラッセルや親衛隊のように皆の先頭に立ち犠牲になるものが
認められる国を創りたい」
王子の理想の国で王になるものは
自らを皆の一番の犠牲にするという事であり
ソフィアだけにそれをさせるわけにはいかないと言う事だ。
「皆のために犠牲になる者に
愛を告げて抱きしめる王かあ、そうでなきゃなんねえよな
こういう、せちがれえ、せっぱ詰まった戦ばかりの世ではよ」
王子は父や貴族に不満を抱き、異論を唱える事を
悪だと考えているのだろう。
王子が騎兵隊長から親衛隊の隊長になり
自分が副隊長に降格する事になった時に
ラッセルを気にかけた王に言われた事を思い出している。
ベルナルドは真面目で融通が利かないが
何が一番大事か、自然と心得(こころえ)ている男だと。
あれには子供の頃から王は自分にはない
大事な事を見抜きすぎてしまうが故に
その事に対し思い悩む事が多いのだと。
そういうベルナルドは何か底知れない
大きなものを秘めていると感じているようだった。
親衛隊長にした理由も、今の自分を乗り越えるきかっけの一つになればと
よりソフィアに近づけるだけではなく、自分が気に入っているラッセルと
引き合わせたかったという理由もあるのだから、遠慮はしないでくれと。
国王と貴族達も馬鹿でも愚かでもない、王国の行く末を憂いている。
決して、自分達に異論を唱える事を悪だとは思ってはいないが
自分達が今までやってきた事を簡単には譲れないだけだろう。
「じゃあ、全て任せたぞラッセル」
ここで、自らの理想を掲げた王である為に
犠牲となり死ぬ覚悟を決めたと言う想いを告げると
ベルナルドは消えそうになっている炎の壁を見て
時間が差し迫っている事を認識し
急いで、魔道師達の下へ、馬を走らせていく。
子供や女性だけでなく、か弱きもの全てを護るために
命を捨て戦い抜く覚悟を叙任時に誓う騎士の名誉として
愛するソフィアを護り抜いて、死にたいという想いもあるだろうが
王子は民衆だろうが、貴族だろうが皆の為に犠牲になろうという
精神を持つものこそが、最も敬われるべきだと
内にずっと秘めていた、この世界への許すことはできない憤りを
若者の怒りとして、ここで最後に世に示すと言う事だろう。
それが王子がソフィアに見て、愛していた
理想にする国のあり方である事は言うべくもない。
「俺も、それが悪だとか、軽はずみな言い方した責任もあるしな」
ベルナルドに言われたとしても
親衛隊を置き座りにして、自分だけ逃げるわけにもいかない。
ラッセルはどうせ生きようと思っても人は
死ぬ時は死ぬと腹をくくっている。
王子とソフィアに最後まで付き合うと決めたらしい。
「まあ、奇跡ってのは案外、そこらで安売りしてるもんさ」
隔てている魔法で出現した炎の城壁はさらに勢いを弱め始めている。
壁が完全に消えさり周囲を取り囲んでいる大勢の敵がなだれ込んでくる前に
残された時間の中でより早く、ベルナルド王子は決断しなければならない。
全滅を覚悟で助かる見込みがほぼないソフィアを
最後まで見捨てず渓谷にこのまま留まるか、魔道師達と逃げ延びる代わりに
魔法による癒しを続けることを諦めて
命が尽きるだろう、亡骸をラヒニに持ち帰るかだ。
「ソフィア様に、これを」
ベルナルドは自らが鎧の上つけていた上衣(サーコート)を脱いで
かすかな息をしながら、眠るように目を閉じているソフィアにそっとかける。
ステリオ渓谷を心なしか、少し冷たくなった向かい風が吹き抜けていき
見えない、その風を追い振り返ると
ステリオ渓谷でシーザリアとの決戦を行うために
ここまで突き進んで来た、帰路となる
ラーラントの王都ラヒニへの道が
壁となった炎が揺らめく向こう側に、たしかに続いている。
ベルナルドは王子である前に軍人であり指揮官として純粋に思う
1000年に渡るこれまでの戦いで、この渓谷を何度も越え
その度に、どれだけのたくさんの命が失われたて来たのだろうかと。
どうすれば鎮魂がため、王族である自分が報いる事ができるのだろうか
ソフィアも、その失われていく命の一つとなりつつある。
「ソフィア様…… 私は……」
ベルナルドは魔道師達がわが身を捨てて
全力を尽くし、癒しの魔法で命をつなぎとめている
ソフィアの顔を見つめる。
ヴェサリウス王の下で勢いを増す
大国シーザリアを相手にラーラントは戦いを重ねるが
このステリオ渓谷での決戦に至るまで敗戦が続いている。
今回の決戦でも、敵軍の迅速さもあるのだが
ミストラル公国の援軍も遅れており、同盟の連携もうまくいっていない。
