最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

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ミストラル公国

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ラーラント王国軍に対する援軍が
共通の敵、シーザリアとの決戦場となっている
ステリオ渓谷に向かい、進軍を続けている。

ラーランド王国の同盟国であるミストラル公国は
敵対する大国シーザリアが面している
南側の海を除き、高い山脈で囲われて
大陸にある周辺の国々と隔絶している
エリサニアの中で、唯一の陸にある玄関口として
山脈の狭間に東方の大陸諸国との間を直接結ぶ交易路を持っている。

エリサニアにある他の王国に比べると小さめの国だが
北に向かうにつれて、山々に囲われ領土が狭くなっていく
公国の周囲を取り囲む山脈を水源とする多数の河川が
清らかで豊富な水だけでなく、公国の主要な交通路となり
他の国々との交易により得られる豊かさも恵みとして運んでいて
自然に作られた天然の運河となっている全ての流れは
聖女の名をつけられた美しき水の公都
アイリスの傍を流れる、母なる川ライナルへと集う。

ステリオ渓谷の先で、大河ヴィーズと合流したライナルは
名を変え、シーザリアの王都メルフィスの傍を流れ
狭い海峡を出口として、外海と隔てられた
陸に囲われている内海のアルヴィス海を終着点として注ぎ込む。

他のエリサニアの3つの王国とは違い
身分的には格下の公爵が君主であるため
公国として独立している建前として
古代エリサニア帝国の帝都の置かれた場所だった
王都ラヒニを中心にして、帝国の最も正統な継承国となっている
同盟国のラーラント王国の臣下ともなっている。

エリサニアの外に延びる交易路により栄えている
豊かな国の代償として、生命線となる交易路の安全確保だけでなく
大陸の東方から襲撃してくる、侵略者に常に気を配らなければならず
背後のシーザリアへの対応に苦慮している事も
ラーラントとの同盟を重視する理由だが
そういった公国としての事情もあり
今回の援軍も遅れてしまっていた。

援軍の遅れを取り戻そうとステリオ渓谷に向かい
進軍を速めていたミストラル公国軍の前に
一人の少年が立ちはだかって進軍を妨げている。

「デュラン様、服装から魔道師ではないかと思われる
子供が一人、我が軍の前に立ちはだかり、動こうとしません」

軍の後方にいて、何が起きている解からず
先ほどから、進軍の足を止めた理由が掴めないでいた
全軍の指揮官である宮宰(きゅうさい)のデュランが
伝令からの報告に耳を傾ける。

「子供か、しかも魔道師……」

先代の君主から公国に長らく仕えているデュランは
経験の浅すぎる若い君主であるミストラル公の最も頼れる臣下で
主(あるじ)を補佐し、普段の政務だけでなく、戦場での指揮までの
全てを行い、公国を影の君主となり動かしている、紛れもない実力者だ。

勢いを増す隣国に恐れを抱き、大国シーザリアとの同盟を行うべきだと
慌てふためく、宮中に戦う覚悟を決めさせる為
婚姻によって、ラーラントとの同盟を再び強固にしたのも
デュランによるものだ。

「なるほど、で要件はなんだ」

どう考えても一国の軍隊の前に子供がたった一人で立ちはだかるなど
予想も出来ないような意外な報告にもかかわらずデュランは至って冷静だ。

「それが、水の巫女アリア様に今すぐ、会わせろと無茶な要求を……」

遠めに見ても急いでいるのが、はっきりとわかる
一国の軍隊の前に立ちはだかり進軍を妨げるのは子供でも
許されるわけもなく、今すぐ捕まえて処刑されても
誰も文句は言えないような自殺行為だ。

水の巫女の力はエリサニアだけでなく
奇跡の癒し手として、周辺諸国にも知られていて
大切な人の命を救おうとし、アリアの癒しを
さまざまな形で、懇願するものが後を絶たない。

「わかった、まず私が直接出向こう」

デュランは配下に指示をして、用意させた馬に乗ると
軍の最前線に向かい、自らの目でたった一人で
全軍の前に立ちはだかっている少年を確認すると
直ちに魔道師隊に向けて、アリアを呼んでくるように指示を下す。

「なるほど、いい覚悟だな」

銀で装飾された白いマントを纏って
魔道師の姿をしている少年の青く透き通った瞳はたった一人で
ミストラルの全軍を敵に回しても、平然とやってのけるような
自信に満ち溢れ、威圧するような迫力があり
少年だからと言って、相手が優れた魔道師の可能性を考えると
迂闊に手を出せず、対する兵士達は
敵か味方か、わからない相手を前に異様な緊張感に包まれている。

「なるほど、アリアとしか話せんというわけか……」

デュランは魔道師の姿をした
少年と自らも話をしてみたいと考えていたが
急いでいるような少年の様子を感じ取り即座に判断したようだ。

「どう思うかね、アリア」

濃い青色をしたフード付マントを纏った魔道師が
フードを背中に下ろし、馬に乗り
デュランの横に並んで
自分達の前に立ちはだかっている少年を
はっきりとした青い瞳で見つめている。

「敵の魔道師ではないと思います、それに……」

淡くやさしい綺麗な赤髪をした
女性の魔道師は言葉を最後まで出さずにためらってしまう。

迷っているアリアを見たデュランは間髪入れず
全軍に向け、進軍命令を出すために手を上げようとする。

ミストラルが少々の被害を出す事になっても
1人の少年の命と援軍が遅れることで
同盟国の多数の失われる命を比較すれば
数の上ではどちらを取るかは明らかで
進軍再開の判断は仕方がない。

デュランは全軍の指揮官として
少年を力ずくで従わせても
先を急がなければならない理由がある。

「デュラン様、どうかお待ち下さい……」

ラーラント軍への援軍と一人の少年の命を
比較すれば、どちらが優先されるかは明らかだと誰しもが仕方がないとするなか
アリアがようやく、自分の正直な感情を少しだけ口に出すが
デュランはアリアをチラッと一瞬だけ見て
意地悪にも聞いているくせに無視した不利をして
進軍再開の指示を出そうとする。

「少しぐらい待ちなさいって、言ってます!」

馬に乗ったまま、デュランの正面で前を向いて
立ちふさがり、不機嫌そうにむっとして、ほっぺたを、ふくらましている。

アリアが止める事をあらかじめ、わかっていたのか
デュランは上げた手をすぐに下ろした。

「デュランさまっ、子供だからといって
無視するのは、良くないと思います」

自らの力で人を殺める事を嫌っているためアリアは
戦いでは。無理に冷酷に徹しようとして、いつもの様子ではない。
ゆっくりと、考えさせている暇もないので
わざとアリアを追い込んで、感情的にさせ
素直にどうしたいのか、答えさせるのが、狙いだったようだ。

「お前らしい物言いだな」

従者としてついてきていた
後ろで馬に乗っている、数人の魔道師達も
白い銀髪の少年から、恐怖さえ感じる
ほとばしる様な強大な魔力をはっきりと感じているなか
アリアは相手が、たった一人の子供だから進軍の再開を
辞める様に一国の宮宰に対し、注意するかのように諭して
まるで困った人のように見つめている。

「全て、お前に任せる」

宮宰のデュランは期待した反応に満足し、高笑いをすると、
アリアに少年の対応を全て任せ
後方の自分のいるべき場所へ、馬で駆けて戻っていく。

「一国の命運と子供が一人、どちらが上か……」

少年はアリアに用があると言いい
断られた場合には命がけでミストラル全軍と一戦交え
力づくで要求を通す覚悟だろうが
ミストラルの進軍を邪魔するのが目的のシーザリアの魔道師なら
不意打ちで、既に魔法での攻撃をしているだろう。

デュランが笑ったのは
アリアらしい素直な感情に従う言動もだが
戦場に向かうべき軍の使命と
その前に立ちはだかる子供の想いを
比較して、簡単に判断をつけるのは良くないとした
アリアの優れた考え方も含めての事で
全軍の指揮官である宮宰(きゅうさい)デュランの答えは
はなから、その場の状況次第と判断していて
少年が話しをしたいといっている
アリアに事情を詳しく聞かせた後で、判断するつもりだったのだ。
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