戦乱の世が続く中で、父であるアウグスト王が
戦場での主力となる騎兵の多くを占めている、貴族達に頼りがちになるのは
わからないでもない。
ベルナルド自信も騎兵隊長として、貴族達とは
ともに命を賭けて戦ってきたので、騎士として誇り高く
潔よく、献身的に戦う彼らに問題があるとも思えない。
だから、ずっとベルナルドは父である王に黙って従い
政治は父に任せ、自分は一軍人として、出来る事をやろうと決めていた。
そんなベルナルドの前に精霊信仰の頂点に立つ巫女として
民衆から敬愛されているソフィアが現れた。
自分も民衆の為に少しでもより良く、世を変えたいとは
願ってはいるが、救済をするのは
軍人の自分ではなく、ソフィアのように
民衆に支持される宗教者のやる事だと考えていた。
民衆の立場を戦場で、命がけで訴えるようにして
犠牲になったようにさえ見える、ソフィアを見ると
出合った時から、どうしようもなく、その姿に惹かれてしまう
自分が心の底では父や貴族達とは違う考えを持っていたのだと
心が揺さぶられるような気になっていた。
「私がもっと……」
ソフィアを自分の心の奥底にある願望を叶える
羨望の対象としてしてしまい
行き詰まっていく政治の結果、今に至るまでの敗戦による犠牲が
あるとすれば若き王子とし、民衆の意見を代弁して
政治の場で、父や貴族に時に歯向かうことになっても
異論を唱え、熱弁をふるい、説得を試みる事もすべきではなかったのか。
自分が怠っていたから、この決戦の危うくなりつつある勝敗だけでなく
これまでの戦いで敗れ、ついにはソフィアまで犠牲にしてしまう事に
なったのではないか、ならば遅すぎたかもしれないしれないが
自分が今ここですべき事は何なのか。
これは決戦なのだ、後はなく、勝利しなければならない。
しかし、勝利とは必ずしも戦いに勝つことだけではないだろう。
「王子のお好きになされるべきです、我らは只、付き従うのみです」
ラスマールと魔道師達はベルナルドの決断に全てを委ねるつもりだ。
自分達で決めてくれとすれば、彼らの全てを失う事になるだろう。
まだ息のあるソフィアを見捨て、ラスマールをはじめとした
魔道師達が自分達だけが生き延びるために
逃げ帰る様な雰囲気ではないのはたしかだ。
副隊長ラッセルに預けた屈強な親衛隊の兵士達は炎の壁の内側に
取り残されていた敵に、数の上では負けていても互角以上の戦いを演じている。
ラッセルは親衛隊の全滅も構わず
最後まで王子達が逃げるために戦い抜く覚悟だろう。
「ラッセル……」
そうつぶやいた王子は先ほどのラッセルの言葉をまた思い出す。
「ラスマール、ここを頼む」
残された時間の少ない中で、何かを決断したベルナルドは
時間を惜しんで、そのまま馬に飛び乗り
襲いかかってきた敵を全て倒し、余裕さえ見せ
敵を威嚇し、指揮官として親衛隊の様子を
伺っているラッセルの元へ向かう。
どうせ人は遅かれ早かれ死に行く運命だ。
ならば、手遅れになるかもしれないが
自分はここで、皆にそれを示さなければならない
そう、ベルナルドは決断したのだ。
「何かあったんで、王子、いや隊長……」
逃げる準備をするはずだった相手が
馬で自分の下に駆け寄って来たのに気がつき
ラッセルは少々、困惑気味だ。
ベルナルドから今起きている全ての事情を聞いたラッセルは
事態の困難さに、さすがにお手上げの様子で良い方法も提案できず
しばらく黙り込んだ後、王子にどうするのか即座に尋ねた。
「私はもう聞こえなくても、最後にソフィアさまに愛を告げ
この手でしっかりと抱きしめようと思う、ラッセル」
自分が先ほど言った事を手遅れになった、この状況で
真顔でやろうと言い出す、ベルナルドにさすがにラッセルは呆れ顔だ。
「隊長のお心はわかりました、仲良く皆で心中という事で
止めても無駄ですな、その顔じゃ、でも、そこをなんとか……」
ラッセルの返事を聞いた王子は、それは違うと言った怪訝な顔をした
その表情はこれまで思い悩んでいた
何かにようやく気づいたように自信に満ち溢れていた。
「ちがうな、ラッセル、ソフィア様と私はここに残るんだ」
これから逃げるように指示を出す、魔道師隊をベルナルドの代わりに
ラッセルが護衛するように、わざわざ直接指示を出しに来たのだ。
「生き残った者として、皆に伝えてくれ、王族として
祖国が護るべき一番大事な事を見捨てず、最後まで護りぬいたと」
言ってる意味を掴みかねているので
ラッセルらしく、まず俗な、そのままの問いかけから始める。
「女は星の数ほどいる居るってえのに
良い判断だとは思えねえな、しかも、あんたは将来の王様になるって寸法だ
それを、たった一人の元平民の女のために、全部捨て去る、おつもりで」
ソフィアは精霊の巫女であり宗教者なので
今は下手な貴族より上の存在として、敬われているが
子供の頃から、周囲を驚かせるような魔力を持っており
それを見つけた精霊教会が巫女として、育てあげたと言う事だ。
戦乱の世では珍しくもないが、
元は平民で、親も兄弟もわからない孤児だという話で
その程度についてはラッセルだけでなく、皆も当然知っている。
「正直それも、否定はしないがな、ラッセル」
真意を遠回しに問いかけられていると王子は感じている。
俗に愛してると告げて抱きしめると言うのは
実際にそうするのではなく、何かの例え話なのかと聞かれているのだ。
「私は父とは違うと言う事だ、ソフィア様だけでなく
お前と出会って心底思い知らされたよ、私は王子のままで
いたいのではなく、父を超えて、この国の王になりたいのだと」
なるほどと、盗賊とは言えそのまとめ役で、頭の回転が速く
頭領(かしら)でもあったラッセルは気付く、王子の言いたい事は
父親とは違う自分なりの王としての戦いを今ここで宣言したい
と言う事だとしか受け取れない。
「私はソフィア様とともに一緒に民衆の側に立つ
できるかどうかはわからない……が、
ここで命を賭けて、自分を試したいんだ、その資格があるのか」
ここを逃げ延びても、今のままの世が続けば
いずれ王国は滅び、王族でしかない自分も先が見えている。
自らの理想を掲げ王や貴族に異論を唱え認めさせ
世を変え建て直していく事は命がけだ、ソフィアはそれを示した。
自分の愛している理想とは何か、ソフィアの今の姿そのものだ。
「私は王や貴族とかではなく、ソフィア様と魔道師達、そして
ラッセルや親衛隊のように皆の先頭に立ち犠牲になるものが
認められる国を創りたい」
王子の理想の国で王になるものは
自らを皆の一番の犠牲にするという事であり
ソフィアだけにそれをさせるわけにはいかないと言う事だ。
「皆のために犠牲になる者に
愛を告げて抱きしめる王かあ、そうでなきゃなんねえよな
こういう、せちがれえ、せっぱ詰まった戦ばかりの世ではよ」
王子は父や貴族に不満を抱き、異論を唱える事を
悪だと考えているのだろう。
王子が騎兵隊長から親衛隊の隊長になり
自分が副隊長に降格する事になった時に
ラッセルを気にかけた王に言われた事を思い出している。
ベルナルドは真面目で融通が利かないが
何が一番大事か、自然と心得(こころえ)ている男だと。
あれには子供の頃から王は自分にはない
大事な事を見抜きすぎてしまうが故に
その事に対し思い悩む事が多いのだと。
そういうベルナルドは何か底知れない
大きなものを秘めていると感じているようだった。
親衛隊長にした理由も、今の自分を乗り越えるきかっけの一つになればと
よりソフィアに近づけるだけではなく、自分が気に入っているラッセルと
引き合わせたかったという理由もあるのだから、遠慮はしないでくれと。
国王と貴族達も馬鹿でも愚かでもない、王国の行く末を憂いている。
決して、自分達に異論を唱える事を悪だとは思ってはいないが
自分達が今までやってきた事を簡単には譲れないだけだろう。
「じゃあ、全て任せたぞラッセル」
ここで、自らの理想を掲げた王である為に
犠牲となり死ぬ覚悟を決めたと言う想いを告げると
ベルナルドは消えそうになっている炎の壁を見て
時間が差し迫っている事を認識し
急いで、魔道師達の下へ、馬を走らせていく。
子供や女性だけでなく、か弱きもの全てを護るために
命を捨て戦い抜く覚悟を叙任時に誓う騎士の名誉として
愛するソフィアを護り抜いて、死にたいという想いもあるだろうが
王子は民衆だろうが、貴族だろうが皆の為に犠牲になろうという
精神を持つものこそが、最も敬われるべきだと
内にずっと秘めていた、この世界への許すことはできない憤りを
若者の怒りとして、ここで最後に世に示すと言う事だろう。
それが王子がソフィアに見て、愛していた
理想にする国のあり方である事は言うべくもない。
「俺も、それが悪だとか、軽はずみな言い方した責任もあるしな」
ベルナルドに言われたとしても
親衛隊を置き座りにして、自分だけ逃げるわけにもいかない。
ラッセルはどうせ生きようと思っても人は
死ぬ時は死ぬと腹をくくっている。
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